ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


最後の石板探し

帝国暦九十三年 盛歌の月・白雪の日(現代暦:七月下旬)

 この日の朝、ラムリーザはリゲルと一緒にコテージ内のテーブル席で、石板についていろいろと思案を巡らせていた。

 手元にある石板は二枚、それに加えて昨日砂金採集場近くの食堂で見つけた石板に書かれていた呪文を記したメモが一枚。

「なんかこもり気味だったのは、こんなことやっていたからか」

 リゲルは今日、珍しく釣りを始めずに、朝からコテージでのんびりしていたところにラムリーザが石板を持って現れたわけだ。

「宝の隠し場所か何かわからないけど、地図と呪文なんだよね」

「ムイルコベレトジシヨキマか、確かにパスワードに見えんこともないな」

 リゲルはメモ書きのほうを見ながら、呪文をつぶやいてみる。

「地図は確実にこの島なんだ。そして呪文の中で意味がありそうな部分といえば、テイカン――諦観ね、それとブタなんだ」

「そんな一部だけ読み取っても意味はない。全体で考えないとダメだ」

「それじゃあメチシナって何?」

「まぁ待て、地図上の印はもう一つあるのだろう? 最後の一か所に行ってみて、それから考えよう。このパスワードはそこで使うものなのかもしれない。そこはここから一番遠い場所だしな」

 そこで今日は、石板に描かれた地図にある最後のバッテンを目指してみることになった。バッテンの場所は、島の南側近くに描かれている。

「それじゃあ距離があるから、またリゲル運転手よろしくね」

「二人で行くのか?」

「そうだな、運動能力の高い人を連れていこう。これは冒険みたいなものだからね」

 ラムリーザは、レフトールとロザリーン、そしてソフィリータに声をかけて、この遠征隊に加えることにした。五人パーティで前衛はその三人、後衛がラムリーザとリゲルといったところか。しかし――

「ラムが行くなら行く!」

 当然ながら、おまけが付いてくることになってしまった。

 六人になった一行は、今日はバンではなく少し大きめの乗用車に乗り込んで、島を一周したときとは反対のコース、反時計回りで南へと向かっていった。東回りだと、途中で例の奇岩が目に入るので、なんとなく避けたい気分になるのだ。

 

 先日ラムリアースに連れられて見た原油採掘施設を通り過ぎて、さらに南を目指す。

 先日ここを通ったときは雨だったので、このキャンプで晴れた景色を見るのは初めてのことになる。もっともラムリーザとソニアの二人は、昔訪れたときに見たことがあるのだが。

「南の端まで行くと、あの不自然な大渦があったところになるな」

「石板の地図によると、そこまでは行かなくてよさそうだね。島の南南西あたりかな、海岸線ぎりぎりに印があるから、海辺の洞穴? それとも離れ小島があるのかな?」

「それならば、あれを当たってみよう」

 リゲルは、車のスピードを落として海岸のそばに停めた。そこは砂浜ではなく、岩場になっていて所々潮溜まりができている。そして海には、小さな島がある。その島に向かって岩が点々と並んでいて、まるで飛び石のようになっていて島までの道を作っているように見えた。

「あの島、そして飛び石みたいになっている岩、なんだかできすぎに見えないか?」

 リゲルに言われてラムリーザも確認してみたが、確かに人の手が加えられたようにも見える。自然にできたものにしては都合が良すぎるのだ。

「探検隊みたいだね、戦士レフトール、武闘家ソフィリータ、盗賊リゲル、僧侶ロザリーン、魔法使いラムリーザだ。六人パーティ、洞窟探検ゲームみたい」

「レフトールとソフィリータだけ現実の能力で、残りはテーブルトークゲームの設定だね」

「ソニア姉様は何ですか?」

 ソニアのメンバー分析に、ラムリーザのツッコミとソフィリータの質問が投げかけられる。

「あたしはロード!」

「何がロードだ、おっぱいちゃんは裸ニンジャになれ!」

 レフトールからの無茶な注文が入り、口論に発展してしまった。

 二人の言い合いを背景音にしながら岩場の潮溜まりを進んでいくと、リゲルは突然「しめた」と言いながら潮だまりに手を突っ込んでいた。手を引き上げたときには、硬い殻に覆われ、八本の脚と二本の大きなはさみを持った生き物を捕まえていた。

