ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


マトゥール島でのキャンプ一日目 ~遊びと準備と部屋割りと~

帝国暦九十三年 盛歌の月・騎士の日(現代暦:七月中旬)

 海賊の親分、もとい、副管理人メナードの案内で、船はマトゥール島の港へ進んでいった。

 島からやってきた二隻のうち、今も同行しているのは一隻のみ。ラムリーザたちと海賊ごっこをやったほうの船は、現在後始末中だった。海上に漂う砲弾、もといゴム鞠などの回収。海は綺麗にしなければならない。

 昼食まではまだしばらく時間があり、それまでは自由時間となった。

 白い砂浜と、その奥に広がる濃い緑。海の青さだけでなく、島の匂いまで急に近づいた気がした。船の上とは違う、ちゃんと地面のある南の島である。

 上陸した一同は、思い思いに島での時間を過ごし始めた。

 足の指の間に入り込んでくる砂は、驚くほど細かくて温かい。どこまでも透明なエメラルドグリーンの波が、白い泡を立てては寄せて返し、南国の太陽を浴びてキラキラと宝石のように輝いていた。
              
マトゥール島の白い砂浜で、ソニアが海へ飛び込み、ミーシャやソフィリータたちが後に続いて遊び始めている場面
 ソニアは「海だー」などと叫びながら、砂浜を走り抜けて海へ飛び込んでいった。それにミーシャとソフィリータが続き、リリス、ユコ、ロザリーンも後に続いた。昨日も沖で泳いだばかりなのに、ソニアはまだ海が珍しくてはしゃいでいるらしい。

 ラムリーザはマックスウェルと並んで砂浜に横たわり、のんびりとしている。特別に気が合っているわけでもなく、会話が弾んでいるわけでもない。どちらかと言えば、のんびり屋の二人だ。一人でいるよりは二人、というわけでもないが、こうしてぼんやりと過ごすのだった。

 リゲルは島に着いても、また釣りの準備を始めている。本気で釣りが好きなようだ。そこにユグドラシルが参加しようとしている。

 こうした普段とは違う組み合わせで過ごすのも、キャンプならではの出来事だ。

 一方、ジャンはリリス目当てで、女性陣に混ざり込んで海で遊んでいる。

 しかしレフトールの姿がない。いったいどこに行ってしまったのだろうか。

 

 昼前、そろそろ昼食かな、という時間になった頃、海岸脇の森からラムリアースとレフトールが現れた。二人とも、長さ八十センチ、太さ十センチほどの角材を何本か運んでいる。ラムリーザは、立ち上がるとラムリアースのそばへ向かった。

「何その角材、どうするの?」

「どっかの夜にキャンプファイヤーをやるのは定番だろ? その準備を先に済ませておこうかなってね」

 ラムリアースは、角材を軽々と運びながら答えた。

「それで、レフトールは?」

「お前を傷つけたから――というのは冗談で、今回のメンバーの中で一番力がありそうに見えたから」

「ラム兄さん、俺よりラムさんのほうが力は強いっすよ?」

「ほう、そうか。さすがだな、お前も手伝え、昼食前に運べるだけ運んでおくぞ」

「わかったよ」

「こらぁ、マックスウェル! お前もこっちゃー来いっ」

 レフトールに呼ばれて、ラムリーザと並んで寝ていたマックスウェルも、雑用に駆り出されてしまった。

 こうしてラムリーザたちの島での生活は、重労働から始まってしまったのである。

 

