ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


祭り前日の準備 ~豚の牛乳と卵~

帝国暦九十三年 真藍の月・氷狼の日(現代暦:七月上旬)

 フォレストピア近郊の、とある山道にて。

 この日は学校が終わり次第、ラムリーザたちは部活をせずに、すぐに帰宅した。その後、ごんにゃ店主ヒミツの案内で、ミルキーウェイ・フェスティバルに使用する大事なアイテムを入手するために、ラムリーザたちは山の中へ入っていった。

 先導するごんにゃ従業員の若者が鉈などを使って道を切り開き、その後ろについて、ラムリーザはフォレストピアに住む友人たちを連れて歩いているのだった。

 

 道中、ソニア、リリス、ユコの三人組は、雑談に花を咲かせていた。どうやら今日のお題は「肉」のようだ。

「ソニアは肉が好きって聞いたけど、肉にもいろいろあるわ。どの肉が一番好きなのかしら?」

「あたし豚肉がいちばんおいしいと思うの、トンカツとかポークチャップとかね。でもリリスは魔女だから腐った肉が好きなのでしょ?」

「それは牧師様。でもギュードンも捨てたものじゃないわ」

「あ、そんなのもあったね。また行きたいなぁ、ギュードン屋」

 ソニアは、以前行ったユライカナン産のギュードン屋を考えたが、すぐにリリスに仕掛けられた赤い粉シチミの件を思い出してリリスを睨みつける。

「どうしたのかしら?」

「リリスとご飯に行ったらいたずらばかりされるから、リリスは一人で行って!」

「そんなところより、ココちゃんカレーに行きたいですの」

 ユコはカレー推しだが、ここにいる全員には、ユコがカレー目当てではなくクッション目当てだということはわかりきっていた。

「牛の肉はうまいし汎用性の高い乳出すし、鶏の肉もうまいし汎用性の高い卵産むけど、豚だけいまいちね、くすっ」

 リリスはすぐに、話の流れに乗せてソニアを攻撃する。ソニアが豚が好きと言ったので、豚を下げたのだ。

「何よ、豚の骨をリョーメンのスープに使っているって聞いた! でも豚の牛乳とか卵はなんで使わないのかなぁ?」

「そういえば牛の卵も使わないし、鶏の牛乳も使わないわね」

 二人の会話は妙な方向へと向かっている。

「ふん、リリスは吸血鬼だから牛乳じゃなくて血を飲んでいたらいいの!」

「風船お化けは――いや今はユカタ着ていないから風船おっぱいお化けね。風船だから、空気だけ食べてたらいいの。それでパンパンに膨らんでから一気におならしてどこかに飛んでいったらいいんだわ」

「うるさい吸血狼男!」

「エル!」

 

 いつも通りの二人を後ろから眺めながらついて行っているジャンは、微妙な表情を浮かべる。それに気がついたラムリーザは、いつもと同じことを言うのであった。

「言っただろ、リリスも精神年齢はソニアと同レベルだと。妖艶な見た目に騙されて近寄ると、実態は幼稚な性格だったという」

「うんまぁ、それはそれで良いのだけどね。しかし豚の卵か、相変わらずソニアの発想はぶっとんでいるな」

「あれが素で出てくるから不思議なんだよね」

「実在すれば、豚の卵は鶏の卵より大きいから、一つでより多くの料理ができるぞ」

「実在すればね。それなら、ゾウの卵のほうが大きいと思うぞ」

「なるほど、それもそうだ。ゾウの卵で作った卵焼きとか、食べ応えあるだろうね」

 ソニアたちの影響を受け、ラムリーザとジャンの会話も妙なものになっていた。

 

 ラムリーザとジャンの後ろには、ユグドラシルがごんにゃ店主と並んで歩いていた。

 今日のメンバーは、これだけである。リゲルとロザリーンは学校が終わると所用がある、と言って二人ですぐに帰り、ソフィリータはミーシャと一緒にエルム街へ遊びに行ってしまった。

「それで、今日は何を取りに行くのでしょうか?」

 ユグドラシルはごんにゃ店主に尋ねる。生徒会長のユグドラシルは、学校のイベントにもミルキーウェイ・フェスティバルを取り入れようと考えており、調査目的で同行しているのだ。

