ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


リアル金塊探しゲーム

帝国暦九十三年 炎心の月・森人の日(現代暦:八月上旬)

 小さなほうの洞穴を右へ右へと進んでいった結果、一同は大きな広間に出た。

 広間は、思っていたよりも広かった。ゴツゴツとした岩が足元に広がっているし、ライトの明かりが、かろうじて奥の壁に届く程度である。奥行きは十メートルほどであろうか。天井も急に高くなり、手を伸ばしても天井に届かない。

 これがもしもゲームなら、ラスボスが待ち構えているような展開になっていただろう。

 前衛の戦士たちは、ジャンが長剣、レフトールが斧、ソニアが細剣、リリスがフレイル。中衛のリゲルは短刀、ユグドラシルは槍、ソフィリータはメリケンサック、後衛のラムリーザはソーサラースタッフを――構えていない。ここはゲームの世界ではない、現実だ。そんな雰囲気は、テーブルトークゲームで遊ぶときだけにしておこう。

「宝はどこやー」

 レフトールが叫ぶと、空間内に残響が響き渡った。「宝はどこやー、こやー、こやー、こやー」こんな具合であろうか。

「リゲル、この先は?」

「石板の情報だと、記されているのはここまでだな。五枚目の石板以降に続きがあれば話は変わってくるが、右へずっと進み続けてきたからここで合っているはず」

 地図が描いてあった石板には、他の石板のありかは四か所のみ記されていたので、これ以上の情報はないと考えてもいいだろう。

「ではこの広間を調べるか。ユグドラシルさん、ライトを一本持ってこの入り口で待機していてください」

「承知した」

 ラムリーザは、ユグドラシルにロープの先端を渡して待機させる。これで、ユグドラシルの姿を確認できる位置にいれば、入り口がわからなくなることはない。

「念のために、ソフィリータはユグドラシルの警護として待機。他のメンバーはライトの光を見失わないように、各自自由に散開。もし横穴などが見つかっても、むやみに入らず、全員で集まってロープを手繰り寄せてから進むこと」

 ラムリーザは簡単に指示を出して、広間をライトで照らしながら見回した。

「金塊があるはず、金塊があるはず!」

 ソニアはそう言いながら広間へ突進し、リリスとジャンもそれに続く。しかし適当に周囲をうろうろしても、それっぽいものは何も出てこなかった。

「痛いっ!」

 そのとき、ソニアの悲鳴が上がる。ラムリーザは何事かと思って、ソニアのそばへ向かい、ライトでソニアを照らした。ソニアの脛に擦り傷ができていて、少し血がにじんでいる。

「そんな短いスカートを履いているから」

 リリスは呆れたように言った。確かにソニアはいつもの際どい丈のミニスカートで、洞窟探検にしては軽装すぎる。それに胸元が視界を邪魔をして、足元のでこぼこした岩が見えにくいから危険すぎる。

「ソニア、チェンジ。ソフィリータと交代」

 ラムリーザは仕方なく、ユグドラシルと一緒に待機させるメンバーを変更した。

「えー、やだー」

 ソニアは嫌がったが、ラムリーザはソニアを待機場所へ押し込み、ソフィリータと待機役を入れ替える。ソフィリータも短い丈のホットパンツだが、足の大半が白い厚手のサイハイソックスで覆われているので、ソニアと違って露出は少ない。それにソフィリータは身軽で、足腰の強さには定評がある。

 もともとはユグドラシルとソフィリータの組み合わせを優先して待機させたのだが、ここはソフィリータに出てきてもらうべき場面だろう。

 そのとき、リリスは小さく「あっ」と声を漏らして、その場に倒れこんだ。ジャンが急いで駆け寄って、リリスの手を取って立ち上がらせる。

「どうした? 大丈夫か?」

「まったく、歩きにくいわね」

 リリスはガツガツと地面を蹴っている。その足元をライトで照らしたジャンは、思わずツッコミを入れる。

「ちょっ、こんな洞窟の中にヒールのあるブーツで来るとは……」

 どうやら、でこぼこの岩場にブーツのかかとを取られたようだ。

「足元をよく見れば大丈夫よ。私はちゃんと足元見えているから」

 リリスの言葉は、ソニアに対する当て付けだ。しかしソニアはユグドラシルの元へ向かって待機組になっているので、リリスの言葉は届かず、口論に発展することはなかった。

「駄目だ。リリスも待機組に変更、ユグドラシルさんと交代」

「ソニアとは嫌よ、私は待機しないわ。ラムリーザと待機する」

「何よ! 誰があんたなんかと!」

 リリスはラムリーザに手を取られて入り口付近まで引っ張られてきていたので、今度の台詞はソニアに届いてしまったようだ。

「うるさいガタガタ言うなー。僕も待機する、探索組はユグドラシルさんとリゲルとジャンに指揮を任せるよ」

 ラムリーザはてきぱきと指揮権を移して、ソニアとリリスの間に割り込んで口論の邪魔をするのであった。

「まったく、君たちは探検を何だと思っているんだ?」

「テーブルトークゲームと同じよ」

 リリスは何の悪びれもなく言ってのける。

「それならもっと探検に向いた衣装ってのもあるだろう?」

「ソニアなんか、テーブルトークの世界ではビキニアーマーなのよ」

「なっ、ちゃっ、違うわよ! リリスは腰みの一つで上半身丸出しのバーカーサー女」

「それを言うなら狂戦士、バーサーカーな」

 そこで三人の間で、冒険者として相応しい衣装について論議が始まる。

「そもそもミニスカアーマーが許されるのはゲームの中だけ。ソニアがそんな格好で立ちはだかってきたら、僕は迷わず、ガードの甘い足元に攻撃を集中するね。ガードの甘いところを攻める、それが攻撃のセオリー」

