ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


ユライカナン初ライブ ~エド・ゲインズショー~

帝国暦九十三年 黄金の月・賢者の日(現代暦:六月中旬)

「全世界の報道陣が、この会場に集まっています!」

 どう考えても大げさだ、とラムリーザは思う。これも全部ジャンの書いた台本だということは分かっているが、さすがに話を盛りすぎだ。

 そもそも「全世界の報道陣」ってどこの世界から来ているんだろう。仮に来ていたとして、狂喜乱舞するソニアの不思議な踊りを全世界へ報道されても困る。

 ラムリーザは後方から、ステージ正面で相変わらず形容し難い踊りを披露しているソニアを見つめながら、進行役の紹介を聞いていた。

 確かに客席のざわめきと熱気ははっきりと伝わってくる。国外の会場なのに、これから始まることを待ち構える空気は、どこか帝都のライブと同じものでもあった。

「エルドラード帝国出身のバンド、ラムリーズでっす!」

 そういえばまだ帝国で正式にオーディションに受かったわけでもなく、ただジャンの店で半分遊びで演奏しているだけだ。それなのに、こうして帝国代表みたいに紹介されて大丈夫だろうか?

 ラムリーザはソニアを眺め、進行役の台詞を聞きながら、これでいいのだろうか、と考えていた。よく見れば、ミーシャもソニアの踊りを真似し始めた。適当に踊っているように見えて、実は踊りのパターンがあったのか、などと再発見していた。

「では皆さん、ラムリーズです!」

 ユライカナンの首都ランザンヌではなく、帝国側に一番近い地方都市サロレオームにある会場。それほど大きくはないが、小綺麗に整えられていて感じのよい場所だった。会場の正面からは、国境の川であるミルキーウェイ川が一望できていた。

 

 今日は、ユライカナンでの初ライブ、というかコンサート。朝一番でフォレストピアの駅に皆で集まり、学校の制服をステージ衣装として身にまとった一行は、まるで修学旅行の再現のように再びユライカナンへと向かっていった。

 さすがにジャンの交渉力やごり押しでも首都で演奏というところまではこぎつけず、帝国に一番近い地方都市での開催となった。しかしその方が、移動時間が少なくて済んで楽だった。何しろ、一区間の駅移動で済むのだ。

 フォレストピア側には、まだフォレストピアより西に駅は存在しない。アミューズメントパークであるポンダイ・パークのフォレストピア出張店が完成すれば、それに合わせて駅を一つ増設する予定ではあるが、それはまだ先の話だ。

 十一人全員集合である。最初はレフトールは参加しないと言っていたが、その後に皆に説得されて参加することになった。特にユコは、「サブパーカッションでコンガとかマラカスとかやってもらいます。というか、レフトールさんも込みで書いた楽譜とかあるので、いないと困ります」と言って、レフトールの参加に積極的だった。

 今ではラムリーザの周囲にいる者で、レフトールのことを「ポッターズ・ブラフ悪の双璧の片割れ」だと思っている者はいない。彼と確執のあったソフィリータも含め、全員が彼を仲間として認識していた。

「マラカスって、それ鳴らしながら踊って、チクチキブンチクチキブン、ってか?」

「それでもいいですの」

「いや、そんな歌レパートリーにはないぞ?」

「マラカスでレフトールさんが踊る歌に心当たりがあるので、今度楽譜にしてみますわ」

「いやいやいや、せんでええせんでええ」

 レフトールは手と首を横に振りながら否定した。ステージの上で踊るのは、さすがにキャラが違うなどと言っている。

「じゃあミーシャが踊る。おらルンバのビート王っ、マラカス鳴らして吸盤のビート! 踊るぜ踊るぜチクチキブンチクチキブンッ」

「あ、それですの。今度作りますね」

「踊るのは踊り子ちゃんでたくさんだ、俺はラムさんの後ろでコンガでも叩いとく」

「後ろじゃなくて隣でね。というかミーシャちゃん、汽車の中で踊らない」

 などと話をしながら、汽車は国境のミルキーウェイ川に架かる橋を渡っていった。

 ユライカナンに入って最初の駅、サロレオームで降りてそのまま近くにあるコンサート会場へと案内された。会場の前には、「エルドラード帝国の友好親善大使、フォレストピア領主ラムリーザの率いるラムリーズ!」などと書かれている大きな立て看板が置いてあった。

