ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
のだまリベンジ 後編 ~フルジャンプエラーと満塁弾~
帝国暦九十三年 播種の月・鍛冶師の日(現代暦:十一月中旬)
ソニアが持ち込んだゲーム、『四国のだま』。以前、ラムリーザにのだまで負けた雪辱を果たすため、再戦を挑んできたのだ。
もちろん、リリスのことを忘れたわけではない。憲兵隊にはすでに捜索を任せてあるし、ジャンも店に戻って連絡を待っている。
ただ、何もできない時間にじっとしていると、余計なことばかり考えてしまう。ソニアがこのゲームを持ち出してきたのも、たぶんそういう気分を吹き飛ばしたかったからなのだろう。
七回表――
なぜか観客席から、細長い風船が大量に打ち上がる。
「風船だね」
「風船言うな!」
リリスのせいで、風船という言葉に敏感になっているソニアであった。
先頭打者がヒットで出塁。すでにラムリーザは、完全に打つタイミングを見切っていた。
「おなかすいた」
「やかましい」
もうだまされない。ラムリーザはゲームに集中していた。ソニアの陽動作戦にも惑わされず、二人目の打者もヒット。
これで無死一、二塁。どうやら、このゲームではラムリーザのほうが上達が早いようだ。
しかし三人目の打者は、二塁ゴロに打ち取られてしまった。しかもソニアは、二塁に投げてフォースアウトを取った後、一塁にも投げて一気に二つのアウトを取った。いわゆるダブルプレーというやつだ。
しかしこの間に、二塁にいた走者は三塁に移動していた。
「どうだラム!」
「ふっ、二死三塁。走者が二塁にいるのと三塁にいるのとでは大違いだぞ」
「なんでよ」
「えっと……なんだったっけな?」
要するにホームインのチャンスが増えるということなのだが、のだまにそれほど詳しくないラムリーザは、よく分かっていなかった。
そんなわけで、ソニアを焦らせることもできず、平凡な外野フライでおしまい。
七回裏――
再び大量の風船が舞い上がる。
「風船が、いっぱいあるのだー」
「うるさい!」
ラムリーザの挑発でソニアは怒り、そのまま怒りのヒットを炸裂!
「よーし、ここから逆転だぁ!」
三対一でラムリーザの二点リード、まだまだ勝負はわからない。
「ならばこっちも秘策を繰り出すか」
そこでラムリーザはタイムを掛けて、守備変更をする。すなわち、左翼手と右翼手を入れ替えたのだ。
「なにそれ? 何の意味があるのよ」
「ふっふっふっ、よく考えてみよう」
ソニアが首を傾げたところで、ラムリーザはいきなり投球してやった。
「あっ」
ソニアは慌てて振るが、かすった球は平凡な内野フライとなってしまった。
「どうだ、外野の守備位置を交代させたから、打球が外野に飛ばなくなっただろう」
「そんな裏技を使うなんて、ずるい!」
ラムリーザはタイムを掛けて、再び左翼手と右翼手を入れ替えた。
意味があるのかどうかわからない作戦にソニアは動揺し、次の打者も球をかするだけに終わってしまい、投手前のゴロとなった。
ラムリーザは二塁、一塁へと送球し、先ほどのソニアの守備のときのように、一気に二つアウトを取って終わらせてしまったのだった。
八回表――
ラムリーザの攻撃、先頭打者はまんまと打たされ、打球は一塁方向へ転がった。
ソニアは一塁手を操作して球を受ける。そしてそのまま一塁へ送球――
「あっ!」
だが一塁のベースに野手はいなかった。これは失策か? よくわからない。
「一塁に投げるんじゃなくて、そのままベースまで走ればよかったのに」
「むーっ……」
一応ヒット扱いとなったようだ。失策のようだが、ゲームのシステムでは、そこまで細かく判定していないのだろうか。
二人目の打者はバットを横に構え、球の勢いを殺すように軽く当てた。いわゆる送りバントというやつだ。
再び一塁側に球は転がるが、今度は投手が球を拾い、一塁へ送球してアウト。一死二塁となった。
ソニアはタイムを掛けて、先ほどラムリーザがやったときと同じように、左翼手と右翼手を入れ替えた。
「これで外野に球は飛ばないよ」
「そうかもしれないねぇ」
三人目の打者は強振すると見せかけ、直前でバントの構えに切り替える。再びコツンと当てると、球は三塁線に転がる。
ソニアは急いで投手を動かして球を取りに向かうが――
「その線から外に出たらファウルになるよ」
「そうなの?」
ラムリーザの一言で、ソニアは操作を止める。しかし球は線の外に出ることもなく、三塁手のところまで転がっていった。
「嘘つき!」
「嘘は言ってないさ、線から出たらファウルになるのは本当さ」
「出なかったじゃないのよ!」
「球が線から出るとは言ってないよ」
「むーっ!」
どうやら心理戦には、ラムリーザのほうが得意なようだ。
一死一、三塁となった次の打者は、センター方向に大きなフライを打ち上げたのだった。
「ちょっと! 外野の守備位置変えたのに、なんで外野に飛ぶのよ!」
「知らんよ」
ラムリーザは、タッチアップを狙う。中堅手が捕球すると同時に、三塁走者を走らせた。バックホームは間に合わず、一点追加。四対一!
