ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


第七回フォレストピア首脳陣パーティー ~ラムリーザ式敬礼と住民の声~

帝国暦九十三年 静寂の月・星々の日(現代暦:十一月下旬)

 特別な用事がない限り、定期的に「フォレストピア首脳陣会合」と称するパーティーを、フォレスター邸のホールで開いている。

 唯一の例外は、夏休みにラムリーザたちが南の島マトゥールでキャンプをしていた時期だけだ。

 フォレストピアに移り住んでから定期的に開催を続け、今回で七回目を迎えていた。

 前回のパーティーでは、遺跡や幼稚園など、いくつもの施設名称を決めたことが印象に残っている。

 あとは個人的な出来事として、ウォンツコインの荒稼ぎ騒動があったぐらいだ。

 そして前回との大きな違いは、今回リリスが参加していないこと。あの日以来リリスは実家に帰っており、今回はジャンの連れとして参加する口実もない。

 今回はちょうど収穫期に当たるため、最初に農作物の収穫状況が報告された。小麦や芋類に加え、ユライカナンから伝わった米などが収穫されていた。去年は大寒波で作物が全滅に近い被害を受けたが、今年は順調なようであった。

 続いて、街の発展についての報告に移る。例えば、住民投票で「ハニーパイ幼稚園」と命名された幼稚園も開園して動き出した。

 おかげでごんにゃ店主も故郷から家族を呼び寄せたらしい。むろん、その際の入国管理もしっかり行っている。

 そのごんにゃ店主がラムリーザのところへやってくる。店主はラムリーザの前でシャンパンの入ったグラスを掲げるが、未成年のラムリーザの手にはグラスがない。

 その代わりと言っては何だが、右手の人差し指と中指を揃え、右目の前に横向きに構える。そして店主をじっと見つめながら、二本の指をパッと開いてみせた。横向きのVサインの間から覗く右目がキラリと光った――かどうかはわからない。

 何かを真似たわけでも、深く考えてやったわけでもない。ラムリーザの咄嗟の行動だった。

「変わった敬礼ですな」

 確かに軍隊の敬礼に似ている。しかし一般的な敬礼なら、指を揃えた右手を額の脇へ掲げるような形になる。ラムリーザのものはそれより肘を高く上げ、前腕を地面とほぼ水平にしている。しかも目の前に構えるのは、人差し指と中指の二本だけだ。

「ああいや、何でもないですよ」

 周囲にいる妙な人たちに感化されて、ラムリーザも妙になっているのかもしれない。

「でもなんだかかっこよかったですよ。そうだ、これをこの街での敬礼にしよう」

 店主は勝手に決めてしまう。ラムリーザも自分でやっておきながら、まあ好きにしてくれ、と思っていた。

「――で、何でしょうか?」

「そうそう、いよいよコラボが始まるぞ」

「え? コラボですか?」

 コラボと言えばコラボレーション――つまり共同作業や共演、共作などを指す言葉だ。

「明日の朝刊に広告を入れておきますよ。楽しみにしておいてな、そしていつもの緑娘と一緒に来たらいいさ。はっはっはっ」

 緑娘とは何だ? と思ったが、ラムリーザはすぐにソニアのことだと気づいた。彼女の少し青みがかった緑色の髪は美しくて好きだった。

 当のソニアは、ユコやソフィリータと一緒にご馳走へ群がっている。その輪の中に、今回はリリスの姿だけがなかった。

 ごんにゃ店主は、別れ際に先ほどラムリーザがやった変形敬礼を真似てみせた。

 ラムリーザもそれに合わせて、同じポーズをとる。指を開く瞬間、なんとなく気分が高揚する。そんな敬礼であった。

「ラムリィ閣下!」

 続いてジャンがやってくる。ラムリーザと店主のやり取りを見ていたのか、ジャンも同じ敬礼を真似ていた。これは流行るだろうな、ラムリーザはそう思った。

「ジャン提督!」

 今度はラムリーザ自身もノリノリだ。まず二本の指を正面へまっすぐ伸ばしたあと、グイっと肘を曲げて目の前に持ってくる。そしてパチッと指を開くのだ。少し大げさに演じてみせる。

「はぁ、リリス連れてこれなかったな」

 ジャンは残念そうにつぶやいた。

「誘えばよかったのに。別に文句は言わないし、ジャンとリリスなら文句言わせないさ」

 招待客については、事実上ラムリーザの裁量がかなり大きい。ラムリーザが認めれば、周囲から強く反対されることもまずない。領主に近い存在であり、あと数年もすれば正式に領主となる身だ。

