ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
みんなの未来予想図はだいたい賑やか
帝国暦九十三年 盛歌の月・創世の日(現代暦:七月下旬)
この日は昼から天気が崩れて、どんよりどよどよ。
まだ雨は降っていないが、いつ降り出してもおかしくないので、ラムリーザたちは外で遊ばずにコテージの広間に集まっていた。
「そういえば去年は夏休みに入る前に、進路調査の話があったよなぁ」
一同は火のついていない暖炉の周囲にあるソファーに集まって、適当に雑談していた。全員が集合すると、なかなかの大所帯だ。
誰かが話し出せば、別の誰かがすぐ横から茶々を入れる。全員が一つの話題を聞いているようでいて、実際にはあちこちで会話が枝分かれしていた。
「そんなのがあったのか? リリスは何にしたんだ?」
ジャンは、早速リリスの将来について尋ねた。
「何にしてたっけ、クラブ歌手だっけ? モデルとか書いていたよな」
リリスは思い出せないようだったので、ラムリーザが記憶の隅を突いて答えた。確かそんなことを書いていたはずだ。
「すげー似合ってるよ、俺のクラブハウスで一番にしてやるよ」
ジャンにとって、リリスの希望は願ったり叶ったりだったようだ。しかしソニアは余計なことを覚えていた。
「この黒魔女は、最初はラムの愛人になるとかふざけたこと書いてた」
そんなこともあったな。ソニア、リリス、ユコの三人は、最初はとんでもない進路を書いていてロザリーンに注意されたっけ。
「夢が叶わなかったときは、ラムリーザの愛人になったほうが、将来は安泰だと思うのよ」
リリスは何のためらいもなく言ってのける。この件に関しては、今も変わらず開き直っているようだ。
「リリス、俺がお前には不自由させないぞ」
ジャンも負けていない。そしてそれだけの力もあった。
「私のことはいいわ、それよりもジャンの進路は何かしら?」
自分のことばかり突っ込まれるので、リリスはその矛先をジャンへ向けた。
「そうだね、去年はいなかったから聞いてみたいね」
ラムリーザも同意する。するとジャンは、すぐに答えた。
「医者、弁護士、モデル――」
みんなが「えっ?」となったところで、ジャンはすかさず言葉を続ける。
「――このあたりをソニアが書いただろう」
リリスはそれを聞いて、ぶふっと吹き出す。
「なっ、何よっ、何になってもあたしの勝手でしょ?!」
ソニアは慌てたように文句を言ってくるが、リリスはさらに追い討ちをかけてくる。
「ラムリーザと結婚する、それ以外は引き籠る」
よく覚えているものだ。それを勉強に活かせば、平均点超えも夢ではないはずなのに……
「なんだそのヤンデレは、ラムリーザも大変だな」
ジャンは、妙に納得したように答え、ラムリーザを慰めるのだった。
「そんなことどうでもいいからジャンのを言ってよ!」
なぜか自分に矛先が向かってきたソニアは、一人憤慨しているようだ。やはりこのメンバーの中では、一番からかい甲斐があるのはソニアだ。
「だいたいエルのモデルがあるか――っと、そうだなぁ……。進路と言われても、俺はすでに一流クラブのオーナーだし決まっているようなものだよな。それを言ったらラムリーザも決まっているようなものだろ? 何にした?」
いらんことを言いかけたジャンだが、ソニアに睨まれて話を修正する。ジャンの将来も、ラムリーザ同様に決まっているようなものだ。
「あたしの嫁になるってラムは書いた!」
どうやらラムリーザの進路は、ソニアの手で上書きされたようだ。
「何で嫁になるんだ、意味わからんわ。そうだな――よし、俺の店を世界一のクラブハウスにする、にしておこう」
「おー、でも進路じゃなくて野望だねそれは」
「二つ目は?」
ソニアはぶすっとした顔で言う。ツッコミどころを探っている感丸出しだ。
「二つ目? リリスを嫁にすること。嫁になってくれる?」
「どうかしら」
ジャンは臆することなく、衆人環視の中でリリスにプロポーズまがいのことをしてくる。しかしあっさりとリリスに受け流されていた。
「くっ、まだ時期尚早だったか。それじゃあバンドのリーダーとして盛り上げるにしておこう」
