ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
今日の世迷いごと
帝国暦九十三年 炎心の月・女神の日(現代暦:八月上旬)
この日は、父と兄が先に本土へ帰る日なので、昼過ぎにラムリーザとソニア、ソフィリータの三人は、港へ向かった。そこにはすでに、ラムリーザの家族とソニアの家族が集まっていた。
昨日の大雨がまるで嘘のように、波は穏やか。空には雲ひとつ――だけある。
船は来たときと同じ五隻、父と兄の乗る本船と、護衛艦、戦艦までは同じだが、残りの二隻は来たときには見かけなかった船だ。
「あの二隻は何なの?」
「あの船は、この島で採掘された資源を運んでいる輸送艦だぞ」
ソニアの問いに答えたのは、ラムリーザの父ラムニアスだった。なるほど、客船に比べてずんぐりむっくりしていて、荷物をたくさん運べそうだ。
その一方では、ラムリーザとラムリアースが話をしていた。
「例の石板の解読は進んでいるか? 手に余るようなら来年以降に持ち越してもいいぞ、次は俺も手伝ってやるよ」
「リゲルに解読してもらったけど、戒めというかまじないの類で、それに沿った行動をしても、あまり意味がないみたい」
「ほう、すごいな。どんな感じの内容だ?」
「ブタを使って精神統一して心を静めろとか、そんな内容だったと思うよ」
「なんだそれは? まあいい、近いうちにフォレストピア視察に行くから楽しみにしてろよ。あと石板の呪文だが、縦読みとかしてみたら新しい解釈が生まれるかもしれないぞ」
ラムリアースはそう言い残すと、ラムリーザとがっちり握手してから船に乗り込んでいった。
「あっ、ラム兄あたしともっ」
ソニアは慌てて駆け寄ってきて、ラムリアースに手を差し出す。船室に入りかけたラムリアースはわざわざ戻ってきて、ソニアに「ほれ、手を差し出せ」と言った。
ソニアが手のひらを差し出したところで、ラムリアースは正面から手のひらを合わせた。そして次に、ソニアに手のひらを上にしておけと言い、上からパンと手を叩く。
「さあ今度はソニアの番」
ソニアはラムリアースの差し出した手に上からタッチを仕掛けるが、ラムリアースは当たる瞬間に手を引いてしまい、ソニアは空振りに終わった。
そしてラムリアースは、ソフィリータの頭を撫でて、今度は本当に船室へ入っていってしまった。
「それじゃラムリーザ、あまり話せなかったけど、身体に気をつけてがんばるんだぞ」
父のラムニアスも、兄と同じようにラムリーザと握手して、ソフィリータとソニアの頭を撫でてから船に乗り込んだ。ちなみにラムリーザとのやり取りの前に、母親ソフィアとキスを交わしていたのは、まあ置いておこう。
こうしてラムニアスとラムリアースは、仕事の関係で先に本土へと帰っていったのである。
父と兄がいなくなれば、この島での時間もまた少し変わるのだろう。ラムリーザは、そう思いながら船を見送っていた。
「行っちゃったな」
「これでもう変なもの食べさせられなくて済む」
「そういえばちょっと気になってたんだよなぁ」
港からコテージへの帰り道、ラムリーザはあることを思い出して試してみた。足元に転がっている手ごろな石を拾って、木の枝にぶつけてみた。石は乾いた音を立てて跳ね返った。
「やっぱりめり込まないよなぁ……」
「あっ、それはリアス兄様が得意としている石投げ、何でしたっけ、名前は忘れましたが特殊な方法で行う投石というのを聞いたことがあります」
ラムリーザはラムリアースのまねをしてみたけどうまくいかなかった。そこでソフィリータが、あの投石は普通の投石とは違うものだと教えてくれた。力の加え方にコツがあり、誰でもできるものではない、と。
「ソフィリータはできるのかい?」
「コツはつかめたのですが、力不足で……。でもリザ兄様の力なら、コツさえつかめば同じことができると思います」
「そのコツって、どういうものなのかな?」
「えっと……えっと……」
ソフィリータは顔を赤らめてどぎまぎしてしまう。恥ずかしいことなのか? それともうまく教えることができないのか?
