ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


南の島キャンプ始まる その四 ~動画投稿者とは得てしてそういうものである~

帝国暦九十三年 盛歌の月・星々の日(現代暦:七月中旬)

 午後のおやつにしては豪勢なサメ料理を食べた後、再び動き出した船の上で各々のんびりと過ごし始めた。

 ラムリーザはデッキチェアで食後の昼寝に入り、ソニアはそれにくっついてふにゅ~。

 リゲルは一旦釣りを止めて、釣り上げたサメをラムリアースと一緒に細かく捌いて保存する作業を行い、ロザリーンもそれを手伝っている。

「このサメの卵はどうしようか?」

「ん、塩漬けにしてご飯といっしょにかき込むか?」

 ――などと会話している。

 ユグドラシル、ジャン、レフトール、マックスウェルの男性陣は、ラムリアースの乗ってきた小型ボートを自分たちの船に連結する作業を行っている。簡単に言えば、鎖でつないで離れていかないようにしているだけだ。

 リリスは船室に戻り、持ってきた携帯型ゲーム機2DOで遊んでいて、ユコは船首の手すりにもたれてぼんやりと海を眺めていた。

「あれっ、この人誰?」

 ラムリアースと共に小型ボートで来た女性を見て、レフトールは首をかしげる。彼にとっては初めて見る顔だ。いや、レフトールだけでなく、ユグドラシルもマックスウェルも初対面だった。

「あ、えっと、帝都で見たことあるような気が……」

 ジャンだけは、かすかに見覚えがあるような気がしていた。

「初めましてですね。ラムリアースの妻、ラキア・ペルモドフです」

「ラムさんの兄嫁かぁ。俺、レフトール。ラムさんの騎士です」

「騎士ですか? 騎士には見えませんが?」

 ラキアは真顔でレフトールを見つめ返す。

「レフトール、付け焼き刃の騎士設定なんて無駄だぞ。この人は確か帝国近衛騎士団長の娘だったと思う」

 ジャンは、名前を聞いていろいろと思い出したようだ。ペルモドフ家といえば、帝国では有名な家名だ。

「くっそ、俺も騎士団に入ってやる」

「レフトールが騎士か、暗黒騎士だな」

「うるせぇ、バカヤロウ」

 ――などと会話していた。

 

 一方、ソフィリータとミーシャは船上をうろうろしている。そしてソフィリータの手には、小型のビデオカメラが握られていた。

 二人は動画投稿をして遊んでいて、コンビ名S&Mはそれなりに有名だ。ソニアやリリスの、しょうもないゲーム実況チャンネル――削除済み――とは大違いだ。

 今日も、旅行記作りに励んでいる。

「えーと、これがリゲルおにーやん。釣った魚を食べたいなー、でもサメ料理でお腹一杯。そしてミーシャの恋人、でもリゲルおにーやんは二股」

「こらこら、変なの撮るな」

 ソフィリータが向けたカメラに向かって、ミーシャは自分の身内を紹介している。リゲルは二股などと言われて、困ったような表情を浮かべるのだった。

「この人がローザ姉やん、ロザリーン。この地方の首長の娘で、リゲルおにーやんの恋人。でもおにーやんの恋人はミーシャだから、やっぱり二股。でも料理のプロ、このおねーやんが作ったサメ料理、おいしかった。調理する前はおしっこ臭かったけど」

