ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


夜空に煌めく幾筋の光

帝国暦九十三年 炎心の月・月影の日(現代暦:八月中旬)

 東の空に三日月が昇りつつ、西の空に三日月が沈みつつある。

 マトゥール島キャンプ最終日の夜は、雲ひとつない快晴で、絶好の夜遊び日和だった。

 もっとも昨夜は、一発芸大会という名のふえぇプロレスをやって盛り上がっていた。最後の夜は、まったりと――?

「これなぁに?」

 ソニアは、コテージの広間の隅に置いてある、ついさっきまでなかった大きな箱に気がついて、ラムリーザに尋ねた。

「今夜、これから使うよ。最後の夜だからね。この日まで温存してきたんだ」

 ラムリーザは大きな箱を担ぎ上げると、そのままコテージから出ていった。ソニアもその後を追いかける。二人はコテージから少し離れた場所に陣取ると、箱を置いて皆を呼びに戻っていった。

 

 三十分ほど経ったころ、砂浜に大きな箱を置いたあたりに、全員が集合していた。

 好奇心旺盛なミーシャは、早速箱を開けて中身を取り出している。ラムリーザ以外の者は、何が出てくるかわからず不気味なのか、箱から少し離れて輪を作るように見守っている。

「こんなのが出てきたよー」

 ミーシャは、箱の中から取り出したものを、そばに立っていたラムリーザに見せた。ミーシャの持っているものは、長さ二十から三十センチほどの細い棒。片側の細い部分は串のようになっていて、反対側は少し太くなっていた。

「これなぁに? 鉛筆?」

 ミーシャは、細い棒を軽く振り回しながら尋ねた。

「これは、ファイア・ワークっていうもので、ユライカナンでは夏のお祭りなどで使ったり遊んだりしているらしいんだ。そこでは花火と呼ぶらしいよ」

「どうやって使うの?」

 ミーシャは、手に持っていた棒を自分の鼻に突っ込んでラムリーザを見上げている。ハナビと聞いたから、鼻で何かするものだろうと勘違いしているようだ。

 ひとまず危険には見えなかったからか、ソニアも箱から花火を取り出してまじまじと眺めていた。それからソニアは、リリスを手招きして呼び寄せる。そして手に持っていた花火でリリスの頭を叩くのだった。ただし細い棒なので、攻撃力はまったくない。

「何がしたいのかしら?」

 ソニアは今度は、少し太くなっているほうを持って、細い串状になっているほうでリリスを突いてみた。

「こらこら、この花火というやつは、戦闘に使うものじゃない」

 ラムリーザは、箱から別のものを取り出した。そちらは、馴染みのあるロウソクだった。生暖かい風が頬をなでる中、消えないように気をつけながら、ラムリーザはロウソクに火を灯した。

「ロウソクより、ラーとかミーがいい」

「ミーはコストがかかるから、ラーでいい」

「魔女は最初ミーまで使えない」

「どっちみちロウソクのほうがコストがかからない」

「つまり、魔女はロウソク以下」

 ロウソクを見ながら、ソニアとレフトールがぶつぶつとお互いに何か言い合っている。どうやら二人にしかわからないネタのようだ。

「おいおい、ぶつぶつ言ってないでこっちに来いよ」

 ラムリーザは、ソニアをレフトールから引き離して、ロウソクのそばへ連れてきた。

「なぁに? リリスはミー使えないよ」

「ゲームの話はいいから、持っている花火の先をロウソクの火につけてみろ」

 ソニアは首をかしげながら、持っていたものの先を火にかざしてみる。

 次の瞬間、棒の先端から火花が飛び散った!

「うわっ!」

 ソニアはびっくりして、思わず持っていたものを落としてしまい、それにつられて周囲の人の輪も一歩下がった。

 ソニアが落とした花火は、地面に倒れたまま先端から青白い光を発し続けている。しばらく光り続けた後、スッと光は消えて周囲は再び暗くなった。

 光が消えた後、砂浜には一瞬だけ、波の音だけが戻ってきた。さっきまでそこにあった青白い光が、目の奥にだけ残っている。

 少しの間沈黙が訪れた。みんな初めて見る花火に驚いているようだ。

「ふっ、ふえぇ~、びっくりしたぁ」

 ソニアは火の消えた花火を再び手に取ってみる。焦げ臭いにおいが気になっているようだ。

 それを聞いて、リリスとユコはくすっと笑った。ソニアから「ふえぇ」を聞き出すことを目標にしている二人である。

 その一方で、リリスがラムリーザのそばに近寄り、箱の中から同じような棒を取り出した。今度はリリスが花火に挑戦するようだ。

 リリスは、腕を目いっぱい伸ばして自分と花火の間に可能な限りの距離を取る。そして花火の先端が若干ぷるぷる震えているが、なんとか先をロウソクにかざし、火をつけることに成功した。

