ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第七弾「髑髏仮面の秘密」 第二話 沈黙の石

帝国暦九十三年 盛歌の月・精霊の日(現代暦:七月中旬)

 学校部室にて――

 久しぶりに、テーブルトークゲームのプレイヤーだけが集まったということで、今日はゲームに興じていた。

 ラムリーザがゲームマスターをする物語は順調に進み、怪しげな髑髏仮面をつけたゲーム内のラムリーザが暴れているところを皆で取り押さえたところだ。

「リゲル早く仮面をクロスボウで撃って」

 ソニアはリゲルにそう急かすが、リゲルはなかなか次の行動を宣言しない。

「あれ? 撃たないのか?」

 ゲームマスターのラムリーザも、少し間が空いたのでそう尋ねた。

「いや、ふと思ったんだが、そのままお前らに近づく」

「なんでよ! はやく仮面を撃ってよ!」

「お前ら四人がかりで押さえているんだろ?」

「ええ、そうですの」

「それならそのまま普通に仮面を奪う、それで済むじゃないか」

「…………」

 リゲルの理にかなった行動により、その場はしんと静まり返ってしまった。

 確かに四人がかりでしがみついて動きを封じているのだ。わざわざ誤爆の危険性があるクロスボウを撃つより、そのまま近づいて取ってしまったほうが早い。

「で、どうなる?」

 誰も発言しようとしないので、リゲルはラムリーザに尋ねた。そこでラムリーザは、はっと気がついた。

「仮面が取れて素顔になり、ラムリーザはそのまま動きません。四人がかりで押さえ込んでいた力がふっと抜けた瞬間、さっきまでの暴れ方が嘘みたいに静かになるよ。拍子抜けと不気味さが同時に残ったね」

「やっぱり仮面が悪かったの?」

「実力もないのに強そうに見せかけるためにつけるから、そうなるのだ」

 なんだかリゲルは偉そうに言ってのけるのだった。

「へぇ~、これがラムリーザの素顔なのね」

 リリスは今まで素顔を知らなかったふうに発言する。

「素顔から光が放出されて、ドブ川を魚の泳ぐ川に変えたり、鋼鉄を飴のように溶かしたりするの?」

 ソニアの意図のわからない質問に、ラムリーザは「そんなものは、ない」と言い放った。

「あっ、目玉が三つありますの!」

 ユコの冗談に、今度は「三つもない、一つだ」と言い放つ。言い間違えたと思ったが、後の祭りだ。

「ラムリーザはサイクロプスだったのね、つまりソニアの彼氏はサイクロプス」

 リリスは都合の良いように、ラムリーザの恋人をカノコやソニアにしたがる。

「サイクロプスなんか雑魚! あたしとラムはギガンテス!」

「それじゃあ私はアトラスで」

「――そんな話をしているところに、今さらながら憲兵隊が駆けつけてきた」

 ラムリーザ式のスルーが発動したところで、物語は再び動き出した。

「待って、今のうちにサニティをかけておきたいのですが」

 ロザリーンの宣言に、ラムリーザは「ゲーム内のラムリーザは気絶しているけど効果あるかな?」と答えた。

「仮面を外したら意識を失った。ひょっとして仮面がなければ生きられない身体になったのか?」

 リゲルの問いに、「そんな設定は、ない」と答える。

「アウウ……」

「黙れ。憲兵隊は、『いったい、なにがあったのですか?』と尋ねてきます」

 ソニアの意図のわからないうめき声を一喝して、話を先に進めた。

「カノコの婚約者が暴れていたようだけど、沈静化したわ、くすっ」

「黙れハマクリボウの婚約者!」

「憲兵隊は、『ここでは何なので、みなさん本部へ』と言います」

 ソニアとリリスの婚約者設定の押し付け合いを無視して、ラムリーザは話を進めた。

「本部ですか?」

「うん、憲兵隊本部」

「憲兵総監はロリコン?」

「そんな設定は、ない! 場所移動ね!」

 ラムリーザは脱線しないように、強引にどんどん話を進めていった。ここで、ユコのストーリーはいつも強引だな、と思っていた理由がラムリーザにもわかった。こいつら要らんことを言い過ぎる。

「うっ、憲兵隊本部……なの?」

 なぜかソニアはおびえる。何か悪いことでもやっているのか?

