ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
ユライカナンツアー始まる 国境を越えて、ステージへ
帝国暦九十三年 紅炉の月・竜神の日(現代暦:八月中旬)
「ラムっ、対戦しよう!」
朝食後、部屋に戻ってくるなり、ソニアはラムリーザにゲームの対戦を申し込んできた。
タイトル画面には、いつもの「グンバゲンベリイ」という文字が表示されている。
「またぁ? もう、飽き飽き」
「あたしの帝国にラムが勝てるまで続くのよ」
「勝手に一人でやってろ。僕はこれからユライカナンに出かけるから、留守番よろしくな」
「あっ!」
ソニアは、慌ててゲーム機の電源を落として、ラムリーザと一緒に出かける準備を始めた。
いつもの外出とは違う。荷物の量も、行き先も、戻ってくるまでの日数も違う。けれどソニアは、ゲーム機の電源を落とした途端、いつものように当然の顔でついてくるつもりになっていた。
「へんこぶた、世話をどうしよう……連れて行こうかなぁ」
準備中、ソニアは困った表情でラムリーザを見つめた。
「その間は母さんに頼んだらいいだろ。それと、へんこぶたに名前はつけないのか?」
「ん~。それじゃあ、へほ」
「へほ?」
「へほ」
とりあえず、ソニアが留守にする間の世話問題と、へんこぶたの名前が決まった。
今夜はユライカナンでの二度目のライブがある。そしてそのまま翌日から、その近辺の数カ所を回るツアーとなっている。
ラムリーザは、ソニアがブタガエンの入っている小瓶を持ち出そうとしていたので、取り上げて部屋の片隅に置き、ソニアを引っ張って部屋から出た。
同じく準備を終えてやってきたソフィリータを加えて、三人は屋敷を出発した。フォレストピア駅で他のメンバーと合流し、それからユライカナンへ向かう手はずになっていた。
いつもの道を通って駅に到着。フォレストピア組はラムリーザ、ジャン、ソニア、リリス、ユコ、ソフィリータの六人。ポッターズ・ブラフ組は、リゲル、ロザリーン、ミーシャの三人。今回のツアーには、合わせて九人が参加する。
東から汽車がやってきて、駅に到着した。リゲルたちと合流して、ユライカナン行きの超特急汽車に乗り込む。
リゲルの案内で大部屋へ移動し、ラムリーザはジャン、リゲルと三人で中央のテーブルを囲むように座った。女子たちはその周囲の座席に思い思いに腰を下ろし、ソニアだけは早くも窓際に身を乗り出して、流れていく景色を楽しんでいた。
「ジャン、ユライカナンでは盛り上がっているのかな?」
汽車が発車したところで、ラムリーザはジャンに尋ねてみた。
汽車はゆっくりと速度を上げ、窓の外のフォレストピアの町並みが後ろへ流れていく。話題も自然と、これから始まるツアーのことへ移っていった。
「まぁあれだな、交流相手の街の領主様が率いるバンド、盛り上がらなければ国交に影響が出るってのもあって、ユライカナンもいろいろと宣伝しているからね。ひょっとしたらあちらさんは、サクラをたくさん用意しているのかもしれないぞ」
「それでいいのか?」
「いいんだよ、盛り上がっていれば」
「実力はどう見られているのかなぁ?」
「まあ、せいぜい高校生バンドだからな。それなりに演奏力はあるグループだと思うけどね」
ラムリーザは前々から気になっていた。学校の文化祭レベルかもしれない自分たちの演奏で、そんなに人が動くものなのだろうかと。そりゃあ普通に聞くだけではそれなりにまとまっているし、きちんと演奏できている。しかしオーディションすら受けたことのない、アマチュアバンドの類なのだ。そんなものが、こうして外国で公演なんてあり得るのだろうか、と。
「これが交流だ。失礼な言い方になるが、歌が上手いかどうかは別として、例えば皇帝陛下がライブをするぞ、レコードを出すぞということになったら、どのくらい人が集まると思う? どのくらい売れると思う?」
「集まらない奴、買わない奴は不忠だとみなされる?」
「そういうことに近いのだよ、ラムリーザ率いるグループは」
「なんですのそれは! 私たちは下手だけど、権力で見せているって言うんですの?!」
ジャンの話が聞こえていたユコが、思いっきり不満の声を上げた。