「たぼうさん! たぼうさん!」
「なんだそりゃ」
また意味不明の叫び声を上げて怒るソニア。
さらに次の打者もヒットを打って、二死一、二塁。まだまだラムリーザの攻勢は続く。
――と思わせておいて、その次の打者は、平凡なレフトフライで終わったのであった。
八回裏――
ソニアが攻撃できる回も、この回を入れてあと二回だけ。現在四対一、点差は三点、まだなんとかなる範囲内だ。
ソニアは前のめりになって、画面を凝視している。
「バッターびびってるっ」
「びびってないっ!」
少なくとも頭に血が上っていて、冷静でないことだけは間違いない。
ラムリーザとソニアのゲーム対戦では、基本的にソニアが勝つ。十回戦ったら、一回か二回ラムリーザが勝つ程度だ。そして今日ののだま対戦は、珍しくラムリーザが勝ちそうだった。ソニアがほとんどやらないジャンル、二人とも初めてのプレイという要素が重なって、最初から互角の戦いとなっていたのだ。
もちろんソニアも、いつも勝っているからと言って今日は勝ちを譲ろうという感情はまったくなかった。いつでも勝利を! というわけだ。
ラムリーザはなかなか投げない。ここに来ても心理戦を挑んでくる。勝っている余裕からくる行動だった。
「早く投げてよ!」
ソニアが文句を言うと同時に投球。「あっ」と言うが、ほとんど奇襲のような投球にソニアは空振り。
そして再びじらし作戦。
「ラムのいじわる!」
文句を言うタイミングに合わせて投げる。そこが、ちょうどソニアの意識が画面から一瞬それる瞬間だ。空振りを誘いやすい。
三球目を投げようと思ったとき、ラムリーザは自分の鼻がムズムズするのを感じた。これも使わせてもらおうということで――
「ぶええっ、ほん!」
「うわっ」
くしゃみと同時に投げた。少しびっくりしたソニアは、またしても空振りし、三振!
「さて、あと五人か」
「違う!」
ラムリーザはソニアの顔をじっと見つめる。じーっと見つめ続ける。
「ソニア、可愛いなぁ」
「何よ急に」
ソニアがこちらを向いたところで、投球する。投球は、画面を見ていなくてもボタン一つでできる。しかし打撃は、球を見てタイミングを合わせなければならない。つまりソニアがラムリーザのほうを向いた瞬間に投げれば、簡単に見逃しストライクを取れるのだ。
そういうわけで、二人とも画面から目を離しているときに投げられた球は、見逃しストライク。
「あっ、ずるいっ!」
「やっぱのだまゲームより、ソニアの可愛い顔を見ているほうが楽しいなぁ」
「今そんなこと言うなっ」
と言いつつも、可愛いと言われたせいで、ソニアはラムリーザのほうが気になって仕方ない。
「よし、この試合ソニアが勝ったら、好きなものを一つ買ってあげよう」
「ほんと?!」
ソニアがラムリーザのほうを振り向くのに合わせて投球。再び見逃しストライク。
「なんかやっぱり今日のラムはずるい!」
などと、いつもずるいソニアが文句を言ってくる。
そこでラムリーザが大きく口を開けると――
「くしゃみすんな!」
ソニアがそう言った瞬間、ラムリーザは投げた。見逃し三振アウト! 球審がなんだか独特なポーズを取っている。うまく説明できないが、ざっくり言えば「卍」と表現できるか? こんな感じのポーズだ。
「よし、あと四人」
「ねぇ、チーム交代しようよ」
「なんだそりゃ?」
「あたしがそっちプレイする。コントローラー交換しようよ」
「前向きに検討する努力をいたします」
ソニアの持ち出した無茶な提案を無視して、ラムリーザは投球を開始する。ソニアは画面をキッと睨んで、球をしっかり見極めて打とうとする。
「いかん!」
そのときラムリーザは、突然一言つぶやいた。ソニアはチラッとラムリーザを見る。その一瞬の視線移動が仇となり、打球はファウルとなった。
「なにがいかんのよ!」
「外角を要求したのに、内角に来た」
「むー……」
続いて二球目を投げる。
「いかん!」
「うるさいっ」
今度は気を取られずに、しっかりとバットに当てたのだった。球は外野へ大きく打ち上がった。
「いかんっ!」
今度はソニアが同じことを言って邪魔をしてくる。しかしラムリーザは、最初から何か仕掛けてくると見破っていたので、ソニアのつぶやきを無視し、外野手に球をノーバウンドで捕球させた。外野フライでスリーアウト、チェンジ!
