ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
島の洞窟探検 後編 八本の石柱と夢見がちな赤水晶
帝国暦九十三年 炎心の月・騎士の日(現代暦:八月上旬)
マトゥール島にある未開の洞窟にて。現在、ラムリーザたちは地下三階らしき場所まで探索を進めていた。
再び八人パーティとなった一同がいるのは、少し広くなった空間である。
その広間からは、西へ続く通路、南へ続く通路、そして下り坂の三方向へ道が分かれていた。
「三手に分かれて探索するか、全員で一つずつ見ていくかだね」
ラムリーザが二つの手段を提示すると、ソニアは「みんなで行こうよ」と答えた。
待機するのも退屈なので、全員で探索を続けようという話になり、この三本の分かれ道は全員で順に回ってみることになった。
そこで、どこから探索するかと全員に意見を聞いたところ、下の階層が気になるという意見が多かったので、まずは下りられるだけ下りてみようという話になった。
広間にランタンを一つ目印に置いてから、全員で下り坂の道へ進んでいった。
小さな広間から下りた先には、広大な地底湖が広がっていた。足元の陸地は縦長の島のようになっていて、周囲を地底湖に囲まれている。
地底湖は波打っているわけではなく、ただ黒く穏やかな水面が延々と続いている。ランタンで照らしても、対岸の壁は見えないほどの広さだった。
周囲を見回すと、西の方向にも島のようなものが見えた。その島は薄暗い闇の向こうにかすかに見えるだけで、どのような島なのかまでは把握できない。
しかし陸続きになっていないので、そこへ行くには、この黒い地底湖を泳いで渡る必要がある。
この黒い湖を泳いでまで島へ行ってみようという意見はなく、一同はそのまま来た道を通って上の階層へ戻っていった。
次は西か南だ。
どちらに進むかという話になったとき、ユコの提案でソニアとジャンケン三本勝負をして、ユコが勝ったら南へ、ソニアが勝ったら西へという案が挙がった。
ラムリーザは少し意味がわからなかったが、ソニアもやる気のようだし、次の道は二人に決めてもらうことにした。
「ジャンケンぽいぽいどっち出すの、こっち出すの、あんた馬鹿ね、グリーンピース!」
ソニアたちのローカルルールなのかどうかわからないが、流れるように三本勝負が進行していった。
最初の「ぽいぽいどっち出すの」で、両手でそれぞれジャンケンの手を出し、「こっち出すの」でどちらかを選んで勝負をする。このルールでは、なぜかソニアは両手とも同じものを出しがちで、今回も同じ手を出してしまい、結果はユコの勝ち。
続いて、最初にジャンケンで勝ったユコが親となり、「あんた馬鹿ね」の呼びかけであっち向いてほいの要領でゲームは続いた。ソニアは右を向きかけたが、ユコが下を指差すと、なぜかそっちにつられて見てしまった。これでユコの二連勝。
最後の「グリーンピース」は、二人だけのルールみたいで、何やらお互いにポーズを取って勝負をしたようだ。ユコの合図で、二人とも腕を十字に組む同じポーズを取った。ポーズが同じだと親の勝ちだそうで、つまりユコの三連勝。
この手のゲームになると、なぜかソニアはやたらと弱い。
「えっと、ユコが勝ったから南だね」
ラムリーザは、ユコに三連敗して不満そうな顔をしているソニアを抱き寄せ、一応慰めながら、ランタンをかざして南へと進んでいった。
ソフィリータは素早くラムリーザの前に出て、護衛を気取る。すかさずレフトールが前に出て、それをソフィリータが抜き返して、さらにレフトールが前に出る。それが延々と繰り返される。
「お前は一応領主の妹様だろうが、おとなしく守られてろよ!」
レフトールはソフィリータに憎まれ口を叩く。
「私は自分の身は自分で守れます。その余剰戦力で、リザ兄様を守っているのです」
「おいおい、それじゃあ僕は自分で自分を守れないみたいじゃないか」
