ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
すいかわり
帝国暦九十三年 盛歌の月・学匠の日(現代暦:七月中旬)
マトゥール島での二日目のキャンプ生活。昼食後はラムリアースの持ってきたスイカをデザートに頂こうという話になった。朝のうちから近くを流れる小さな川に沈めてあったそうで、いい具合に冷えているようだ。
日差しはまだ強く、砂浜の熱も残っている。そんな中で冷えたスイカだけがやけに魅力的に見えた。
ロザリーンが早速切り分けようとしたところ、ジャンの提案でスイカ割りをしようということになった。
スイカ割りとは簡単な遊びで、地面に置いたスイカを目隠しした状態で、周囲の誘導で探し当てて棒で叩いて割る。ただそれだけのルールであった。
スイカが割れた際に砂が付着しないようシートを敷き、棒は海岸に落ちていた手ごろな大きさのものを拾ってきて準備は完了した。
一番手は、棒を拾ってきたソニアのようだ。拾ってきてから棒を手放そうとしない。
「スイカが三つに増えたわ!」
リリスが驚いたような声をあげた。「なんで?」と言う皆に、リリスは怪しげな笑みを浮かべて答えた。
「Lサイズのスイカが砂浜に一つ、ソニアの胸に二つ」
「だまれちっぱい!」
ソニアは棒を振り上げてリリスに襲いかかる。
「こらっ、狙うのはスイカだ。その前に目隠ししろ」
「やだっ! リリスの頭割りに変更する!」
しかしリリスは逃げ出し、ソニアはラムリーザに後ろから抱え込まれて、騒動は終結した。
改めて競技開始。どこか不機嫌そうなソニアに目隠しをして、スイカへと向かわせる。
「もうちょっと右、そこから前進」
ラムリーザの指示で、ソニアはそろそろと動き出す。
「よし、そこで振り下ろす」
「スイカおっぱいお化け」
ラムリーザの指示にかぶせるように、リリスは再び要らないことを言った。その一言に動揺したソニアは、手元が大きくぶれて空振りに終わってしまった。
二番手はミーシャが主張した。どうも先陣ソニア、二番手ミーシャの組み合わせが多い気がする。
「ミーシャね、心眼を会得しているから目隠しされても意味がないよ」
などと言っているが、本当かどうかはさておき、同じように目隠ししてスタートラインに立った。
「俺が指示する」
指示役もラムリーザからリゲルに代わった。先ほどと同じように指示を出し、ミーシャをうまくコントロールしている。
「そこだ。いや、半歩下がれ」
ミーシャのリーチと棒の長さを考慮して、微調整を加えている。そして場所が決定すると、ミーシャは勢いよく棒を振り下ろした。
「えいっ」
ポコン。
やけに軽い音が響いた。
ミーシャの振り下ろした棒は、確かにスイカに命中した。しかしスイカは何事もなかったかのようにそこに鎮座していた。
リゲルもこれには「むむ……」と唸るしかない。指示も行動も的確だったが、あまりにも非力だった。
「貧弱なんだよ、媚々ちゃんは」
レフトールは、目隠しを外して割れていないスイカを不思議そうに見つめるミーシャから棒を奪い、三番手に名乗り出たのだった。
「こんなの蹴っ飛ばしてやんよ」
「蹴るな、その前に目隠ししろ」
引き続きリゲルが指示を出す。しかしレフトールは、リゲルの指示通りにうまく動けない。あっちへふらふら、こっちへふらふら、威勢だけはよかったが目隠しをした状態で平衡感覚を保つのは苦手なようだった。
それでもなんとかスイカのそばまで誘導でき、リゲルは「そこで振り下ろせ」と言った。
「うりやぁぁ!」
バキッ!