今日のラムリーザは、自分でも少し大人げないと思うぐらい勝ちにいっていた。
九回表――
「さて、とどめを刺しにいきますかな!」
「んーっ!」
ソニアは鼻を鳴らして不満そうだが、今日は勝つと決めたラムリーザはゲームに集中していた。
先頭打者は初球のボール球を見送り、その後は二球続けてファウル。四球目を一、二塁間へ打ち返した。ギリギリのところで二塁手は球に届かず外野に転がっていき、ライト前ヒットとなったのである。
続く打者は、初球は高めの球を無理やり打ちに行ってファウル。二球目、三球目とボール球を見送る。
「振ってよ!」
「なんでだよ」
ソニアは相変わらず怒っているが、知ったことではない。
四球目、ソニアがストライクを取りに来た球を、今度はレフト前にクリーンヒットを放ってやった。当たりが良すぎて先頭打者は二塁止まり。
「もーっ!」
「さて、ここは送りバントでチャンスを広げてだな」
勝っているけど、慎重に攻めるラムリーザ。ソニアをとことん追いつめて完勝するつもりでいた。今の打者は足は速いが力はない。ここで攻めるよりも、次の強打者に任せたほうが良い。
ソニア、一球目を投球。ラムリーザ、初球からバント狙い。
「あっ!」
しかし当て方を失敗したのか、バットに当たった球は三塁側へ緩く打ち上がってしまったのだった。
「やった、取っちゃえ!」
ソニアは、なぜか一塁手を猛然とダッシュさせて、ふわりと飛んでいる球に飛びかかっていった。
「あっ!」
今度はソニアが声を上げる番。無理やり突っ込んだためか、一塁手は球を捕球できなかったのである。球はファウル地域へ切れていきそうだったが、まだ三塁線の内側にあるうちに一塁手が触れてしまったため、ゲーム上はフェア判定となっていた。
「おおっ、フルジャンプエラーだね」
「ふじこ! ふじこ!」
エラーで無死満塁となり、またしてもソニアは意味不明な言葉を発して悶えている。
「さて、次は強打者のヤニキだぞ」
「もうやだ!」
「まだ試合は終わってないぞ」
「こんなの聖戦じゃない!」
「なんだそりゃ……」
よくわからないが、ソニアはラムリーザとのこの戦いを聖戦だと思っていたようだ。
戦とは煩わしいものだが、聖という言葉を添えるだけで甘美に響くとでも思っているのだろうか。
四人目の打者ヤニキに対して、ソニアは一球目はぶつけようとしたのか内角にクソボール。
「ぶつけたら一点入るよ」
「むーっ!」
二球目はど真ん中に直球を投げ込んできた。ソニアは大きく外すボール球と、突然のど真ん中直球を織り交ぜて、タイミングを狂わせようとしているのだろう。
三球目は外角高め、四球目は内角低めに外してくる。
「もう一球ボール球を投げてごらん」
「うるさいっ!」
五球目、低めだがストライクの球をラムリーザは逃さなかった。うまく流してレフト前にヒット。その間に、二塁と三塁の走者がホームインして二点追加。六対一と、点差を五つに増やしたのであった。
「なんなんなん! なんなんなん!」
「勝負あったかな?」
「んんーっ!」
なんだかソニアは、怒りながらも泣きそうになっている。
しかし今日のラムリーザは、冷徹な勝負師だ。再び一、二塁となったので、ラムリーザは続く打者にも送りバントをさせようとした。何しろ次に回ってくるのは、先ほどホームランを打ったブンシューである。ここは走者を進めておくほうがよい。
半泣きのソニアが投げた一球目、うまくバントで当てられずにストライク。二球目もバントを狙うが、後方へ打ち上げてファウル。三球目は外角高めに大きく外れるボール球。四球目はもうバントせずヒットを狙ったが、一塁側へ切れるファウルとなった。ツーストライク・ワンボールと追い込まれた状態だが、粘る粘る。
「ぐすっ」
なんだかソニアが鼻をすする。泣いたか? 雪辱戦を挑んだが、返り討ちに遭うのか?