 今度は黄色く輝く光が、棒の先端から散った。

 リリスは顔を背け気味ではあるが、なんとか落とさずに持ち続けている。

 花火の色は、黄色の光から緑の光に変わっていった。そして先ほどと同じように、スッと消えてあたりは再び暗闇に閉ざされた。

「へ、へえ、綺麗じゃないのよ」

 リリスは若干上ずった声で感想を述べた。やはり少し怖かったようだ。

「ミーシャもやるのーっ」

 ミーシャは、自分の鼻に突っ込んでいた花火を取り出して、棒の先端をロウソクにかざした。しかし今度は、棒の先に火がついただけで、すぐに消えてしまった。

「あれぇ? 光らないよ」

「そっちは持つ部分。ちょっと太くなったほうに火をつけるんだ」

 ラムリーザの指導を受けて、ミーシャは再挑戦。

 先ほどの二つは直線的な光だったが、今度は棒の先を中心に円形に広がる花火だった。白い光が丸く広がって輝いている。

「うわぁ、綺麗だなぁ~」

 三本目ともなると、一同から怯えはほとんど消えていた。

 ミーシャは、ソニアのように落としたりせず、リリスのように顔を背けがちでもなく、じっくりと花火が燃えていく様子を眺めていた。

 光の円は、花火の先から徐々に中央に向かって燃え進んでいき、少し太くなったところが終わるとこれまでと同じようにスッと消えるのだった。

 こうなると、あとはもうお祭りである。みんながわっと箱に殺到して、次々に花火に火をつけて楽しみ始めた。
              
夜の砂浜で、ユコが花火を大きく振ってフォースイクスプロージョンを演出する場面
 ユコなどは、「フォースイクスプロージョン!」などと言いながら、赤い閃光を放っている花火を前後左右に振り回している。光の筋が尾を引き、確かに魔法に見えて美しい。

 レフトールは「この太い筒みたいなのをやってみよう」と箱の中から大きめのもの、棒というよりは筒に見えるものを手に取っていた。ソニアも「あたしもやる」と言いながら同じものを手に取る。

 一度動き出した宴会には、もう進行役など必要なく、ラムリーザは一歩離れた場所でこの騒ぎを眺めていた。リゲルも騒ぎには参加せず、ラムリーザの近くで見守っていた。

 リゲルは、レフトールやソニアが手に取ったのと同じ種類の筒状のものを持っていた。手元のライトで側面を照らし、そこに書かれている文字を読んでいた。

「何々、これは地面に置いてから火をつけろと書いてあるぞ」

「えっ? それは本当か? ソニアは手に持ったまま火をつけようとしているぞ? おいソニア、それは地面に置いて――」

 少し遅かった。

 ソニアが「えっ?」と振り返った瞬間、筒から大量の火花がぶわっと飛び散って周囲は白く輝いた。

「うわっ!」

 ソニアはびっくりして、再び花火を地面に落としてしまった。筒は地面をくるくると回り、周囲に火花を撒き散らしながら暴れ回っていた。

 思わずソニアはその場から逃げ出す。わりと近くにいたユコも逃げようとして、砂浜に足を取られて転倒してしまう。

「情けねー奴らだな」

 レフトールも、持っていた太い筒に火をつける。

「いや、それ地面に置いてやる奴だから!」

 ラムリーザは必死で注意するが、レフトールは聞く耳を持たずに太い筒を斜め上へ向けて構え、火花が噴き出すのを待っていた。
              
夜の砂浜で、レフトールが太い筒花火を手に持ち、激しく火花を噴き出させている場面
 間もなく同じように大量の火花が出てきて、まるでレフトールが強力な魔法を放っているかのような光景を作り出していた。

「レフトールさんにしては、美しいですの」

 ユコは砂浜に座り込んだまま、レフトールの雄姿を眺めていた。

 しかし火花の一部は真上にも飛び上がり、それはそのまま落下して、火花のシャワーとなって、レフトールに降り注ぐ。

「あっつ!」

 レフトールは太い筒を投げ出してしまった。

 太い筒は火花を撒き散らしながら落下し、地面に落ちた瞬間にポンと音がして筒から球状の火の玉が飛び出した。それは砂浜をコロコロと転がりながらジャンのほうへ向かっていった。そしてジャンの足元でパンと破裂した。

「うわおっ!」

 ジャンはびっくりして飛び上がる。

「普通にやれよ」

 リゲルは見ていられなくなって、手に持っていた太い筒を地面に置いて固定する。そして点火してから、数歩後ろへ下がった。皆も一定の距離を置いて、リゲルが火をつけた筒を凝視していた。