「ラムリーズのリーダーはラムリーザ様ですの」
ソニアではなくユコが突っ込んでくるが、ジャンは落ち着いていた。
「J&Rのほうだ。三つ目はラムリィがもしも帝国宰相とかになれば、その補佐官として宮仕えでもするさ」
突然希望の規模が大きくなった。一地方の夢が突然国の中枢部の夢に進化したのだ。
「帝国宰相は、僕が継ぐことになる前に兄が継ぐだろうね。だから僕にはフォレストピアを与えてくれた、と言っていたし」
「そっか、俺の進路希望はこれでいい。どうだ、堅実だろう? ソニアと違って」
いちいちソニアを煽るのが余計だ。わざわざ平地に乱を起こすようなものだ。
「何よ! あたしも堅実! ジャンの店を邪魔して、潰してやるんだから!」
簡単に挑発に乗るソニアは、すぐに噛み付いてくる。
「こいつを牢屋に入れとけ。地下四万メートルにある独房に監禁な」
「そんな深さにある独房は、温度が百度以上になるぞ」
ジャンの適当な物言いに、リゲルが注釈を加えてくる。
「じゃあソニアは蒸し焼きの刑ね」
「むぎゃおーっ! ――むぐむぐっ……」
とどめとなったリリスの一撃でソニアが爆発しかけたところで、ラムリーザに捕まり、抱きしめられたままもがくことになった。
「そうだ、レフトールは去年別のクラスだったから聞けなかったけど、何って書いたんだ?」
ラムリーザはソニアを抱きかかえたまま、話題を平穏な方向へ誘導していった。
「進路希望? そんなのあったっけ?」
どうやらレフトールは、サボって書いていなかったようだ。
これは十分にありうることだ。ラムリーザと親密になる前のレフトールは、ただの半グレだった。
「それじゃあ今の希望を聞いてみようか?」
「決まってるじゃんかよ、ラムさんを守る騎士だ。少年よ大志を抱け、老人よ墓石を抱け、ってなー」
「白植木鉢足騎士、献血してパワー減らして――むぐむぐ」
「二つ目は?」
またソニアが騒ぎ出そうとするのを押さえ込み直して、話を先に進める。この調子だと、去年のクリスタルレイクキャンプのときみたいに、興奮したソニアを落ち着かせるために別室に避難して、チュウチュウドラマをやるしかなくなる。
するとレフトールは、少し真剣な表情になって答えた。
「あいつ……レイジィだっけか? あいつみたいなのになりたいかな、むしろ騎士より……。今もどこか近くで目を光らせているのだろ?」
レフトールは、コテージの窓を一つ一つ見つめていた。しかしどこにもレイジィの姿はない。とはいえ、どこかで監視というか、警護をしているはずだ。
「同じだよ、周辺警護という意味では。公か私かの違い、公が騎士なら、私的な護衛がレイジィ」
「あいつぐらい強くなりてぇな。そして三つ目だが――」
レフトールはそこでなぜかユコのほうをちらっとみるが、その視線に誰も気づかなかった。
そしてすぐに目を逸らし、「今は、なしだ」と答えた。
「まあいいか。ところで一年生の二人は、つい最近、進路希望を書いたばかりだよね?」
「うん、ミーシャ書いたよ。結婚できてもできなくてもいいから、リゲルおにーやんのために尽くす。メイドなり侍女なりで」
「こほん!」
突然のミーシャの宣言に、リゲルは咳払いで答えた。しかしその進路に納得いかないのがユコだ。
「私はフォレスター家メイドって書いたらダメ出しを食らいましたの。それが通るわけありません!」
そういえばそんなことも書いていたな、とラムリーザはめんどうだったことを思い出していた。
「嘘。一番は、トップダンサー。S&Mを世界的に有名にするのー」
踊り子ちゃんとして面目躍如の進路希望だった。小柄な体格ゆえに、運動の苦手なユコと並んで体を使う勝負事では負け続きだが、ダンスの才能だけは突出しているのがミーシャだ。
「二つ目は、ラムリーズの主力リードボーカリストなのー」
「「それはダメ!」」
相変わらず、こんなときだけ息の合うソニアとリリスであった。
「でもそう書いたもーん。でね、三つ目は天文学者っ」
これにはリゲルも唸った。しかし実際のところ、これまでにミーシャが天文学部を訪れたことはなかった。するとその目的は?