やたらと乾いた音が響き渡った。
見事に真っ二つに割れていた。棒が。
「おしいな、少しずれていたね」
「力だけは十分だったけど、まっすぐに振り下ろせなかったから地面を叩いたんだ」
「ミーシャとレフトールを、足して二で割ったらちょうどいいのにな」
「混ぜるな気色悪い」
リゲルは、ミーシャにレフトールの要素が混じることを拒んだ。
「そうよ、混ぜたら役立たずになるから。シスターと盗賊を混ぜた魔女は役立たず」
なぜかリリスのほうを見ながら、謎理論を繰り出してくるソニア。
そこにラムリアースは、倉庫から棍棒を持ってきた。
「これなら失敗しても折れることはないと思う。だけど手首を傷めるかもしれないからほどほどにな」
「棍棒ね、最初に選ぶ武器としては妥当なところね」
リリスはゲームの話をしているのだろうか。
「リリスは竹竿を選んだらいいのよ」
「ダメよ、棍棒なら一撃で倒せるかもしれないけど、竹竿だと一撃は無理だわ」
「リリスは初期のちから4、すばやさ4、でもHPとMPの伸びが悪い」
「ソニアは初期のちからとすばやさが3しかないひ弱。伸びも悪いから弱いわ、くすっ」
「でもあたしは最終的にHPとMPが200超える!」
「私はあなたよりちからとすばやさが15ぐらい多くなるわ」
ソニアとリリスの間で、二人にしか通じない問答が繰り広げられていた。
その間に、次はロザリーンが挑戦していた。リゲルの指示で動いている。これで終わりかな?
しかしロザリーンの振り下ろした棒は、スイカの側面を少しだけ削って転がしただけだった。
「惜しいな、あと十センチ左に寄ってたらクリアだったのに」
ロザリーンの次は、マックスウェルの挑戦となった。
「よし、マックなら俺が指示してやる。まずは前進!」
指示を送っているのはレフトール。うまくいくのだろうか?
マックスウェルは、レフトールの指示でのそのそと動き出す。
「三歩前に――」
レフトールにしては、具体的な指示を出している。
「五歩右に――」
マックスウェルは、波打ち際側に五歩進んだ。
「六歩上がり!」
そこにソニアが邪魔をしてくる。
「んあ? 上って何だー?」
上と言われてもどう動けばよいのかわからないマックスウェルは、困惑している。
「七歩は苦痛のために――」
次に口を挟んできたのはリリスだ。どうやらソニアとリリスの問答は終わっていたようだ。しかしマックスウェルの頭上に、まるでハテナマークが浮かんでいるようだった。
「八歩は子供を泣かせ――」
リリスは指示を続ける。指示になっているのかどうかわらないが……。
「九歩で心眼が見開く!」
その場の雰囲気に悪乗りしたミーシャがそれに続いた。
「おーい、まじめにやってほしいんだな」
マックスウェルは不満そうに――いや、口調からはそう感じ取れない。いつもどおりのんびりとした口調だ。
「十歩は蟲の王の憤怒を印し――」
リリスは調子に乗って、予言めいたことを言い出した。すでにマックスウェルは、目隠しを外して棒を投げ捨てていた。
「十一歩は門を抜ける、焼け焦げた――むーっ、むーっ」
ソニアは何かを言いかけたが、ラムリーザに後ろから抱えられて口を塞がれてしまった。
「というわけで、今度は私がやるわ」
「おー、リリスがんばれー」
次の挑戦者リリスに、ジャンが声援を送る。
「あたしが誘導する!」
「上とかはなしよ」
「わかってるって、では始めるよっ! 右に進んで!」
目隠しをしたリリスは、棒を握り締めて右と思える方向にそろりそろりと動き出した。
「右向けー、左っ!」
「ちょっとなにそれ? どっちかしら?」
「あっ、右」
リリスはその場所で右を向く。しかしその様子に、ソニア以外は首をかしげることになった。
ソニアがリリスを向かせた方向にはスイカはなく、少し歩けば波打ち際になっていてその先には広い海がある。
「そのままー、前進っ」
そこでラムリーザは「あっ」と小さくつぶやいた。ソニアの意図がすべて読めてしまったのだ。
