ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


島の洞窟探検 前編 現実の洞窟は味気ない

帝国暦九十三年 炎心の月・騎士の日(現代暦:八月上旬)

「この島にはな、まだ手ぇつけとらん洞窟がようけ残っとるで」

 ラムリーザはこの日、ソニアを連れて島民の居住区をぶらついていたところ、島の副管理人メナードからこの情報を仕入れたのだった。

「調査とかしないのですか?」

「いやぁ、これまでも調べよう思っとったんやきんどな、どうもやぎろしーて後回しにしてしもうてのう。そこへ先日のフォースデビルズヘッドでよっけ金塊見つかったけん、それなら二匹目のドジョウ――っちゅう話になっての」

「この島は、宝の隠し場所になっているみたいだからね」

「今日の昼過ぎから調査隊を編成してな、洞窟探検をしてみることになったんやが、どうや? 坊ちゃんも一緒に行こか?」

「それは面白そうですね、コテージに戻って他にも行ってみたい人がいるかどうか聞いてきます」

 どうやら今日は、洞窟探検再びといった感じになりそうだ。しかし前回のような宝の地図などはないので、それほど宝の期待はできないだろう。

 

 ラムリーザとソニアがコテージそばの海岸に戻ったとき、砂浜に人だかりができていた。

 そこへ行って、メナードから聞いたことを伝えると、あまり迷うことなく、行ってみようという意見が上がった。海や砂浜に飽きているので、新しい刺激を求めて洞窟探検再びというわけだ。

「全員で行くのかな?」

「リゲルとロザリーンは釣りをすると言って、離れた場所にある防波堤へ行ってしまいましたの」

「ジャンとリリスは、二人で島の繁華街――と言えるのかな、町のほうに行ったよ」

 ユコとユグドラシルの説明で、今ここにいるのは、ラムリーザとソニアを除いた残りの六人だということがわかった。

「それじゃあ、ここにいるメンバーだけで行くか」

 こうして、先日のメンバーとは少し違う組み合わせで向かうことになったのである。

「八人パーティは賑やかだなー」

 ソニアはなんだか楽しそうだ。

「洞窟探検なら六人パーティが普通ですの」

 ユコの基準とする普通とは、いったい何のことだろうか?

「いや、パーティならやっぱり百八人だろう」

 突然十倍以上の数を示してくるレフトール。人海戦術で洞窟を攻略するつもりだろうか?

「今日は役立たずの魔女がいないからベストメンバー」

 ソニアのリリス下げをスルーして、ラムリーザは仲間を率いて島の居住区へ戻った。

 

 居住区の広場には、十人ぐらいの島民が集まっていた。メナードに聞くと、彼らは今回の洞窟探検に志願した……というより、暇だったメンバーだそうだ。

 その中には、ラムリーザの私的警護役レイジィの姿もあった。メナードが今日の探検についてラムリーザの母親ソフィアに話を通したところ、ラムリーザには前回同様レイジィの同行を義務付けられたのだ。