ラムリーザは、困ったようにつぶやいた。だが実際にはレイジィに守られ続けていることも事実なので、あまり強くは否定しないでおく。
しかし二人が次々に前に出たがるので、少しずつラムリーザとの距離が開きつつあるのだが、それはどうなのだろう。
南へ向かった道は、すぐに左右、東と西に分岐していた。
「最初の頃はそうでもなかったけど、奥に来たら複雑になってきましたわね」
ユコは、東の通路と西の通路を交互に眺めながら言った。どちらもランタンで照らしてみても、奥までは見渡せない。
「リザ兄様、東へ向かいましょう。私が先導しますので、ついてきてください」
「いやいやラムさん、勝利は東ではなく西だぜ。こっちに来るんだ」
「ソフィリータとユグドラシル先輩とミーシャは東をお願いします。レフトールとユコとマックスウェルは西をお願いね。僕たちと一緒にこの分岐点で待機。」
ラムリーザは、不毛な争いに終止符を打つべく、自分は一歩引いて探索を残りのメンバーに委ねたのだった。
しかし二手に分かれた探索組も、すぐに戻ってきた。どうやら行き止まりで何もなかったようだ。
「私がゲームマスターをするなら、こういった行き止まりのどこかに宝箱を設置しますわ」
テーブルトークゲームでゲームマスターを何度も務めているユコは、自分ならこうするとぼやいた。
「テーブルトークゲームなら、あたしはファイターだから次は先頭を歩く!」
「ダメだ、足元が危ないからソニアは僕の後ろ!」
「なによー、『俺より先に歩いてはダメだ』というの?」
「そうだ。僕より先に寝てもダメだぞ」
「後に起きるのは?」
「それもダメだ」
「じゃあラムは夜八時ぐらいに寝て、朝十一時ぐらいに起きてきてね。それならあたしその言いつけ守れるよ」
いつの間にか実りのない会話を交わしながら、ラムリーザとソニアは通路を北に戻って、最初の分岐点へと戻っていった。
そして次に全員で残る一本、西へと進んでいった。
西の道は、突き当たりで左右、南北に分かれていた。
北の道は北西へ伸びていて、その先はランタンで照らしても暗いままだ。そして南の道は、すぐに南と西へ分岐していた。
「ますます複雑になってきますね」
「よし、ここに拠点を築くぞ。ランタンを一つ置いて、テントとかないから味気ないけど、拠点出来上がり」
「ランタン一つだけ、簡易拠点ですのね。キャンプにもなりませんわ」
「テント運ぶの大変だから、拠点はこれでいいの。さて、どのように探索を進めるか、先ほどの二つのグループで、それぞれ北と南を探索してもらおうか」
「それじゃあ俺は北を選ぼう」
レフトールは、ラムリーザの意見を聞いて、マックスウェルとユコを率いて北へ向かっていった。この三人は、何気ない組み合わせに見えて、ゲームセンタートリオだった。
残りの三人、ユグドラシルとミーシャとソフィリータは南へと向かっていった。
そこでラムリーザは、拠点の位置を少し南へずらし、西へ向かう分岐点の手前にランタンを置き直した。ランタンを動かしただけの、簡単な引っ越しである。
「ラム~、おなかすいた~」
二人きりになったとき、ソニアは甘えたような声を出してラムリーザにくっついた。
「ん、ヒザラガイ食べる?」
「あれは見た目がやだ。――って持ってんの?」
「洞窟探検が終わったら、また岩場に取りに行こうか」
「やだっ、せっかくラム兄がいなくなって、変なもの食べさせられなくなったのに」
「でもコリコリしていておいしかったじゃん」
「だから見た目がやなの。あっ、そんなことよりもチューしようよ」
「そんなことって、おなかがすいてきたのはそっちじゃないか。それに薄暗い洞窟でチューとは、情緒がないなぁ」
「いいじゃないのよー、誰も見てないし」
「学校では、見られていても見られていなくてもやってただろ」
「今は他に誰もいない!」
「いますよ」