「下手とは言ってないぞ、俺の店で堂々と使っても恥ずかしくないレベルの演奏はできている。だが知名度となると、そのような土台がなければ、まだそれほどでもないということだ」
「まぁそうだろうな」
リゲルは冷静にジャンの意見に同意している。
「いいですの! これからどんどん有名になっていくんですの!」
「賛成です!」
ユコの宣言に、ソフィリータも同意する。
「実は、ラムリーザ以外の知名度がさほど高くない、というのには根拠があるのだよ」
「うかがおう」
「これほど活動しているグループの二枚看板ですら、世間にはまだ地方レベルでしか知られていないという証拠があるのだよ」
「二枚看板じゃない、ミーシャも主役だよ! だよ!」
横槍が入るが、ジャンは話を続けた。
「そのメインヒロインが、あることをやったのに、ちっとも注目されなかった。わかるかな?」
「いつも変なことばかりやっているけどな」
ラムリーザは困ったようにつぶやく。今朝もソニアはブタガエンを持ち出そうとしていた。あんなものを持ち歩かれては、どんな迷惑行為に発展するかわかったものじゃない。
「なんでそのメインヒロインが、ゲーム実況動画を公開したけど全然伸びなかったのかな? 普通なら内容はともかく、知名度だけで初動は伸びるはずだ。つまらなければその後、伸び悩むにしてもな」
「そんなこと、あたしやってないから知らない。リリスが一人でつまらない動画を作っていただけ。あーつまらんっ!」
ソニアの中では、なかったことになっている出来事らしい。
「そんな昔のことは忘れたわ」
リリスも、つい半年前の出来事を忘れてしまったらしい。
「まあ俺はリリスの動画は面白いと思ったけどな」
「うそつけ」
ジャンのリリス持ち上げに、ツッコミを入れるラムリーザであった。
「しかしこの大部屋は何だ? この汽車にこんな部屋があったのか?」
「十人は余裕で入れるVIPルームだ。空いていたから、せっかくだし乗せてやった。本来なら高いのだぞ?」
それに答えたのはリゲルだった。家が運輸関係を取り仕切っているので、そのあたりはいろいろと融通を利かせられるらしい。
「まぁ、バンド自体は高校生バンドだけど、その構成メンバーは特殊だからな。未来の領主様、未来の鉄道王、首長の娘、未来の一流クラブのオーナー、その彼女である絶世の美女、メイドの娘」
「なんか、いきなりランクが落ちたな」
ソニアの部分で、すかさずリゲルが合いの手を入れる。
「うるさいっ! あとは媚び媚び娘と呪いの人形! 終わり!」
「わっ、私は?!」
ソニアは強引にメンバー紹介を終わらせるが、一人外されたソフィリータは慌てている。
「そんなことより、ジャンとリゲルは付き合っているのか?」
「リザ兄様っ、私がはぶられているのがそんなことですか?! ソニア姉様もひどい」
「あーもー、トリを務めるのは、格闘王ソフィリータ!」
「かっ、格闘王ってそんなっ」
ソフィリータは、ラムリーザに持ち上げられすぎて恐縮してしまったようだ。
「ちょっと待て、さらっと流したけど、お前変なこと言っただろ?」
リゲルはラムリーザに冷たい視線を向けながら言った。
「誰が? 僕が?」
ラムリーザは心当たりがないようだ。
「お前は、俺とジャンが付き合ってるとか妙なことをさらっと言っただろうが?」
「うほっ!」
すばやくソニアが合いの手を入れた。
しかしリゲルはソニアをじろりとにらみ、すぐに訂正した。
「ジャンとリリスだろ? 何がオーナーの彼女である絶世の美女だ。お前ら付き合っているのか?」
「付き合っているよなー?」
ジャンは、リリスのほうへ優しい視線を向けながら同意を求めた。
「さあ、どうかしら」
しかしリリスは、怪しげな微笑みを浮かべただけであった。
「なかなか落ちねー……」
ジャンはがっくりとうなだれるのであった。
それで、今回のツアーの日程だが、ジャンは持っていた紙を広げ、今回の予定を一つずつ確認していった。
まず今夜は、前回に引き続いてエド・ゲインズショー二回目、夏休みスペシャル公演が前回と同じステージで行われる。
明日は、地方都市サロレオーム最大の公園であるメサシアル・パークでの野外演奏。
一日休み、その翌日には、サロレオームから少し北に行った町ビエダのシロヴィーリ・パークで野外演奏。
再び一日休んで、サロレオームにあるクラブハウス、スタークラブでライブ。
