ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
ぶぉんぶわぁむわぁん
帝国暦九十三年 真藍の月・精霊の日(現代暦:六月下旬)
この日の夕食後、ラムリーザの自室にて。
ソニアはいつものようにゲームをプレイしていて、その隣でラムリーザは、十二体に増えたぬいぐるみのココちゃんのうち、一体を抱きかかえ、一体を足の間に挟んだ状態でソニアのプレイを眺めていた。
ソニアが今日プレイしているゲームでは、なにやらロボットのようなキャラを操るようだ。そして時折黒い爆弾を仕掛けては、それを爆発させて敵を退治して回っている。
前回の金塊集めに引き続き、今回のゲームも実は帝国産ではない。ゲーム交流という名目で、ユライカナン産のゲーム機を取り入れて、遊んでみているのだ。
ソニアだけが遊ぶのはずるいということで、リリスやユコもゲーム機を受け取っていた。また、フォレストピアのゲーム屋も近々オープンする予定で、そのときに本格的にこのゲーム機も輸入販売していこうという話になっていた。
ゲーム交流ということで、当然帝国産のゲーム機もユライカナンに輸出している。ラムリーズが演奏しているゲーム音楽の一部がエロゲソングだということがバレる日も近いかもしれない。
画面には白いブロックと緑の通路が広がっている。白いレンガ状のブロックは爆弾で破壊できるようで、道が塞がれていたら爆弾で道を作って先へと進んでいる。レンガ状でないブロックは一つおきに設置されていて破壊できず、そのため爆弾の炎は十字の形に広がっている。名付けて十字ボム?
「なんだか荒っぽいゲームだね。敵は風船かな?」
ラムリーザは、爆弾がボンボン爆発しているゲームをそう評した。さらに、退治している敵の形が風船に似ていたので尋ねてみた。
「風船言うな!」
なぜかソニアは怒る。ラムリーザは一瞬不思議に思ったが、すぐに風船おっぱいお化けを思い出して笑いそうになるのをこらえて言った。
「でもその敵は風船にしか見えないよ」
ソニアは、画面上の敵キャラがラムリーザの言うとおりにしか見えないので、それ以上怒ることはなかったが、不機嫌そうな顔になってしまった。ゲームを始めて、まだ五分も経っていないというのに。
ラムリーザは、抱いていたココちゃんを左隣に置くと、右隣に座っているソニアに抱きついた。
「ソニア、いい匂い」
「えっ?」
突然横から抱きつかれて耳元でささやかれて、ソニアはびっくりした。ラムリーザも、何を言っているんだ? と我ながら妙だなと思っていた。
「ああいや、今日もソニアはいい匂いだなぁ、と思って」
言葉を続けながら、ラムリーザは次の言葉を考えていた。リリスはソニアのことを臭そうとか言うが、全然そんなことはない。ラムリーザは、そのままソニアの巨大な胸へ手を伸ばしていった。
「胸触るな!」
ゲーム機のコントローラーを持ったまま、ソニアは自分の腕で胸をガードして隠す。ゲーム中に胸を触られると集中できないので嫌なようだ。
ラムリーザは仕方なく、ソニアから離れると再びココちゃんを抱えてゲーム画面を眺め始めた。
ソニアは一面をクリアして、二面へと突入していった。風船みたいな敵キャラだけでなく、なんだか水色のタマネギみたいなものも動き回っている。そいつは風船よりも素早いが、ソニアの操るロボットも、一面で火力をアップさせるアイテムを取ったようで、爆弾の炎が一ブロック分長く伸びるようになっていた。
「ココちゃんを二体抱えていたら、僕たちの間に双子が生まれたみたいだね」
ラムリーザは、さらに一体追加して二体抱えながら、ココちゃんをソニアのほうへと押し付けるようにして言った。ちなみに二体抱えて、足元に一体いるが、部屋を見渡せばまだ九体も転がっている。多すぎる。
「ココちゃんは子供じゃない!」
しかしソニアは、そっけない――というよりは、否定的な言葉を投げかけた。確かにぬいぐるみは子供ではない。
「夢がないねぇ」
ラムリーザはぼやいた。ソニアには母性みたいなものはないのか?
