ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


姉妹都市、最初の花火

帝国暦九十三年 紅炉の月・鍛冶師の日(現代暦:八月下旬)

 明日は花火大会の日だ。そこで今日は、その準備をする日となった。

 準備など住民の代表に任せておけばよいものだが、ラムリーザたちは好奇心旺盛なところもあり、開催前の様子を見てみたいという気持ちもあったのだ。そのために昨日は、一日中かけて夏休みの宿題を終わらせていた。

 その準備には、ラムリーザ、ジャン、ソニア、リリス、ユコ、ソフィリータといったフォレストピア組が集まった。それ以外の仲間は今日はお休みだが、明日の本番には参加するとのことだった。

 ――と思ったら、現場へ向かう直前に、急いでやってきた様子のユグドラシルが現れた。

「ユグドラシル先輩だけですか? 珍しいですね、ロザリーンは?」

 ラムリーザは、突然現れたユグドラシルに尋ねてみた。別に準備は、フォレストピアの住民以外には関係ない話のはずだった。

「ローザはリゲルくんと出かけたよ。あと花火は花火でも、島でのキャンプでやったものとは違って規模が大きいと聞いたので、ちょっと見ておこうと思ってね」

「今日は準備だけですよ?」

「できそうだったら、学校のイベントでも花火大会をやってみようと思ってね。その下調べに来たわけさ」

 生徒会長のユグドラシルは、学校行事の充実をいつも考えている。ユライカナンから伝わる文化は、珍しいもの好きな生徒たちにはうってつけで、夏休み前のミルキーウェイ・フェスティバルなども学校で行ってみて大成功していた。そこで今度は、花火大会にも目を付けたわけだ。

「生徒会長もまめですなぁ」

 ジャンは感心したように言っている。

 

 準備のために集合した場所は、ごんにゃの店先。そこでラムリーザは、花火大会の開催場所に向かうための車を出してほしいと頼まれた。

「どれだけ必要かな? 一台だけでいいですか?」

「そうだなぁ、今回は第一回ということで、こちら側で準備するのは三十発ぐらいでいいらしい。残りはユライカナン側で打ち上げてくれるのだとさ。好評だったら次からどんどん数を増やしてみるぞ」

「三十発ですか、少ないのか多いのかわからないですね。でも、三十発なら車一台で十分じゃないかな?」

「一番大きい玉はこれだぞ」

 ごんにゃの店主ヒミツが示した先には、直径一メートル弱の玉が鎮座していた。

「でっ、でかっ。しかも丸っ?!」

 ラムリーザが想像していたのは、島のキャンプで遊んだときに見た、手で握れるぐらいの大きさの筒だった。しかしそこに転がっているのは、馬鹿でかい玉が一つ、その半分ぐらいの大きさの玉が二つ、あとは鞠つきに使うボールぐらいの大きさのものや、のだまで使うようなボールサイズのものが数十個あるのだった。

「こんな大きいものを打ち上げるのですか?」

「そうだ。幸いゴジリの旦那が打ち上げ花火を扱う資格を持っているらしくて、話が早かったんだぞ」

 ごんにゃ店主ヒミツの言うゴジリの旦那とは、フォレストピアに作ったバクシングジムのトレーナーだ。そこで今回は、ゴジリも実行委員として参加していた。

「これは遊びで触るもんじゃないぞ。打ち上げるまでは、できるだけ余計な衝撃を与えないほうがいい」

「しかしいつの間にこんなものを――って触るんじゃない」

 ラムリーザは尋ねながら、打ち上げ花火という名前の大きなボールに手を触れようとしたソニアを引っ張って引き離した。

「話は前から決まっていたんで、領主さんたちがユライカナンツアーに行っている間にこれだけ作っておいたものさ」

「そういえば、そんな話でしたね。しかし思ったより大きいですね……」

「バンがあれば一度に全部運べるけど、用意できるかな?」

「バンかぁ」

 バンと言えば、リゲルが皆を乗せて移動するときに使っていたものがある。しかし今日リゲルは参加していない。

「ちょっと聞いてみるね」

 ラムリーザは、屋敷に電話をかけて、バンを用意できるかどうか尋ねてみるのだった。

 その結果、運送用のバンを二台ほど調達できたのだ。一台はラムリーザの住む屋敷から、もう一台はフォレストピア駅に備えられていた車だった。そこで、駅から持ってきた車を一号車として、ごんにゃの店主ヒミツが運転することになった。屋敷から持ってきた二号車はラムリーザが運転しようとしたが、危ないと言われ、ここまで運転してきたフォレスター家の執事がそのまま運転することになった。