「ロザリーン、今夜はカニ鍋だ。おっ、あそこにも大きいのがいる。俺はカニを集めるから、石板探しはお前らでやっていろ」

 ここに来て、リゲルが探検隊から脱落してしまった。それでもさほど問題はないだろう。リゲルの考察力は、石板が見つかった後に発揮されるものだ。探すのは体力自慢だけでいい。盗賊というのはあくまでゲームの設定であり、リゲル自身がピッキング能力などを有しているわけではない。

 リゲルは最初に捕まえたカニの脚を四本ずつ、そこらに生えていた草のつるで縛り上げる。そして二匹目を捕まえに行ってしまった。

「盗賊脱落。海からシーサーペントとかマンオーウォーが襲ってくるから気をつけてね。海賊船が来たら船を奪えるけど」

「それはあのゲームか、俺は騎士、レンジャー、シスター、魔術師でクリアしたぞ」

 レフトールはソニアの言う内容に心当たりがあったらしく、話を合わせた。

「魔女と科学者が入っていなければどんなメンバーでもいい」

 それに対してソニアはまたしても魔女下げを言ってくるのだった。

「魔女はもったいないよな、見た目は良いのに性能がカスだ」

「現実の魔女は、見た目も吸血鬼だけどね」

「しかしあれって、職業と性能をもうちょっと整理したほうがいいよな。魔術師の魔力はそのままでいいとして、法力の使い手はシスターじゃなくて僧侶が相応しいよな。で、法力の半分は魔女じゃなくてシスターであるべきだ。魔力の半分は科学者じゃなくて魔女な。そんで、魔力と法力の両方が使えるのが科学者だったほうがしっくりくるぜ」

「最強の鎧は誰でも装備できるから、戦士は法力が使えないから騎士の劣化版。騎士、騎士、シスター、魔術師がベストメンバー。盗賊は要らない」

「同じ職業がかぶっているのは美しくないぜ」
              
マトゥール島の南西海岸で、ラムリーザたちが飛び石のように並ぶ岩場を渡って小島へ向かっている場面
 口論は終わり、今度は二人のゲーム談義を背景音に、ラムリーザは先頭を切って飛び石のようになっている岩場を落ちないように進んで、小島へと向かっていった。

 岩の間では小さな波が砕け、足を滑らせればすぐに潮溜まりへ落ちそうだった。道に見えるとはいえ、道として作られたものなのかどうかはわからない。

 小島に到着してから気がついたのだが、そこには陸から見えないように、沖に面した側に洞穴の入り口があった。ここは満潮になっても沈まないようになっているらしく、内側の壁は岩だけで海藻などは付いていない。

「おっと、ここからは俺が先頭に立つぜ。俺はラムさんの騎士だからな」

 レフトールは、ラムリーザの肩をつかんで足止めし、自分が先に洞穴の中へと入り込んだ。

「騎士は、足が白い植木鉢ブーツの女。レフトールは女じゃないから騎士じゃない」

 ソニアはまだゲームの話をしている。

「俺は女騎士でもいいぜ。くっころ、くっころ」

 不思議なフレーズを発しながらレフトールは、洞穴の奥へと進んでいった。ラムリーザも急いで後を追う。

 洞穴は海岸のほうへ向かって降りていく形になっている。ということは、奥のほうは海面よりも低いことになっているのだろう。入り口はかがんで入らなければならない大きさだったが、奥へ行くにつれて広くなり、普通に立っていても天井に頭が届かないような高さになっていた。

 ところが、洞穴の奥は薄明るく光っている。何か光源があるのか? それとも輝くものが置かれているのか? 石板の四つの印、謎の呪文。そのあたりをすっ飛ばして、四番目の印の位置でお宝発見か?