 カメラを向けられて、そのような紹介をされてしまうロザリーンもいい迷惑だ。動画投稿者とは、得てしてそういうものである。

「夜に出してくれるというサメのヒレを使ったスープ、楽しみなのだ。あ、そしてこの人がラムリーザ先輩の兄、名前何だったっけ、自己紹介プリーズ!」

 ミーシャは唐突に、ラムリアースにマイクを差し出す。すかさずソフィリータも、カメラをラムリアースに向ける。

「俺の名前はラムリアース、まだ新米だが現在軍務省勤め。身長191cm、体重87kg、スリーサイズは上から87―54―85である、ナイスバデェ!」

「途中から嘘ばっかり言っておるであります」

 すかさずミーシャはツッコミを入れる。

「でも偉い人です。この人に逆らうと、軍法会議にかけられて、牢屋行きになっちゃうの」

「お前、軍人じゃないだろ?」

「ミーシャは軍隊に入って、青軍曹になるんだ」

「はいはい、わかった。よくわからんけど作業の邪魔だからあっち行った行った」

 ラムリアースは、ミーシャを調理室から追い出してしまった。そして再びサメの解体作業が始まった。

 撮られる側の許可を取るという発想など、最初から彼女たちの頭にはない。面白そうだと思ったら、そのまま記録してしまうのが二人のやり方だった。

 ミーシャは調理室から出ると、すぐに遭遇した人物の紹介に取り掛かった。
              
船の甲板で、ミーシャとソフィリータが旅行記の撮影をしながら、ユグドラシルたちにインタビューしている場面
「この人はユグドラシル生徒会長。さっきいたロザリーンの姉で、学校で一番偉い人なのだ、はい一言」

「なんだかよくわからないけど、先に突っ込んでおくね。自分はローザの姉じゃなくて兄。そして学校で一番偉いのは院長コルプルスね」

「あーん、ミーシャ間違えちゃった。でもね、でもね、この人ソフィーといい感じ。でもソフィーの恋人がこの人でも、親友はミーシャなんだから」

「こらこらやめなさい」

 ユグドラシルは、いろいろと紹介されて思わずそう言ってしまった。ソフィリータもカメラを構えたまま戸惑ったような表情を見せている。

「でも噂で聞いた話では、女の子に迫られるとテンパってしまうみたいで、こうしてミーシャが生徒会長さまぁ~」

 ミーシャはそのままユグドラシルの胸元へと勢いよく飛び込んだ。

「わったった、何をするんだっ」

 突然の衝撃に、ユグドラシルは端正な顔を真っ赤にして両手をあちこちへ泳がせる。

「こらっミーシャ! やめなさい!」

 ユグドラシルはあたふたし、ソフィリータは怒り始める。ユグドラシルにとってもいい迷惑だ。動画投稿者とは、得てしてそういうものである。

 ミーシャはユグドラシルから離れると、「きゃっきゃっ」と騒ぎながら外に飛び出していった。ソフィリータもユグドラシルに「申し訳ありませんでした」と謝罪して、ミーシャの後を追っていった。

 ミーシャは、甲板で最初に出会った人の紹介を始める。

「この人はジャン、大きなナイトクラブの経営を手伝っていて、去年までミーシャと同じ帝都に住んでいた。でも今は店を放り出してバカンス中」

「放り出してねーよ、ちゃんと代理人置いてきたってば」

「ゆかいな人、でもちょっと、いやかなりエッチ」

「なんだよこれ、何してんの?」

 ジャンは、突然現れたミーシャに紹介されて戸惑い、ソフィリータに尋ねる。

「今回の南の島バカンスについて、旅行記を作っているんです」

「待てよ、お前ら動画投稿していたな? 俺のこと変に言うな――って、さっきかなりエッチとか言ったな?! そこ編集でカットしろよ」

「編集してエロ画像を背景にするよ、するよ」

「垢BAN食らってしまえ!」

 そう言い残してジャンは逃げ出した。突然現れてエロに仕立て上げられる、まったく迷惑な話だ。

「あっ、この人はすごくすごく怖いつっぱりさん、レフトール。でもソフィーがいるからミーシャ怖くないの」

「なんだお前ら?」

 ミーシャは、今度はジャンのそばにいたレフトールに突撃した。

「でもね、時々変な言葉使って戸惑わせてくれるの。何か一言!」

 ミーシャはレフトールにマイクを差し出す。

「ガチョ~ン!」

 レフトールは突然マイクを向けられ、思わず乗せられてしまった。しかしミーシャは、レフトールの一言をさらりと流して次の話題に移っていた。

「そしてこの人は、レフトール親分の子分マックスウェル。いつも眠そうにしているの、毎晩毎晩エロチャットにはまっているから寝不足気味」

「はまってないんだな」

 マックスウェルはめんどくさそうに答えた。

「おい、もう行こうぜ、サメの解体状況を見に行くんだ」

 レフトールは、マックスウェルを連れてさっさと立ち去ってしまった。ミーシャが妙な紹介文を述べるので、あまり受けが良くないみたいだ。しかしまぁ動画投稿者とは、得てしてそういうものである。

