ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


ハッキョイノコリッ! 中編 ~ソフィリータの八百長?~

帝国暦九十三年 盛歌の月・旅人の日(現代暦:七月中旬)

 この日はハッキョイという競技のリーグ戦が、砂浜で行われている。

 リリスの言い出しで、リリス有利、ソニア不利の極端な試合表が作られ、リリス主導でゲームは進んでいた。

 一節目が終わって、リリスの六戦全勝、ソニアは三勝一敗、ロザリーンとソフィリータは三勝二敗、ユコとミーシャは五連敗という結果になっていた。

 そしてすぐに第二節が始まった。

「はい、次はソニアはミーシャとの試合始めっ」

「待ってよ! なんでまたあたしだけ四試合しかないのよ! リリスは六試合あってずるい!」

「細かいところにぐちぐちとうるさいわね、早くミーシャと試合するのよ」

「ミーシャ疲れたよぉ~」

 ソニアは試合表の不自然さを責めるが、リリスは相手にしない。勝てないミーシャは、すっかりお疲れモードだ。

 ソニアは不満そうな顔をしているが、ミーシャとの勝負を始めた。

 ミーシャは今回も逃げようとするが、ソニアは素早く捕まえて持ち上げる。そして吊り上げたまま円の外へと運んでいった。吊り出しが決まり、ソニアの勝ちで四勝目。リリスに白星配給係にされたミーシャは、これで六連敗。

 次はロザリーン対ユコだ。

 白星配給係の双璧、その片割れであるユコは、この試合でもその能力を遺憾なく発揮して、ロザリーンに組み付かれたまま、円の外へと寄り切られてしまった。ロザリーンも四勝目で、ユコは六連敗。

 そしてリリス対ソフィリータ。

 リリスは連勝を七に伸ばしてソニアたちに差をつけようとする。しかしソフィリータも徐々にハッキョイでの戦い方にも順応していた。

 ソフィリータは、自分の足をリリスの足の外側から絡めて押してみる。リリスはソフィリータに足を引っ掛けられる形で後ろ側に倒れてしまった。いわゆる外掛けという技でソフィリータの勝ち。リリスの連勝は六でストップ、そしてソフィリータも四勝目を挙げた。

 このリーグ戦は、リリスがトップを走り、それをソニアとロザリーンとソフィリータが追いかけ、ユコとミーシャが白星配給係という形に固まりつつあった。

 そして二節目の二戦目が始まる。

 ソニア対ミーシャでは、ソニアは順当にミーシャ銀行でしっかりと白星を貯金して五勝目を挙げた。

 ロザリーン対ユコでも、ロザリーンが同じくユコ銀行で貯金を増やす。

 そしてリリス対ソフィリータ。

 連敗だけは避けたいリリスは、ソフィリータを近づけないように突き押し攻めを仕掛けた。

「ちょっと? 殴るのはルール違反じゃありませんでしたか?」

 ソフィリータは抗議するが、「殴っているのではなくて押しているのよ」と言って、リリスは突き押しを止めない。そこでソフィリータも押し合う作戦に切り替えたが、その瞬間リリスは素早くソフィリータに接近してガッチリと捕まえてしまった。その勢いのまま、ソフィリータを円の外へ押し出す。

 リリスの勝ちで七勝目、ソフィリータは四勝止まりで一歩後退した。

「次はソニアとロザリーンは移動日、私とソフィリータの試合だけよ」

「だから移動日って何よ! どこに移動するのよ!」

「この試合表は、リリスさん有利に作られていますからね」

 ソニアは強く抗議しロザリーンも不審がるが、リリスは知ったことかといった感じでソフィリータとの三試合目を始めた。

 今回は、最初からお互いに突き合う形で始まった。ただ、蹴りがルール違反であることが、ソフィリータにとって馴染みのない戦いにしていた。ソフィリータは格闘技の心得があるが、主に足技が得意で突き技はそれほど得意ではない。