「ココちゃんがぬいぐるみだったら子供代わりに可愛がっても不思議じゃない。でもココちゃんはクッションだから子供じゃない。クッションを可愛がるのはおかしい」
母性うんぬんではなかった。ソニアは、いつものクッションとぬいぐるみの違いについてのこだわりを述べただけだった。
ラムリーザは、クッションでもぬいぐるみでもいいじゃないか、と思うが、ソニアには譲れない何かがあるのだろう。そういえば、ソニアはココちゃんたちと一緒に輪になって、クッション反省会などをよく行っている。「クッションらしくしろ」だの、「ぬいぐるみじゃない」だのと、ココちゃんに言い聞かせているかのように……
ゲームのほうは問題なく進み、ソニアは二面をクリアして三面に突入していた。先日プレイしていた金塊集めゲームと違って、これはパズル要素がなく、ただ敵を爆破し、同じようにブロックを爆破して出口を探すだけのゲームなので、あまり頭を使わない。そのためか、順調なようだ。
三面ではなんだか紫色の樽みたいな敵が追加されて、うろうろしているようだ。ロボットに風船にタマネギに樽、不思議な世界だ。
「足触るよ」
胸を触ろうとしたら怒られたので、今度は脚に手を伸ばした。ラムリーザは、ソニアの表情をうかがいながら、そっと触れてみる。
いつもの際どい丈のミニスカートで、太ももはほとんど露出している。
以前、学校帰りに公園で遊んだときは、「足さわってもいいけど、靴下触るな」という謎の制限をかけてきたが、今はミニスカートの下の脚に何も身につけていないので文句は言わない。
胸を触ろうとすると文句を言うが、脚なら文句は言わない。靴下を触るなとは言うが、生脚を触ることには何も言わない。妙なところにこだわりのある娘だ。
「ぴちぷにょ」
「や」
あっさりと拒否されたので、ラムリーザは今度はココちゃんを一体抱いたままソニアの太ももの上に頭を乗せて横になる。いわゆる膝枕というやつだ。
そのままゲームをプレイしているソニアの表情をうかがおうと視線を上に向けたが、目に入ったものは巨大な胸の下側だけで、顔を見ることはできなかった。さすが足元が見えない大きな胸だ。
仕方がないので、ソニアの太ももに頭を乗せたまま、ゲームの画面へ視線を戻す。ソニアは、ラムリーザが自分の脚で遊んでいることをまったく気にせず、ゲームを進めて今度は四面に突入していた。今日は「ふえぇ」は発動しない。
なにやらまた新しい敵が追加されている。たとえるなら、お日様だろうか。丸い顔がものすごいスピードで動いている。少しずつ難易度が上がっているようだ。
しかしソニアの操るロボットも強くなっている。ロボットの強さというよりは、むしろ爆弾の性能と言うべきだろうか。最初は一つしか設置できなかった爆弾も、今では二つ設置できるようだ。火力も最初に比べたら大きくなっているし、なにやらソニアは自分の好きなタイミングで爆発させているようだ。
そんな感じで、効率よく敵を爆破している。ひたすら爆発させている。単純明快だが、見ていて豪快で爽快だ。
そんな中、ラムリーザは少し顔を動かして、ソニアの太ももに軽く唇を触れさせてみた。すべすべでやわらかい感触だった。ソニアの足はおいしそうで、食べてしまいたい。だがソニアはゲームに集中しているのか反応しない。
ほんの少しだけ、いたずら心で歯を立ててみても、ソニアは画面を睨んだまま「ちょっとラム、動かないでよー」と小さく身をよじるだけ。いたずらをまったく警戒されていないのが、少しだけ悔しく、それ以上にたまらなく愛おしい。
胸は少しつついただけで「ふえぇ」なのに、脚は鈍感なのだろうか。
「ソニアの脚、食べてもいいかな?」
ラムリーザは、我ながら妙な質問をしているな、という自覚はあったが思わずそう尋ねていた。
「食べちゃったら二度とあたしの脚を楽しめないよ」
ソニアの返事も妙なものだが、間違ってはいない。ラムリーザは、食べてみたい気もしたが、ソニアの綺麗な脚がなくなるのはもったいないので、食べるのはやめておいた。
「あ」「あ」
そのとき二人の声が重なった。画面上のソニアの操るロボットが、お日様のような丸い顔に衝突してやられてしまった。敵の動きが速いぶん、逃げ切れなかったようだ。
ソニアはラムリーザと顔を見合わせようとうつむいたが、ラムリーザの顔は見えず、見えるのは自分の巨大な胸だけだった。
「そうだ、対戦やろうよ!」
一度やられただけで、ソニアは他のことをやろうとした。
「またぁ? もう、飽き飽き」
ラムリーザは、いつもの返事をする。ソニアと対戦ゲームをすると、ろくなことがない。ラムリーザの周りでは、ソニアのずるい戦い方はすっかり悪名として広まっていた。ただし格闘ゲームに関しては、ソニアの愛用キャラがバランス調整の名のもとに弱体化してからは、対戦することはなくなっていた。
「このゲームの対戦だよ!」