「石から手を離す瞬間に捻りを加えて、えっと、どう説明したらいいのでしょう?」
「まあいいや、僕にはこれがあるから」
そう言ってラムリーザは、持っていた石を握りつぶしてしまったのだった。
力だけならラムリーザにも自信はある。それでも再現できないとなると、あれは単なる腕力ではなく、明らかに技の領域だった。
コテージに戻ったときは、すでに太陽は西の空へ傾き始めていた。
すでに釣りを済ませたリゲルは、釣れた魚を一匹一匹確認しており、確認の終わった魚は、ロザリーンが調理場で下ごしらえをしていた。
コテージの広間の中央では、レフトールとマックスウェルが、今度はリリスとユコを交えてカードゲームをしている。大量のカードを持たされたらしいユコが、不満そうな顔をしている。手持ちのカードがなくなったら勝利、という類のゲームで、何かミスをして大量にカードを押し付けられたらしい。
一方、ジャンとユグドラシルが、テーブル席で石板を見ていたので、ラムリーザはこれ幸いとばかりに、そのグループに加わった。ソニアもどの輪に入るか迷った挙句、ラムリーザの隣に腰掛けたのだった。
「それ、普通に読んだ結果だと、戒めかおまじないみたいな内容になったけど、逆から読んだら意味が出てくるかもしれないよ」
「逆さ言葉ってやつだね」
ユグドラシルは、なるほどといった表情をして、手持ちの石板を見ながらなにやらメモを取り始めた。
トガサヘンカイテナシチメ
最初に見つかった呪文を逆から読んだものだ。
「トガサヘ、トガサって場所の名前かな? 島にトガサって場所があるかわかるかな?」
「地名までは詳しくないなぁ」
「待てよ、トガは戸がで、サヘは左へと読めば、何かの入り口から左を指していることにならないかな?」
「そこで文節を区切ると、次はンから始まることになるぞ。やっぱりトガサで、次はヘンカ、変化だよ。イテナはわからんけど、シチメは七つ目と取れないかな?」
「やっぱり呪文だよね」
本格的な解読はリゲルに任せることにして、今のメンバーでざっくりと考察することにした。
ハシナヘニボアテウエイメ
二つ目の呪文を逆に読んでみたものがこれ。
「ハシナという場所、橋かな? ニボアテ、ニボというものを当てて、ウエイメ、上にイメ、行け。上に行け。ハシナとニボを調べて、次」
ユグドラシルは、本当にざっくりと解読している。
タブハスレカトスナオヘト
「タブ、TAB、間か? ハス、蓮、蓮のぶつぶつ、あれは嫌いだ。レカトス……呪文。ナオヘトはナオという場所へと、だね」
ユグドラシルの考察では、あまり具体的な結論は出せないようだ。
最後の一つは石板ではなく、ノートに書き写した呪文だ。それは現在ソニアが見ている。
「ん、ソニアくん、何かわかるかな?」
ユグドラシルはソニアに話を振った。
「エルに解読できるわけないよなぁ」
しかしジャンは、最初からソニアを当てにしていない。これにはソニアもむっときた。
「んとね! ムイルコベレトジシヨキマ! 逆から読んだらマキヨシジトレベコルイム! ジャンがムカつくので、ナイト・フィーバーとホウカイで呪文を挟んで『ナイト・フィーバーマキヨシジトレベコルイムホウカイ』になる! 最後にマキヨシジトレベコルイムという意味不明な言葉はノイズと考えられるので削除して残りの呪文を取り出す! すると出来上がる言葉は、ナイト・フィーバーホウカイ! この呪文は、フォレストピア・ナイト・フィーバーという店が崩壊するっていう予言なの!」
こうしてソニアは、早口で一気に呪文解読をやってのけたのだった。どうよ、と言わんばかりに両手を腰に当ててドヤ顔を決めている。
「やばくね?」
ラムリーザは、そのあまりにも強引な『ジャンへの嫌がらせ特化型』の解読っぷりに、ただ苦笑して頭をかくしかなかった。
当然ながら、ジャンは「待て待て」と言う。
「そんなやり方がまかり通るなら、なんでもできるぞ? ハシナヘニボアテウエイメについては、周囲を見渡したら風船があるので、頭に風船を、おっぱいが目につくので中間におっぱい、そしてコテージの怪談と考えると最後にお化けを加えるのだ。すると出来上がる言葉は『風船ハシナヘニボおっぱいアテウエイメお化け』となる。ハシナヘニとアテウエイという意味不明な言葉はノイズと考えられるので、削除すると出てくる言葉は風船おっぱいお化けになるぞ? こんなのでいいのか?」
「うっ、うるさいっ! ジャンなんかドロヌリバチの巣にたまった蜜を吸っている最中に刺されて死んだらいいんだっ!」
「なんで俺がドロヌリバチの蜜を吸うんだよ」