 だが、そこは格闘経験者。ソフィリータはリリスが突いてきた左腕を、自分の小脇に抱え込んだ。リリスは引き離そうと右腕も伸ばすが、ソフィリータはその右腕も小脇に抱えてしまった。いわゆるかんぬきという技で、リリスの動きを封じてしまったわけだ。
 
 リリスはもがくが、ソフィリータはがっちりとつかんだまま離さない。そのままじりじりと押していく。リリスはさらにもがき、なんとか左腕を抜くことに成功した。
              
ハッキョイの試合で、ソフィリータがリリスの背後に回り込んで、円の外へ押し出そうとしている場面
 しかし次の瞬間、ソフィリータは極めていた腕を離すと、素早くリリスの背後に回り込んだ。その動きにリリスはついていけず、そのまま円の外へと押し出されてしまった。

 これでソフィリータの勝ち。五勝目を挙げてソニアとロザリーンに追いつき、リリスは七勝止まりだ。

「これでリリスさんが七勝、私とソニアさんとソフィリータさんが五勝ですね」

「あたし一回しか負けてないのに!」

「勝率ならソニアさんが一番なのですけどねぇ」

「勝率なんて知らないわ、勝った数が多いほうが優勝よ。そして私が二勝リード、くすっ」

 リリスは、ソフィリータに極められて少し痛めた腕をさすりながら、あくまで勝った数にこだわる。勝率なら、確かにロザリーンが言うとおり、ソニアが一番高くなる。

「このルール変!」

 ソニアが文句を言うのもうなずける。しかしさらにソニアを不満にさせる展開が続く。

「さて、ソニアは移動日。私は今度はロザリーンと勝負ね」

「また移動日?! あたし移動日ばっかりじゃない!」

「うるさいわね、ロザリーン勝負よ」

 リリス対ロザリーン。試合表の関係で不利な状況を強いられているソニアを除けば、この組み合わせの結果次第で優勝が誰になるか大きく動くかもしれない。

 現在二勝差。ロザリーンは三連勝で逆転、逆にリリスは一勝でも挙げれば勝った数でまだリードできる。

 ユコの合図で、リリスとロザリーンは円の中央でがっつりと組み合った。体格なら少しばかりロザリーンが大きいが、誤差レベルと言ってよいだろう。

 動きを仕掛けたのはロザリーンのほうだ。力を込めて前へと進み、リリスを寄り切ってしまおうとしたのだ。しかしリリスも考えていた。ロザリーンが押してくるのに抵抗せずにそのまま後退すると、円のふちで組み合ったまま後方に飛び上がったのだった。その結果リリスは宙に浮いたまま、ロザリーンは前進してしまい円から出てしまったのだ。リリスも円から出ているが、先に円の外に足をついてしまったのはロザリーン。勇み足というべきか、リリスの頭脳作戦でリリスの勝ち。

「これで再び三勝差。このリーグ、いただきね。くすっ」

 してやったりのリリスは、首を傾げるロザリーンへいつもの微笑を向けるのだった。

「何よ、リリスなんか負けてしまえばいいのに」

 試合をさせてもらえないソニアは不満たらたらだ。

 今日もソニアは移動日(?)なので、次はユコ対ミーシャである。

「ドベ決定戦ね」

 リリスはそう評するが、ユコとミーシャは共に七連敗中。いわゆる裏天王山といったところか。

 二人とも、すでにこの大会に対する興味をほとんど失っていたが、リリスに促されて無理矢理円の中に送り込まれてしまった。そしてリリスの合図で、事実上最下位決定戦が始まった。

 両者ともにぶつかって組み合い、その瞬間ミーシャはしまった、といった顔をする。ユコ相手でも小柄なミーシャは組み合うと不利だ。

 ユコは「えいっ」と力を込めて持ち上げようとしたところ、ミーシャは簡単に浮き上がった。そして三歩ほど運ぶが、そこでミーシャを下ろしてしまった。疲れたのだろうか?

