ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
今日の世迷いごと その二
帝国暦九十三年 炎心の月・太陽の日(現代暦:八月上旬)
この日は、昨日の洞窟探検から戻ってきた翌日である。
壷いっぱいの金塊をめぐって、ラムリーザたちの宿泊するコテージでは、ちょっとした騒動が発生していた。
コテージ内は騒動組と静観組に分かれていた。騒いでいるのは、ソニアとリリス、ユコにミーシャといった女性陣だったが、金塊を巡ってやれ誰それがいっぱい取っただの、誰それが隠し持っているだのと、騒ぎが収まらない。
昨日は臼ほどの大きさの壷の口近くまで詰まっていた金塊が、今は底のほうに寂しく残っているだけだった。誰かが少しずつ持ち出した結果であることは、考えるまでもなかった。
その四人以外は、記念にと各々気に入った金塊を一つだけ持ち出していたので、大半をこの四人がどこかへ持ち去ってしまったことは明らかだ。
金塊は握りこぶし大に固められているもので、いわゆるインゴットというものとは違っている。おそらく大昔の海賊が、盗んだものを無造作に固めて置いていただけなのだろう。
「あっ! ミーシャの部屋から金塊が出てきた!」
コテージの広間の外から、ソニアの叫び声がする。ミーシャは慌てて広間から飛び出していった。
「やーん、ミーシャの金塊取らないでーっ、せっかく一つずつ運んだのにーっ」
だがソニアはまとわりつくミーシャを振り払って、持てるだけの金塊を抱えて部屋から出ていった。持てるだけと言っても、せいぜい四つだけであったが。
しかし今度はソニアが文句を言う番であった。
「あっ、ユッコ! 何してんのよ!」
ソニアの部屋――ラムリーザと同室――に忍び込んでいたユコは、ベッドの下にあった金塊を見つけ出して、二つほど手に持っていた。
「あっ、戻ってきたのね? 撤収しますの!」
「あたしの金塊返せ!」
ソニアは持ってきた金塊をベッドの上に投げ出すと、そのまま外へ逃げていったユコを追いかける。部屋の外で、二人は金塊をつかんだまま引っ張り合っている。
そこでコテージの広間から出てきたリリスと鉢合わせた。リリスは広間に置いてある壷から、新たに金塊を持ち出したようだ。
そこにミーシャがやってきて、リリスの抱えた金塊から一つ奪うと、素早くリリスの後ろへと回り込んだ。そしてすかさず、その金塊をリリスのパンツの中に忍び込ませた。金塊の重さでパンツはストーン!
びっくりしたリリスは、持っていた金塊を放り出して、慌てて服を整える。ミーシャは落ちた金塊を二つ奪って自分の部屋へ逃げ込んだ。
ユコともみ合っているソニアは、床に転がった金塊に足を取られて尻餅をつく。運の悪いことに、尻をついた場所にちょうど金塊が落ちていて、思いっきり下敷きにしてしまったソニアは、尻を抱えて悶絶する。
その隙にユコは金塊を持って逃げようとするが、同じく転がっていた金塊に躓いて転倒。持っていた金塊はごろごろと転がって廊下の端まで行ってしまった。
「いい加減にしろっ!」
コテージの廊下に出てきたラムリーザは、朝から大騒ぎをしている四人に怒鳴りつける。その隣ではリゲルが冷めたような目つきで、「みみっちい庶民が」などと嫌味をつぶやきながら、床に転がっている面々を見下ろしていた。
そこに部屋からミーシャが出てきて、廊下に転がっている金塊を拾おうとして――
「こらっ!」
今度はリゲルが怒る。どうやらリゲルはミーシャのことが好きだが、甘やかさないタイプであるようだ。
ラムリーザはこの騒動を静めるために、混乱のもとは、やはりそばに置いておかないことにした。
ロザリーンとソフィリータに頼んで、廊下の端にソニアたち四人を並ばせて動かないように監視させる。
その間にラムリーザとリゲルは、ソニアたちが持ち出した金塊をすべて回収して壷に戻した。
壷に戻している最中、レフトールが壷から金塊を持ち出そうとしているのを見かけたので、彼もソニアたちの列に加えて監視させ、彼の部屋も捜索することになったのである。
三十分ほどかけて、壷の中の金塊は元に戻った。
そこでラムリーザは、ソニアたちに改めて金塊を一つずつ与えてから、島民を数人呼び出した。そして金塊の入った壷は、島民たちによって島の倉庫へ運ばれていった。
こうして金塊騒動は、ようやく静まったのである。
昼食時、金塊の壷が消え去ったコテージは、平穏を取り戻していた。
「あーあ、あんなにいっぱい金塊があったのに、リリスが欲張りだから一つずつ残して全部没収された」
しかしソニアは、まだぶつぶつ文句を言っていた。
「あなたのほうがたくさん持ち出していたでしょ? 金塊は地底人のエネルギー源なのだから、無駄にしたらダメなのよ」
それに対してリリスは、不思議な設定を持ち出してくる。エネルギー源?
