ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
TRPG第七弾「髑髏仮面の秘密」 第一話 暴走する魔術師
帝国暦九十三年 盛歌の月・精霊の日(現代暦:七月中旬)
昨日の夜――
「よし、できた」
ラムリーザは、三枚の用紙を折りたたみ、自分の鞄の中へ入れた。
「どんな話なの?」
ソニアが尋ねてくるが、「その日が来たときのお楽しみ」というふうにあしらって、この日は終わった。
明けて今日の放課後。もう部活動としての体をなしていない部室にて――
この日は一年生が体育館で集会、ジャンは店の仕事ですでに下校、レフトールは子分を率いて繁華街へ繰り出していた。というわけで、部室に集まったメンバーは、去年と同じ顔ぶれであるラムリーザ、リゲル、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの六名。
今ではもうほとんどない、このような集まりになった日には、やることを決めていた。そして今日は、ラムリーザが主催することになっていたのだ。
今では人数が増えて賑やかになったぶん、こうして去年までの顔ぶれだけが揃う日は、かえって少し特別に感じられた。
「ラムリーザ様、シナリオはできていますの?」
ユコの問いに、ラムリーザは「もちろん」と答えた。そう、こんな日はテーブルトークゲームで遊ぶ日。そして今日は、ラムリーザが初めてゲームマスターをやる日になっていた。
「ラムがいない冒険なんてつまんない」
ソニアはそうぼやくが、ラムリーザは「大丈夫、出てくるよ」と言ってやった。
「自分のキャラクターも出して、物語を進めやすくするのだな? まぁそれは正しい判断かもしれん、こいつらだからな、ふふっ」
リゲルの言うこいつらとは、ソニアとリリスの前衛コンビのことだ。ユコの物語をどれだけ脱線させたことか。
「それじゃあ始めるよ」
「あ、待ってください。皆さんにキャラクターシート配りますわ」
テーブルトークゲームに初めて触れたとき、本人たちの能力を参考にして作り上げたキャラクターのデータは、ユコが管理していた。いつもの紙を全員に配り、いよいよラムリーザがゲームマスターをする冒険が始まった。
「うららかなよい天気の昼下がり、みなさんは酒場で、今までの冒険の話に花を咲かせています」
「冒険の話、ラムリーザとカノコはうまくいっているかしらね」
「うまくいってない! リリスとハマクリボウの狂ったような恋仲が進展しているだけ!」
ソニアとリリスのやり取り、これは予定調和。これに反応してしまったら負けだ。
「酒場はもちろん『魅惑の壷』ですのね?」
「ん、そこでいいよ」
ユコは酒場の場所の指定をしてくる。リリスとの思い出の地を物語に登場させるという考えは譲れないのだろう。
「サーカス団はあれ以来、来ていないみたいですね」
雑談か独り言か測りかねるような、ロザリーンの微妙なつぶやき。
「お前はこの場所にいるのか?」
リゲルの問いには「いないよ」と、答えておいた。
「マスター注文、アレオカレーのアレオふりかけ和え」
「そんなものは、ない」
毅然と答えるラムリーザに、むすっとするソニア。そこにリリスも反撃を仕掛けてくる。
「幸せいっぱいお腹いっぱいおっぱいもいっぱいカレーをお願いするわ」
「そんなものは聞いたことが、ない」
ラムリーザは、ことさら「ない」を強調して返答しておく。
「ああそうだ、給仕はラニーニャということにしておくよ。確かまだ設定されてなかったよね?」
「どうせ魅惑の壷のバイトですから、状況に応じて入れ替わったということにしていて良いですの」
ユコの了承を得て、ラムリーザは酒場の給仕を登場させた。
「お待ちどうさまぁ、ご注文のココちゃんカレーなの~。これを食べたらココちゃん一体没収なの~」
「そんなもの要らないですの!」
「気色悪い妙な口調でしゃべるな」
ユコとリゲルにダブルで攻撃を食らい、「ぐぬぬ」となるラムリーザ。
「それじゃ、あたしはラム酒とラムネ」
意味もなく酒と清涼飲料水を同時に注文するソニア。組み合わせもよくわからない。「ラム」繋がりか?