「あたしが運転する、お父さんは引っ込んでて!」

 ソニアは運転席に割り込もうとするが、執事はびくとも動かない。仕方がないのでラムリーザは、ソニアを抱えてさっさと後ろに乗り込んでしまった。

 まるで爆弾のような花火を詰め込み、会場予定地まで移動を開始。二台のバンは、線路脇の道を西へと向かって進んでいった。
              
ミルキーウェイ川の川岸で、巨大な花火玉が運び込まれ、ラムリーザたちが花火大会の準備を見守っている場面
 花火大会の場所は、エルドラード帝国とユライカナンの国境を流れるミルキーウェイ川。その中州にちょうどよい場所があり、そこに打ち上げ花火の打ち上げ場を設置することになったのだ。この場所なら、帝国側からもユライカナン側からも、打ち上げられた花火がよく見えるということで、そこを選んだというわけだった。

 姉妹都市締結後、初めての共同イベントが早速行われようとしていた。手続き上の姉妹都市ではなく、実際に同じ空を見上げるイベントになる。そう考えると、ただの花火大会より少し大きな意味があるようにも思えた。

 ミルキーウェイ川、国境の線になるぐらいの広い幅の川。向こう岸は霞んでいて見えづらい。

 祭りの準備がなければ、ただの広い草原と川岸にしか見えない場所だった。ここに明日、人が集まるのだと思うと、少し不思議な気がする。

 ラムリーザたちの乗ったバンが国境付近に到着したころ、すでに多くの車が停まっていて、川岸では屋形船の準備が急がれていた。当日は、この船に乗って揺られながら花火を見物するといったコースも用意されていた。

 バンを停め、花火の荷下ろしが始まった。次々に小舟へと運ばれ、中州を目指して舟は岸を離れていった。作業自体はごんにゃ店主ヒミツやバクシングジムのゴジリが先導し、ラムリーザたちはほとんど見ているだけである。

 川の土手上には屋台が並び、まるでお祭りのようになっていた。どうやら花火大会でも店を出す、商魂たくましい商人もいるようだ。

「あっ、この場所あたし来たことある」

 しばらく川岸をうろうろしていると、ソニアは駆け出してそう言った。

「私は記憶にないわ」

 しかしリリスには記憶がなかったようだ。どうやらラムリーザとソニア以外は、この場所に来るのは初めてのようだ。

 ここは去年、リゲルの車でラムリーザとソニア、リゲルの三人が訪れた場所。川岸の草むらに半分埋まって顔を出している石。ソニアが躓いて転んだ石も、そのまま残っていた。

 ソニアがその石へ向かって進んでいくので、ラムリーザはすばやくソニアの手をつかんで動きを止めた。

「なぁに?」

「そっちは危険だからやめとけ」

「なんで?」

「いいから」

 足元が見えないから、飛び出ている石に躓くからだろう、とはとても言えない。なんともまあめんどくさい娘だ。

「でも、ソニアだけなんだかんだでイベントが多くてずるいですの」

 ユコは、去年の夏ソニアから送られたグループメールを思い出したようだ。あのときは『ユライカナンとの国境付近なう』などとソニアは謎の自慢をしていたものだ。

「あたしとユコとでは、人間の格が全然違うから当然なの!」

「ふえぇちゃんの格なんて、たかが知れていますの!」

 また何かしょうもない言い争いが始まったな、と思いながらもラムリーザはユグドラシルの姿が見えないことに気がついた。

「ソフィリータ、ユグドラシルさんはどこに行ったか知らない?」

 ラムリーザは、ユグドラシルと清い交際中の妹に聞いてみた。ラムリーザとソニアと違い、ソフィリータは清い交際をしているはずである。もしも清くなかったとしても、ラムリーザにそれを咎める権利はない。

