ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


ハッキョイノコリッ! 前編 ~陰謀が仕組まれた試合表~

帝国暦九十三年 盛歌の月・旅人の日(現代暦:七月中旬)

 今日もよい天気、海は穏やか、日差しはキラキラ南国真っ盛り。

 本来ならば週末、ジャンの店でライブをやっているところだが、今日は店を任されているジャンも含めて、南の島でバカンスだ。

 ラムリーザグループは砂浜でのんびり組、リゲルグループはボートで船釣り組、ソニアグループは……何だろう? 同じく砂浜で何かを始めたみたいだ。

 

 リリスの指示で、ソフィリータが砂浜に大きな円を描いていた。円の大きさは、だいたい半径三メートルぐらいだろうか?

 ただ砂浜に円を描いただけなのに、六人がその周りに集まると、それだけで即席の闘技場みたいに見えてくるから不思議だった。

 これから行うのは、ハッキョイという競技らしい。突いたり押したりして円の外へ追い出したり、足を引っ掛けるなどして転ばせたら勝ちというルールのようだ。この競技は、一般的には男性しかやらないのだが、まあ、なんとなく面白そうだからやってみようという話になったらしい。

 そこで女性陣六人、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーン、ソフィリータ、ミーシャで、総当たりリーグ戦をすることになった。

 最初はトーナメント戦にしようかという話になったのだが、ソニアがユコやミーシャと同じブロックに入った人が有利で不公平だ、などと言い出したので総当たり戦となったのだ。もちろん勝手に不公平扱いされたユコやミーシャは不満を言ったが、前者は運動が苦手、後者は小柄すぎるので、ソニアに勝手にそういうイメージを持たれているのであった。

「それじゃあ私が試合表を書いてくるから、戦いの場所を整地していてね」

 リリスは一人、コテージへと戻っていった。


 その様子を離れた位置からラムリーザたちは眺めていた。

「ハッキョイか、プロレスのほうが面白そうだよな」

 そう言ったのはジャンである。そして「あいつらの横でプロレスやってみるか?」と提案した。

「プロレス? 俺は蹴るだけだぞ、熱き蹴撃手とでも呼んでくれ」

 レフトールは、勝手に自分の二つ名を名乗っている。

「鉄の爪ラムリーザはクローだけだな、捕まえたらラムリィの勝ち、離れて戦えばレフトールの勝ちだな」

 ジャンはそう評する。この二人は実際にガチで戦ったことがあるのだが。

「逃げてばかりいると塩扱いされるぞ?」

 ラムリーザの言葉にレフトールは、「セメントでもええやん」とか言っている。

「プロレスは物語を作ってからやらないとな。俺がヒーローになる展開で」

「ラムさんにどうやって勝つん?」

 レフトールは意地悪っぽい目つきでジャンを見据えながら、鼻で笑うように言った。

「油断したところを丸め込む」

「地味やのぉ」

「クローも地味だ」

「お前は食らったことがないからそう言えるんだ」

 ラムリーザの本気クローを食らったことのあるレフトールは、ジャンがラムリーザのクローを低評価しているのが気に入らなかった。

「それじゃあタッグマッチ、ラムリィと俺が組むから、そっちはレフトール、マックスウェル組で」

「君とマックスウェルが負け役?」

 ラムリーザのツッコミに、ジャンは「負け役言うな」と、マックスウェルは「俺は負けないんだな」と反論した。

「プロレスやるなら、俺は蹴りでラリアットを打ってやるぜ、まるで稲妻のように一蹴してやる」

「じゃあ僕は、アイアンクローとストマッククローを同時に仕掛けてあげよう」

「あれはもうごめんだ」

 レフトールは、ラムリーザにつかまれることだけはもうこりごりなようだった。

 

 しばらくして、リリスはコテージから戻ってきた。手には一枚の紙とペンを持っている。どうやら試合表が完成したようだ。
              
リリスが不敵な笑みを浮かべながら、試合数に差のあるハッキョイの試合表をソニアたちに示している場面
 試合表を広げるリリスの顔には、最初から答えを知っている者だけが浮かべる種類の笑みがあった。細められた瞳の奥で、自分の完全勝利を確信したような、いたずらっぽい光が揺れている。