「な、なんだこの謳い文句は?!」

「どうだ、すごくかっこいいだろう?」

 ジャンが突然現れてそう言った。どうやら会場の前で待っていたようで、昨夜からここに泊まり込んで準備をしていたみたいだ。

「ジャン、ちょっとやりすぎだって」

 ラムリーザは立て看板を指差して、「友好親善大使って何?」と問いかけた。

「嘘ではないだろ、このコンサートも友好イベントの一環だ。ユライカナン出身のバンドもうちの店で演奏してもらっているから、そのお礼も兼ねているんだからな」

 大きく持ち上げられすぎて、ラムリーザは赤面するしかなかった。

「いよっ、ラムさん、世界一っ」などとレフトールはさらに煽り立てた。

「レフトール、君も友好親善大使の一員だからお行儀よく」

 ラムリーザは、そう言い返すのが精一杯だった。お行儀よくできないメンバーは、他にいるものだから頭が痛い。

「ほら、この人がユライカナンのこの地方でテレビなどの司会者をしてくれているエド・ゲインズさんだ。今日の舞台は俺じゃなくて、この人の進行だからな」

「エド・ゲインズです」

「ラムリーザです、今日はよろしくお願いします」

 ラムリーザは紹介されたエドと握手して挨拶を済ませた。

 

 コンサートは昼の二時から始まる。休日というのもあって、昼からでも客の入りはそこそこ良いようだった。このコンサートは、司会者の名前を取って「エド・ゲインズショー」などと呼ばれているようだ。

 そういえばデビューシングルが、ユライカナンのチャートで十七位だったっけ? そこそこ知名度はあるらしかった。主にジャンの宣伝効果によって。

「ジャン、この観衆の前でエロゲソングを披露するのな……」

 ラムリーザは、ふと気になったことをジャンに聞いてみた。身内で演奏するぶんにはニヤニヤで済むけれど、こういった外国でのコンサートで演奏するのはいかがなものか? しかもテレビ司会者が進行をするということは、テレビ中継もされている?

「大丈夫だって、この国では発売されていないゲームだ。みんな知らないからオリジナルソングだと思ってくれるさ」

「その歌が流れるゲームを、ユライカナンが輸入したらどうするんだ?」

「そのときはそのときだ。ほらっ始まるぞ相棒っ」

 ジャンは、ラムリーザの肩を叩いてステージへと昇っていった。

 こうしてラムリーザたちは、舞台袖からステージへ上がり、まだ幕の上がっていないステージ上でそれぞれの位置について準備を始めた。

 そして時間がやってきて、エド・ゲインズによってラムリーズは紹介され、いよいよ初の外国での演奏が始まった。

 

 ラムリーザは演奏しながらいつものようにメンバーの様子を一人一人眺めていった。

 まずは、もう心配しなくてもいいだろうが、最初に問題を引き起こしてくれたリリスからだ。

 今回の演奏も、初めて演奏したときと同じ曲から入った。リリスの歌う歌だ。

 リリスはもう視線恐怖症は克服しており、リードギターをかき鳴らしながら元気に歌っている。うん、大丈夫だ。

 次に、自分から見て右後方でピアノを弾いているロザリーンを見る。小さい頃からピアノコンクールで演奏してきたというロザリーン。この大舞台――というほど規模は大きくないが、ここでもいつも通り平常運転だった。うん、大丈夫、というかロザリーンに関しては心配していない。

 次は左隣でサブパーカッションとしてコンガをポコポコ叩いているはずのレフトールだ。

 レフトールのほうを見ると、彼もこちらを見ていたようでラムリーザと目が合う。ラムリーザが頷くと、レフトールも頷き返した。大丈夫、かな?