最終日は、再びエド・ゲインズショーで三回目の公演となる。
ちょうど七日間ほどの行程となっているのだ。
「七日間で五回のライブかぁ、ハードスケジュールですの」
ユコは少し心配そうだ。
「なぁに、大丈夫さ。一回のライブはどのくらいの時間だい?」
「そうだな、一時間から二時間ってところだな」
「僕たちは、去年の文化祭で十時間ぐらいぶっ続けで演奏したじゃないか。あれに比べたら、一日二時間なんて大したことないよ。それに公演は全部で五回。総時間にしても、十時間は超えないだろうね。ほら、もう経験済みのことじゃないか」
ラムリーザは、不安そうなユコを励ましてやる。
「そうね、文化祭のイベントで私たちはタフになりましたの」
「そういうこと」
汽車はミルキーウェイ川に差しかかり、ラムリーザたちは再び国境を越えていた。
「下海、下海」
ソニアは窓から下を眺めてうれしそうにそう言っているが、残念ながら海ではなくて川である。
川を越えるだけで、窓の外の景色が劇的に変わるわけではない。それでも、ここから先は別の国なのだと思うと、汽車の揺れまで少し違って感じられた。
同じ線路の上のはずなのに、地平線の向こうへと続く空の色が、いつもよりほんの少しだけ鮮やかに、広く見えるような気がする。
川を渡り終えると、そこはもうユライカナンの地である。しばらく陸地を走り、サロレオーム東端の町ゾーフィタスに差しかかり、そこを通り過ぎて都市中央のサロレオームシティ駅へ向かった。
そのまま駅前のホテルに移動して、夜の公演まで休憩を取ることになった。二度目となると、手慣れたものである。九人はそのまま適当に部屋に分かれていった。
ラムリーザは、どうせソニアが夜に忍び込んでくるのはわかっていたので、最初からソニアとの相部屋を要求していた。他のメンバーがどう分かれていたのかは割愛する。
「さてと、公演までの時間、何して過ごそうか」
ラムリーザは、ベランダに出て外の景色を眺めているソニアに尋ねてみた。
「散歩でもする?」
「ん~、どうせ明日から色々回るからなぁ」
「じゃあしりとりしよう」
「なんでそうなる?」
ソニアの唐突な提案に、ラムリーザは面食らってしまう。
「あたしから、ブタガエン」
「いや、終わってるし」
「ふえぇ……」
「何がやりたいんだ……」
そこに、リリスとユコが部屋に入ってきた。二人はホテル内にゲームセンターを見つけ、ソニアを誘いに来たようであった。
一人残されたラムリーザは、ベランダに置かれたデッキチェアに腰掛けて、異国の青空を眺めていた。
夜になり、一行は会場へ移動した。いよいよ第二回エド・ゲインズショーの開幕だ。
「夏休みスペシャル! ラムリーズの登場です!」
エドの司会で、公演は前回と同じように始まった。ソニアも前回と同じように不思議な踊りを披露しているが、それは毎回のことなのでメンバーにとっては日常だ。
ライブは、二枚目のシングルレコードのA面として発表した曲から始まった。リリスの歌う「カラーに口付け」。これはラムリーズ最初の舞台公演、シャングリラ・ナイト・フィーバー一号店で演奏したものだった。
一時間ほどで十曲演奏して、とくにトラブルも起こることなく、今夜の演奏は終わった。
客席の反応は悪くなかった。前回の公演を覚えている者もいるのか、曲の途中で手拍子が自然に広がっていく場面もあった。
この様子は、事前に設置していたスクリーンにより、フォレストピアにあるジャンの店でも公開され、一種の映像中継のような形になっていたのだった。
目には見えないけれど、音楽という糸で二つの国がつながっているような、不思議な一体感がステージの上に満ちていた。
ラムリーザたちは再びホテルに戻り、ユライカナン産の晩ご飯を堪能してから部屋へ戻った。こうして、慌ただしい一日は終わった。
結構大変なスケジュールだが、フォレストピアとユライカナンの交流のため、ここはひとつ苦労しよう。ラムリーザはそう思いながら、ソニアを抱き寄せて、いつものようにくだらない話をしていた。
フォレストピアから遠く離れた場所で鳴らした音が、スクリーン越しにフォレストピアにも届いている。そう考えると、今日の演奏は、ただの一公演以上の意味を持っているように思えた。
こうして、ユライカナンツアーの初日は無難に過ぎていくのであった。