 一方、ミーシャは気にせずに、次のターゲットへと向かっていった。

 ミーシャが次の獲物を見つけて船の上を走り出すと、ソフィリータが慌てて追いかける。

 甲板に置かれたデッキチェアでは、ラムリーザとソニアが昼寝中だ。ソニアがラムリーザにくっつく形で、一つのデッキチェアに二人が並んでいた。

「起きてますか~?」

 ミーシャの呼びかけにも反応しない。ミーシャは、寝顔をソフィリータに撮影するよう促してから、また勝手な説明を始めた。

「ここに寝ている男の子のほうが、太鼓打ちでソフィーのお兄ちゃんラムリーザ。ミーシャたちのグループのリーダーで、領主様なんだ。さっきサメと格闘して疲れているのかお昼寝中~」

 比較的まともなほうの紹介文。しかし問題はやはり次の人の紹介。

「その横にくっついて寝ているのが、泣き虫お姉ちゃんソニア。のだまで遊んで泣いて、バクシングして泣いて、スシやギュードン食べてふえぇ。でもおっぱいぽよんぽよんすごいなぁ、ミーシャもこのぐらい大きくなりたいな」

 ソニアは寝ていて言い返してこないので、言いたい放題。そしてミーシャはカメラを寄せるようソフィリータに促して、ソニアの胸元に手を伸ばした。そのままぐにゅぐにゅと触り始める。

「ふっ、ふえぇっ?!」

 案の定ソニアは目を覚まして、ぽかんとしている。そしてミーシャが胸元に手を伸ばしているのがわかると、すぐに騒ぎ出した。

「ちょっと何よ、この媚び媚びミーシャ!」

 ラムリーザは、ミーシャの紹介では目を覚ますことはなかったが、ソニアが大声で騒ぐとさすがに目を覚ました。

「何やっているんだよ?」

「このちっぱい筆頭が胸揉んだ!」

「こらこら……」

 せっかく気持ち良さそうに昼寝していた二人をわざわざ起こす迷惑なミーシャ。やはり動画投稿者とは、得てしてそういうものであった。

 

 そろそろ夕方になり、空は茜色に染まった。波は静かで日差しも弱くなり、涼しい風が心地よい。

 ゲームに飽きたリリスは、甲板に出てきてマストを登って見張り台に行った。

「何か見えますの?」

 ユコの問いに、「海が見えるわ」と答えるリリス。当たり前である。

 そこにミーシャも登ってきて、半分沈んだ夕日を指差して「夜に近い晩~っ!」などと言っている。わりと意味が分かりにくい表現だ。

 茜色だった空は徐々に暗くなり、やがて群青色となり、一つ、また一つと星が瞬きだし、そのうち星空に変わっていた。

 夕飯はロザリーンが苦心して作ったサメのヒレスープと、リゲルの釣った魚を焼いたもの。フォレスター家専属の料理人も同行していたのだが、こちらのほうがキャンプらしいということで、ラムリーザの乗る船だけは少しワイルドだった。

 満天の星、おいしい料理。そしてほぼ全員が水着姿ということで、水着パーティとなっている。そしてそのパーティの様子は、ミーシャとソフィリータの二人によってしっかりと撮影されていた。

「これがサメヒレスープですっ。サメのヒレ、うん。トロットロの食感がいいし、おしっこ臭さもなくなっている」

 ミーシャは、食べ物のレビューみたいなものをやっている。おそらく後日、マトゥール島旅行記として投稿されるのだろう。メンバーの紹介文と共に――。
              
夜の船尾で、リゲルとロザリーンが寄り添いながら、海の上に広がるミルキーウェイを眺めている場面
 昼間はあれほど賑やかだった船も、夜になると声の大きさが自然に落ちていく。人の気配はあるのに、海の広さのほうがまだ勝っていた。

「自然のプラネタリウムだな」

 船首のほうは明かりをたくさんつけて明るいが、船尾ではリゲルが明かりを消し、暗くした甲板に寝転がって空を見上げていた。

「町明かりのない場所だと、星がくっきりと見えますね。ミルキーウェイもあんなに明るく」

 そばにはロザリーンが寄り添って、一緒に空を眺めていた。

 昼間の騒がしさが嘘みたいに、夜の海は静かだった。船のきしむ音と波の音だけが、旅の途中にいることを思い出させる。

 船は静かに南へと進んでいる。

 予定では、翌朝にはマトゥール島に到着することになっていた。

 旅はまだ途中だが、南の島はもうすぐそこまで迫っている。そう思うだけで、夜の海さえ少し特別に見えた。