ソニアはプレイした面まで記録してタイトル画面に戻り、対戦モードを選択していた。
ラムリーザは、またソニアのことだからずるい手を使ってくるだろうと思ったが、このゲームをプレイするのは今日が初めて。まだこのゲームでは、ずるい手も開発されていないだろう。食わず嫌いもよくないと思い、ラムリーザは膝枕から身を起こして、ソニアの差し出すコントローラーを受け取った。
というわけで、第一戦――
ラムリーザは操作がわからず、スタート地点のブロックに囲まれた狭い場所で一歩も動かないまま爆弾を仕掛け、そのまま爆風から隠れることもできずに自爆しておしまい。
「ちょっとラム~、まじめにやってよ!」
ソニアの不満そうな声を浴びながら、ラムリーザは「ごめんごめん、やり方がわからなくて」と答えて、姿勢を正して本格的に挑み始めた。
気を取り直して第二戦――
今度は爆風から身を隠せる位置を考えて爆弾を設置し、レンガ状のブロックを破壊しながら行動範囲を広げていった。
そこへソニアが突進してきて、ラムリーザをブロックに閉じ込めるような形で爆弾を仕掛けた。ラムリーザはそのまま爆死しておしまい。
「やったー、ラムに勝った!」
「よかったなぁ!」
多少投げやりにソニアを褒めながら、ラムリーザも夢中になっていった。まだずるい作戦が開発されていない分、ソニアの動きも素直でやられても納得できる。
単純なルールなのに、相手の動きと爆風の届く範囲を読んでいるだけで、妙に熱くなる。
三戦目――
今度はラムリーザも慣れてきて、ソニアの突進を避けたり自分の爆弾で牽制したりしながら立ち回っていく。
いつの間にか爆弾を蹴って動かせるようになったラムリーザは、ソニアが隠れているところへ爆弾を蹴り入れて閉じ込めた。爆死したソニアは文句を言った。
「爆弾を蹴るなんてずるい!」
「なんだよ、別にインチキしてないだろ?」
「むー……」
四戦目以降となると、今日始めたばかりのゲームでは二人の技量はほぼ同じになっていて、白熱したバトルが展開されていった。
そんな中、突然携帯端末がメールの着信を示すメロディを奏でた。メールはリリスからで、以前買ったヘッドセットをつけるようにという指示だった。
ラムリーザは、テレビ横の戸棚からヘッドセットを取り出して装着し、通信回線に接続した。すぐにリリスからメッセージが入り、今日始めたゲームで通信対戦をしようとのことだった。なんでも同時に八人まで対戦ができるらしい。
『魅惑の壷というルームを立ち上げているので、そこに入ってちょうだい』
「また魅惑の壷かよ」
懐かしい名前だ。リリスやユコが、ゲーム内のグループに名前をつけるときはいつもこれだ。よほど思い入れがあるのだろう。ラムリーザはそう思いながら、ソニアとともにそのルームへと入っていった。
『ユコと対戦していたけど、八人まで参加できるみたいだから誘ってみた』
『こんばんはですの』
ヘッドセットの向こうから、リリスとユコの声が聞こえる。
そういうわけで、四人での対戦がスタートした。
『ソニア包囲網発動よ』
まずリリスはラムリーザやユコを引き込んでソニアに対する集中砲火を画策した。そんなことを言ってもなかなかうまくいくものではない。
うまい具合にリリスとユコのキャラがソニアを追い詰めている中、ラムリーザは三人を囲い込むような形で攻撃してみた。気がついたら漁夫の利でラムリーザの勝利。
『ラムリーザ様は裏切り者ですの!』
『今度はラムリーザ包囲網よ』
「なんだそりゃ」
しかし連携しようとしてもそううまくいかない。連携しているふりをして今度はユコが裏切った。先ほどのラムリーザと同じ手口で三人を巻き込んでドカン。
『う、裏切り者ばかり』
リリスの歯ぎしりが聞こえる。
『敵の敵は敵ですの』
ユコの言葉はなんか違う。
こうして裏切り劇場ばかり展開されていったが、四人ともどんどんのめり込んでいった。まったく協力プレイが発生しない。隙あらば絶対どこかで誰かが裏切って漁夫の利を得る。そんなバトルばかり繰り返されていった。
画面の中では爆弾が次々と弾け、ヘッドセットの向こうからは悲鳴や笑い声が飛び交う。気分だけなら、四人ともすでに大会本番のつもりだった。
気がついたときには午前二時を回り、三時になろうとしていた。
「……ラム、あたしもう眠い」
限界を迎えたソニアが、ココちゃんのぬいぐるみを巻き込みながら、ラムリーザの肩へともたれかかってくる。
「さすがにやめよう」とのラムリーザの一言で、ようやく対戦大会は終わることになった。
ゲームに熱中しすぎるのは恐ろしい。どうせ明日になったら、また誰かが作戦を考えて、もっと酷い裏切り方を覚えてくるに違いない。
さっきまで部屋の中に響いていた爆発音や悲鳴めいた声も、ゲーム機の電源を落とすと急に静かになった。
誰も知らない午前三時、二人の夏の夜は、小さな寝息と共にようやく更けていくのだった。