「えっ、これが?」
ソニアは驚いて、持っていた金塊を口に運んでみた。
「あっ、ふえぇちゃん金塊食べた」
ミーシャはそう言うが、食べられるようなものではない。ソニアはすぐに金塊を口から離す。
「全然味しないじゃないのよ!」
「チョコレートのような味がするとでも思ったのかしら?」
リリスはくすっと笑って、昼食の一品であるウミガメのスープを、ひとさじ口へ運んだ。
「ミーシャ、金塊は重たいから宝石のほうがいいなぁ」
「それじゃあ、その金塊あたしに頂戴」
「やーん」
金塊騒動は、まだ少しだけくすぶり続けているようであった。
そんなわけで、自分の取り分ではない金塊を盗む者が出てきたら、その場できつくお仕置きするというルールがラムリーザによって制定され、リゲルもそれに賛同するのであった。
さらにソニアからの提案で「パンツの中にものを入れたらそれも同じぐらい罰してほしい」というものが挙げられた。ラムリーザはなんでそんな馬鹿馬鹿しいことまで決めなければならないのだと思ったりもしたが、馬鹿馬鹿しいからこそ防がなければならないと考えてそれも制定した。
騒ぎを起こさなければ、壷いっぱいの金塊をもう少し眺めていられたかもしれないのに、欲張るから一つずつになってしまった。本当に馬鹿だね。
昼食後、みんなはそれぞれ自由に過ごし始め、昨日とは違い少し退屈な日常が戻ってきた。
宝を見つけた翌日でも、昼食を食べ終えれば、結局やることはいつもの遊び探しである。
ミーシャとソフィリータは、太い木の枝二本を立てかけたその間に、地面と水平になるように横棒を設置した。そして腰ぐらいの高さに調整された棒の下を、上体を仰け反らせて倒れないようにしながらくぐり始めた。棒くぐりゲームだ。
ミーシャはダンスが得意なだけあって、柔軟な身体とバランス感覚を使って難なく棒の下を潜っている。それに対してソフィリータは、筋肉質でちょっと身体が硬くて苦手そうだ。
「あら、懐かしいことやってるじゃないの」
リリスは、そんな二人を見て笑みを浮かべながら、ソニアに対して話を続けた。
「また勝負しないかしら?」
「絶対やだ!」
ソニアは胸が大きすぎるので、上体反らしでの棒潜りゲームは不利すぎる。去年のキャンプで、十分すぎるほど学習済みであった。それでなくとも去年よりもさらに膨らんだLカップ、見ものではあるが、ソニアは絶対にやってくれないだろう。
「でも、また一曲楽譜が完成しましたの。また誰がリードボーカルを務めるか、決めてもらわなくちゃ」
「それでは先日お流れになったビーチフラッグスはどうですか?」
ロザリーンの提案で、ソニアとリリスのビーチフラッグス一騎打ちが決まった。
「砂浜を走って旗を取るだけ、これだとソニアのおっぱいがそれほどハンデにならないわね」
リリスは少し難色を示す。リリスとしては、圧倒的にソニアが不利な競技で勝負がしたかった。
「いちいちおっぱい言うな! そんなんなら、胸の大きさで勝負。大きいほうがリードボーカル決定」
「世の中には貧乳が好きな人も多いわ」