「こっちは二手に分かれるけん。先導隊が前を押さえて、補助隊が支える段取りな。安全を確認してから進むきん、心配せんとついてきてくれ」

 メナードの指揮で、洞窟探検隊は動き出した。先導隊を先頭に、補助隊がラムリーザたちを保護する形で進んでいく形になるようだ。

 洞窟の入り口は、島の居住区とラムリーザたちの泊まるコテージの中間あたりから、少し南へ入った林の中にあった。

 先導隊が早速入っていき、その後でラムリーザたちのグループが入っていった。

 用意されたランタン三つを、それぞれラムリーザ、ユグドラシル、マックスウェルの三人が持って、陣形を組んで洞窟へ入っていった。

 先頭にソフィリータとミーシャ、次にラムリーザとレフトールが続き、その後ろにソニアとユコ、さらにユグドラシルが続き、最後尾がマックスウェルとなった。

「俺が戦士で、ソフィリータは武闘家だろ? 先頭は俺じゃね?」

 レフトールは少し不満そうに言っている。

「先頭は罠があったら素早く身をかわす必要があるからスピード重視です」

 ソフィリータはゲーム的な理論で、レフトールの意見を跳ね返した。

「ソフィリータには盗賊の要素もあるのか。戦士っぽいけど、盗賊の性能も兼ね備えた――」

「山賊!」

 レフトールの言葉に被せるように、ソニアは後ろから突っ込んできた。

「レンジャーと呼んでください」

 ソフィリータは苦笑気味に答えてくるのだった。

 一応、先導隊が安全を確保しながらの行軍だが、ラムリーザたちは、まるで未踏の洞窟に入ったかのように探検を進めるのであった。

 壁には絵もなければ、人工的な飾りもない。ランタンの光に浮かぶのは、湿った岩肌と土の色ばかりだった。

 壁は岩と土が混ざったようになっていて、結構硬くて崩れる心配はなさそうだ。洞窟に入ると、まず通路は南へ伸びていた。

 しばらく進むと、南に続く道と、西へ伸びる通路に分かれていた。

 まずは西の通路を調査することになった。先頭組と最後尾のマックスウェルで隊列を前後から挟み、中央のユグドラシル、ミーシャ、ソニア、ユコの四人が西へ進んでいった。その間、残りの四人は通路の入り口で待機。

 すぐに西へ向かった四人が戻ってきた。

「行き止まりだったよ」

「それじゃあ南に向かうか」

 そこでラムリーザは、あることに気が付いて尋ねてみた。

「ユコは洞窟が怖くなかったのか? 先日は入るのを避けていたし」

「あの崩れた顔をした岩の下に行きたくなかっただけですの。ここはそんなに怖くありませんわ、ラムリーザ様がいてくださる限り」

「お、俺は~?」

 レフトールは少しがっかりしたように聞き返す。レフトールとユコはゲームセンター仲間で、ユコに変なのが寄ってこないようにレフトールが睨みを利かせているといった関係があった。

「ここはゲームセンターじゃありませんですの」

 だからユコにこう言われると、レフトールも黙るしかなかった。

 それからまた、しばらく南へと進んでいった。すると、またしても道は南と西へと分かれていた。

「どうしよっか、二手に分かれて探索する?」

「四人パーティか、そこまでなら大丈夫だな」

 そこでメンバーを二手に分けて、西へはラムリーザ、レフトール、ソニア、ユコの四人が進み、南へは残りのソフィリータ、ユグドラシル、ミーシャ、マックスウェルの四人が進んでいった。

 西への道は、少し歩くと南へと曲がり、ランタンに照らされた奥には何かキラキラしたものが光っていた。

「おっ、いきなり当たりか?!」

 レフトールは光に向かって早足で進む。

「あっ、金塊独り占めにさせるかっ」

 ソニアが後を追い、ユコもその後に続いた。

「足元に気をつけろよー」

 ラムリーザは最後尾となり、ソニアには難しい注文だと思いながらついていった。

 通路の奥は行き止まりになっていて、壁から染み出している湧き水が地面に小さな泉を作っていた。

「なんだ、キラキラしていたのは水かぁ」

 先に到着していたレフトールは、がっかりしたようにつぶやいた。

「まだ望みはあるっ、これは金の水かもしれないっ」

 ソニアは諦めていないようだ。泉に手を突っ込んで水をすくう。しかし、ラムリーザの持ってきたランタンに照らされたその水はただの水で、金色などしていなかった。

「そんなに黄金水が飲みたければ、俺のを飲むか? おっぱいちゃん」

「誰が番長のおしっこなんか飲むかっ!」

 ソニアは怒って、すくった水をレフトールに向けてバシャリと跳ね飛ばして騒ぐが、レフトールはニヤニヤと笑いながらやり返す。

「おっぱいちゃんは何か勘違いしているぞ? 黄金水は、金を水に溶かしたもので、万両水と呼ばれる薬だ――とユコが言っていたぞな、もし」

「番長はユコのおしっこ飲むの?」

「誰が飲むかっ! お前、俺の話聞いてないだろ?!」

「くだらないこと言ってないで、元の道に戻るぞ」

「ほんと、二人とも馬鹿ですの」

 ソニアとレフトールがつまらぬ諍いを始めたので、ラムリーザはユコを促してさっさと元へと戻っていった。

 四人が早足で先ほどの分岐点に戻り、今度は南へ向かって進んでいったところ、通路はすぐに東へ折れ曲がっていた。その先で南組と合流となる。

「あれ、戻ってきた」

「ここで何をしているんだ?」

「いえ、道が北と南に分かれているので、どちらに進もうか話し合っていたのです」

 ソフィリータとミーシャ、ユグドラシル、マックスウェルの四人を、どう二手に分けるかで迷っていたようだ。

「それじゃあ僕たちは待っているから、君たちで北の通路から確認してきてくれ。分岐点があれば、そこに二人が待機し、残りの二人で僕たちを呼びに来るんだ。いいね、単独行動だけは避けること」