「連れてくる口実がないんだよ」

 例えば前回は、非公式ながらリリスを「ジャンの恋人」という建前で、身内扱いにして連れてきていた。参加資格だけを見れば、ラムリーザの恋人であるソニアと同じような扱いだ。メイドの娘が正式な招待客としてパーティーに参加することは、普通はあまりない。

 ただしユコは違う。ユコの場合は、父親が今年からフォレストピアへ移り住み、運輸の取りまとめ役を務めている。その娘として正式に参加しているのだ。

「口実なんてなんでもいいさ」

「いーや、降竜祭で今度こそ決めてやる」

 一度仕切り直したジャンのリリス攻略。降竜祭実行委員メンバーとして、再スタートを切っている。これは、ジャンなりのけじめのようなものだった。

「その降竜祭の話だけど、ゴジリさんに花火を頼もうと思ってるんだ」

 そこに、ロザリーンの兄であるユグドラシル、現生徒会長が現れた。同じように、ラムリーザ式敬礼をやって見せる。

 ぬ……と思ったラムリーザが周囲を見てみると、ちょうどごんにゃ店主が別の人に同じ敬礼をやって見せるところだった。

 ユグドラシルはそれだけ言うと、バクシングジム改め格闘ジムの主兼トレーナー、ゴジリのところへ向かっていった。そこでラムリーザ式敬礼をやっている。ゴジリも何の迷いもなく、同じ敬礼で返す。

 ラムリーザは、トレーナーであるゴジリのもう一つの顔も知っていた。彼は花火職人でもあった。ゴジリ自作の「けむりだま」というジョークアイテムで騒動を引き起こしたのも彼だ。

「ジャン、花火を使うのか?」

 ラムリーザは、ユグドラシルの意図をなんとなく察してジャンに問う。

「降竜祭で、学校でも花火を披露するんだとさ」

 花火はユライカナン由来のもので、帝国ではほとんど知られていないものだ。ラムリーザ自身も、大きな打ち上げ花火は、夏休み最後の日に、国境を流れるミルキーウェイ川で見たのが初めてだった。小さな花火のほうは、マトゥール島でのキャンプ中に初めて遊んだ。

「へ~、すごいことを思いついたね」

 ラムリーザはユグドラシルとゴジリが話し合っているのを見て驚いた。どうやら、降竜祭で打ち上げる花火について相談しているらしい。

「俺も花火の扱い方を学ぼうかな」

「ジャンはマルチキャラというか、中途半端を目指しているんだね」

「誰がサマルだと? 勇者と呼べ」

「誰もそんなこと言っとらん。勇者と呼ばれたくば、赤水晶、青水晶、黄水晶、緑水晶のペンダントを揃えて出直してこい」

 ラムリーザは、ジャンをビシッと指さして言ってのける。四色のペンダントを集めたら勇者なのか? というツッコミはこの際置いておく。

「別に鎧着ただけで勇者の姿だとは呼ばれたくないがな。勇者はな、戦士や商人と違って職業っていうより、ただの称号なんだぜ」

 しかしジャンも負けていない。減らず口――なのか? 言い返してくる。

「ジャンの称号って、エロトピアじゃなかったか?」

「んじゃラムリィの称号は、おっぱい星人な」

「なんでそうなる? 別におっぱいなんかどうでもいいじゃないか」

「いーや、ダメだ。エルを恋人にした時点で、お前はおっぱい星人」

「知らん、ソニアがたまたまロケットばびゅ~んに育っただけだ。ソニアが貧乳だったら、僕はおっぱい星人になってない。つーかリリスもおっぱいでかいから、ジャンもおっぱい星人だね」

 二人は我を忘れて、明らかに周囲に聞かれたくないような会話の応酬を繰り広げている。

「ふんっ、幼稚な女を好きになりよって」

「いや、リリスも十分幼稚だと思っているぞ。ソニアも大概だが、リリスもなんかおかしい」

「なんだ、こら。リリスの悪口を言うやつは俺の敵だ」

「ああ、良いだろう。ソニアの悪口を言う君は敵だと認識した」

 ラムリーザは、右手を大きく広げて上段に構えてジャンの顔面を狙う。顔面破壊魔竜爪(適当に命名)の構えだ。

 ジャンも負けていない。左手を水平にかざして右腕の肘の下に当てる。右腕は縦に伸ばし、手首をくいっと九十度に曲げ、まるで肘から先が蛇の頭のようにも見える構え、つまり猛毒蛇頭拳(適当に命名)の構えを取ってラムリーザを待ち受けている。