 一方、波打ち際では、泳ぎ疲れたのか早くも休憩モードだ。ソニアたちは、膝より浅い場所に並んで座って雑談中。

「私たちの他に誰もいませんの。これがプライベートビーチってのですね。お金持ちはやっぱり違うんですのね」

「えっへん」

 ユコの感嘆に、なぜか得意げになるソニア。

「ソニアは金持ちじゃないけどね、くすっ」

「うるさいっ、ラムのものはあたしのもの、あたしのものもあたしのもの」

 今度はリリスにからかわれ、強引な持論を展開する。

「あなたのものじゃなくて、ソフィリータのものじゃないのかしら?」

「ソフィーちゃんはあたしの味方だよね?!」

 ソニアは、ソフィリータを強引に味方に引き込もうとするが、「えっ、ええ……?」と戸惑わせてしまうだけだった。

 そこに、近くの岩場を探っていたミーシャが戻ってきた。

「ねぇ、ミーシャ、サザエ見つけたよ。リゲルおにーやんが教えてくれたけど、これ食べられるからみんなで集めようよ」

「やだ、それ苦い」

 ソニアは、昨日海底から見つけてきたサザエを食べているが、あまりお気に召さなかったようだ。しかし、ソニア以外のメンバーは、次はサザエ探しをすることに決めてしまった。仕方ないので、ソニアも岩場に行ったり、深い場所で素潜りをしたりし始めた。

「ソニアはおっぱいがエルで浮き袋になるから潜りにくい」

 すぐにからかってくるリリス。それにソニアは反論するから収拾がつかなくなる。

「リリスは胸が錘になって沈む」

「重くないわ。重いのは水から出た後のそのエル饅頭」

 六人でがんばって集めた結果、かなり多くのサザエを手に入れたのだった。ソニアは一人、不満そうな顔をしていた。昼食のメニューに、サザエのつぼ焼きが再び加わりそうである。

 

 しばらくして昼食時間。

 食材は昨日と同じく、サメの肉とサザエとリゲルの釣った魚。早いうちにサメの肉を消費しておこうというわけで、同じような料理が続いている。

「まぁこのほうが、食堂で食べるよりもいかにもキャンプって感じだね」

 ラムリーザは、普段と違う雰囲気を楽しんでいた。こんなワイルドな食事は、普段は絶対出てこない。

「私たちのほかに誰もいないプライベートビーチっていうのもいいですの」

 ユコは、プライベートビーチがよっぽど気に入ったようだ。

「違う」

 しかしラムリアースは短く否定する。

「ビーチだけではない、島自体がフォレスター家のもの。プライベート・アイランドだ」

 それを聞いて、再びなぜか得意そうな表情になるソニア。彼女にとっては、フォレスター家の所有物は自分のものでもあるらしい。

「規模がでかすぎるよ」

 ユグドラシルはそう漏らすが、ほとんどの者がそう考えるのであった。

「じゃあ言い換えて、無人島キャンプ、すごいですの」

「違う」

 今度はレフトールが短く返答した。

「ここには俺がいる、そしてお前らがいる。よって、ここは無人島ではない!」

 どや顔でポーズを決めて言い放つが、ユコたちの冷めた視線が突き刺さる。

「レフトールつまんない」

「うるさいおっぱいちゃん!」

 ソニアとレフトールの一悶着があるかと思われたが、ラムリアースは「確かにここは無人島ではないな、一応住民――島民は住んでいる」と説明した。

 島の南側は居住区にはなっていなくて人も少なく、フォレスター家の別荘があるぐらいだが、島の北側にはある程度の規模の町があるのだ。

「そういえば、ラムリアースさんと話すのは今回が初めてですね」

 ロザリーンに話しかけられ、ラムリアースは「なんでも質問してね」と答えた。

「彼女いるのー?」

 真っ先に質問したのはミーシャだった。

 ラムリアースはただ一言、「たわけ」と答えておいた。しかしミーシャは、「たわけさんが彼女なんだー」などと返してくるので、ラムリアースはわざわざ説明するハメになってしまったのであった。

 

 昼食が終われば、再び午前中と同じグループに分かれて行動することになった。ラムリーザたちはいろいろと準備で走り回り、リゲルたちは再び釣りへ。ソニアたちは今度はビーチバレーで遊び始めた。

「喧嘩するなよ、おっぱい攻めるなよ」

 ラムリーザは、去年の海での出来事を覚えていたので、念入りに注意しておくのだった。

 ………
 ……
 …

 夕方、太陽が西に沈み始めた頃、ラムリアースは宿舎について説明するため、一同を岩場の陰に集めた。

「暗くなる前に、部屋を割り振りしておく。これから船に積んだままの荷物を、宿舎の入り口まで運ぶ。さあ行こう」

 一同は港に戻り、船からそれぞれ自分の荷物を持ち出す。そしてラムリアースの案内で、北の海岸沿いを少し歩いた。しばらく歩くと、白い家が数軒並んでいるのが目に入る。

「この島での君たちの住居はあそこのコテージになる。えっと、十二人だったかな。二人か三人ずつに分かれてもらえば、全員入れると思う。じゃあラムリーザ、後は任せたぞ。俺は母屋の屋敷に戻るからな。あ、そうそう。サメはもうなくなったから、今日の夕食は屋敷の食堂だ。部屋割りが決まったら食堂に集合な」