「それじゃあ私はラムステーキを注文しましょうか」
ロザリーンも珍しく乗ってきて、「ラム」が増えてしまった。
「では私はラムリーザを指名するわ」
「魅惑の壷はホストクラブだったのな」
「ダメですの!」
リリスの余計な挑発にラムリーザは反応し、すぐさまユコが否定する。
「あ、いかん。雑談ばかりが進んでる。えっとね、マスターがラニーニャに言いました。『さっき頼んだ買い物はどうなっておるのだ?』と」
「リリスが横領した」
ラムリーザは話を進めるが、ソニアがまたリリスを攻撃する。すると当然リリスも反撃してくる。
「ラニーニャはこう言ったわ。風船饅頭買ってきました」
「そんなものは、ない! ラニーニャは買い物に出かけました」
リリスに再び毅然とした態度で余計な一言をばっさりと切り落として、今度は台詞をつけずに給仕を動かした。どうせ台詞付きだとリゲルが茶々を入れてくる。そこは学習しながら進めていくのが、有能なゲームマスターなのだ――などとラムリーザは考えながら、物語を動かしていく。
「マスター、リリスが吸血衝動を抑えられないみたいだから、生き血を一杯お願いします!」
「ソニアの風船がしぼみかけているので、膨らませるために空気入れを注文するわ」
「――っと、意味のない会話が続いていると、ラニーニャが勢いよく、扉を開けて帰ってきます」
ラムリーザは、完全に二人の論争をスルーしてしまった。「外野うるさい」と反応すると調子に乗るのが分かっているので、この判断は正しい。
「ラニーニャさんがどうしましたか?」
物語進行においては良識派のロザリーンがすぐに反応してくれる。ソニアとリリスを無視しても、ロザリーンさえいてくれたら物語は進む。これまでのプレイから、ラムリーザはそんなところをしっかりと学習していた。
「ラニーニャは、大変なの~っほん! 慌てたように、『ラムリーザさんが広場で大暴れしている』と言ってきました」
「また変な口調で語りかけただろう?」
「うるささ」
リゲルのツッコミを、言葉短く返しておく。
「カノコと痴話喧嘩?」
「それは、ない。そしてラニーニャは、『何かいつもとちょっと感じが違いました』と言います」
「レフトールならともかく、お前はいつも暴れていないだろ?」
「うるささ」
リリスやリゲルのツッコミ、余計な一言をかいくぐりながら、ラムリーザはなんとか話を進める。リゲルの中ではレフトールはいつも暴れているらしい。
「それではシャーマン技能を持った私が、狂気の精霊を鎮めてきますの」
「それはどちらかと言えば、プリーストである私の領分でしょう」
「大暴れしているラムリーザというものも興味深いので、観察しに行くか」
それぞれの理由で広場に向かうユコとロザリーンとリゲル。
「狂ってるラムでも、話せばわかってくれるよっ」
「行きましょうか」
根拠のない自信を見せるソニアと、特に何も感想を述べないリリスも移動したようだ。順調に話は進んでいる。
「それでは広場に移動しました。広場では、逃げまどう人々で大騒動が始まっています」
「ラムリーザも、ソニアでは物足りないから欲求不満なのよね……」
「うわ~、助けて~。市民は逃げ惑っています。広場には椅子や荷車が倒れ、人々は悲鳴を上げながら散り散りに逃げているよ。いつもの町の風景が、そこだけ妙に歪んで見えるみたいにね」
リリスのつぶやきは無視して、ラムリーザは若干棒読み気味に広場の騒ぎを表現してみせた。
「ラムに加勢して広場で暴れる」
「ラムリーザに近づいたソニアは、襟首をつかまれて投げ飛ばされた」
「なんでよ!」
冷たく突き放すラムリーザと、憤慨するソニア。それを聞いてユコは、「ドメスティックバイオレンス」とつぶやいた。
「もういい! 市民の胸ぐらをつかんで、『何が起きてるのよ!』と、問い詰める」
怒ったソニアは少々乱暴な手段に出るが、物語の進行上問題ない。
「さすが生まれが蛮族ね」
「うるさい悪党!」
しかしすぐにリリスと口論になってしまう。
「ソニアにつかまれた市民は、『巻き込まれたら命が危ないぞ』と言ってきました」
「でもラムリーザ様は、そんな暴れるような人じゃないと思いますわ。何かおかしくありません?」
「機嫌でも悪いのだろう」
ユコはラムリーザを庇うが、リゲルは若干茶化し気味だ。
「ソーサラーが魔力を暴走させているならともかく、ただ暴れているだけなら、大したことがないような気もしますが」
「筋力はシステム上最高値だぞ」
ロザリーンは楽観視するが、それをリゲルがたしなめる。そう、このゲームの世界でのラムリーザは、筋力最高値のソーサラーというよくわからないキャラであった。
「市民は、『いきなり倒れたかと思うと急に暴れ出したんです』と説明してくれました」
「ラムのそばに駆け寄って、ラム正気に戻って! と説得する」
「ラムリーザは、じっとソニアのほうを見つめている」
「あたしを思い出して!」