「市民の皆さん、ご迷惑をお掛けしてすみません、竜の神のご加護と共にあらんことを――。こんなところですか?」

「いい感じだね」

 妙な空気になりかけたところを、ロザリーンの機転で再びファンタジーの世界に戻った。

「でもなんで暴れていたんだろう?」

「この仮面に何かわけがありそうだね」

「ソニアあなたかぶってみなさいよ」

「なんでよ!」

「こほん、それでは、『我々はラムリーザさんを運びますので、この部屋で少しお待ちください』ってところだね。しかしなんだ、自分のキャラを扱うのも妙な話だなぁ」

「ハマクリボウにしておけばよかったのに。そしたらあたしが仮面ハマクリボウを簡単に始末して、リリスを未亡人に仕立て上げてやったのに」

「はい、ソニアとリリスとハマクリボウの三角関係の恋の行方は今度語るとして、みなさんがそれぞれの時間を過ごしていると、扉が開きました」

「ハマクリボウが出てきたの?」

「しつこい!」

 ラムリーザの少しきつめの一喝で、ソニアは首をすくめる。

「出てきたのは、いかにも研究者って雰囲気の人です」

「名前は?」

「特に重要ではないので、クルミワリという名前にしておこうかな」

「何よその胡桃割りみたいな名前」

「いや、そのまんまですの」

「でもラムは胡桃割りなんて要らないじゃないのよ」

 ソニアとユコが何か言っているが、気にせずに話を進める。

「その研究者は、『彼はいったいどうしたんだ? 何をしたらあんな状態になるのか、大変興味をそそられる』と言ってきました」

「仮面をかぶってみたらわかる……でいいのでしょうか?」

 あまり確信がないので、ロザリーンもはっきりとは宣言できない。

「彼の体内の精霊が、異常に暴れ回っていたぞ、と教えてくれました」

「狂気の精霊ですか。センスオーラを使えばよかったですの」

 シャーマン技能を所持しているユコは、ちょっと舌を鳴らす。

「とりあえず仮面を渡して調べてもらいましょう」

 ロザリーンの提案で、仮面を持っていることになっていたリゲルは、研究者クルミワリに髑髏仮面を手渡した。

「仮面を外したら静かになったけど……。で、今も体内の精霊は暴れ回っているのです?」

「えっと、博士は『今もたぶんな』って答えた」

「博士? 研究者はどこへいったんですの?」

「博士が研究者ね」

 ゲームマスターとして話を作るのも難しいな、などとラムリーザは考え始めていた。物語の流れは作ってきたけど、細かい設定はあまり考えていなかった。だからクルミワリという名前も即興だし、博士と研究者の呼称が混同してしまっている。

「とりあえず、仮面は調べておくと言って、研究者のクルミワリ博士は部屋の奥へと消えていった。ということで、結果がわかる翌日まで飛ぶけど、何かやっておくことある?」

 ラムリーザは、一応自由行動について尋ねてみた。どうせソニアとリリスが要らんことしか言わないのは目に見えていたが。

「ラムリーザが寝ている部屋に行くわ」

 リリスは早速夜這いを宣言した。そこまでは想定内だったので、あっさりと対処する。

「憲兵隊本部の医務室で寝ていて、入り口の前には警護の者が立っています」

「あらお勤めご苦労様。私はラムリーザの妻のリリス、旦那様に会わせていただけないかしら?」

「警備員は『ダメです』の一点張りです」

「ちょっと待って! なんでリリスが妻なのよ!」

「そして夜が明けた!」

 ソニアが騒ぎ出したところで、場面は一転した。何のための自由時間だったのか、さっぱりわからない。

「ちっ、私とラムリーザの甘い夜について語ってあげようと思ったのに」

「リリスとハマクリボウの蜜月が見たい」

「こほん、ちょうどそのとき扉が開いて、クルミワリ博士が入ってきます」

「出た、マッドサイエンティスト」

「マッドちゃうわ。『フンッ、結構来てるな』と言ってます。それで、何から聞きたい?」

「何からって、仮面を調べていたのではないか?」

 リゲルは細かいツッコミを入れる。

「血液型は何ですの?」

 なぜかユコは、関係ないことを聞いてくる。

「L型だよ」

「なんですのそれは!」

 ラムリーザは関係ないことなので適当に答えておいた。しかし、適当にLと言ったのがまずかった。

「ソニアのおっぱいはL型ね、くすっ」
              
TRPGの物語の中で、研究者クルミワリ博士が髑髏仮面から見つかった魔法の石を示し、ソニアたちが説明を聞いている場面
「仮面を調べていたところ、『中に魔法の掛かった石が発見されました』とクルミワリ博士は言った!」

 ラムリーザは、口論が始まる前に物語を進めた。しかしそれを利用してソニアは反撃をしてくる。

「石の入った仮面をかぶったら吸血鬼になる。リリスが生き証人!」

「魔法ですか?」

 物語の進行と、口論の進行が折り重なっている。

「魔法のかかった石、その石がラムリーザ様の意思をおかしくしていたんですの?」

「博士は、『効果のほどを調べた結果、どうもあの仮面は体内の精霊を調整して、性格矯正の力があるみたいだ。つまり、あの石は体内の精霊に干渉し、性格や感情の流れを無理に変える。ラムリーザさんが暴れたのは、その調整が失敗して精霊が乱れたからだろう』と言っています」