 ソニアたちはリリスのもとに集まり、試合表を覗き込んだ。そしてすぐに、ソニアは不思議そうに尋ねた。

「なんであたしだけ試合数が少ないの?」

「プロのだまの日程表も、時々こうなっていることがあるわ」

 リリスは、なんだか細かいところまで知っている。しかし、このような試合表にした意図はいったい何なのか。

「あたしは四試合しかないのに、リリスは六試合もするのは変。なんで試合数をずらすの?」

 ソニアは食って掛かるが、リリスは微笑を浮かべたまま何も答えない。

「ソニアさんが四勝ゼロ敗で、リリスさんが五勝一敗なら、勝った数が少なくてもソニアさんのほうが勝率は高くなりますよ」

 ロザリーンは、素早く計算してそのように説明した。

「それじゃあ負けなければあたしが有利なの?」

 そこでようやくリリスが口を開いた。

「いいえ、勝率なんて知らないわ。単純に勝った数で勝負、勝ちが多いほうが勝ちよ」

 それにソニアが納得できないのは当然だ。

「何よそれ! あたしだけ不利でリリスだけ有利、ずるい!」

「うるさいわね、実際にプロのだまの日程でこうなっていることもあるんだから文句言わない。ほら最初はソニア対ユコからスタート!」

 リリスはソニアの不満には耳を貸さず、強引にリーグ戦を始めてしまった。ソニア以外は、真面目な大会だとは思っていなかったので、多少おかしくても流されてしまった。

「むー……」

 ソニアはまだ不満そうだが、リリスに押し切られる形で砂浜に描いた円の中に入った。ユコも続いて円に入る。

「殴ったり蹴ったりするのは反則、押し出すか転ばせるかどちらかで決着をつけるのよ。それでは試合開始! ハッキョイノコリッ!」

 リリスの合図で、ソニアとユコは円の中でぶつかった。ユコはソニアの胸元に手を伸ばすが、ソニアは素早く横にかわすと、そのままユコを横から強く押す。バランスを崩したユコは、ふらふらと円の外へ追いやられ、そのまま倒れてしまった。ソニアの勝ち。

「次は私ね、ミーシャおいで」

 リリスはミーシャを怪しげな微笑で円に招き入れる。

 ロザリーンの「ハッキョイノコリッ!」の合図で、リリス対ミーシャが始まった。この掛け声が、ハッキョイという競技で試合を始めるときの合図であり、競技名の由来にもなっていた。

 リリスは小柄なミーシャを、簡単に円の外へと突き出してしまった。リリスの勝ち。

 次はロザリーン対ソフィリータだ。格闘技の心得のあるソフィリータだが、殴りや蹴りをルール違反にされたら手足を縛られた上で戦いを強いられるようなものだ。

 そういうわけで、ソフィリータにもそれほど有利に働くわけではない。一進一退の押し合いの末、ロザリーンの勝ち。

「では二試合目いくよ」

 リリスは再びソニア対ユコを促した。今回は組み合った後でソニアが少し力を入れただけで、ユコは後ろに押し倒されてしまった。ソニアの予測どおり、ユコは運動が苦手で弱い。ソニアの二連勝。

 リリス対ミーシャの二試合目も、体格差でリリスが押し切り、ミーシャを円の外へと押し出してしまった。

 ロザリーン対ソフィリータの二試合目は、今度はソフィリータがロザリーンの一瞬の隙を突いて転がしてしまう。今度はソフィリータの勝ちだ。

「次は三試合目、ソニアとユコは移動日でお休みね」

「何それ! 移動日って何よ!」

「休ませてもらいますの」

 試合をなくされて憤慨するソニアと、これ幸いと休むユコであった。

 三試合目も、リリスはミーシャを円の外へと突き出してしまう。技術がないぶん、体格差がそのまま勝負結果に出てしまうよい例である。

 ロザリーン対ソフィリータの三試合目は、ソフィリータが体当たりを仕掛けたところをロザリーンが左にかわし、すかさず上から背中をはたいたのだ。その結果ソフィリータは、前のめりに倒れてしまった。ロザリーンの勝ち。

「どんどんいくよ、次は四試合目ね」

「あたし二試合しかしてない!」

 ソニアは文句を言うが、リリスはそれを完全にスルーして競技を進めていった。

「えーと、ソニアは移動日。ユコ勝負よ、いらっしゃい」

 リリスはユコを、砂浜に描いた円の中に招き入れる。

「ちょっと待ってよ! なんであたしまた移動日なのよ! 二日も連続で移動日なんて要らない!」

「うるさいわね。ロザリーン、合図お願い」

 そういうわけで、リリス対ユコの試合が始まった。

 リリスは、ユコの腰を抱えて担ぎ上げると、そのまま円の外へと運び出してしまった。リリスの勝ち。

「えっと、ミーシャ対ソフィリータも移動日ね。それじゃあ五試合目始めるわ、ソニアあなたの相手はロザリーンよ。ハッキョイノコリッ!」

 今度はリリスの合図で、ソニア対ロザリーンが始まった。

 二人は円の中央部分でがっちりと組み合った。力は拮抗しているようだ。しかし徐々にソニアが押していく。ロザリーンはジリジリと円のふちまで追いやられ、そのまま外に押し出されてしまうかに見えた。しかし円のふちギリギリで、ロザリーンは腰を落とし、ばねを利かせてソニアの身体を少し浮かせると、そのままロザリーンは右に身体を捻った。ソニアは突然のロザリーンの動きに対応できず、円の外へと転がり出てしまった。ロザリーンの勝ち。

