ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


第四回フォレストピア首脳陣パーティー

帝国暦九十三年 紅炉の月・詩歌の日(現代暦:九月上旬)

 ここしばらく、ラムリーザはマトゥール島へキャンプに出かけたり、ミルキーウェイ・フェスティバルの準備や試験勉強を優先したりしていた。

 そんなこともあり、フォレストピア首脳陣パーティーは久しぶりの開催となった。ラムリーザへ報告する機会がなかっただけで、町の各所ではいつもどおり仕事が進んでいたようだ。

 報告会と社交界を半分ずつ兼ねたようなパーティー。ラムリーザが住民からの報告を一通り聞いて回ったあとは、自由に食事や歓談を楽しんでもらう趣旨だ。

 ラムリーザは今回、ユライカナンの伝統的な民族衣装「月織」でパーティーに参加していた。見た目はユカタにも似ているが、その材質と着心地を気に入り、正装としても普段着としても取り入れていきたいと考えていた。

 ラムリーザはふとメンバーを見回してみた。仲間内の参加者は、男性陣がリゲル、ジャン、ユグドラシル。女性陣がソニア、リリス、ユコ、ロザリーン、ソフィリータだ。クラスメイトに、先輩や後輩を加えた組み合わせ。こうなると、いつもとほとんど変わらない。ジャンの計らいでリリスが参加できるようになり、いつものメンバーが揃ったわけだ。

 ちなみにユコは、父親がフォレストピア内の輸送関係をまとめる立場になったので参加している。この栄転が、ユコを転校詐欺へ走らせた原因になったわけだが、まあよいだろう。

 リゲルとロザリーンはフォレストピアの住民ではないが、ラムリーザの参謀役として招かれていた。ユグドラシルは町政には直接関係ないが、ユライカナンの文化を収集する目的で参加している。

 ソニアは会議に参加する必要こそないが、ラムリーザの恋人という身内枠で参加していた。リリスは、ジャンの恋人枠なのだろうか。そこはまだ何とも言えない。とにかく身内特権がかなり炸裂している。

「ん、去年のパーティーのときより、楽しそうにしているな」

「去年?」

 ラムリーザがソニアを見つめながらぼそりとつぶやいた言葉を、ジャンは聞き取ったようだ。

「去年はね、学校のあるポッターズ・ブラフ地方で、定期的にパーティーが開かれていたんだ。社交界の集まりだからと母に参加を促されていたけど、知らない人ばかりで窮屈だった気がするよ」

「へー、そんなのがあったんだ」

「と言っても、今のメンバーから君とリリスとユコ、それにソフィリータがいなかっただけだけどね」

 リゲル、ユグドラシル、ロザリーンとは、去年からの付き合いだ。ソフィリータも去年はまだ帝都在住だった。

 去年のパーティーでは、ソニアはいつも一人で過ごしていた気がするが、今はリリスやユコと食事を楽しんでいる。それに去年の開催場所は別の場所だったが、今年は自分の屋敷が舞台になっている。ほかの参加者も、去年とは違って顔なじみばかりだ。

「で、今度発売されるアレオブラザーズはどう思う?」

 アレオカレー騒動以来、何かとアレオは争いの火種になっている。そのアレオを題材にしたゲームが、近々発売されるのだ。

「たぶんソニアなら買うと思うし、同時プレイもできるらしいから、嫌な予感しかしないよ」

 ジャンに尋ねられたラムリーザは、不安しか感じないと答えた。

「ゲームソフトが抽選で当たるはがきが三千エルドで売られていたりして」

「むしろそのほうが、余計な火種を生まなくて済むかもしれないね」

「ま、ゲーム雑誌であれだけ取り上げられていて、『抽選販売です』ってことになると絶対に荒れるから、普通に販売されると思うけどな。そしたら、リリスと協力プレイしようかな」

「協力プレイで済んだらいいけどね」

 ソニアを見ると、今回も両手に骨付き肉を一本ずつつかみ、交互にかぶりついている。女の子らしくないと言えばそれまでだが、そんなところがソニアの魅力だった。しかし、見た目だけならまごうことなき美少女であるリリスまで、ソニアに倣っているのだから不思議なものである。さすがにおとなしめのユコは、果物をかじる程度にとどまっているのだった。

 去年は一人で時間を潰していたソニアが、今は仲間たちと楽しんでいる。それだけでも、このパーティーを開いた意味はあったように思えた。

「やっぱりリリスがいないのは良くなかった。連れてきて良かったよ」

 ジャンは、ソニアと食べ比べでもしているかのようなリリスを見つめて、そう言った。

「ジャンはリリスともう付き合っているのだよね?」

 ラムリーザは尋ねてみるが、ジャンは顔をしかめて首を横に振った。

「わからん、はぐらかされてばかりの気がする。でも拒絶はされていない。いまいちリリスの考えがつかめないんだよな」

「僕にも、まだソニアの考えを理解できないことはあるけど、環境の変化に乗じてごり押ししたようなものだよ」

「俺が経営している店にあるホテルに住まわせたところまでは、ごり押ししたんだけどなぁ。でもまあソニアは単純だからわかりやすい。リリスは、脈があるのかないのかさえ態度に出さないんだよ」