「リリスの性格を矯正してもらって、根暗吸血鬼じゃなくしてもらったらいいのに」

「髑髏仮面をソニアの風船に被せて、正常な大きさに矯正してもらいなさいよ」

 ソニアとリリスはいつも通り、物語の内容はそっちのけで、お互いを煽ってばかりになってしまった。

「で、お前はなんで性格矯正が必要だったのだ?」

 唐突にリゲルに聞かれて、ラムリーザは首を傾げた。

「ん? 僕はそんなの要らないよ」

「いや、性格矯正の力を持った石付きの髑髏仮面を被っていたのはお前だろ?」

「ああ、そうなるか」

 ラムリーザの物語と設定はいまいち煮詰められていないようだ。多少の行き当たりばったり感がある。

「普段のラムリーザは偽りなのよ。私に興味があるのに、かわいそうだから無理にソニアと付き合ってあげているのよ」

「何よ! リリスと付き合ったらラムがかわいそう!」

「まぁ何か別の意図を持って使ったのだろうが、副作用が出てしまったということだな」

 口論する二人をよそに、リゲルは腕組みをして頷く。

「石の効果をもっと調べたければ、セージ技能と知力でロールしてみよう」

 ころころとダイスを転がす一同。ただし前衛二人組はセージ技能を所持していない。

「その結果だと、ロザリーンは石自体は珍しいものではないが、かかってる魔法が特殊な感じだと気がつくね」

「特殊な魔法ですか?」

「あと、この状態を抑えるには、沈黙の石というものがあれば効果があると気がつきます」

「沈黙の石……。ではそのことを皆さんに伝えます」

 ロザリーンの的確な行動で、物語は滞りなく進む。しかし――

「その石ならソニアに使いなさいよ。うるさくて仕方ないし」

「リリスの嫌味しか言わない口に押し込んだら、世の中平和!」

 何か物語が進展するたびに、その内容をネタにお互いを煽りだしてしまう二人。

「で、ラムリーザ様の状態はどうなんですの?」

「また暴れ出されてはかなわんから、牢に入れている」

「それは酷い……」

「まぁ牢屋というか、安置所というか、隔離施設ね」

「それなら仕方ないわ。で、その沈黙の石はどこにあるんですの? それよりも、沈黙の石の効果は何ですの?」

「えーと、単に精霊たちを落ち着かせるだけの石だね。あと、石のことならドワーフに聞けばいいと博士は言っています」

 相変わらず研究者か博士が安定していない。

「暴れ回っている精霊を鎮めることができれば、ラムリーザさんは助かるのですね」

「それで、そのドワーフさんはどこにいるんですの?」

「ドワーフなら地底に住んでいるね。そして、町外れにドワーフの住む洞穴があることを、みんな知っていたことにしましょう」

 そこはご都合主義で、町では常識ということにしておく。ドワーフ探しまでやろうという展開は、ラムリーザには思いつかなかったようだ。

「リリスは地底人だから目が退化しているのよ」

「物は進化すると小型化するものよ。昔の携帯端末はすごく大きかったけど、今は片手で扱えるサイズになっているからね。だからソニアのおっぱいは進化していない、旧態依然の大きいだけの代物」

「何よ! 大は小をかねる! ちっぱいは進化の途中! 動物は進化して大きくなるものなの!」

「――などと雑談をしている人もいるが、これからどうしますか? ドワーフの洞穴に向かいますか?」

 ラムリーザは、うるさい二人は置いてきぼりにして話を進めた。どうせ戦闘でしか役に立たない二人なので、謎解き場面では放置していても問題ない。

「それしかないですわね。ソーサラー抜きで出かけるのも残念ですが」

「そして研究者は、探しにいくなら五、六個くらい取ってこい、と言ってきました」

「そんなに必要なのですか?」

「研究対象に使うそうです。もちろん報酬も出ますよ」

「行く!」

 報酬という言葉を聞いて、ソニアはリリスとの口論を中断して食いついた。ただし、依頼内容は聞いていないだろう。

「それでは一同は町外れに――」

 ラムリーザが言いかけたとき、下校の時間を告げる校内放送が流れた。どうやら今回の物語は、一旦ここまでのようだ。

「ああもう、いよいよ冒険ってときに。あなたたち二人が口論ばかりして邪魔をするから、物語の進展が滞るんですの!」

「リリスが悪い」

「ソニアが悪い」

 なんだかよくわからないが、口論にユコまで参戦してしまった。

 せっかく冒険らしい空気が出てきたところで中断になったのは惜しかったが、逆に言えば、次はもう洞穴へ向かうだけのところまで漕ぎつけたとも言える。

 ラムリーザは物語の進行度をシナリオシートに記録して、「それじゃあ冒険の続きはまた今度の機会にね」と話を締めくくった。まぁ場面の切り替わりどころだったので、切るにはちょうど良い場所だっただろう。

 そんなわけで、ラムリーザが初めてゲームマスターでのテーブルトークゲームは一旦終了した。

 初めてのゲームマスターは、予想以上に思い通りにいかなかった。だが、思い通りにいかないからこそ妙に面白いのかもしれなかった。

 初めてにしてはまあまあできたかな、とラムリーザは思うのだった。校内放送の音楽が鳴っている中、この次に開催できるのはいつだろうか? と考える。

 それは版元の予定だけが知っているのだった――。