ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


金塊集めゲームと気になる人

帝国暦九十三年 黄金の月・鍛冶師の日(現代暦:六月中旬)

 この日の夕食後、ラムリーザとソニアはいつものように自室――ラムリーザの部屋――でソファーに腰掛けて、ゲームをする者と、見る者に分かれてのんびりとしていた。

 ラムリーザは、ゲームをプレイしているソニアを抱き寄せて、頬ずりをするなどしてちょっかいをかけていた。ソニアもラムリーザのその行動を嫌がるわけでもなく、「ん~んっ」などと言いながらゲームのプレイを続けていた。

 この日、学校からの帰り道にゲームショップへ寄って、金塊集めゲームなる新作を買ってきていたので、早速始めているのだ。なにやら敵のロボットを回避しつつ、レンガを掘りながら画面中の金塊をすべて集めるとクリアとなるゲームだ。

「最近格闘ゲームで勝負を挑んでこんねぇ」

 ラムリーザがそうつぶやいてみると、ソニアはむっとした声で言い返す。

「あんなクソゲーはもうやらない。古いバージョンのなら対戦する」

 どうやら最新作でソニアの持ちキャラだったアルタイルが弱体化されて以来、プレイすることはなくなっているようだ。

「いや、やるなら新しいのにしよう。せっかく新作出たのになぜ買わないんだ?」

「ふんだ、おもしろくないゲームは買わない」

「それじゃあ今やっているゲームを、くすぐられるのを我慢しながらプレイしてみようか」

「絶対やだ!」

 などと言い合いながらも、ソニアは画面に集中して金塊を集めていた。時折、部屋に持ち込んだポテチをつまんでいる。

「そのポテチ、僕にも頂戴よ」

 ラムリーザがソニアの傍らに置いてある袋に手を伸ばしかけたところ、ソニアはゲームにポーズをかけると、ポテチの袋をラムリーザから遠ざけた。

「あげない」

「なんで?」

 ソニアは二度ほど、ラムリーザの顔とポテチの袋に視線を行き来させた後、不思議なことを言った。

「じゃあポテチを手に入れる呪文を言ったらあげる」

「呪文?」

「チップチャップパッパッポーの呪文を唱えるの!」

「チ、チップチャップ――?」

「パッパッポー」

「――パッパッポー?」

「はいどうぞ」

 ソニアは、袋の中からポテチを一枚取り出してラムリーザに手渡すと、再び袋をラムリーザの手が届かない場所に動かしてゲームを再開した。

 一枚だけもらったラムリーザは、すぐに食べ終えてしまい、おかわりを要求しようと手を伸ばした。

「だめ! 呪文を唱えないとあげない!」

 ソニアは、ゲーム機のコントローラーを持ったまま、ポテチの袋に伸びたラムリーザの手をブロックする。

「何、呪文? チップチャップパッパッポーだっけ?」

 そう言うと、ソニアはゲームにポーズをかけると、袋からポテチを一枚だけ取り出して手渡した。

 その一枚も食べ終わったラムリーザは、ソニアのほうに手を伸ばして「おかわり」と言った。

「呪文」

 しかしソニアは一言だけ返した。

「チップチャッ……」

 ソニアの指定した呪文を言いかけてラムリーザはふと我に返り、そのままソニアから少し離れてソファーで大きく伸びをしながら「もういい」とつぶやいた。ソニアはレンガを掘って穴をつくり、ロボットを落としてその頭の上を通り過ぎていった。

 そのとき、部屋の入り口からノックの音が聞こえて、すぐにドアが開いてソフィリータが入ってきた。別に落ち着かないことをする予定がないときは、鍵をかけずにいた。

 ソフィリータはそのままソファーのほうへやってきて、ラムリーザの足元の床に座り、腰のあたりに寄りかかってきた。これまではそこが、ソフィリータの定位置だった。

「ラムにくっつくな!」

 ソニアはゲームの画面を見つめたまま怒っていた。金塊集めは一面をクリアして二面に突入したようだ。

「ソニア姉様は二年前までは文句言わなかったのに、今はなんだかケチになりましたね」

「あのときはあたしとラムはただの幼馴染だったけど、今は恋人。だからそんなことするとソフィーちゃんがラムを寝取ろうとしているとみなす!」

「めんどくさいソニア姉様」

 ソフィリータはソファーのラムリーザの隣の位置へと移動して、今度はラムリーザに寄りかかることもなく普通に座り直した。

「地味なゲームですね。最新の格闘ゲームはやらないのですか?」

 ラムリーザと同じことを、ソニアに尋ねてくるソフィリータ。別に不思議なことではなく、今ゲーム界で一番盛り上がっているのが、格闘ゲームのバージョンアップされた新作だ。ゲーム雑誌では毎週のように特集が組まれていた。

 しかしソニアは、まったく見向きもしない。

「やらない! あれはゲーセンでやってみたけどクソゲーだった!」

 それどころかソフィリータにも怒っている。今日のソニアは、やけに刺々しい。

「アルタイルが弱体化したからですか?」

「うるっさいわねーっ」

 まぁラムリーザにとっては、負け確定の対戦を挑まれないだけ、平和になったものだと考えていた。

「そういえば、リザ兄様とソニア姉様は、そこの大きなベッドで一緒に寝ているんですか?」

 ソフィリータも、ソニアが自室に戻っていないことにうすうす感づいていたようだ。ということは、親にも気付かれている?