 そこにリゲルとロザリーンが戻ってきた。農作物の収穫に関するレポートは、そういった管理を得意とするロザリーンに一任してある。

「やはり農作物の収穫量は、予想どおりポッターズ・ブラフ地方の例年より少ないですね。フォレストピアでは初めての収穫なので、あくまで比較になりますけど」

「やはりね。でもそれを見越して、ユライカナンからいろいろと食文化を取り入れて広めてきたから、今のところ問題は出ていないよ」

 この地方の冬は例年温暖だが、去年は異例の大寒波に見舞われた。それによってフォレストピアの農業は少なからぬ打撃を受けたが、被害はなんとか許容範囲内に収まったようである。

 収穫の話が終わった後は、新興住宅地の地名投票である。

 ラムリーザの屋敷のある山脈の斜面を少し下ったところ、フォレストピアの中心街を見渡せる高台。そこに造られた新興住宅地の名前を決めるのだ。

 フォレストピアでは、地名はすべて住民が決めることにしている。それに、よほど変な名前が付かない限り、ラムリーザは介入するつもりはなかった。

 いつものように候補箱が用意され、名前を思いついた人が、候補名を書いた用紙を一枚ずつ入れていく。そこで集まった候補の中から、改めて住民投票で地名を決めるのだ。

「まぁでも、この町の住民のネーミングセンスは、ちょっと変わっているからね」

 ラムリーザは、リゲルと並んで投票の様子を眺めていた。

「俺が思うに、候補の半分ぐらいには、ユライカナン人の感性が入っていると思うぞ」

 リゲルは腕組みをしたまま、冷静に判断する。そういえば、ユライカナンからやってきて店を開いている人も、それなりにいる。
              
料理や花が並ぶ華やかなパーティー会場で、月織姿のラムリーザたちを前に、ゴジリが投票箱から取り出した地名候補を発表する場面
 今回、投票を仕切っている格闘ジム管理人のゴジリが、投票箱から一枚ずつ用紙を取り出して読み上げ始めた。

「一つ目、五十九番街」

 それを聞いて、ラムリーザとリゲルは思わず首をかしげる。まだ五番街ぐらいまでしかできていないはずなのに、なぜいきなり五十九番街なのだろう。

「やっぱりあの住民の感性はおかしい」とラムリーザ。

「なんか知らんが、絶好調な気分なのだろう」とリゲル。

 発表はまだ続いている。

「二つ目、ブルー・サンシャイン」

 これは比較的普通のネーミングだ。

「これで決まりかな?」とラムリーザ。

「まるで悪魔に取り憑かれたかのような凶暴パニックが発生しそうだな」と、物騒なことを言うリゲル。ブルー・サンシャインと凶暴なパニックの関連性が、いまいちわからない。

 ラムリーザは、これで決まりかと思ったところへリゲルに水を差されたような気分になった。

「三つ目、ブルー・ジェイ・ウェイ」

 どうも今回は、青をイメージしている住民が多いようだ。それでも、この名前が無難であることに変わりはない。リゲルも今回は、何も言わない。

「四つ目、ニュー・サロレオーム」

 ラムリーザは、この名前に関しては一瞬何のことかわからなかった。しかしよくよく思い返してみると、サロレオームは、ユライカナンの中でも帝国に最も近いシロヴィーリ地方の中心都市だった。ここで小規模ではあるが、ライブやツアーをやったこともある。

 しかし、こんな小さな新興住宅地につける名前だろうか?

「あれだな、祖国の地名をつけて、そこが自分の国の一部であるかのような地名にしようとしている」

「野心的な人もいるんだね」

「お前もユライカナンに、ニュー・フォレストピアを作ってやれ」

「やだよ、めんどくさい」

 ラムリーザは、フォレストピアだけでも手一杯なのに、さらに新しい町を作ることなど考えられなかった。

「五つ目、ハニーパイ」

 なんだか聞き覚えがある。確か以前、湖の名前を決めるときに挙がったやつだ。どうしてもこの名前を地名として刻みたい住民がいるようだ。

「以上、投票開始だ!」

 ゴジリの宣言で、地名投票が始まった。

「リゲルはどれがいいと思う?」

「ブルー・サンシャインだな」

「ちょっと待って、それ凶暴パニックとか言ってなかったっけ?」

「ふっふっふっ」

「怪しげな笑みを浮かべるなよ」

 ラムリーザとしては、ブルー・ジェイ・ウェイかハニーパイあたりがよいと思った。前者はなんとなく響きが美しく、後者は女の子に人気が出そうだ。ただし、青壁の町並みではない。