「山のどこかにササが生えているはずなのだよ。お祭りの目玉アイテムがそのササだからね」

「ササですか。ササの実なら食べたことがありますが、ササそのものを使った話はあまり聞きませんね」

「ユライカナンではお祭りに使うけど、他の国では確かに聞かないな」

 そんな話をしているようだった。後ろに行くほど真面目な話をしている一団である。

 

 中ほどを歩く組の会話に戻る。

 山道は細く、少し脇へそれるだけで草が足にまとわりつく。祭りのためとはいえ、こうして山へ分け入るのは、ちょっとした探検のようでもあった。

 生脚のままのソニアが、ふとももに擦れる草を嫌がって大げさに身をよじっている。その拍子にバランスを崩しかけたソニアの細い手首を、ラムリーザは後ろからすっと掴んで支えてやった。

「ほら、よそ見してないで足元を見ろ」

 ラムリーザがぶっきらぼうに言うと、ソニアは「む~……ありがと」と少しだけ顔を赤くして、またリリスたちの輪に戻っていった。

「この山脈って金とか銀出てこないかな」

 ジャンは、周囲にぽつぽつとある岩を見ながらつぶやいた。

「小規模でいいから調査隊を作ろうかな。もし金脈などが見つかったら、町の発展に大いに役立つし」

「その調査隊、俺が隊長を務めたいなぁ。ジャンの探検隊シリーズを作るんだ」

「調査隊が探検隊になっとる。資源開発を進めるのもいいけど、店はどうするのかな?」

「う~む、やりたいことが多すぎて手が回らない。なんとかしなければ……」

 ジャンは、軽く頭を抱えながら悩む。

「あと、あの山の頂あたりに、天文台の建設も進んでいるのだよね」

 ラムリーザは、今みんなで登っているロブデオーン山脈の北端で高くなっている場所を指差して言った。

「天文台? なんでまた――って、リゲルか。あいつ星を見る人だからな」

「僕たちの入学に合わせて大学も完成させる予定だから、それに合わせて天文台も完成する。天文学部を作る、それがリゲルの夢の一つでもあるからね」

「実は占星術師を目指しているとか?」

「それはないと思うけどね」

 そこでジャンは、前を歩く三人を見ながら言った。

「俺たちはともかく、リリスやソニアが大学に入れるのか?」

「問題は、そこなのだよねぇ……」

 誰でも無条件で入れる大学にはしたくないので、そのあたりはしっかりと考える必要があった。

 そんなわけで、少なくとも五年後ぐらいまでは、予定はぎっしりだった。そこから先はまた追々考えていけばよいだろう。

 