 あとで聞いた話では、「俺は観衆のほうを見たら戸惑ってしまうので、ずっとラムさんを見て気を紛らわしていた」ということだった。意外なところでも、ラムリーザは心の支えになっていたようだ。

 次に、少し離れた場所でギターを弾いているソフィリータを見た。後ろ姿しか確認できないが、普段はおとなしいが根はしっかりしている彼女も、ロザリーンと同じく平常運転。もともとJ&Rのときからステージで演奏していたし、ラムリーザと離れていた去年一年間も、ミーシャと二人で公園でライブしていたぐらいなのだ。

 そこに横から飛び込んできた姿が目に入る。今日はマラカスを持ってステージを右へ左へと跳ね回って踊っているミーシャだ。踊り子ちゃんと呼ばれていただけあって、どんな曲でもすぐにダンスにしてしまうという稀有な才能を持っている娘だ。

 ミーシャを目で追っていると、ステージの左側へと移動し始めたときに、センターを任されているソニアと正面から目が合った。ベースギターを弾いているソニアがこちらを向いていた。

 ラムリーザは慌てて首を振って前を向くよう促した。ソニアは歌っていないときは、気がついたら後ろを向いてラムリーザを見ながら演奏していることが度々あった。

 現在歌っているのはリリスだけで、ソニアは前を向いて歌う必要がないので後ろを向いてラムリーザを見ていたのだ。

 ステージのセンターを任されているソニアが後ろを向いている。たびたび発生するこの癖が、ソニアの問題点であった。ラムリーザは、そのたびに前を向くよう指示する必要に迫られていた。

 こういうところが、ソニアがソニアたる所以だった。センターに立っていても、気がつけばラムリーザのほうを見ている。舞台映えという意味では困った癖だが、今さらそれを完全に直せとも思えなかった。

 そこで一曲目の演奏が終わり、次の曲へと移っていった。

 今日はいつものようにラムリーザが一曲一曲紹介するのではなく、あらかじめ演奏曲リストを司会者のエド・ゲインズに渡しておき、彼がその順番に沿って紹介するという形をとっていた。

 次はソニアの絶叫曲ルシアだ。

 ラムリーザは、ソニアがちゃんと前を向いて歌っているのを確認してから、今度は自分の左隣へと視線を移した。

 リゲルはいつも目立たないように、ドラムのラムリーザのそばに立って演奏することが多かった。今日も、若干後ろ気味に立っているので、ラムリーザの視界の端にしかリゲルを捉えられなかった。

 別に恥ずかしがっているわけではない。目立つのが嫌いなだけで、あくまで裏方に徹してギターでリズムを刻んでいるのだ。

 というのも、歌うことになれば普通に歌う。別にあがって声が上ずることもなく、いつも通りに淡々と歌う。ただし、リゲルの持ち歌になっている破戒僧グリゴリーは、リゲルの歌よりもその歌に合わせてステージを所狭しと踊って回る踊り子ちゃんミーシャが主役と言えるであろう。

 リゲルの左隣、少し前に出たところでジャンがギターを弾いている。J&Rでは主役の彼も、ラムリーズでは裏方。あくまで主役はソニアとリリスにミーシャを加えた三本柱。普段も自分の店では進行役を務め、演奏に参加することはほとんどないので今日もゲスト出演のようなものだ。

 エド・ゲインズがいなければ、今日の司会者はジャンになっていたかもしれない。

 そのジャンの左隣には、これまたゲスト出演に近い形で参加しているユグドラシルが、バイオリンで優雅な旋律を披露していた。彼は学校の生徒会長として表に立つような人物。コンサートのステージでも動じることはないだろう。

 ラムリーザは、そこで最後のメンバーを見つめた。ラムリーザから見てステージの左端で、ソニアの歌うロックンロールに気持ちよさそうに体を縦ノリさせながらキーボードを演奏する美少女ユコ。

 メンバーが増えたら増えた分だけ、アレンジを加えた楽譜を作成するのだから恐れ入る。

 レフトールのサブパーカッションや、ユグドラシルのバイオリン。ギター担当として増えたソフィリータとジャン。この増えた分だけ既存の楽譜に新しい楽器を追加できるのだからすごい。つくづく作詞能力を持ったメンバーがいないのが残念なほどだ。