しかし少し遅かったようだ。
ソニアは、波打ち際までリリスを誘導すると、そのまま後ろから体当たりをぶちかましてしまった。
目隠しをしているために完全に無防備となっていたリリスは、「ひぃっ!」と甲高い悲鳴をあげて、そのまま前のめりに海へとダイブしてしまった。
波打ち際だから沈むほど水深はないが、リリスは海水で濡れた砂まみれになってしまった。
「ちょっとなにすんのよこの風船女!」
リリスは目隠しを外してソニアを睨みつけるが、ソニアはリリスのほうを向き、不思議な踊りを踊りながら後退していった。
「まったく、あの二人がいたらふざけてばかりでゲームが進まないなぁ」
そう言いながら、波打ち際にぷかぷかと浮かんでいる棒を拾い上げたユグドラシルが、次の挑戦者となった。
ユグドラシルは、ロザリーンの案内でふらふら動き出した。スイカの脇にジャンが待っていて、誘導をしている。
しかしユグドラシルの振り下ろした棒はスイカを外れ、そばで待っていたジャンのほうへ振り下ろされる。ジャンはすかさず白刃取りで受け止めて、「選手交代」と言ってユグドラシルから棒を受け取った。
「おーいリリス、誘導してくれ」
ジャンは振り返ってリリスに頼もうとしたが、リリスは現在ソニアを追いかけることに夢中で砂浜を走り回っている。
がっかりしたジャンはテンションが下がり、適当に砂浜を叩いて終わりになってしまった。
「みんな情けないですの」
そう言って、今度はユコが挑戦することになった。
しかしスイカの近くまで行ったものの、棒を振り上げた勢いでユコは仰向けに転倒してしまった。ダメだこりゃ、一番情けない。
「どいつもこいつもヘタクソやなぁ」
ラムリアースは、なかなかスイカが割れないのでぼやいている。
次に挑戦することになったのはソフィリータ。さすがにここで終わるかな? ソフィリータも「私で終わらせます」などと意気込んでいる。
ラムリーザの誘導で、ゲームは始まった。
「よし、三歩右。前進――前進――」
そこにリリスに追い回されているソニアが、あろうことかスイカ割り会場に乱入。ソフィリータと衝突することはなかったが、前に構えられていた棒に横からぶつかり、ソフィリータはその勢いで九十度横に回転してしまった。
「なっ、何ですか?」
「あっ、ごめん」
ソニアはとっさに謝ったが、ソフィリータに気をとられた瞬間、リリスに捕まってしまった。
「あっ、離せっ――むーっ、むーっ」
リリスはソニアを捕まえたまま、口を塞いで声を出せなくしてしまった。
「ソフィリータ、少し左を向いて」
リリスの誘導でゲームは再開された――かに見えた。
「そのまま二歩前進するのよ」
この誘導内容では、スイカから離れてしまう。逆に、ソフィリータはソニアを捕まえているリリスの方向へ近づいた。
「むーっ、むーっ!」
口を塞がれて、ソニアは喉の奥で呻くしかできない。
「あっ、いかん」
ラムリーザは、リリスの意図に気がついたが遅かった。
「そこよ、振り下ろして!」
リリスは大きな声でそう言うと、ソニアを離して横へ転がって逃げた。すかさずソフィリータは、一切のためらいなく鋭い踏み込みと共に棒を振り下ろす。
ボコッと鈍い音がして、取り残されたソニアの頭に棒が命中。
「ふえぇっ!」
頭を抱えてしゃがみこむソニア。意図しない手応えに驚いたソフィリータは目隠しを外したが、目の前には悶絶するソニアがいるだけ。
「ええっ? 何でですか?! ごっ、ごめんなさいっ!」
ソフィリータは慌てふためいて謝るが、悪いのはリリスである。リリスがソフィリータを誘導して、スイカの代わりにソニアの頭を叩かせたのだった。
「真面目にやれっ」
リゲルはソフィリータから棒を奪って、今度こそ終わらせる勢いで乗り出した。
「案内役はミーシャがやるーっ」
ロザリーンが案内するかと思われたが、そこにミーシャが割り込んできた。大丈夫だろうか?