「ユグドラシルさんなら、ヒミツさんたちと一緒に小舟に乗って中州へ行きましたよ」

「なんとまあ、打ち上げ花火のなんたるかを調査しに行ったなこれは」

 川岸から眺めると、中州がかすかに見える。帝国側とユライカナン側に小舟が停まっている。空を眺めると、鳥が西へ飛んでいくのが見えた。

「飛びゆく鳥は、自由の使者だよな」

 ジャンはラムリーザの横に並び、同じように空を見上げながらつぶやいた。

「虹の雫を投げ込んで、歩いて川を渡れるようにしたらいいのに」

 いつの間にかリリスも一緒に並んでいた。今日のソニアの口論相手はユコであり、リリスは参加しなかったようである。

 少し離れた場所では、ソニアとユコがなにやら言い合っている。三つの勢力が争っている場合でも、必ずその一角にはソニアがいるに違いない。

「けど、今年の夏休みもいろいろと濃かったわ」

 リリスは大きく伸びをしながら言った。

「二つの大イベント、マトゥール島のキャンプと、ユライカナンツアーね。おかげで宿題をやり忘れていて大変だったけど」

 とラムリーザは答えて、リリスはくすっと笑う。そしてすぐに遠くへ目をやって、つぶやくように言った。

「ラムリーザと知り合えてよかった。もし知り合えていなかったらと思うと、ゾッとするわ……」

「大丈夫だよ。ラムリーザと知り合えていなくても、俺はリリスを探し出していただろう」

 ジャンはそう言って元気づけようとするが、もしもラムリーザがフォレストピアを作るという話がなくてポッターズ・ブラフに来ていなかったら、当然ジャンの二号店も誕生しなかった。そもそもジャンは、どこでリリスと知り合えていたのだろうか?

「リリスはラムと知り合えてなかったら、今頃魔女裁判でこの川底に沈められていたに違いない!」

 いつの間にかユコとの口論は終わったのか、ソニアはラムリーザたちのそばにやってきていてリリスに余計なことを言う。

「あなたが帝国に残っていたら、今頃おっぱい膨張罪で牢屋入りになってたわ。帝国では不自然なおっぱいはご法度らしいから、正常な大きさにしぼむまで独房に監禁、くすっ」

「知らなかったの? 帝国では赤い目は禁止されているのよ。攻撃的で他者に威圧感を与えるから、脅迫罪が成り立つの! 水に沈める刑執行!」

「緑色の髪は剃って丸坊主にすることが義務付けられているわ。頭から緑カビが生えているみたいで見ていて不愉快だわ、わいせつ物陳列罪で牢屋行き!」

「何よ! リリスという存在自体が罪! この世で起きる泥棒や強盗、事件も全部リリスの責任! リリスなんか煮ても焼いても食えない――むーっ! むーっ!」

 ラムリーザは、うるさいソニアを後ろから抱きかかえて口を塞ぐ。まったくこの娘はなぜこうもどうでもいいことでギャーギャー騒いで、周囲に迷惑をかけるのだ。

「騒乱罪――」

 何か以前もこんなことがあったような気がする。そんな既視感を覚えながら、ラムリーザは小さくつぶやいた。

「さて、視察に来たものの、とくに見るべきものはなかったな、これは」

 騒ぎが落ち着いた頃に、ジャンは頭をかきながらそう言った。

 確かに花火の設置や、屋台の組み立てなどの準備は進んでいるが、ラムリーザたちにやることはないといっても間違いではない。せいぜい川岸に並んで、中州で何かが組み立てられている様子を眺めているぐらいだった。

「ユグドラシルさんにとっては、いろいろと収穫があるみたいだけどね」

「あの生徒会長は、ほんとにいろいろとやる気満々だねぇ」

「あ、ふと思ったけど、この会場までの移動手段はどうしようかな?」

「そういえば、この付近には汽車も停まらないし、何か建物とかあるわけではないからなぁ」

 フォレストピアの開拓は、この平野の東側に留まっており、汽車で国境まで走れば二十分ぐらいはかかる距離だが、そこまではまだ何もない草原が広がっていた。今のところあるのは、線路を敷くために作った道路ぐらいで、これは今日ここまで来るのに車で通った道だ。

「リゲルに頼めば、貸し出しバスとか用意できるかもしれないけどね。一応フォレストピアでのイベントということになっているので、他の地方からはあまり人は来ないかもしれないけど……」

「俺が思うに、この国境付近にも小さな町を作って橋の手前に駅を作るべきだ」

 ラムリーザとジャンは、いろいろと先のことについて話し合っていた。

 おそらく明日の花火大会は、大きな花火は打ち上げるが、祭りの規模としては小さなものになるだろう。二人の会話に出てきたように、国境付近はまだ未開拓すぎてあまり人が来るような場所ではない。それに、移動手段も限られたものしかなかった。来るとしても、車に乗り合わせてくるのが精一杯だろう。

 時期尚早のような気もしたが、第一回ということで、試験的にやってみるのだと考えればよいだろう。

 フォレストピアの開拓も、ユライカナンとの交流も、駆け足でやる必要はまったくない。ラムリーザにとっては一生の仕事として、じっくりのんびりやっていってよいはずだ。楽しんでやっていけば、それでいいじゃないか。

 今はまだ、川岸に屋台と小舟が並んでいるだけだ。けれど明日の夜、この何もない場所に人が集まり、空を見上げる。それだけでも、フォレストピアにとっては新しい一歩なのだろう。

 ラムリーザたちは、夕方近くまで国境付近をぶらぶらと散歩して時間を潰し、暗くなる前に町のほうへ帰ったのであった。