そのとき、ラムリーザたちの背後から「あんもぉ! やってられませんの!」と言う声が響き渡った。
見るとユコがカードを投げ出して立ち上がっている。ニヤニヤしているレフトールとリリスを見るに、ユコは一人負けを喫したようだ。
そしてそのまま無言でテーブル席に着くと、懐から書類のようなものを広げた。よく見ると五線譜で、ユコの作成した楽譜のようだった。
「ああ、これも完成していたんですの」
「それじゃ、あたしが歌うからどんな歌?」
すぐにソニアは飛びつく。しかしリリスが譲るはずがない。
「勝負はすでにやったわ。前やったハッキョイで、ロザリーンが一位になったけどロザリーンは歌わないので二位の私がリードボーカル。ミーシャはドベだし、ソニアはボーリングで痴態を晒したから格下げ。そういうわけで、次は私がリードボーカルね」
「ちょっと待ってよ! ハッキョイはあたしがリリスと直接対決で勝った!」
「衆人環視の中、平気でパンツを脱ぎ捨てる人にリードボーカルは任せられないわ」
「あれはリリスが鉄球をパンツの中に入れたからじゃないの!」
「何っ? そんなことがあったん? もう一度見せてくれや」
ソニアの痴態を見たがっているレフトール。ジャンも「見てみたいな」とか言っている。
「うるさいですの、これで勝負してください!」
ユコが取り出したものは、広間に転がっていたエルドラード帝国の国旗とそれが付いている棒だった。棒の長さは三十センチほど、旗は一辺十五センチほどの大きさだ。
「この旗でリリスをしばき倒したらいいのね?」
「違います、砂浜の上を競争して、先にこの旗を取った人が勝利ですの」
「ビーチフラッグスだな」
ジャンはそう言って、ソニアから旗を取り上げて立ち上がった。
「また肉体運動で勝負するーっ」
ミーシャは不満そうだ。ダンス能力は高いが、それ以外の運動は苦手――というわけではないが、体を使う勝負となると、小柄さが仇となってソニアやリリスに力負けしてしまう。このビーチフラッグスでも、最後の競り合いとなったときにソニアやリリスに弾き飛ばされてしまうのは見え見えだ。
「ハンデとしてソニアはパンツに鉄球を入れたままで走ってもらうわ」
「何その変態行為! リリスが入れたらいいんだっ!」
「ここは公平さの徳を極めるという意味で、全員入れたまま勝負したらええんと違うか?」
レフトールはナイスな提案をするが、もちろん受け入れられることはなかった。
「別の勝負にしようよー、数学の問題早解きとかー」
ミーシャは他の勝負方法を提案してくるが、勉強などをソニアやリリスが受け入れるはずもなかった。
「残念ね、戦いは始まる前に勝負がついているものよ。これが戦争、子供は下がってなさい」
ミーシャは子供呼ばわりされて頬を膨らませ、リリスは怪しげな微笑を浮かべ、その手には――
「ちょっとリリスなんで鉄球持ち出しているのよ!」
「入れなさい」
「やっ、やだっ!」
なんだか知らないが、ソニアとリリスは組み合ったまま別の勝負が始まってしまった。
今回は警戒していたソニアが鉄球を近づけさせまいと、鉄球を持ったリリスの手首をつかんだまま離さない。リリスは組み合った衝撃で鉄球をポロリと落としてしまったが、それでも二人は組み合ったままだった。
そこにこっそりとミーシャが忍び寄ってくる。
ミーシャは転がっている鉄球を拾って、少しの間鉄球と、組み合ったままの二人を交互に見つめていた。そして次の瞬間、流れるような手つきで鉄球をリリスのパンツの中に忍び込ませた。
リリスのパンツはストーンと足首のところまで落ちる。
「ちょっ、まっ、なっ?!」
リリスは非常に慌てた声を上げて振り返るが、ミーシャはすでに離れた場所に逃げてしまっていて、誰がやったのかわからないようだ。
「ちょっとソニアあなた手を離しなさい!」
「そうはいくか!」
ソニアは自分の巨大な胸元が邪魔をして、組み合っているリリスの足元すら見えにくい。だからリリスが足元で慌てていることに気づいていない。
そしてリリスは、ソニアが手を離してくれないので、乱れた服装を直すことができずにいた。
こうしてミーシャは、子供呼ばわりしたリリスに対して復讐を成し遂げたのであった。
ビーチフラッグスの勝負?
リリスも取り乱してしまったことだし、お流れになりましたとさ。
父と兄が去っても、残されたこちら側は相変わらずだ。少し安心したような、呆れたような気持ちで、ラムリーザはその光景を見ていた。
今日も真面目な話は、結局まともに終わらなかったということで、今日の世迷いごとはおしまい。