二人がいちゃいちゃしていると、突然そばに現れたソフィリータが声をかけた。しかしソフィリータに見られる程度では何とも思わないソニアは、まだラムリーザから離れようとしない。
「南の通路は行き止まりだったのか?」
ラムリーザは、思ったよりも早く戻ってきたソフィリータに尋ねた。
「いえ、南に向かう途中で東に向かう分岐があり、さらに南へ進んだ先も東へ曲がっていました。奥の東の道は行き止まりでしたが、手前の東の道は、さらに地下へ下りていく感じになっていました。そこで二人を待機させて、私が報告に戻ってきたわけです」
「単独行動は避けてもらいたかったけど、まぁ一本道なら壁から何かが湧き出てこない限り安全は確保できているか。よし、一旦待機。レフトールたちが戻ってきてからさらに地下へと向かおう」
しばらくの間、ソフィリータはラムリーザのそばを離れなかった。まるで、ソニアがよからぬことをしないよう監視しているかのように。
そして間もなく、レフトールが西の通路から現れた。
「あれ、明かりが見えたから来てみたけど、北へ向かった通路と繋がっていたみたいだな」
レフトールは三人の姿を確認してそう言った。
「これは、拠点を作って正解だったね。気が付かなければ延々と同じところをぐるぐる回るところだったよ。それで、他に道はなかった?」
「ちょっと向こうに南へ向かう道があったから見てくる」
そう言ってレフトールは、再び西へと進んでいった。しかしすぐに行き止まりだったらしく、マックスウェルとユコを率いて戻ってきた。
これでいよいよ地下四階へ向かうことになった。
「カタコンベも地下四階だったね」
八人揃って地下四階へと向かう途中、ラムリーザはテーブルトークゲームのことを思い出していた。
「あの指輪は結局どうなったの?」
ソニアも思い出したようで、ユコに尋ねた。
「どうなったのでしょうねぇ」
しかしユコは、曖昧にしか答えない。あれ以来続編もないし、指輪を巡る物語はユコの中では完結しているのだろう。
下り坂が平坦な通路になったとき、周囲の壁は完全に岩肌となっていた。空気はひんやりとしていて涼しい。そして通路は、北へと向かって続いていた。
その途中、ソニアとユコはテーブルトークゲームっぽい話をしていた。
「敵が出ないね、ガーゴイルとかマーネイスとか」
「私がゲームマスターなら、ここらで一発モンスターを出しますわ。地下だから、ワンダリングアイズとか」
「それ名前違う。ビホルダーでいいじゃないのよ」
「その名前使っちゃダメらしいですの」
「なんで?」
「わからないけど、君子危うきに近寄らずですの。だから私が目玉のモンスターを出すときは、いつもワンダリングアイズ」
「じゃあ今度あたしがゲームマスターやってビホルダー出してやる。それで文句言いに来る人がいたら、どんな人かしっかりと確認してやるんだ」
そんな雑談を聞きながら北へ進んでいくと、道は東へと曲がっていた。その先には――
「ここは昔誰かが来たことあるみたいだね。これは人が作ったものだよ」
ユグドラシルが指し示したものは、明らかに人工物とわかる、石でできた橋であった。
東の通路はすぐに大広間へ出るようになっていて、そこには広大な地底湖が広がっていた。その橋は、地底湖に浮かぶ島へ向かってかけられていたのだ。
この島は、先ほど地底湖の階層へ下りたときに、遠くに見えた島なのだろう。
橋の先の小島には、八本の石柱が円形に並べられていて、その中央に祭壇のようなものがあった。その上には、何やら赤く光るものが置かれていた。
八本の石柱は、ただ飾りとして立っているのではなく、中央の祭壇を囲んで何かを封じているようにも、守っているようにも見えた。
「あれはお宝か?!」
レフトールの一言を合図に、ソニアとユコが駆け出し、レフトールも後を追っていった。
一番にたどり着いたソニアは、赤く光るものを手に取って眺め、そしてうっとりとした表情で固まった。