 ラムリーザが百三キロを誇る握力でジャンの顔面をつかもうと手を伸ばすたびに、ジャンはその前腕から先を蛇の頭のようにし、指先で突き返す。むろん手先をつかまれないよう、突いた後は素早く引いている。

 とりあえずラムリーザは顔面しか狙ってこないので、ジャンが迎撃するのは簡単だった。どちらにせよ、何だかよくわからないが、パーティー会場の一角に、まるで格闘ゲームのような光景を作り出していた。

「お前らなんしょん?」

「「参謀長殿!」」
              
住民の意見書を手に現れたリゲルへ、ラムリーザとジャンをはじめパーティー参加者たちが一斉にラムリーザ式敬礼をする場面
 そこにリゲルが現れると、二人はすぐさま拳法の構えを解いてリゲルに向かって敬礼の姿勢を取って叫ぶ。二人は同時に右目の前に指を持ってきて、そのまま一斉に指を開いてみせる。本当にリゲルの言うとおり、何をやっているのだろうね。

「なんだお前ら」

「さしずめリゲルはちっぱい星人ということで」

 ジャンはそう言い、ラムリーザと顔を見合わせて頷き合うのであった。二人は敵同士になったはずではないのだろうか?

 リゲルは二人をいぶかしむような目つきで見つめたが、特に気にせず数枚の紙を差し出してくる。

「ほら、住民の意見書を持ってきた。今回集まった要望がこれだ」

 リゲルが持ってきたのは、いわゆる目安箱に投書された住民の意見書だった。前回、「フォレストピア意見投書箱」を設置し、住民から率直な意見や要望を募ることにしたのだ。

「ああ、早速意見が来たんだね。伺いましょう」

 ラムリーザは、さっきまでのジャンとのじゃれあいで見せていたふざけた表情と違う、普通に真面目な顔に戻っていた。

「一つ、街に病院がないため、診察を受けるにはわざわざ隣町まで行くか、ユライカナンへ戻らなければならない。街に病院を、とのことだ。これは、同じ内容の要望が他にも何枚かあった」

「あ、そういえばないね……すぐに病院の建設を始めよう。それまでは、駅前の倉庫の一部を改装して簡易診療所として使い、そこへ医師を招くことにしよう」

 言われてみれば、その通りだった。酒場や雑貨屋、遊園地や駅の名前には気を取られていたのに、病気や怪我をしたときに駆け込む場所が、この街にはまだない。

「ノノムラ病院という名前にしとくか?」

 リゲルが何気なく言うと、ジャンがすぐに身を乗り出した。

「お、賛成賛成」

 二人の反応が妙に早い。ラムリーザは理由こそわからなかったが、ろくでもない提案であることだけは察した。

「ん? とりあえず反対しておこう」

 施設を造るたび、住民投票で変わった名前を付けられる。それは今に始まったことではなかった。しかしラムリーザは、リゲルとジャンの案に嫌な予感を覚えたので反対しておいた。

「ここの領主は横暴だな。次行くぞ、『動物園が欲しい』だそうだ」

「それは急がなくていいね。ハンターを募集して動物を集めて、それに並行して施設を作ればいいか。場所は――遊園地を建設中だから、それとは被らないようにまた別の場所に。あと、嫌な予感を覚えたから反対しただけだよ」

 そう言いながらラムリーザは、なぜか家で飼っている「へんこぶた」のことが頭に浮かんだ。ソニアが世話に飽きたら動物園行き――というのではソニアは無責任すぎる。やはり最後まで責任をもって世話をさせるべきだ。

「次、ユライカナンで展開させている雑貨屋を、ここにも進出させたいとのことだ。えっと、店の名前は『勇者店』だそうだ」

「雑貨屋? これも被らないように作らないとね。例えば通りを挟んで雑貨屋が向かい合うなんて、非効率この上ないよ」

「いや、いわゆるチェーンストアってやつが、地域を絞って集中的に出店するといった戦略もあるのだぞ」

「ダメだってば。ここではナイトクラブの類をジャンに独占させているのにさ。あと似たような店が近くにありまくるのは、街の景観として美しくないよ」

 とりあえず駅前には、すでに帝国系の雑貨屋が一軒営業している。それでもラムリーザは自分の住む屋敷の近くにも雑貨屋があったら便利だな、などと考えていた。とりあえずは、駅前の大倉庫をまた仮店舗にして、そのユライカナン系の雑貨屋を、まずはそこに入れてみよう。