「なんかおるぞ」

 先頭を歩くレフトールが小声で言った。薄明るい光の中で、影が動いた。

 素早くソフィリータがラムリーザの前に躍り出る。ソフィリータもラムリーザの警護役を自称しているようなものだ。そのために格闘技にも打ち込んでいる。

「出てこいゴルァ、このバカチンが!」

 突然レフトールは奥に向かって怒鳴りつける。このあたりの強引さがレフトールならではだ。

 洞穴にレフトールの声が響いた次の瞬間、フッと奥の明かりが消えた。

「これやばくないか?」

「リザ兄様は私のそばを離れないで」

 ソフィリータはラムリーザの前にぴったりと張り付いて、洞窟の奥を凝視している。

 土着の民でも住み着いているのだろうか? しかし何十年も前からフォレスター家が開発を進め、島民の話では土着の民はいないとのことだが、秘境の奥に隠れ住んでいたということか。

 次の瞬間、奥から小さな影が三つ飛び出してきた。

 すかさずレフトールは二人を捕まえ、残る一人はソフィリータが捕まえた。

「おらぁ化け物め! てめーは原始猿人バーゴンか?!」

「痛い痛い痛い!」

 レフトールの怒声に続いて、妙に舌足らずな高い声が返ってきた。

「ちょっと待てよ」

 レフトールが影を捕まえた際に地面へ転がったものを、ラムリーザは拾っていた。それはどこにでもある懐中電灯だった。原始猿人が懐中電灯を使うのだろうか?

 いや、そもそも原始猿人って何? バーゴンって何?

「おいおいレフトール無茶をするな、相手は子供だ」

 ラムリーザは懐中電灯を灯した。レフトールが二人、ソフィリータが一人捕まえていた相手は、まだ小さな子供の男の子だった。

「何で洞窟からガキが出てくるんだよ」

「ここはボクたちのひみつちきなんだい」

 子供だとわかると、すぐにソフィリータが解放し、その一人が答えた。

「ちきじゃなくてきちじゃねーか、このがいきちが!」

「いいからレフトールも離してやれよ」

 レフトールは、いまだに二人を小脇に抱えたままだった。

 

 明るいところまで戻ってから、ロザリーンが対応する。

「ねぇボクくんたち、この奥に石板のようなものはなかったかな?」

「この洞穴に月の石板があるって聞いたんだけど、見つからないんだなぁー」

「月の石板?」

「うん、この島には愛、太陽、月、死の四つの石板があって、それを四つ見つけたときに何か起きるんだって。でも一つも見つからないんだ。でもこの場所はなんだか面白かったからひみつちきにしているの」

 不思議がるロザリーンだが、ソニアは心当たりがあるようだ。

「エクソダスを封印するのかなぁ?」

 ソニアはさらに不思議なことをつぶやいている。

「君たちはもう帰りなさい」

 ロザリーンは子供たちを帰そうとするが、「えー」とか言って動こうとしない。しかしレフトールが威嚇すると、三人とも洞穴から飛び出していってしまった。

「あ、懐中電灯返してない。まあいいか、後で返すとして今は使わせてもらおう」

 ラムリーザは、子供たちが落としていった懐中電灯で洞穴の奥を照らしてみた。それほど深くない洞穴で、あたりにはお菓子の袋やおもちゃが散乱している。確かに子供たちの秘密基地になっていたようだ。

 岩の陰には拾ってきた木箱のようなものまで置かれていて、子供たちなりに本気で基地を作っていたらしい。

「あっ、ここに相合傘が書いてあるよ。リンゴとモーリンだってさ」

「そんなものはどうでもいい――ってソニア、お菓子食べるんじゃない。それはあの子たちのものだろうが」

「石板はありそうにないですね」

 ロザリーンは周囲を見回して言った。こんな場所に石板があれば、子供たちが見つけて持ち帰っているはずだ。しかし先ほどの話ではまだ見つかってないという。ここはただの洞穴で、場所違いなのだろうか。

「おいラムさん、ここ照らしてくれよ」

 しかしレフトールが何かを見つけたようで、洞穴の壁面の天井付近を指差している。洞穴の壁はつるっとした岩肌でできているが、そこだけ不自然な亀裂が入っているのだ。

「んー、亀裂に手が届かないなぁ」

「私が登ってみます」

 ソフィリータは岩肌を登ろうとするが、足を引っかける場所がないのでそれは難しかった。

「ん、俺の手を足場にしな」

 レフトールは手を差し出してソフィリータをその上に乗せる。ソフィリータはそのまま亀裂の中に手を突っ込んで調べ始めた。

「あ、何だかロープのようなものがありますね。引っ張ってみます」

 ソフィリータは亀裂からロープのようなものを取り出して引っ張ってみた。

 

 ガコン!