そう言うリリスも十分に大きいので、説得力がない。ただソニアが大きすぎるだけで、相対的に考えればリリスが普通に見えてしまうだけである。
「うるさい! 貧しい胸がいいなんて、そんな歪んだ発想は、人として何か大事な感覚を置き忘れて生まれてきた人たちが持っている病的な発想なんだ!」
リリスの言葉に、ソニアは無茶苦茶な理論を展開する。これにはユコは黙っていられない。
「バストは授乳するためにあるんですの! 寄せたり上げたり、ましてや谷間を作れることに何の意味もないんですの!」
「じゃあユッコ、授乳してみてよ!」
ソニアはすぐに揚げ足取りをしてくるが、ユコも負けてはいない。
「ラムリーザ様との間に子供ができたら、立派に授乳してみせますの!」
「寝取るなこのイスラデラスムニェカス!」
「なんですのそれは!」
「ほら、旗を持ってきましたよ。つまらない諍いをしていないで、勝負したらどうですか?」
ソニアが騒いでいる間に、ロザリーンはコテージにあった旗を持ってきた。
「えーと、旗とは反対向きにうつぶせになった状態からスタートですの」
「ソニア用のスタート地点、作ってあげたわよ」
リリスのほうを見ると、彼女はスタート地点にするべく、少し離れた場所に二つの大きな穴を掘っていた。
「何落とし穴掘ってんのよ」
「ここにうつぶせになってごらんなさい」
リリスに体を押さえられて、ソニアはそこに無理矢理うつぶせにされた。リリスの掘った穴にソニアの胸はぴったりと収まる。
「なっ、これはっ!」
「ほら、スタートの合図お願い」
ソニアは穴の意図に気づいてリリスを責めようとしたが、そのままビーチフラッグスの勝負は始まってしまった。
旗の前で待つユコ、そしてスタート地点にはロザリーンがやってきて、「位置について――」と言う。
スタートの合図で、ソニアとリリスは同時に立ち上がって走り出した。ただしスタート前に向いていた方向のまま。
「逆ですの!」
ユコの叫び声で気づいた二人は、慌てて走る方向を変える。
しかし振り返ったときに、二人の足が交錯して二人とも転倒してしまった。
ソニアは急いで起き上がって駆け出そうとするが、リリスは素早くソニアの足をつかんで再び転倒させる。そして今度はリリスが起き上がろうとするが、ソニアは無理矢理しがみついたまま離さない。
「ちょっと離しなさいよ!」
「逃がすもんか!」
二人は砂浜に転がってもがいている。それでも少しずつ少しずつ、旗へと近づいていた。
「なんだか全然競技の意図と違うものになりましたね」
その様子を見て、ロザリーンは呆れたようにつぶやいた。
もともと走力や反射神経を鍛えるためのスポーツだったはずだが、二人がやっているのは何だろう? キャットファイト? そもそも腕を使って相手を妨害することは、ルール違反になっていたはずだ。
砂浜の一角で行われている謎の勝負にミーシャたちも気がつき、棒潜りゲームを中断してやってきた。
二人の謎の勝負は、通常なら十数秒で終わるはずのゲームに、じっくり一分近くかけ、ようやく二人同時に旗を取った!