 投票の最中、今度はユグドラシルがラムリーザのところへやってきた。

「以前話していたプロレス同好会の話だけど、まだメンバーが集まらないみたいだね」

「じゃあ俺が入ろうか?」

 真っ先に名乗りを上げたのは、誰よりもプロレス熱に取りつかれているらしいジャンだった。

「掛け持ちするのか?」

「いいじゃんか、レフトールとかも入れたら良いだろ? お前も入れよ」

「じゃあプロレス同好会には、軽音楽部のメンバーがそのまま移ることになるよ」

「それでもいいよ」

 基本的に、前回のパーティーからの間に起きたことの報告以外は普通の雑談、そして食事会で終わってしまうのがいつものことだった。今回は、何か新しく決まるとしても、地名ぐらいかもしれない。

 そのとき、ラムリーザに「ちょいとちょいと」と話しかけてきた者がいた。リョーメン屋のごんにゃの店主ヒミツだ。ラムリーザは、ジャンに「ちょっと失礼」と告げてその場を離れると、ごんにゃ店主と二人きりでホールの隅へと移動した。

 雑談ばかりが続いているように見えても、首脳陣パーティーでは、町の将来に関わる話も少しずつ進められていた。

「模倣抵抗軍の件だが――」

 それは夏休み、南の島マトゥールで、ラムリーザが兄から持ちかけられた極秘計画だった。

 現在フォレストピアに住んでいる者の中で、ごんにゃ店主はある程度の影響力を持っている。それに、ラムリーザが最も信用できる人物の一人でもあった。そこでラムリーザは、日頃からなじみ深い店主に、兄から持ちかけられた計画を相談していたのだが、その件について、店主は少し真剣な顔で切り出した。

「僕も必要なのかどうかいまいちわからないのだけど、うまくいきそうですか?」

「なかなか面白そうな話だけど、なにぶん突拍子もなさすぎる。人選も慎重にしなければならないみたいだから、なかなかメンバー集めも進まないよ。ゴジリぐらいなら相談しても良さそうだけど、良いのかな?」

「今すぐ必要になるものでも、数か月後に必要になると決まっているものでもないと思うから、じっくりと人選してくれたらいいですよ。兄は、将来の有事に備えるための布石だと言っていたけど、僕にはよくわからない。まあ、最初はゲーム感覚で始めてみてもいいんじゃないかな?」

「うん、がんばってみよう。ところで領主さん」

 店主は極秘の話を一通り終えると、今度は表情を一転させ、いつもの愛想笑いを浮かべて話を続けた。

「なんでしょうか?」

「サルフをご存じでしょうか?」

「サルフ?」

 ラムリーザは初めて聞く言葉だった。何だろうか? 人の名前か? それとも料理だろうか? あるいはゲームの名前だろうか?

「誰ですか?」

「人ではないぞ、ゲーム。そうだなぁ、球技の一つとでも言えるかな」

「のだまみたいなのですか?」

「棒で鞠を打つという点では、似ていると言えないこともないが、わりと別の球技だぞ」

 ごんにゃ店主の話では、のだまよりも一回りほど小さなボールを使い、クラブと呼ばれる棒のようなもので打って飛ばし、ゴールとなる穴へ入れれば上がりとなる球技らしい。

「あ、それ見たことあるぞ。面白そうだけど帝国では流行ってないんだよな」

 反応を示したのはジャンだ。ユライカナンに何度か仕事で行っているので、そのときにでも見たのだろう。

「ユライカナンで、いちばん上手い人は誰ですか?」

 ラムリーザの問いに、店主は「ゴル」と短く答え、そのまま言葉を続ける。

「プロサルファー・ゴルだ。プロのサルファーとしては、彼の右に出る者はいない」

「ゴルさんか、ごつそうな名前だね」

「そこでだ、おっちゃんの親戚が、ゾーフィタスの外れでパターサルフ場を経営しているんだぞ。どこか都合のいい日に行ってみたらいいぞ」

 ゾーフィタスとは、シロヴィーリ地方の中でもさらに東にある、最東端の町である。

「あ、いいですね。暇な人を誘って行ってみようか」

 こうしてとんとん拍子に、近いうちにユライカナンへ行って、パターサルフという球技で遊ぶことになったのである。

 ちなみに新興住宅地の名前は、ブルー・ジェイ・ウェイに決まった。町並みを青壁に作り替える必要があるかもしれない。一つの住宅街に名前がついたことで、地図の上にあった空白が、また一つフォレストピアの一部へと変わった。

「ときに、領主殿」

 ごんにゃ店主は笑顔で続けた。

「月織は似合っておりますぞ」

「ありがとう。着心地も気に入っているんだ」

 町には新しい名前が増え、まだ形の定まっていない計画や遊びも、見えないところで少しずつ動き始めていた。

 ラムリーザが振り返ると、ソニアたちは相変わらず料理を囲んで笑い合っていた。

 ラムリーザは、さらりとした「月織」の袖にそっと触れた。異国の文化が自分の肌に馴染んでいくように、いろいろなものが、このフォレストピアという土地に少しずつ溶け込んでいくのを感じる。

 賑やかな宴の向こう側、まだ見ぬ明日への足音が、確かに小さく響いていた。