「星のことは全然わからないけど、リゲルおにーやんを手伝ってあげたいの。雑用でも下働きでもなんでもやるよ」
「ミーシャ……」
リゲルは複雑な表情を浮かべ、ロザリーンもまた困ったような顔をするのであった。
「やい媚び媚び娘っ」
「なぁに? ふえぇちゃん」
ソニアとミーシャは、お互いに、わかる人にしかわからない呼び方をする。
「星のことを知りたければ、『星を見る人』ってゲームをクリアしたらよくわかるよ。だから最低三周はクリアするべしっ」
「こらっ、ミーシャにクソゲーつかませるな」
リゲルはすぐにソニアの勧めを否定する。
「ふんっ、リゲルなんか、かりう食らって病気になればいいんだっ――ひゃんっ!」
「ソフィリータの進路希望も聞いてみようっ」
ラムリーザはソニアを後ろから抱えて、押さえ込みながらソフィリータに言った。
「私ですか? リザ兄様のお手伝いができたら幸いですが、ポッターズ・ブラフ地方の首長さんのお手伝いをすることになると思います」
「あの地方の首長って、ローザのお父さんだっけ?」
そこでユグドラシルが話に入ってきた。
「その話だけど、自分は将来、ポッターズ・ブラフ地方の首長になると決まっているんだ。そこでローザ、ロザリーンをフォレストピア地方の首長に任命したらどうだろうか?」
ユグドラシルは確かに首長の長男で、後を継ぐ可能性は非常に高い。そこでロザリーンの行く末も提案したのだろう。そういえばフォレストピアには、まだ首長らしい首長を置いていない。だから、唐突といえば唐突な話題だ。
各地方には、それぞれの地方を一括管理する領主がいる。だが領主が独占的に地方を動かすのではなく、町単位の運営は、任命された首長が取り仕切っている。
フォレストピアではラムリーザ一家が領主だが、町の運営は民衆自身に任せている。今のところ、首長に近い役割を担っているのはジャンなのだろうか。
「そんな人事をしたら、近隣の首長職を、一族で独占することになるね。ハーシェル家の力が強くなるよ」
「まあ自分にもそれなりに野望はあるということで。それに隣の地方の首長夫人に、将来領主となる君の、その妹が嫁ぐかもしれないんだぞ?」
「ん、ああ、そういうことになっちゃうか」
ラムリーザの妹ソフィリータは、現在ユグドラシルと恋仲になりつつある。このまま何も問題が起きずに進めば、ユグドラシルの言うとおりになるだろう。
「それにだ、ロザリーンなら十分任せられないかい?」
ユグドラシルの主張に、ラムリーザは反論できなかった。むしろ参謀長リゲルと一緒に手元に置いておき、例えば副参謀長として、そばに留めておきたい気持ちもある。いまのままではソニアがあまり役に立たないので仕方がない。ソニアの成長も期待したいところではあるが……
「ロザリーンがリゲルと結ばれたら、首長と運輸がつながるね」
「領主、首長、運輸、このあたりを身内で独占できる、すごいことだと思わないかい?」
「そのほうが、意思疎通もしやすいし、便利だろうねぇ」
徐々に、フォレストピア地方の基盤が、ラムリーザとその仲間たちによって固められていきそうな展開となっていた。
「あたしも何か役職が欲しいっ」
「赤軍曹じゃなかったっけ?」
成長してくれなければ要所を任せられないソニアには、ありもしない架空の役職を与えておくのが無難だ。
「戦争なんてやだ」
だがソニアは否定する。安心したまえ、戦争は軍曹の仕事。赤軍曹は意味不明な役職であり、戦争に行くとは限らない。
「おっぱいちゃんは、おっぱい発足委員長とかでよくね?」
そこにレフトールが口を挟み、ソニアを煽ってくる。キャンプで顔を合わせることが増えてから、最近ではリリスだけでなくレフトールやラムリーザの兄ラムリアースもソニアをからかってくる。
「何よそれ! 番長は顔面潰され族の族長!」
「なんだその蹴られ族みたいな部族は?」
ソニアが絡むとすぐこうなる。これがどういった成長を見せてくれるのか、これまた将来に期待!