 次はソフィリータ対ミーシャだ。

 ミーシャは「やあ、とお」と手を振り回すが、ソフィリータは素早くその間にもぐりこんでミーシャの身体を捕まえてしまった。こうなったら小柄なミーシャは円の外へと運び出されるしかない。ソフィリータの勝ち。

 そしてリリス対ユコ再び。

 おろおろするユコを、そのまま円の外に押し出してリリスの勝ち。

「さてソニアは移動日よ」

「また?! なんでよ!」

「冗談よ、ロザリーンと二戦目どうぞ」

 リリスの書いた試合表では、一人の相手と二、三試合することになっていた。ただし、リリスは各相手と三試合ずつやるが、ソニアは各相手と二試合ずつである。

 ソニア対ロザリーンの二試合目。

 今度はソニアが最初から全力でロザリーンを押し出しにかかる。ロザリーンは再び身体を捻ってソニアを転ばそうとしたが、今度はソニアも逃がさないようにロザリーンをしっかりと捕まえていた。ロザリーンは足をもつれさせて、ソニアに押し倒される形で仰向けにひっくり返ってしまった。ソニアの勝ち。

「五キロの差がそのまま出たわね、くすっ」

「何が五キロよ!」

「あ、百三のLだから、今は六キロぐらいあるかしら? ソニアはおっぱいだけで四階級ぐらい飛び越えるからね」

「リリスは胸がないからまるでまな板みたい」

 リリスの言い分は見た目をからかっているだけだが、ソニアの言い分はただの感情論である。リリスの胸は、全然まな板ではない。

 ソニアとリリスが実りのない言い合いをしている中、ソフィリータ対ミーシャの二試合目が始まっていた。

 ミーシャは最初から組み合うことは避けて、円の中を逃げ回る。結果的にそれは、ソフィリータの周囲をぐるぐると回る行動につながっていた。

「ルパインアタックとはやるじゃないの」

 ソフィリータは、冷静にミーシャの動きに注目する。もちろんミーシャにそんな必殺技はない。捕まったら負けるので動き回っているだけだ。無駄に動き回っていると言っても過言ではないだろう。

 走り回るミーシャだが、ソフィリータには近寄ってこない。ソフィリータは、タイミングを見計らって、ミーシャの走る先へ足を伸ばしてみた。ミーシャは足を引っ掛けられて転倒。ころころと円の外まで転がっていき、ソフィリータの勝ち。

「リリス、私の不戦勝でいいんですの?」

 次に試合をするユコは、ソニアと言い合いをしているリリスに声をかける。

 リリスは「あ、とんでもない」と言って、ソニアの前からさっさと立ち去って円の中へと入っていった。

 リリス対ユコの三試合目は、今度は組み合いになったが、ユコはそのまま円の外へと寄り切られてしまった。リリスの勝ち。
              
マトゥール島の砂浜で、リリスが一節目の勝敗表を示し、ソニアが不満を訴えている場面
「これで一節目が終わったわけね、おつかれさん」

 リリスは、現時点での勝敗表を試合表の隅に書き始めた。

「面白くないですの」

 五連敗のユコは、砂浜に座り込んで足を投げ出して言い捨てた。

「ミーシャ疲れたの」

 同じく五連敗のミーシャもぼやく。先ほどのソフィリータ戦で無駄に走り回ったせいで、少し息が上がっているようだ。

「白星配給係も必要よ。さて、一節目の結果、ソニアは三勝一敗、ロザリーンとソフィリータは三勝二敗、ユコとミーシャは五連敗、そして私は六連勝ね。くすっ」

 リリスは、ユコとミーシャを白星配給係に仕立て上げ、現在の勝敗表を伝えた。

「私とソニアさんとソフィリータさんが三勝で並び、リリスさん一人がぶっちぎりですか……」

 その結果を聞いて、ロザリーンはそう答えた。

「何よそれ! リリスずるい!」

「まだ始まったばかりよ」

 ソニアは憤慨するが、リリスはさらっと受け流してリーグ戦の続きを進めるように促したのである。

 試合数を細工された不公平な一節目とはいえ、ここまで来ればもう後戻りはできない。

 戦いは、まだ始まったばかりだ。