 ラムリーザの指示で、四人は北の通路へと向かっていった。

 待っている間、レフトールは待機組の四人とは別に控えているもう一人の男に、おそるおそる声をかけてみた。

「あんのぉ~、俺、レフトールです。あのときはその~、ごめんちゃい」

 お調子者のレフトールは、ラムリーザの兄ラムリアースのときと同じように、過去のことを詫びてみた。しかしもう一人の男は、レフトールのほうには目もくれずに、じっとラムリーザの周囲を監視しているのだ。

「こら番長、レイジィの仕事の邪魔をするな」

 その様子を見ていたソニアは、文句を言ってくる。

「いやぁ、ラムさんのお兄さんは許してくれたから、一応この人にもな」

 そこでラムリーザは、レフトールを手招きしてレイジィのそばから引き離し、小声で言い聞かせた。

「彼は過去にこだわったり、未来を考えたりしていないよ。今この瞬間、僕の身を護ることしか考えていないよ。それが仕事だからね。だから過去に何をしたかじゃなくて、今僕に危害を加えない限り、彼は何もしてこないよ」

「プ、プロやなぁ……」

 またしてもレフトールは、自称ラムリーザの騎士と、プロの護衛との違いをまざまざと見せつけられたのであった。

 そこに北へ向かった四人が戻ってきた。

「狭い空間があるだけでした」

「ほんまか? おいマック、宝箱があったのをちょろまかしてないよな?」

「何もないんだな。聖水とか、二百八十八エルドが置かれていたとでも思っているのか?」

「なんか具体的なのが気になるが、それならいいか」

 再び八人パーティとなり、南へと進んでいった。そこから先は、少し坂になっていてさらに地底へ下りていく感じになっている。
              
ラムリーザたちが探索している、地底湖や分岐通路を備えた島の洞窟の全体図
 下りた先は広間になっていて、北側が小さな地底湖になっていた。地底湖の周囲には、人工的に手が加えられたような痕跡が残されていた。

 地底湖の水面はほとんど揺れず、ランタンの光だけをぼんやりと映していた。外の海とは違い、ここには波の音も風の音もない。

 その地底湖の中心には島のようなものがあり、広間の壁沿いから中央へ向かって、螺旋状に道がつながっているようだ。

 ここには他に、西へと通じている横穴があるだけだった。

「よし、今回は僕とソニアとソフィリータとユグドラシル先輩とで湖に浮かぶ島を見に行ってみる。残りのメンバーは西への横穴を探索してくれ。また分かれ道があったら、そこで待機。湖の調査が終わったら後を追うので、合流してから次を考える」

 ラムリーザの指示で、再び二手に分かれて探索が始まった。

 湖岸沿いに進むと、自然と広間の壁沿いを進む形になった。広間に入ったところから、反時計回りにぐるりと湖を回っていく。そしてちょうど一周したところで、中央の島へとたどり着いた。