こうしてリゲルの挑戦が始まった。
「ん~とね、ん~とね、前」
リゲルは一歩前進する。
「ん~とね、ん~とね、二歩左」
終始この調子で誘導をするミーシャ。時間がかかるったらありゃしない。
「これは日が暮れるぞ」
ラムリアースはぼやくが、リゲルは普通にミーシャの誘導を楽しんでいるようでもあった。
レフトールは「割れたら呼んでくれ」と言い残して、マックスウェルを引き連れて岩場のほうへと行ってしまった。
そして散々待たされた挙句、リゲルの棒もスイカをかすっただけで終わってしまったのであった。
「もうラムリーザお前がやれ、お前が失敗したらスイカ割りは失敗。このスイカは没収して俺は帰る」
ラムリアースは、ラムリーザで最後にする旨を伝えた。ちょうど最後にラムリーザが残ったところだった。
「ちょっと待って、没収は酷い!」
叩かれた頭をさすりながら、ソニアは抗議の声を挙げる。ミーシャやユコもぶーぶー文句を言い出した。
「わかったわかった、包丁取ってくるから待ってろよ」
ラムリアースは倉庫のほうへと行き、ラムリーザは目隠しをして準備完了。
「あたしが誘導するっ、右上!」
「何が右上だ、お前はすっこんでろ」
リゲルはソニアを押しのけて、誘導役を引き受けた。ソニアはなぜかやたらと上へと行かせたがる。
「よし、立ち位置はそこでいいだろう。あとは角度な」
ラムリーザをスイカの前まで誘導したリゲルは、最後の仕上げに取りかかった。
「少し左に向け――まて、行きすぎ。ちょっと戻れ。そこで待てよ」
リゲルはスイカのそばに近寄り、ラムリーザとスイカの位置取りを慎重に計ってみる。棒の先端から二十センチほど下あたりが、振り下ろしたときにスイカに命中するよう微調整する。
「五センチほど下がれ」
指示も細かい。これでラストと言われているから慎重だ。周囲も静まり返り、皆が固唾を呑んで見守っている。
リゲルは何度か棒とスイカの間の空を指で往復した後、ようやく「ここで振り下ろせ」と言った。
さあ、命中するか?
ラムリーザは思いっきり棒を振り下ろした。
グシャアッ! ――と派手な音がして、その直後周囲から小さく「あっ――」と、感嘆ではなく驚きに近い声が上がった。
「当たったぞ、やったか?」
ラムリーザはそばにいるリゲルが何も答えないので、目隠しを取って確認した。
そこには、無残にも砕け散ったスイカの姿が――。
綺麗に割れるどころか、原形すら残らなかった。さすがにその場の誰もが、一瞬だけ言葉を失うしかなかった。
「力入れすぎだ馬鹿」
リゲルはぼそっとつぶやいて、スイカの残骸から少し離れていった。
包丁を持って戻ってきたラムリアースも「なんじゃこりゃあ?!」などと言っている。
散々時間をかけて手に入ったのは、粉々に砕け散ったスイカだけであった。
ラムリーザはかけらを拾って食べようとしたが、一つ一つが小さかった。
「えーと、まぁなんとかしろ」
ラムリアースはそれだけ言って、本館のほうへ戻っていってしまった。
ジャンはスイカの残骸のそばに来て手を伸ばしたが、「これじゃあ食べられないじゃん」と言って諦めてしまった。
「あたしは食べるよ」
ソニアは小さく砕けたかけらを一つ一つ摘んでは口へ運んでいる。
「あっ、ずるい。ミーシャも食べるー」
ミーシャも続き、リリスやユコも群がるが、なにぶん大半はシートから飛び出して砂と混ざっているので、食べられる部分は少ない。
「まるでゾンビが死肉に群がっているみたいだな」
夕日に照らされて赤くなった砂浜で、可愛いゾンビの群れがむしゃむしゃと果肉に群がっている。
こうしてスイカ割り大会は、悲惨な結末を迎えて終了してしまった。
まともな大会にはならなかったが、誰がどんなふうに失敗するかまで含めて、いかにもこの面々らしいスイカ割りではあった。
過ぎたるは及ばざるがごとし、何事もほどほどに。