 そう言って、ラムリアースはラキアと共に両親の泊まる母屋へ帰っていった。

 どのコテージも簡素だが、海辺の別荘らしい明るさがある。しばらくの間ここが自分たちの拠点になるのだと思うと、ようやく旅が一段落したような気分になる。

「よし決めよう」

 ラムリアースがいなくなってから仕切りだしたのはジャンだ。

「ラムリーザはソニアと二人部屋、ソフィリータはミーシャと、リゲルはロザリーンと、ユコはレフトールと、俺はリリスと泊まるからそれぞれ部屋に向かおう」

「ちょっと待ってください、なんで私がレフトールさんと相部屋なんですの?」

「俺は一向にかまわんが」

「私がかまいますの!」

「ミーシャ、リゲルおにーやんと一緒がいいなぁ」

「自分は名前が挙がらなかったぞ?」

 ジャンの提案に、次々に反論が上がる。ラムリーザは、場を沈めるために無難な代案を提示した。

「やっぱりカップル同士で泊まるのはなしにしよう。健全で清いキャンプにしよう」

「ほーお、清くない交際をしているくせに」

 しかしラムリーザの案もジャンから反論を食らってしまう。そしてそれに言い返すことができないのであった。

「そ、それなら、いつもと違う人と一緒になるってのはどう?」

「えー?」

 ラムリーザの次の案は、ソニアが難色を見せる。キャンプに来ても、ラムリーザと一緒に寝たいらしい。いや、去年のキャンプでも、リゲルがいるにもかかわらず、ラムリーザのベッドに入り込んできたっけ。

「俺いつもはおっぱいちゃんと一緒になってないから、キャンプでは一緒になってみようや」

「絶対やだ!」

 ソニアは、近づいてくるレフトールから逃げ出した。

「私はラムリーザ様と一緒になっていませんの」

 ユコがそんなことを言い出すと、ソニアは「呪いの人形は海の底に沈んでいろ」などと言い出してしまう。これでは決まるものも決まらないようだ。カップルもダメ、いつもと違う人もダメ。ではどうしろというのだ?

「くじ引きで決めたらいいと思うんだな」

 めんどくさそうにマックスウェルが提案する。彼としては、誰と一緒でも別に構わないといった立場だからこそ出せる案だ。

「外れが出たら揉めるに決まっている。無難な部屋割りは俺が考える」

 業を煮やしたリゲルは、各自が手にしている荷物を奪い取って、部屋に投げ込みだした。

 まずはソニアとリリスとユコの荷物を奪って、一つ目のコテージへ投げ込んだ。次にユグドラシルとロザリーンの荷物を奪って投げ込む。ソフィリータとミーシャの荷物を奪って投げ込む。レフトールとマックスウェルの荷物を奪って投げ込む。

「さ、行くぞ」

 リゲルは、ラムリーザとジャンを促して、別のコテージへ向かっていった。

 これがとりあえず無難な分け方だろう。こうしてリゲルの強引なやり方で、十二人を五つの部屋に振り分ける形で、部屋割りは決定した。

 

 そして夕食では、「仲間が増えたなー、ホントだなー」とテーブル席で不思議な踊りを踊っていたソニアは、母親であるメイドのナンシーに、いつものように頭を叩かれるのだった。

 こうして、島でのキャンプ生活一日目が終わろうとしていた。

 白いコテージに灯りがともり始め、島の夜がゆっくりと下りてくる。ようやく、ここでの生活が本当に始まったのだと実感できる時間だった。

 夕食を終えてそれぞれのコテージに戻る道すがら、夜風に揺れるヤシの木の葉越しに、昼間あれほど青かった海が、今は深い黒へと姿を変え、満天の星々を鏡のように映し出しているのが見えた。

 初日からこんな調子なのだから、翌日以降も静かに済むはずがない。それでも、悪くない始まり方ではあった。