――と思ったら、竿の部分が真っ二つに折れてしまった。
「くっ、まさか旗が折れるとは……」
リリスは、半分に折れた旗の竿を持って、荒い息をついている。
「旗そのものはあたしが持ってるから、あたしの勝ち!」
ソニアも肩で息をしながら勝利宣言をする。
「何を言うのよ、私が先に竿をつかんだのに、あなたが後からつかんで折ったんじゃないのよ」
「うるさいなぁ! ユッコ、これはあたしの勝ちよね?!」
ソニアは旗のそばで審判をしていたユコに尋ねる。しかしユコは首を横に振って答えた。
「何を言っているんですの? さっきのどこがビーチフラッグスですか。こんなの無効試合ですの! リードボーカル争いは、次の勝負に持ち越しです!」
ユコの宣言に驚き、文句を言ったのはミーシャだ。ソニアとリリスは疲れ果てていて、反論する気力は残っていないようだ。
「ちょっとー、ミーシャも歌うのに仲間外れにしてたー!」
「では三人でできる勝負を考えましょう」
ロザリーンは次の勝負を考えるが、ソニアとリリスは疲れ果てているので小休止。もっともミーシャ相手に格闘技で勝負するなら、ちょうど良いハンデになるかもしれない。
「しりとりで勝負しようよ!」
そこで提案したのはミーシャだった。また勝ち目のない戦いを挑まれるよりは、十分に勝算のある競技を自分で提案したほうが望みがあるというものだ。
「じゃあミーシャから、リンカンコンチネンタル!」
これは車の名前だ。田舎のポッターズ・ブラフ地方では見かけないが、帝都では何台か見かけるかなりの大型の高級車として有名だ。
「ル、ルンカンコンチネンタル!」
「何よそれ!」
二番手のソニアは力強く続いたが、正式名称の最初の一文字をルに変えただけの、意味を成さない言葉だった。
「うるさいなぁ! これは新車なのよ、新鋭ルンカン社から出た車なの。リリスは時代遅れだから知らないの!」
「そんなのでいいのかしら? それならルンカンコンチネンタ――」
そこまで言ってから、リリスは言葉を止めた。このままだとソニアと同じことを言ってしまい負けとなる。そこでリリスが取った手は?
「――ア!」
「何よそれ!」
今度はソニアが問い詰める番だ。しかしリリスは涼しい顔で答えた。
「あなたの言ったルンカン社から出た、コンチネンタアという車よ、知らないのかしら? くすっ」
「アンカンコンチネンタル」
流れを読み取ったミーシャが、何の迷いもなく言ってのける。どうせ問い詰めても、アンカン社の車と言い張るのだろう。
「ルンカンコンチネンタイ」
「インカンコンチネンタル」
「ルンカンコンチネンタウ」
「何をやっているんですの!」
意味のない言葉の連発に、ユコが割り込んできて止めさせる。こんなしりとりは初めて見た。一応しりとりの体裁は整っているが、意味はまったくない。
「じゃあやり直すよ、卵焼き!」
ミーシャが仕切り直して、別の言葉でスタートした。
「き……ハンバーグ!」
「何よそれ!」
二番手ソニアの奇行に、リリスはツッコミを入れてくる。
「うるさいなぁ! もうめんどくさいからこれでいいの! はい次リリス、ぐよ!」
「ふーん、そんなのでいいのね。それじゃあ――サイコロステーキ」
「コーンスープ」
流れを読み取ったミーシャが、何の迷いもなく同じ理屈で押し通すつもりだ。
「ベッド」
「風呂」
「ほちょん鳥」
「へんこぶた」
「さっきから何をやっているんですの!」
再びユコが割り込んできて、勝負を中断させてしまった。いや、勝負になっていない。今度は完全に、しりとりの体裁すら整っていない。適当に単語を述べているだけだ。
「しりとりはもうやめなさい。そうねぇ、あの岩場にいるフナムシを、誰が一番たくさん捕まえるとかどうですか?」
誰も真面目に勝負をしようとしないので、ロザリーンは別の勝負を提案した。
「ミーシャやだ。フナムシ、おいしくないもん」
「食べたことあるんですかっ?!」
「もういいわ、ボーリングで勝負しましょう」
「あれはもう嫌!」
ソニアはボーリング――穴掘りが嫌なのではなく、再び鉄球が現れるのが嫌なのだ。
「もういいわ、勝負はまた今度」
そう言うと、リリスは砂浜に横たわって目を閉じた。ソニアとのビーチフラッグス――いや、キャットファイトに疲れ果てていたようだ。ソニアもそんなリリスの様子を見て横たわった。
ミーシャもソフィリータと一緒に棒くぐりゲームへ戻っていき、こうして砂浜に静寂が訪れたのだった。
金塊を見つけても、宝の地図を読み解いても、結局この面々はいつものように騒いで、いつものように疲れて、いつものように砂浜に戻ってくる。
大冒険の翌日だというのに、やっていることは昨日までと何も変わらない。それでもラムリーザには、その変わらなさが少しだけありがたかった。
今日の世迷いごとは、ここらでおしまい。