「勇者店か、勇者と呼べ」

「勇者と呼ばれたくば、赤水晶、青水晶――話が回転しているね。他に意見は?」

「以上の三つだ」

「わかった。当面は病院を急いで作る方向で」

 こうして、住民の意見書に目を通し終えたのである。

 次は、今回の課題となっていた、つねき遺跡とトゥモロー・ネバー・ノウズ炭坑の近くに建てた、冒険者の酒場と雑貨屋の名前決めだ。ラムリーザは毎回頭を悩ませているが、今では止めようとも思わない。すっかり恒例行事となっていた。

 最近発足した憲兵隊本部だけは、さすがにそのままの名前が施設名称となった。むしろこれを見ると、住民が普段の施設名称でわざと遊んでいることがよくわかる。

 いや、憲兵隊に関しては帝国全体のものだからだろうか……。例えば同じく帝国系の遊園地の名称は、そのまま「ポンダイパーク・フォレストピア」となっていた。

「それでは冒険者の酒場の名称を決めますぞー」

 ごんにゃ店主の声がホールに響いている。

「別に『冒険者の酒場』という名前のままでもいいんだけどね」

 ラムリーザは一人つぶやく。しかしもう一人の自分が、住民のぶっ飛んだネーミングセンスを期待しているのを感じていた。

 その結果、冒険者の酒場については女主人を務めるフェルプールの希望で、「猫娘亭」と命名された。まあ無難な名前だ。酒場の女主人は猫が好きなのだろうか?

 一方、雑貨屋の店主からは特に希望がないようで、混沌とした流れになっていた。

 前回遺跡名や幼稚園の名前ではノミネートされていたものの選ばれなかった「タコさんの庭」や「ブルー・サンシャイン」が挙げられた。

 そのほかには、まず出典不明の「アーメシ店」、まるで飯屋のような名前だ。さらに、以前候補に挙がった名前の「幼稚園」の部分だけを取り替えた「パンダさん商店」、住民の誰かが相当パンダが好きなのだろう。

 ユライカナン本国で広がっている雑貨屋チェーン店である勇者店に対抗して「賢者店」という、まるで図書館のような名前まで挙がった。

 ちなみに以前、住民からの要望を受けて建てられた図書館は、普通に帝国側で運営しているため、「帝立図書館フォレストピア」という名前である。

 候補が五つ揃ったところで投票に入る。どうやら毎回、五候補の中から一つを選ぶ方式に決めたらしい。このあたりの進行も、ラムリーザは住民たちにすべて任せていた。

 しかし今回のことでラムリーザは気がついた。住民は落選した名前を何度も候補に挙げてくる。この調子では、いずれどこかの施設名に採用されるものも多そうだ。

 投票の結果、つねきにある雑貨屋は「タコさんの庭」と決定。

「だからなんで海でもないのにタコさんなんだよ……」

 ラムリーザは思わずつぶやく。後でごんにゃ店主に聞いた話では、「タコ」蛸――オクトパスではなく、ユライカナン伝統の遊びである凧揚げの「凧」――カイトらしい。ややこしい名前である。

 その店主からは、「次の正月、凧あげしてみませんか」などと誘われる。

「正月って何ですか?」

「ユライカナンでは、新年初日のことを正月と呼んでいるのさ」

「そうですか」

 なぜ凧揚げは新年初日の遊びなのだろう。明日の休日にやってはいけないのか。ラムリーザは、その疑問はとりあえず先送りにすることにした。

 これで、今回の会合の主な議題はすべて終わったのである。

 

 

 こうしてラムリーザが公務をこなしている間、ソニアたちはというと――

 

 ずっとご馳走に群がっていた。

 この日は、最近開店した「カブト」に用意してもらったものが届いていた。料理の並ぶテーブルには、立派な「てんぷら」がぎっちり詰まった大箱が二つ用意されていた。

「うわ~い、やった~」

 食いしん坊のソニアは、万歳して大喜び。

「てんぷらソニアですの?」

 しかしすぐに、ユコからツッコミが入る。リリス命名のあだ名であり、単にソニアが大食いしたものを「ソニア」の前につけるだけの、何の捻りもない名前だ。他には「ぎんなんソニア」があった。

「まだ食べてない!」

 ソニアは怒りながらも、箸でつまんでてんぷらを口へと運ぶ。

「あ、食べた。てんぷらソニア」

「まだ一つしか食べてない!」

 そう言いながら、すでに二つ目をつまんでいる。実にどうでもいい、しかし楽しい時間を過ごしていたようであった。

 ラムリーザは少し離れたところでその様子を眺めながら、今日動き始めたことを頭の中で整理した。病院、動物園、勇者店、猫娘亭、タコさんの庭。そして、なぜか自分の敬礼。

 フォレストピアは今日もまた、真面目な方向と妙な方向の両方へ、少しずつ進んでいるようであった。