 間もなくシュルシュルと大量の火花が真上に向かって飛び出して、そのまま放物線を描いて地面に落ちていく。続いてポンポンと音がしたかと思うと、上空でパーンと弾けて丸い火花を広げた。

「うわっ、きーれい」

 あちこちで感嘆の声が上がる。

「ほらみろ、普通にやればこうなのだ。二本も、もったいない使い方をしてくれたな」

 それからしばらくの間は太い筒の花火、つまり打ち上げ花火を一本一本普通に楽しんでいった。

 その一方で、ミーシャは箱に入っていた変わった形の花火を手に取っていた。一本の太い糸が垂れていて、その糸に沿って細い筒状の花火が左右にずらりと並んでいる。

 ミーシャは片方の糸の先端を持ってぶら下げ、反対側の導火線に火をつけてみた。

 間もなく花火に火が回り――

 パパパパパパンパンパンパパンパパパパン!

 ミーシャのそばでものすごい破裂音をとどろかせながら、糸からぶら下がった花火は大暴れしている。

「ひゃうえあーん」

 ミーシャは変な叫び声をあげて、持っていた糸を投げ出して尻餅をついた。

 爆竹と呼ばれるその花火は、破裂し続けながらソニアの近くに落ちて激しい音をとどろかせる。

 びっくりしたソニアは、思わず爆竹を蹴っ飛ばす。しかし飛んでいった方向が悪かった。点火され、火花が出始めていた打ち上げ花火のところに、爆竹が飛び込んでくる。爆竹の爆発の勢いで打ち上げ花火は倒れ、まだ小規模な爆発を繰り返す爆竹の破裂にさらされて、打ち上げ花火も地面を転げ回る。打ち上げ花火から発射された玉は周囲にまき散らされ、周囲を逃げ惑う観衆の足元へ飛んでいって破裂を繰り返すのだった。周囲は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

「こいつらはアホだ――」

 リゲルは、逃げ惑う皆を呆れた目で眺めながらつぶやいた。

「騒動の原因を作ったのはミーシャだけどね」

 一部始終を最初から見ていたラムリーザは、リゲルに一言注釈を入れておいた。

 この騒ぎで少し疲れたので、しばらく休憩することにした。

 それでも、箱の中にはまだ見たことのない花火がいくつも残っていた。

 

 休憩後、一同は再び動き始めるが、興奮も少し冷めて今度はおとなしく遊んでいるようだ。

 リリスは花火の入った箱を漁っていた。中には細い棒、太い筒、糸状のものといろいろ入っている。

 リリスは、その中の一本を手に取った。これまで遊んだものと少し形が違っていた。

 手に持つところが細い串状なのは同じだが、反対側の少し太くなっている場所がやや小さめで、先端は硬い素材で丸く覆われている。そして火をつける導火線は、先端ではなく太くなっている場所の根元、花火全体の中央あたりについていた。

 リリスは導火線に火をつけて、海のほうへ向けて構えていた。

 次の瞬間、花火は「ヒューンッ!」と甲高い音を立てて、リリスの手をすり抜けて海側へ飛んでいった。光の尾を引いて飛んでいった花火は、海上でパンと破裂した。

 たまたま海を見ていた数人は、「おー」と感嘆の声をあげる。

 そのときリリスは、またしても余計なことを思いついてしまい、ソニアの姿を探す。ソニアは少し離れた場所で、リリスに背を向けてしゃがみこんで何かをしている。なにやら輪のような形をした花火で遊んでいるらしい。火をつけるとその場で火花を散らしながらクルクルと激しく回り、最後にポンと破裂している。

 そこでリリスは、先ほどと同じ花火を手に取って導火線に火をつけた。今度は海の方向ではなく――

 ソニアが、シュルルルと音を出して回っている花火を見下ろしていると、背後から「ヒューンッ」という音が近づいてきた。そして何かが背中にぶつかり、その直後に真後ろで「パーン!」と破裂した。

「痛いっ!」

 ソニアがびっくりして振り返ると、リリスはすでに三本目の花火、どうやらロケット花火と呼ばれているものを手に、点火しようとしているところだった。

 そして笑みを浮かべながら、またしてもソニアの方向に向けて発射した。

 ソニアは慌てて避ける。ロケット花火はソニアの後方へ飛んでいき、ずっと後ろでパーンと破裂した。

 リリスは笑いながら、今度は二本のロケット花火を用意し始めた。

 ソニアは怒って、持っていた輪の形をした花火、どうやらネズミ花火と呼ばれているものに立て続けに点火してリリスの足元に投げつけた。

 リリスは突然足元に現れた、火花を散らしながらくるくる回る花火にびっくりして、少し飛び上がって後退した。そして立て続けにパンパンと弾ける音にさらに驚き、持っていたロケット花火を落としてしまった。
              