「ダメよそんなの。ラムリーザはふとももに見とれて、そこへの攻撃をためらわなくちゃいけないの。その隙にこっちは攻撃するのよ」

「そもそも何でゲームの世界だと、女キャラは防御を捨てて、色気に走りがちなのだろうね」

「あたし重装備なんてできないもん。力がないから、ガチガチの鎧着たら動けなくなっちゃう」

「だから防御を捨てて、スピードに全振りするのよ」

「つまり、装備の傾向がおかしいわけでなく、重装備できないほど力のない娘が、戦場に出てきているのが間違いなんだね」

「そういうこと、あれは仕方なくそういう格好をしているのよ」

 ラムリーザは、ソニアとリリスの理論を聞いて、ゲームなどに登場する女性がなぜ肌をあらわにしがちなのかを理解したつもりでいた。だから、こう締めくくる。

「君たちのような可愛い娘が戦わなくともよい、そんな世界を築きたいものだな……」
              
洞穴の広間で、リゲルたち探索組が手をつなぎ、ライトを頼りに奥を調べている場面
 一方洞窟探索組は、リゲルの指示のもとで地道な探索が進められていた。

 リゲルは、探索組全員で横一列になってお互いに手をつなぐ。その状態で、右端の人は壁に手をつけたままでまっすぐ奥へ進んでいく。奥に到達すると、今度は壁とは反対側の人を軸にして列をスライドし、その状態で引き返す。入り口側に戻ってくると、再び最初の壁とは反対側の人を軸にして、列をスライドさせ奥へ向かう。

 こうすることによって、各自がバラバラになって無駄に動き回るより、確実にすべての場所を探索できるという効果があった。

 その結果、広間となっている場所のほぼ中央に、少し急な坂になっていて、さらに地下へ降りていける穴を見つけ出すことに成功した。

 リゲルはラムリーザを呼び、洞穴の入り口から引いてきたロープの先を広間中央の穴へと移動させる。

 穴の奥を照らすと、かすかな明かりが反射した。輝くものが奥にあるということだろう。

「ひょっとして金塊?」

「そうかもしれないね。レンガに埋まったりしたら危ないから、ソニアはここで待機」

「あたし埋まらないもん!」

 ラムリーザは、金塊探しゲームでソニアがよくやるミスを例に出してからかったが、ソニアはラムリーザからライトを奪うとさっさと奥へ入っていってしまった。

「あっ、お宝の独り占めは許さないわ」

 続いてリリスも後を追いかけていく。

 ラムリーザは、ロープを持ったまま後からついていった。穴の奥は、それほど広くない奥行き三メートルほどの小部屋だった。そして部屋の奥には壷が並んでいて、壷の手前にはキラキラと輝く握りこぶし大の塊が数個落ちていた。穴の入り口から照らしたときに光を反射したのは、この塊だったようだ。

「うわあっ、やっぱりこれ金塊だよ。リアル金塊集めゲームだっ」

 ソニアは、キラキラした塊をライトで照らしながらはしゃいでいる。
              
洞穴の小部屋で、ソニアたちが壷いっぱいの金塊を見つけ、リアル金塊探しゲームだとはしゃいでいる場面
 ライトの光を受けた金塊は、洞穴の湿った暗がりの中で不自然なほど鮮やかに輝いていた。土と岩ばかりの場所に、そこだけ別の世界の色が落ちているようだった。

 あまりのまばゆさに、ソニアもリリスも、後ろから続いたラムリーザさえも、一瞬だけ言葉を失ってその場に立ち尽くした。

「ソニアにはそれをあげる。私はこれをもらうわ」

 リリスは並んでいた壷の一つを持ち上げようとした。しかし臼ほどの大きさの壷は、残念ながら持ち上がらなかった。

 ライトで壷を照らしてみると、中にはソニアの拾った握りこぶし大の金塊がぎっしりと詰まっている。これでは重くて、持ち上がるはずもない。

「それじゃあこれは俺が頂きっ」

 今度はレフトールが持ち上げようとしたが、少し動かせただけで持ち運ぶことは難しいようだ。

 一方、壷を運ぶのを諦めたリリスは、金塊を服のポケットに詰め込み始めた。それでもまだたくさんあるので、今度は服の内側へ入れ始めた。

 それを見たソニアは、「リリスずるい」などと言いながら、自分も服の中に金塊を詰め込むのだった。

「これってやはり海賊の宝を隠した場所かな」

 ソニアとリリスがはしゃぐ中、ラムリーザは冷静にリゲルとこの場所について考察していた。

「壷は全部で五つ、かなりの量の金塊だな」

「ん? ここに石板のようなものがある」

 ラムリーザは、机のようになっている岩の上に、石板が置いてあるのに気がついた。石板を手に取りライトで照らしてみると、地図のようなものが描かれていて、三箇所のバツ印が付いていた。