五球目、うまく当てそこなった球は、一塁側へと大きくバウンドして転がった。ソニアは一塁手を操作して捕球、今度は誰もいない一塁には投げずに、一塁へ走る打者走者にタッチしてアウト。しかしその間に他の走者は進塁して、一死二、三塁となった。
「まあいいや、同じ結果だね」
ラムリーザにしてみれば、送りバントが成功したようなもの。次のブンシューで勝負に出られるのだ。
しかしソニアは、一度ホームランを打たれている打者とは勝負しなかった。最初から敬遠してくるのだ。
「満塁になっちゃうよ」
ラムリーザの一言に、ソニアは答えない。かなり追い込まれているようだ。
結局敬遠成立、一死満塁となった。
次の打者は、リシュクという者。あまり知らない、どうでもいい選手だろう。ソニアとしても、強打者ブンシューより、この地味なリシュクと勝負するほうがましだろう。
そしてソニア、地味なリシュクに対して第一球――
「あっ!」
ソニアが投球すると同時に、投手の頭付近に「!」マークが現れた。失投だ。ど真ん中に棒球がやってくる。フルスイング! ぐんぐん伸びていく――入った、入った、ホームラーン!
ここに来て満塁ホームランが飛び出して、一気に十対一と点差を広げてしまった。
「むぎゃおーっ!」
ソニアは妙な叫び声を上げ、コントローラーを投げ出して立ち上がる。
「なんだよ、これはゲームだからどっちかが負ける。僕はゲームに勝っちゃいけないかい?」
「うるさい! ラムの馬鹿!」
転がっているココちゃんを三体ほどラムリーザに投げつけた後、そのままふえ~んと泣きながら部屋から飛び出していった。
「まったくなんだよ……」
ソニアはゲームに負けた腹いせに、相手の腕を引っこ抜くことはやらないだろうが、プレイを放棄して逃げ出してしまった。
一人取り残されたラムリーザは、ゲーム画面を見る。そこでは、連打を浴びてパニック状態の投手が、操作するプレイヤーを失って棒立ちになっていた。
「しょうがないな」
ラムリーザはソニアが使っていたコントローラーを拾い上げて、投手を操作し始めた。
三人の打者に九球を投げ、三者連続三振で終わらせた。
九回裏――
泣きながら逃げ出したソニアはもうおらず、棒立ちの打者に対して、ラムリーザは真ん中に九球投げるだけの作業。ゲームセット。
こうして、ソニアの復讐は返り討ちとなり大失敗に終わったのである。
終わってみれば、ラムリーザ側は十三安打、そのうち二本がホームランという猛攻。対するソニアは最初のほうにずるい方法で取った一点だけ。ヒットも二本だけに終わり、ソニアの完敗であった。
ソニアは部屋から飛び出していったきり戻ってこない。いつもずるい手を使ってラムリーザをこてんぱんに叩きのめしているソニア。たまにこうして反撃を食らうと大騒ぎ。
だからと言って、勝負の手を抜いたら怒る。困った娘だ。
ラムリーザは寝るまでの少しの時間、この四国のだまをプレイしてみることにした。どうやら対戦モード以外に、シナリオモードというものがあるらしい。
主人公を選んで物語を楽しめるようだが、ソニアが見たら怒るだろう。というより、このゲームはすでにソニアの中で黒歴史になっているに違いない。
購入初日に持ち主から見放される、可哀想なゲーム。
そんなゲームをラムリーザは一人でプレイしているのだった。
夜も更け、寝る時間になると、何も言わずにソニアはラムリーザの部屋に戻ってきた。
そして何も言わず、ラムリーザの寝ているベッドへもぐり込む。まだ怒っているのか顔は合わせず、背を向けたまま、ぴたりと身体を寄せてきた。
ラムリーザに怒っているけど、一人では寝たくない。ラムリーザのことが嫌いだから顔は見たくないけど身体はくっついていたい。そんなところだろうか。
なんなんだこの娘は……
それでも、こうして戻ってくるだけまだ分かりやすい。怒っていても、背中を向けていても、ソニアはここにいる。手を伸ばせば届く場所にいる。
リリスも、どこかでそうしてくれていればよいのだが。
ラムリーザはソニアの背中を見つめながら、そんなことを考えていた。