「戯れにミーシャを担ぎて、そのあまり軽きに泣きて三歩歩まず」

 ロザリーンが、なんだか格言めいたことをつぶやく。

 しかし一度捕まったミーシャは何もできない。再びユコに持ち上げられて数歩運ばれる。それを繰り返し、円の外へと運び出されてしまったのだ。

「もうやだぁ……」

 不満そうな声を上げるミーシャとは対照的に、ユコは「やっと勝てましたの」と、少し肩で息をしながら笑顔を浮かべる。

 しかしリリスは、裏天王山の勝負なんて興味がないといった感じで、次の試合へと淡々と進めていった。

「それじゃあ次は、ソニアとソフィリータの試合よ。よかったね、やっと移動日から解禁よ」

「解禁される移動日って何よ!」

「早く始めなさいよ、後がつかえているのよ」

「むーっ」

 リリスに急かされてソニアは円の中に入り、続いてソフィリータが入る。お互い五勝同士、優勝へ向けてどちらも星を落とせない。ただしソニアは一敗、ソフィリータは三敗である。そこは試合数の差だ。

 九試合目ともなるとソフィリータは試合に慣れ、このルールでの勝ち方もわかってきていた。円の中央で組み合った後、ソフィリータはソニアの股の間に自分の右足を差し込み、ソニアの左足を内側から絡め取ってしまった。そのまま押すと、ソニアは軽く後ろに倒れてしまうのだった。

「何よこのリーグ戦変だからあたしもうやらない!」

 倒れたままソニアは、じたばたともがきながらわめく。それをソフィリータは、困ったような顔をして見下ろしていた。

 この時点でリリスが八勝でトップ、ソフィリータが六勝で追いかけ、次点がソニアとロザリーンの五勝だ。

「さて、大事な試合を続けましょう」

 そして、リリス対ロザリーンの二試合目が始まった。

 リリスは今度もロザリーンを引き込んで、先に足を出させる手に出た。しかし同じ手を二度も食らうロザリーンではなかった。リリスが飛び上がったところで落ち着いて円のふちで一旦止まり、そのままリリスが円の外に着地してしまった。

「やった、ロザリーン勝った、すごーいっ!」

 アンチリリスと化したソニアは、ロザリーンに声援を送る。

「まだもう一本残ってるわ。次早くドベ決定戦続けなさいよ」

 負けてしまったリリスは、忌々しそうにリーグ戦の進行を促すのであった。

「何がドベ決定戦ですの!」

 ユコは憤慨するが、事実だから仕方がない。そしてユコ対ミーシャの二戦目が始まった。

 ミーシャは今度は捕まらないように、勝負開始と共に左側に飛び跳ねて移動する。捕まえようと思ったユコは、突然ミーシャがいなくなったのでその動きについていけず、そのままバランスを崩して前のめりに倒れて自滅してしまった。

 これでミーシャも一勝となり、全敗がいなくなった。ドベ決定戦も何気に盛り上がっている。

「はい、次はソニア対ソフィリータ」

「あたしもうやらない!」

「不戦敗でソフィリータの勝ちね、くすっ」

「何よその不戦敗! ソフィーちゃん、勝負だ!」

 リーグ戦はやりたくなくても、不戦敗にされるのはもっと嫌だ。ソニアはそう考えて円の中へと飛び込んでいった。ソフィリータもそれに続く。そして、ソニア対ソフィリータの二戦目が始まった。
              
ハッキョイの試合で、ソフィリータがあえて抵抗せず、ソニアに押し出される形で勝ちを譲っている場面
 再びがっちりと円の中央で組み合い、ソフィリータは再びソニアの股の間に足を差し込みかけたが、すぐにその足を引っ込めてしまった。そしてソニアの押してくる力に抵抗せず、そのままずるずると下がっていき、あっさりと円から出てしまった。