 島の周囲には五本の石柱が立っていて、何かが祀られていた跡のようにも見える。そして島のちょうど中央には、そこだけ地面が土ではなく石畳のようになっていた。

「ここに何か置いてあったのかなぁ?」

「祭壇のようにも見えるね」

 ユグドラシルは、石柱を撫でながら調べている。

「あたし、上に乗ってみる」

 そのとき唐突に、ソニアは石畳の上に飛び乗った。

 光に包まれたソニアは、どこかへワープ――などとSFチックなことは起きずに、その場に沈黙だけが訪れた。

「えっと、ソニア姉様大丈夫ですか?」

 おそるおそるソフィリータが声をかけた。

「HPとMPが回復したような気がする!」

 何も起きなかったことを悟られたくないのか、ソニアは多少必死気味に報告する。

「そんなわけないだろ、ゲームじゃないのだからな。変なことを言ってないで先に進むぞ」

「今だったら運が悪いよ、MPが回復したからね。特技ダクメンテとか使えるよ」

「特技はダクメンテ? ダクメンテとは何かな?」

 相手にしなくてもいいのに、ユグドラシルはソニアの話に乗ってしまった。そもそもMPがあればなぜ運が悪いのかわからない。

「魔法だよ」

「え? 魔法」

「うん、多数の敵に大ダメージを与えるよ」

「人に危害を与えるのは犯罪。それ以前に村人のソニアは最大MPが0だから、回復しても0。残念だったな」

 ラムリーザは、ソニアの作り話をさっさと終わらせてしまった。だいたいダクメンテとは何か。聞いたこともない単語だ。

 とりあえず、この地底湖には何もないようだ。

 ラムリーザたちは、西側に通じている横穴へ入っていき、先行した四人の後を追った。

 洞窟の壁は、土が減って岩が多くなっているようだった。地底湖の影響か、周囲は少し湿っていて、ひんやりと涼しい。

 西への通路はすぐに北へと折れ曲がり、北へ進んだ先は、ちょっとした広間になっていた。そしてその広間で、先行組の四人が待機していた。

 その広間からは、北と西へ横穴が延びているようだ。

「僕たちがそのまま北へ向かうから、レフトールたちは西へ進んでみてくれ。分岐点があったらそこで待機ね」

 再び二手に分かれて探索を進める。

 用意されたランタンが三つなので、最大でも三つのグループにしか分かれられない。このためレフトール組は、分岐点で待機という流れになるのだ。

 北へ進んだラムリーザたちは、すぐに左右に分かれる分岐点にぶつかった。ランタンを持つラムリーザとユグドラシルが、それぞれ二手に分かれて調査する。

 右側、東へ向かったラムリーザとソニアは、すぐに行き止まりへとぶつかる。多少部屋のように膨らんで見えるが、狭くて特に何もない。

「力の種とか置いていてくれたらいいのに」

「ここは自然にできた洞窟みたいだからね。ゲームとかだったらこういった行き止まりに宝箱とか置いてあったりするけど、現実はこういう味気ないものなんだ」

「でも小島の洞窟には金塊があった」

「ここにもあるといいね」

 少し残念そうなソニアを引っ張って、ラムリーザは元の分岐点へ戻った。そこにはすでに、ユグドラシルとソフィリータも戻ってきていた。

「そっちも行き止まり?」

「うん、何もなかったよ」

 やはり現実の洞窟は、味気ないものなのである。

 四人は来た道を引き返し、先ほどのちょっとした広間へ戻る。そのままレフトールたちが向かった西側へと進んでいった。

 西への通路はすぐに南へと曲がり、そこからはゆるい斜面になっていて、さらに地下へ下りていく感じだった。

「ダンジョンだとしたら、ここから先は地下三階ということになるね」

 先頭を歩くユグドラシルは、そう言った。

「この洞窟の名前はあるのでしょうか?」

 ソフィリータが尋ねてきた。

「前に行った金塊のあったところは黄金の洞窟。そしてここは、愚か者の洞窟!」

 きっぱりと言い切るソニアだが、金塊と黄金は結びつくが、なぜここが愚か者なのかわからない。

「なんでそんな名前なんだ?」

 ユグドラシルの問いに、ソニアは「何もないようなところに入り込む愚か者が集まる洞窟だから」と言い切った。自分もその愚か者の一人に入ることは、考えていないようだ。

「でも何もないと飽きてきますね」

 ソフィリータは退屈そうだ。彼女としては、モンスターとのバトルでも期待しているのだろうか。

「奥まで進むと、きっと何かがあるはずさ」

 ラムリーザはメンバーを励ましながら、最後尾を進むのであった。

 道が平坦になってくると、また西へ通路が伸びていた。周囲はほとんど岩壁だ。

 その先に、こちらの道を先行していたレフトールたちが待機していた。

 ここまで来ても、宝箱も金塊も魔物も出てこない。ただ、洞窟だけが淡々と奥へ続いていた。

 耳を澄ませても、外のエメラルドグリーンの海のざわめきはもう完全に遮断され、聞こえるのは自分たちの押し殺した呼吸音と、岩肌を伝って滴り落ちる冷たい水の音だけだった。