「しかしあれだな」
リゲルは、ユグドラシルとソフィリータを交互に見ながら言った。
「二人の関係を知らん奴から見たら、普通に政略結婚だな」
「リゲル、お前とロザリーンも似たようなものだろ」
そう言ったのはジャンだ。確かにそれも一理ある。
「僕の妹の旦那がユグドラシル先輩、その妹の旦那がリゲルかぁ……」
ラムリーザは四人の関係を改めて考えて、かなりつながっていることに気づいた。
「何々? リゲルはあたしの旦那の妹の旦那の妹の旦那? 親戚になるの?」
ソニアの言うことは、未来形ではあるものの間違いではない。しかしややこしい。
「何親等になるかわからんが、ソニアが親戚に入るのは、シュバルツシルト家にとって問題があるな」
リゲルは苦笑いを浮かべるが、これにソニアが噛み付かないわけがない。
「何よ! あたしはプロポーズいいから八頭身なのよ!」
「プロポーションな」
ラムリーザはすぐにソニアの間違いを正す。しかし今度はジャンが要らんことを言う。
「ソニアは三頭身にしか見えんぞ?」
「なんでよ!」
「頭で一つ、おっぱいで一つ、下半身で一つ」
「何その宇宙人!」
ソニアは当然のごとく怒るが、おっぱいの大きさと顔の大きさが近いというのは事実だった。そこに今度はリゲルが理屈をこねてくる。
「ここにいる全員は、この宇宙に浮かぶネレウテリアに住む者、つまり宇宙人なのだ。まぁソニアは異星人だがな」
しかし理屈の最後にソニアを煽ることは忘れない。
ラムリーザは、憤慨して暴れるソニアを抱き止めておくのも大変だ。自分の膝の上に座らせて後ろから抱きかかえているが、左右に暴れて仕方がない。そしてこう考えた、次に誰かが「おっぱい星人」と言うだろう、と。
「ソニアだけ人間じゃないよな、おっぱい星からやってきたおっぱいちゃんだしな」
ラムリーザの予想は、レフトールによって実現してしまった。
「ふえぇ星からやってきたふえぇちゃんは?」
予想外のことを言ったのはリリス。ふえぇちゃんが、新たな呼び名として定着しつつある。
「魔女の星から、彗星に乗ってきた宇宙吸血鬼は黙ってろっ」
「あっ、魔女姉ちゃんは、相手の顔から生命エネルギーを吸い取るんだ」
ソニアのリリスに対する反撃に、珍しくミーシャが同調した。どうでもいいことだが、ミーシャから見てリリスは「魔女姉ちゃん」という扱いになっているらしい。
まあ、なんだかんだで話題の中心にいるのはいつもソニアだった。反応が良いのでいじり甲斐というか、からかい甲斐がある。
ソニアからしたら、四方八方から要らない言葉が飛んでくるので迎撃するのが大変だが、それだけ皆に愛されている――のかな?
ふざけ半分の進路希望もあれば、笑って流せない本気の将来像もあった。気づけば、この仲間たちもずいぶん先の話をできるようになっていた。
誰がどこへ向かうのかは、まだはっきり決まっていない。
ジャンが世界一のクラブを目指し、リゲルが星の海を見つめ、ソフィリータたちがこの地を支えていく。そんな賑やかなみんなの未来予想図の中心には、ラムリーザ自身がいることだけは、なんとなく見えていた。
この日も夜遅くまで、昼間の曇り空が限界を迎えたように、静かな雨の音が聞こえる中、賑やかな宴が繰り広げられたのだった。