「島の地図じゃないな――海図か?」

 リゲルはその地図を見て、そう解釈した。

「島周辺の地図かな、他にも宝があるということかな」

「その可能性はある。また謎の呪文が書かれた石板があったらうんざりするけどな」

「今回はここだけでいいや。残りは後日の楽しみに取っておこう」

 

 さて、金塊だ。見つけたものは、可能な限り持ち帰りたい。

 壷の数は五つ、金塊の詰まった壷は、力のある男性三人でようやく安定して持ち上げられるぐらいの重さだ。見た目はただの壷でも、中身がすべて金となると話は別だった。少し動かすだけで、腕ではなく腰に重さが来る。

「今回は、とりあえず一つ持ち帰ろう。残りは島民に任せて、あとで運んでもらえばいいや」

 ラムリーザの指示のもと、リゲルとジャンとレフトール、そしてユグドラシルの四人で持ち上げた。これならわりと楽に運べるようだ。

 ラムリーザは、ロープの端を岩の間に通して結びつけ結びつけ、入り口からここまでの道筋がわかりやすくなるようにしておいた。これでロープを辿れば、洞穴の入り口から奥にある金塊の小部屋まで迷わずに行くことができる。

「さ、宝は見つけたし帰るぞ」

「はいっ」

 ちゃっかりと両手に一つずつ金塊を持っていたソフィリータが立ち上がる。

 続いて金塊を服の中に詰め込んでいたソニアが立ち上がろうとして――

「ふえぇっ、立ち上がれないよ!」

「何をやっているんだよ!」

 ソニアは、服の中に詰め込んだ金塊が重すぎて、立ち上がれなくなっていた。その様子を見て、リリスも自分が立ち上がれないことに気づいたのか、服の中から金塊を取り出して壷に戻している。

「ラム、抱っこしてよ」

「馬鹿なことを言ってるんじゃない」

「ちょっ、やだっ、服の中に手を突っ込まないでっ!」

 ラムリーザはもがくソニアの言葉を無視して抱きかかえ、動けないようにしてから、次々に服の中から金塊を取り出して壷の中に戻していった。

「全部持ち帰ってからみんなで分けるから、そんな意地汚い真似はしないの」

「リリスだって服の中にいっぱい入れてる!」

 そのときリリスは、すでに動ける程度まで金塊を壷に戻し、それでもお腹の周りをぼこぼこに膨らませて立ち上がっていた。そしてラムリーザに捕まっているソニアを見てくすりと笑い、壷を運んでいる男性陣の後を追っていった。

 そしてソニアも立ち上がれるぐらいまで体が軽くなると、ラムリーザの腕を振りほどいて、リリスの後を追っていった。

 ラムリーザはちらりと残った四つの壷を振り返り、大きめの金塊を一つつかむとその場を後にするのだった。

 先頭を歩くソフィリータがライトで前方を照らし、次に壷を抱えたリゲルたち四人が続く。そしてリリスとソニアがその後を追い、しんがりはラムリーザとなっていた。正確に言えば、その後からついてくるレイジィが一番最後だった。

 洞穴から出たときには、もう夕方になりかけていた。

 

 残る四つの壷は、島民たちを動員して持ち帰り、島の倉庫へと納められた。

 ラムリーザたちが持ち帰った壷の一つはコテージへ運び込まれ、それぞれの取り分をどれぐらいにするかで、ソニアやリリスたちが揉めた話はわりとどうでもいいので割愛する。

 さらにリリスが金塊を使ってソニアに嫌がらせをしようとしたが、馬鹿馬鹿しい話なのでこれも割愛。

 かくして、石板探し、呪文解読と続いてきた一連の探索劇は、こうして金塊を見つけるというハッピーエンドを迎えたのであった。

 ゲームならここで勝利の音楽でも流れるところだろう。だが現実の洞穴には、波の音と、金塊を巡る騒がしい声だけが残っていた。

 これは余談だが、例の烏帽子型の岩を乗せた鹿のような岩についての話だ。

 最後に洞穴から立ち去る前に、鹿のような岩から烏帽子型の岩を取ってみると、鹿のような岩はせり上がって元の位置に戻り、洞穴は再びふさがったのだ。

 やはり、あの島は海賊か何かが宝を隠した場所だったのだろう。

 そして、人を近づけないようにするために、遠くから見れば不気味な顔に見えるよう、岩肌を細工したのだろう。

 マトゥール島には、まだ知らない顔がいくつも眠っているのかもしれない。