ぱっと見たところ、赤いクリスタルのようなものでできた、手のひらよりも少し大きめの六角柱。その柱の中には、小さな何かが埋め込まれているように見えた。
それはただ赤く光っているというより、内側から眠っている火を抱えているような光だった。ランタンの灯りとはまるで違う、冷たくて深い赤だった。
ぼーっとしているソニアから、ユコは赤いクリスタルを奪って覗き込む。すぐにユコも、うっとりとした表情で固まった。
次にミーシャがユコから取り上げて眺めるが、見つめたまま動かなくなってしまった。
「なんだ? このクリスタルを見た者は、ぼんやりさんになってしまうのか?」
今度はレフトールが奪い取って見つめてみるが、同じように固まってしまった。
「これは、祀られていることに意味があるのかも。持ち帰るのは危険かもしれないね」
ユグドラシルの判断が正しいと考えたラムリーザは、レフトールからクリスタルを取り上げ、目を向けないようにして祭壇へ戻した。
クリスタルを見つめた四人は、そのままぼんやりとしている。目は開いているのに、こちらを見ているわけではない。赤い光の奥に、ここではないどこかを見ているようだった。
ラムリーザは「おいっ」と言いながら、ソニアの肩をゆすった。するとソニアはハッと我に返ったように、ラムリーザのほうを見つめた。
「何を見たんだ? どんな感じだった?」
「わかんない……。赤い光を見ていたら、何だか夢心地になってきて、その後はわかんなくなっちゃった。夢見がち……? 戦争の加速についていけない……?」
ラムリーザの問いに、ソニアはしどろもどろに答える。一部、要領を得ない。
「なんだか危ないね。赤魔石――いや、夢見るレッドクリスタルってところかな?」
「何か意味があって、祭壇に祀られているんだよ。盗掘避けの魔法でも込められているんじゃないかな」
ユグドラシルは、ミーシャの身体をゆすりながら仮説を述べた。魔法という説明はあまり現実的ではないが、四人の症状を見る限り、何かの力が働いているのは明確だ。
ソフィリータがユコをゆすって我に返らせ、ラムリーザはレフトールに脳天唐竹割りを食らわせた。
「何か石碑みたいなのないかな、この宝の意味や経緯が書かれていればいいけど。いつから置かれているのかとかね」
ラムリーザの問いに答えるべく、一同は島の周囲を探索し始めた。しかし島はそれほど大きくなく、数分もしないうちにすべて見終えてしまうのだった。
「何もなかったか」
「でも石柱に何か記号が掘られているみたい」
「どれどれ?」
ラムリーザは、ソニアが見つけた石柱の記号を見てみた。そこには、「somnium」と掘られていた。見たこともない記号なので、何と書いてあるかはわからない。
隣の石柱には、「crystallum」と掘られている。他にも「liber」、「rubrum」、「creatio」、「diva quaedam」、「lacus」、「rerum omnium」などと八本の石柱それぞれに掘られているが、意味はさっぱりわからなかった。
「これはまた解読かな」
ラムリーザは、一応掘られていた記号を手帳に書き記しておいた。新しい宝の手がかりになるのか、この赤いクリスタルの意味を示すものなのかはわからない。しかし、リゲルならなんとかしてくれるだろうと、そんなことを考えていた。
そして、魔力のこもった赤い石、赤魔石は、そのままにしておいた。正式名称はわからないので、ひとまず「夢見がちな赤水晶」としておくが、持ち出すのは危険だと考えたからだ。
洞窟探索はこれで終わり。これ以上進むなら、地底湖を渡って探索することになり、それはさすがに危険なので今回はここで引き上げることにした。
八本の石柱と赤いクリスタルは、何も語らないまま地底湖の小島に残された。ラムリーザたちにできたのは、その存在を覚えておくことだけであった。
宝ではない。罠とも言い切れない。けれど、あの赤いクリスタルは、洞窟の奥で何かを待っているように見えた。