 先頭を歩く組の会話に戻る。

「豚の牛乳と豚の卵があれば、牛や鶏なんて相手にならないのになぁ」

 ソニアはまだそんなことを言っている。リリスと二人で、豚の牛乳と豚の卵について論議し続けているのだった。

「二人ともね、豚の牛乳って文字で書いてごらんなさいよ。絶対違和感がありますの」

「なんでよ?」

「なぜかしら?」

 ユコのツッコミにも全然気がつかない。そしてそのまま次の話題へと移っていった。

「そういえば、へんから峠にはへんこぶたが出没するらしいけど、このあたりには出ないのかしらね?」

 リリスの言うへんから峠とは、ポッターズ・ブラフ地方とフォレストピアを分けているアンテロック山脈にあり、二つの地域をつなぐ道にもなっている場所だ。

 フォレストピアは二つの山脈に挟まれる形になっている。東側がそのアンテロック山脈で、西側が現在地であるロブデオーン山脈だ。

 ただし、へんこぶたは噂でしか知らない。

「へんこぶたもおいしいかな?」

 ソニアの問いに、リリスは「肉は知らないけど鼻は臭いらしい」とだけ答えた。

「歌にもなっているぐらい有名になっているけど、へんこぶた自体の目撃例はあまり聞きませんですの」

「へんからぶぅ、へんからぶぅ、へんから峠のぶたがへんっ」

 童謡にもなっている歌を、リリスが口ずさんでみた。

「ぶたがへんってことは、へんって鳴くのかな?」

「そうなると思うわ、聞いたことないけど。あとへんこぶたはえんこぶたとも言われているから、えんって鳴くかもしれないわね」

「その童謡の二番は、えんからぶぅ、えんからぶぅ、えんから峠のぶたがえん、ですわ」

「へんから峠なの? えんから峠なの?」

「今度調べてみますの、絶対何か意味があるはずですわ」

 こんな調子で、ずっと豚談義であった。
              
ミルキーウェイ・フェスティバルの準備のため、ごんにゃ店主に案内されて山へ入り、従業員がササを切り出している場面
 しばらく山道を進んだ後のことである。

「おっ、ここに群生しているな。何本か切り出して持って帰ろう」

 ごんにゃ店主の指図で、従業員の若者は手際よくササを切り出していった。

「これがササですか」

 ここまで散々脇道へ逸れた会話ばかり聞かされていたせいか、ようやく本来の目的地に着いたのだとわかったときには、ラムリーザも少しだけほっとした。

「そうだ。タケに似ているが、タケと違ってササは葉鞘が残る。そこが見分けるポイントだな。もっとも、祭りにタケを使っても問題ないが、伝統的にササのほうを使っているだけだよ」

「そうですかー」

 ラムリーザはそう答えながらも、葉鞘が何かよくわかっていなかった。

「あとササの実は、五十年から六十年に一度だけ花が咲いたときにできるものだ。もし実りを見つけられたら幸運だぞ」

「おいしいのそれ?」

 ソニアの質問は、やたらとおいしいかどうか聞いてくることが多い。

「残念ながら、おっちゃんも食べたことがないのだなぁ。この場所を覚えていて、定期的に観察するのもいいかもね」

「金山銀山調査隊の任務に追加しよう」

 ジャンは、調査隊を結成する気満々のようであった。そこにソニアが口を挟んでくる。

「えっ? 金や銀を探すの? あたしやる!」

「ダメだ、お前には銅を探す任務を与える」

「銅なんかやだ、あたしはダイヤモンド探す」

「エルにダイヤはもったいない、ドンモヤイダで十分だな。ダイヤはリリスにこそふさわしい」

 当然のごとく、リリスを持ち上げるジャン。しかし乗ってこないのがリリスらしかった。

「いいえ、私にはオリハルコンが相応しいわ」

「おりはるこん~?」

 思わず目を白黒させてしまうジャン。いつも通り、割とゲーム脳のリリスであった。

 切り出したササを手に取って、ユグドラシルは「一本分けてもらえないかな?」と頼んできた。

「何だい、そっちの兄ちゃんは家で祭りをするのかな? それはそれでいいぞ、おっちゃんの国ではそれぞれ自宅で飾って祭る風習もある」

「いえ、自分の学校のほうでもこの祭りを企画していまして、その準備のために一本頂けないかとね」

 ユグドラシルは今日の道中、ごんにゃ店主からいろいろとミルキーウェイ・フェスティバルについて詳しい話を聞いていた。そしてその祭りを学校のイベントで模倣してみようと考えているのだ。ササのイベント、あとは校内で露店などかな。

「明日かね?」

「いえ、明日まで学校は休みですので、明後日以降で考えています」

「それなら、ちょっと保存方法を考えておかないとね。酢はわかるかな? 酢と水を混ぜた酢水につけておけば、ササは長持ちするぞ」

「生け花のようにですか?」

「んや、乾燥しないようにすることが大事だ。乾かないように、涼しい場所に置いて定期的に酢水を全体にかけてやるといい。新聞紙などでくるむのも手だ」

「なるほど、わかりました」

 こうして一同は、無事にササを手に入れて帰路につくのであった。

 帰り道の雑談は行きと少し異なり、ジャンとソニアの調査隊論議となっていた。欲の深い二人、その一方でリリスはオリハルコンに続き、ブルーメタルやミスリルを探すと言い張るのである。

 豚の卵やへんこぶたの話は、どこかへ飛んでいってしまったようだった。

 山へ入った目的はちゃんと果たしたはずなのに、帰り道の会話まで含めると、今日の収穫が何だったのか少しわからなくなる。それでも祭りだけは、少しずつ近づいてきていた。

 

 あとは余談――

「さて、すっかり日も暮れたし、夕飯も一緒に食べてから帰ろう。どこがいい?」

 この日、ラムリーザの部屋のココちゃんは十六体に増えていた。