岩場に隠れたソニアとリリスが、互いにロケット花火を撃ち合っている場面
 ソニアはその隙にリリスのそばに駆け寄り、落としたロケット花火を手に取り、さらに箱の中から同じような花火を一束持ち出して、少し離れた岩場へ駆けていった。

 岩の影からソニアは、リリス目がけてロケット花火を発射する。

 リリスは体を捻って身をかわすと、同じようにロケット花火の束を箱から取り出して、ソニアとは反対側の岩場に身を隠した。

 壮絶なロケット花火戦争が始まった。

「ヒュン! ヒュチューン!」と、甲高い風切り音を立てながら、岩場と岩場の間には何本もの光の筋が行き交い、次々と岩壁に激突し、「パーン!」と激しい破裂音と共に火の粉を散らしている。
              
ラムリーザ、ソフィリータ、マックスウェル、ロザリーンが線香花火を嗜む場面
 その一方でラムリーザは、そろそろ静かな遊びに移るかと考えて、ソフィリータ、マックスウェル、ロザリーンといったおとなしめのメンバーと、静かな遊びに興じていた。線香花火と呼ばれるものを、誰が一番長持ちさせるかという地味な勝負などを繰り広げていた。

 そこにユグドラシルが駆け込んでくる。

「ラムリーザくんっ、ソニアくんとリリスくんの二人が何だか危ないことをやっているっ!」

「またあの二人か……」

 目を離すとすぐこれである。楽しいかどうかで言えば楽しい。だが、危ないかどうかで言えば、間違いなく危ない。だからこそ、止める者がいなければどこまでも悪化する遊びだった。

 ラムリーザは、二人に注意するために立ち上がった。そして岩陰から顔を出しているソニアを見つけて、そちらへ歩いていった。

 ラムリーザがソニアのそばに近づいたところで、リリスがまたしてもロケット花火を発射。ラムリーザは後ろから接近する何かを感じ取り、振り向きざまに反射的につかんだ。ロケット花火は、ラムリーザの手の中でパーンと破裂した。

「あっつ! やめんかぁ!」

 ラムリーザはソニアを岩陰から引きずり出す。

「やっ、やだっ。出たらリリスに狙い撃ちされるっ」

「花火を人に向けて発射するの禁止!」

 そう叫ぶラムリーザを見て、ジャンは事態を察して、リリスのもとへ駆け寄った。そして一言二言何かを言って、リリスを岩場の影から連れ出すのだった。

 こうしてあっさりと、ソニア国とリリス国のロケット花火戦争は、他国の仲介が入って終戦へ向かったのであった。

 楽しいからといって、人に向けていいものではない。ラムリーザは、花火という遊びが思っていたより危ないものだと遅れて理解した。

 

 それから二時間ほど遊んだだろうか。

 箱の中にあった花火はすべて使い切り、中身は空っぽになっていた。

 最後の一本がロケット花火になったところが、彼らの計画性のなさを物語っているだろう。

「もっと大きいのが見たいなぁ」

 ひゅーん……ぱんっ、というシンプルなロケット花火を見終わり、ミーシャは物足りなさそうにつぶやいた。

「そういえば、夏休みの終わりごろにユライカナンの人たち主催で大規模な打ち上げ花火大会をやるらしいよ」

 ラムリーザは、少し前にごんにゃ店主から聞いていたことを思い出していた。

「おっきなの? 見に行こうよー」

 ミーシャはラムリーザの手を取って揺すりながら催促する。

「まだ三週間ほど先の話だよ。それまでおとなしく待っているんだね」

 なんだか尻すぼみに終わってしまった花火遊びではあったが、こうして次の予定を入れることで、まだキャンプの余韻が続いているような錯覚にとらわれるから不思議だ。

 

 こうして、マトゥール島最後の夜のイベントも終わった。そして同時に、マトゥール島でのキャンプ生活も、これで終わりなのだな、と実感することになった。

 さっきまで夜空を裂いていた光も、もうどこにも残っていない。残っているのは、焦げた匂いと、砂浜に散らばる花火の殻と、まだ少しだけ熱を持ったような騒ぎの余韻だけだった。

 明日にはこの砂浜を離れる。そう思うと、焦げた花火の匂いさえ、少し惜しいもののように感じられた。

 けれど、その光はまだ目の奥に残っている。マトゥール島で過ごした時間も、きっとそんなふうに残るのだろう。

 砂浜に寝転んで夜空を見上げながら花火の余韻に浸る者、コテージへ戻っていく者、花火の後片付けをする者に分かれて、夜は更けていった。

 最後の夜は少し騒がしく、少し危なっかしく、そして妙に楽しい時間だった。帰れば笑い話になる。今はまだ、その笑い話の中に自分たちがいる。