「さすがソニアお姉様、力が強いですね」

「当然っ!」

 褒めるソフィリータと得意げになるソニア。

 ソフィリータは、胸をなで下ろすほどでもない、ごく小さな息を吐いた。勝ち切ることより、丸く収めることを選んだ顔だった。

 実際のところ、ソフィリータはソニアに簡単に勝つことができた。しかし実力はありながら、うまくあしらって一勝一敗に留めておいたのだ。ソニアを不機嫌にさせて文句を言われるのを避けたのが大きい。

 だが、ソフィリータの意図を読み取った者は、この中には誰もいなかったのである。八百長も気づかれなければ、普通の試合として成立してしまう前例を作ってしまった瞬間だった。

「じゃあ次は私たちの試合よ」

 リリスはそう言って、リリス対ロザリーンの三試合目を始めた。

 三戦目で、ロザリーンは戦法を変えた。今度は組み合わずに、リリスを突き始めたのだ。組み合おうとするリリスを近寄らせないように、肩や胸元を左右交互に手のひらで押し続ける。

「くっ……」

 リリスはなんとか抵抗するが、ロザリーンの運動神経もなかなかのものだ。どっしりと構えてリリスを押し続け、少しずつ前進して追い詰めていった。リリスは横へ避けようとするが、ロザリーンは逃がさなかった。そしてとうとうロザリーンの突き攻撃に耐えられなくなったリリスは、バランスを崩して後ろに倒れて座り込んでしまったのだった。

 ロザリーンが勝ち越したことで、リーグ戦の結果は混戦に近づいた。このリーグ戦、まだまだ最後まで目の離せない展開となりそうだ。

 試合表は歪んでいるのに、勝負のほうは妙に拮抗していた。そのせいで余計に、誰が得をして誰が損をしているのかがややこしくなる。

 

「なんかすげー盛り上がっているな」

「ハッキョイのリーグ戦ってだけであそこまで盛り上がるのか」

 ラムリーザたちは、離れた場所で砂浜に寝そべりながら、この大会を観戦していた。

「ソフィリータって格闘技得意なんだろ? それにしては地味な戦績になっているじゃないか」

「だな、あいつなら全勝しててもおかしくない」

 ジャンとレフトールは、ある程度ソフィリータのことを知っているので今の結果を疑問視していた。

「ソフィリータの得意技は蹴りだからな、慣れていないルールなんだろう」

 ラムリーザは、そう評する。

「しかし戦っているうちに対応できるだろ? 他の奴らは素人だぜ?」

 レフトールはソフィリータの攻撃を知っているので、ソフィリータ推しだ。

「だな、最後のソニアとの一試合は怪しかったな。足を引っ掛けにいってたけど、なんだか戸惑ったかのように引っ込めて、そのまま抵抗せずに押し切られたし」

 ラムリーザは砂浜に寝そべったまま、遠くで得意げに胸を張るソニアと、それに合わせて小さく微笑む妹の姿をじっと見つめた。ただのルールへの戸惑いではない。ソフィリータのあの身のこなしは、明らかに自分の重心を意図的に外していた。

 ラムリーザが「あいつ、まさか……」と顎に手を当てて考え込みかけた、そのときだった。

「でも相変わらずソニアは文句ばっかし言ってるな。移動日がどうのこうのって騒いでいるし」

 ジャンの心底呆れたような声が、ラムリーザの思考の糸をぷつりと断ち切る。

「詳しくはよくわからんけど、またリリスにやり込められているだけだよ。いちいち気にしていたら、きりがない」

 ラムリーザは、ソフィリータへの疑惑を追うのをやめ、再びデッキチェアに深く背中を預けた。

 こうしてぎりぎりのところで、観戦していた側にも、ソフィリータの八百長はばれなかったのである。

 試合表の露骨な不公平ばかりが目立つ分、その裏で行われた小さな譲歩には、まだ誰の目も向いていなかった。