 

 何か大きな音がして、びっくりしたレフトールは、ソフィリータを乗せていた手を引っ込めてしまった。しかしソフィリータは空中でバランスを取り戻し、そのまま普通に着地した。

 亀裂からはロープが少しだけ垂れている。でもこの高さだったら地面からでもロープの先には手が届く。

「このロープを引っ張ったら洞穴が崩れたりして」

 ソニアはさらっと怖いことを言う。

「じゃあみんなで入り口側から見守っていてやるから、お前が引っ張ってみろ」

 レフトールは、ソニアをロープのそばに押し込む。

「なっ、なんであたしが?!」

 そこでラムリーザはこの先の会話を予測してつぶやいた。

「次に君たちは『引っ張れ』『ふえぇ』と言う」

「何ですか?」

 そばにいたロザリーンが聞き返すが、「なんでもない」とだけ答えておいた。

 レフトールとソニアが「引っ張れ!」「ふえぇっ!」と言い合っているのをよそに、ソフィリータは改めてロープをつかんでゆっくりと引っ張ってみた。
              
小島の洞穴で、ソフィリータがロープを引き、ラムリーザたちが隠し扉の奥にある最後の石板を見つけている場面
 ロープを引っ張るには多少の力が要るが、それでも引っ張れないことはない。そして引っ張るにつれて、どこかからゴリゴリと音がする。

「ちょっとソフィリータさん、危なくないですか?」

 ロザリーンは心配そうに声をかける。

「洞穴全体が揺れているわけではないので、崩れる可能性は低いと思われます。あ、これ以上ロープは引っ張れないみたいですね」

 ソフィリータは、ロープから手を離す。するとまたゴリゴリと音がしながらロープは引っ込んでしまった。

「これは、ロープを引っ張るとどこかが開いて、手を離すと閉じるような仕組みになっているみたいですね」

「それ面白い、あたし引っ張ってみる」

 安全が確認されてから、ソニアは引っ張り役を名乗り出た。

「それじゃあもう一度ゆっくりと引っ張ってみて」

 ラムリーザはそう言いながら、懐中電灯の光を周囲へと向けた。

 耳を澄ましてゴリゴリという音がする方向を探り、その方向へと光を向けてみる。

「ん、岩肌の一部が開くみたいだな」

 ロープとは反対側の岩肌に、まるで隠し扉の奥のような小さなスペースが現れていた。ラムリーザはそのスペースを覗き込む。

「あっ、石板だ。ビンゴ!」

 こうして簡単な仕組みを解いて、最後の石板を発見したのだった。

 ソニアがロープから手を離すと、その小さなスペースを塞ぐように上から板のような岩が降りてきて、完全に下りたあとには、周囲と見分けがつかなくなっていた。

「よし、これで目的は達成したから戻ろうか」

 最後の石板は、思ったよりもあっさりと手に入った。けれど、四枚が揃ったという事実だけは、妙に重く感じられた。

 これで四つの印はすべて回ったことになる。あとは、この意味不明な呪文たちが何を言いたいのかを考えるだけだ。

 意気揚々と洞穴から出ていくと、来たときよりも飛び石が、やたら高く海面から浮き上がって見えた。

「引き潮かな。満ち潮の時間だったら、飛び石が沈んでいたかもしれない。危ない危ない」

 飛び石を渡って潮溜まりに戻ると、リゲルはまだせっせとカニ集めをしていたようだ。

「お、戻ってきたか。ほら、大きなカニを八匹捕まえたぞ」

 なんだかリゲルが高揚しているように見える。

「リゲルはカニが好きなのか?」

 ラムリーザの問いに、リゲルはいつもの様子からは想像もつかないような早口でまくし立てた。

「カニはいいぞ、帰ったらカニ鍋の準備だ。カニはカニだけに、ヒザラガイやウツボよりは、はるカニうまいぞ」

「リゲル……」

「リゲルさん……」

 ラムリーザとロザリーンは、微妙な視線をリゲルに向ける。

 ソニアは一言、「リゲルきもい」とだけつぶやいた。

「おっと、帰るんだったな」

 途端にリゲルはいつもの表情に戻って、捕まえた八匹のカニを抱えて車へと戻っていった。

 助手席に座ったラムリーザは、膝の上に新しく加わった四枚目の石板をそっと置いた。これらのパズルが一つに繋がるとき、いったい何が起きるのだろうか。

 窓の外では、引き潮の海が夕暮れの濃い茜色に染まり、遠くの水平線へと穏やかに引いている。