「残念ながらこの世界でのラムリーザの恋人はカノコだから」
せっかくソニアが演技しているのに、リリスは余計なことを言って水を差す。
「こほん、そこでセージ技能で知力ロールしてください」
ソニアは、リリスを睨みつけながらダイスを転がした。しかし残念ながらセージ技能を取得していないソニアは、ダイスの目だけで勝負だ。続いて他のメンバーもダイスを転がした。
「う~ん、その目だといつものラムリーザとの違いはわからないねぇ」
「とりあえずリゲルさんとユコさんは、市民の避難を手伝って。ソニアさんはラムリーザさんを説得、リリスさんはその援護。私は怪我人の治療をします」
なんだかリーダーのように、てきぱきとメンバーに指示を飛ばすロザリーン。そういえば、ゲームの中でのグループでは、誰がリーダーなのだろうか。
「ラムリーザは『ガ……ググ……』と唸りながら、ソニアににじり寄ってきます」
「武器持ってるの?」
ソニアの問いに、「武器は持っていません」と答えた。
「素手でもラムリーザ様はゴム鞠を破裂させますわ」
「握力百三キロだったからな」
「ソニアのおっぱいは百三センチ」
ユコとリゲルはラムリーザの怖さを理解していて、相変わらず要らないことしか言わないリリス。
「ラムリーザは咆哮を上げてソニアにつかみかかってきたよ、さあ回避ロールして」
ソニアは言われるままにダイスを転がした。ラムリーザの攻撃はうまく回避したようだ。
「でもラムリーザとソニアが戦って、勝負になるのかしら?」
「現実世界ならいざ知らず、この世界はファンタジーですの」
「でもバクシングではソニアさんが勝ちましたよ」
他のメンバーはといえば、ラムリーザとソニアの戦いを傍観しながら雑談をしている。
「あたしがラムを抑えるから、みんな原因を調べて!」
妙にソニアが盛り上がっている。やはりラムリーザとの掛け合いを楽しんでいるのだろうか。
「じゃあ私が周囲の人に聞き込みをしますわ。誰か暴れだしたきっかけを知っている人はいませんの?」
「市民は、『ちょっと前まではいつも通りだったんだが、いきなり倒れたかと思うと暴れだして、そういえば、倒れる前に頭を抱えてたね。苦しそうに……』と言いました」
「倒れたら暴れだしたの……」
「あ、すごく言い忘れていたけど、広場で暴れているラムリーザは、おかしな仮面を身につけています」
「こら、先に言え。それだと話が違ってくるだろ」
「すまん、忘れてた」
「まぁラムリーザ様も初めてのゲームマスターだから慣れていないところはありますの。ここは大目に見てあげますの。それで、どんな仮面ですの?」
「えーと、髑髏の形を模したような仮面、ということにしておこうか」
「髑髏仮面ですのね」
リゲルに責められたが、ユコに庇ってもらえてラムリーザはほっとして話を進めることにした。
「どんどん攻撃してくるから、ソニアは対応してね」
「ソニアだけ遊んでいるみたいだから、私も加勢するわ」
このパーティの前衛は二人、リリスもソニアに加わってラムリーザの暴走を食い止めにかかった。
「魔法で操られていないか? センスマジックかけてみろ、ソーサラーは――お前かよ!」
なんだかリゲルは一人でボケツッコミみたいなことをしているので、代わりにロザリーンが対応することにした。
「では私がサニティをかけてみます。ソニアさんとリリスさんに気をとられている間に、素早く接触してかけます」
「プリースト技能で知力ロールよろしく。あ、詠唱してね」
「詠唱ですか……『竜の神よ、この男の心の嵐を静めたまえ』こんな感じですか?」
「なんかかっこいいね。でもその目だと……え~と……一瞬、動きは止まるけど、すぐに元に戻ります。そのとき、髑髏仮面の奥で、ラムリーザの目だけがぎらりと光っていた。いつもの本人を知っているからこそ、その異様さが余計に際立つよ」
「ダメですか……」
「やっぱり仮面が怪しいですの。仮面を取っちゃいましょう」
ユコの提案で、次の作戦に移ることになったようだ。
「よし、お前ら四人でラムリーザを捕まえろ。その隙に俺がこのクロスボウで仮面を撃ち落としてやる」
「外したら承知しないからね!」
リゲルの提案にソニアはかみつく。しかし、これが一番手っ取り早い解決方法だとは理解できたようで、すぐに行動に出た。
「あたしがラムの左腕にしがみつく!」
「それじゃあ私は右腕にしがみつくわ」
「それでは私は右脚にしがみつきますの」
「では私は空いている左脚に」
こうしてソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの四人は、ラムリーザにしがみついてその動きを止めた。四人に押さえ込まれてもなお、ラムリーザの全身には獣じみた力がこもっているように見えた。仮面一つでここまで変わるものなのかと、さすがに誰もが少しだけ息を呑む。
それでも身動きの取れないラムリーザに、リゲルはクロスボウを構え――