 ラムリーズの演奏の根底を支えているのはユコかもしれない。彼女が関与していないのは、自由に踊りまわるミーシャぐらいであった。
              
ユライカナンの会場で、ソニアとリリスを中心に、ラムリーザたち十一人編成のラムリーズが初コンサートを披露している場面
 三曲目は、ソニアとリリスが二人でメインボーカルを分け合う歌。本当なら全員が一曲ずつ担当するつもりだったのだが、まだデビューシングルが知られているだけということもあり、今日の歌はソニアとリリスがメインで担当することになっていた。

 全員が歌うのは、アルバムを発表してからでもいいだろうと、事前の話し合いで決まっていた。むろん、アルバムもジャンが、帝国よりも先にユライカナンで販売するつもりでいた。

 帝国で出せないのは、オーディションを通っていない非正規バンドだからだ。

 しかしユライカナンなら外国だし、フォレストピアはユライカナンとの文化交流のために作られた街。だからユライカナンでフォレストピアの音楽を披露するのも、文化交流の一環だというジャンの妙な理屈によって推し進められていた。

 だから、ラムリーザの名をより強烈に知らしめるというわけで、それが冒頭のあおりである。

 演奏している曲の大半は、ゲームの主題歌だったりエロゲソングだったわけだが、まだユライカナンでは発売されていないゲームなので知る人もほとんどおらず、みんなは普通に聞いているようだ。

 そして定番のラストソング、ソニアの歌うきーらきーらで締めくくり、この日のコンサートは大盛況のうちに終了したのであった。

 メンバー全員で一礼している間に幕が下り、客席がざわざわとし始め帰路につく人が現れ始めた頃、ようやくみんな一息ついた。

「おつかれい」

 ラムリーザの一言に、ソニアは「アレオかれい」と答えてリリスににらまれる。

「ありがとう、いい視聴率が取れるかもしれない」

 司会進行のエド・ゲインズも、幕の下りたステージにやってきてお礼を述べた。

「マジで国内よりも外国で先に有名になってしまう。これでいいのかなぁ?」

「ま、いいんじゃね? 今の帝国で最も最も成長著しい地域の領主の戯れとなれば、表立って文句を言える奴も少ないだろう。文句を言う奴は縛り首だ! とかやればいいのさ」

 ジャンはニヤリと笑ってそう言いのけた。

「ふっ、ラムリーズは横暴だな」

 自分もそのメンバーの一員だということを棚に上げて、リゲルは皮肉を言う。

「よかったら、また今度。そうだねぇ、時期的に夏休みに合わせてまたやらないかい?」

 エドは次回についての予定を提案した。夏休みなら自由な時間も多いから、どうとでもなるだろう。

「そのときはね、皆で歌って驚かせてやろう。それまでにアルバムを出すからな」

 ジャンも乗り気なようだ。

「ミーシャも次はメインで歌ってみたーい」

「あなたはステージの後ろで踊っていればいいのよ」

 ちょっと欲求不満の残ったミーシャと、妙な煽りを入れてくるリリス。

「それまでに、新曲の楽譜を五曲分は仕上げてみせますわ」

 ユコも次回に向けてやる気満々だが、あくまでコピー。作詞ができないので新曲はラムリーズには今のところ無理だった。

 

 こうして、ラムリーズによる初めてのユライカナンコンサートは終わった。この後、日が暮れるまでこの街を見物した後、帰っていくのだった。

 フォレストピアから生まれた音が、国境の川を越えて、別の国の人々にも届いたのだと思うと、少し不思議な気分になる。

 ただの学生バンドのつもりでいても、ジャンはそこに勝手に意味を乗せていく。友好親善だの、文化交流だの、領主だのと、毎度毎度話が大きい。さらに次はアルバムだの、また夏休みに来ようだのという話が進んでいる。

 でも、今日の客席の空気を思い出すと、そういう大げさな世界も、すべてが嘘というわけではないのだろう。

 話を大きくしすぎだ、と何度も思った。けれど、その大きくなりすぎた話に、自分たちの奏でる小さな一曲も、ちゃんと追いついてしまっているのかもしれない。

 

 余談だが、ラムリーズが演奏している番組がテレビ放送されている間はユライカナンでの青少年犯罪件数がゼロだった、という逸話が後に誕生したとか。しかしそんなのは嘘っぱちで、ジャンが流した単なる噂だった、という話になったとか――