「恋人同士だから一緒に寝るのも当然」

「同衾がお母様にばれたらどうするのですか?」

「そんな言葉まで知っているんだな。まぁそこなんだよなぁ、ばれているような気もするけど、泳がされているような、スルーされているような」

 ラムリーザは、再び家族で暮らすようになってだいぶ過ぎたのに、いまだに何も言ってこないのが気になっていた。気にしなくてもいいのかもしれないが、それでも気になるものは気になる。

「リアス兄様は反対せずに好きにしたらいいとか言ってましたけどね」

「ソフィリータは?」

「私も大切にしてくだされば――」

「ふえぇっ!」

 そのとき、楽しそうにゲームをプレイしていたはずのソニアの口から、お馴染みの困ったときに思わず発するフレーズが上がった。

 画面を見ると、プレイヤーキャラがレンガに埋まっている。どうやら自分の掘った穴に落ちてしまったらしい。

「何これ、最後の金塊が取れないようになってる。クソゲーつかまされた?」

「待て待てそう騒ぐな。ざっくり見た感じ、そんなに難しくないようだったけど、もう一度やってごらん」

 ラムリーザに諭されてもう一度プレイをやりなおすソニア。問題の場所は、金塊がレンガに囲まれた場所みたいだ。

 ソニアはレンガを掘って金塊を取りに行くが、金塊には届かずに閉じ込められてしまう。

「取れないよこれ」

「最初に二箇所穴を掘って降りたら、さらに穴が掘れて取れるのじゃないかな?」

 ラムリーザのアドバイス通りにプレイすると、ようやく先へ進めるようになったのでソニアは再びゲームに熱中していった。

「――で、何の話だったっけ?」

 ラムリーザは、再びソフィリータと向き合った。

「何でしたっけね」

 ソフィリータも、少しゲームのほうに興味が向いたようで、チラチラとソニアのプレイしている画面を見始めていた。

 しばらくの間、ラムリーザとソフィリータの二人はゲーム画面を眺めていた。

「そういえば、ソフィリータは学校は楽しいかい?」

「うん、ミーシャも一緒だし、部活の先輩たちもみんないい人ですし」

「レフトールも?」

 思わず聞いてしまってから、ラムリーザは地雷を踏みつけたか? と焦っていた。ソフィリータは去年の出来事が元でレフトールを憎んでおり、初めて顔を合わせたときは飛び蹴りを放っていた。

「いつまでも過去のことをぐちぐち蒸し返すのは根暗です。一発食らわせましたし、今はもう悪くはない人みたいなのでいいです」

 よかった。ソフィリータの中でもレフトール問題は解決していたようだ。あの蹴り一発で水に流したのかどうかはわからないが、今はもう憎んでいないようだ。

「世の中には祖父の世代の出来事について、子孫に謝罪を求めたり賠償を要求したりする国があるみたいだぞ」

「悪いことをした世代が謝罪すればよいのではないですか? なんだか親の罪が子に及んでいるみたいで気持ち悪いです――って、そんな国があるのですか?」

「ユライカナンのさらに西側にある国が、ユライカナンに対して昔の出来事を政治の種にしているらしいよ。少し前に、ごんにゃの店主さんと雑談したときに聞いた話だけど」

「関わらないほうがよさそうな国ですね」

「うん、なんだかフォレストピアにもその国で流行している玉入れゲーム施設を建てたいって要求があったけど、ジャンやリゲルと相談してそれは受け入れないことにしたよ」

「勝手に作られたらどうします?」

「ん、許可もなく事業を始めた者を強引に撤収させる権利は領主にあるから、強制的に解体だね。さらにその責任者は牢屋」

「それよりもリザ兄様――」

「ふっ、ふえぇっ!」

 再びソニアの悲鳴というかつぶやきというか、困ったときのフレーズが飛び出した。画面を見ると、やられてはいないがどう考えても詰んだ状況になっているようだ。

「今度は何だ? って見たらわかるな。それはもう無理だね」

「ふえぇ……」

 どうもパズルゲームのようなものは、ソニアには向いていないようだ。考えなしに動き回って、どうしようもなくなることが多いみたいだ。

「そういえばソニア姉様は、民衆を虐殺して最後に暗殺されるバッドエンドとかやっていませんでしたっけ?」

「嫌なこと覚えているわね……」

 去年、ちょうど帝都を離れる直前にプレイしていたゲームのことを、ソフィリータはしっかりと覚えていた。『ソニアに制裁をッ!』だったっけ?

「次にやり直すときは、そこにロボットがいないことを確認してから降りていくんだぞ。――で、言いかけたことは何だって?」

 ソニアが同じ面をリプレイし始めたのを見て、ラムリーザは再びソフィリータのほうへ話しかけた。

「あ、そのことですか……」

 ソフィリータは、言いかけたところをソニアに邪魔されて、すっかり言い出しにくくなっているようだった。ソニアのプレイしている画面を見つめながら、口を開こうとしては閉じ、少しだけ頬を赤くしている。

 ソニアは、先ほど詰まった場所を今度はロボットが来る前に片付けたようだ。これなら後は、普通にクリアできるだろう。

「……私、学校に気になる人が」

 ソニアが先ほど詰まった面をクリアしたとき、ソフィリータはようやく口を開いた。

「ほー、ソフィリータもそんな年頃だしな。誰だい? 僕の知っている人かな? よく会う人?」

「リザ兄様、あまり突っ込まれると話しづらいです」

 ソフィリータはぷうと膨れてしまった。ソニアもこちらの話が気になるらしく、ちらちらと振り返っている。

「ごめんごめん、でも僕に教えてくれたらなんとか取り計らってみるよ。まぁ親しくない人だったら難しいけど。それで誰だい? 学校の人? 街の人? ごんにゃの店主さん?」

「リザ兄様落ち着いてください。というか、私は学校で気になる人と言いました」

「こほん、そうだったねぇ」

「それは、えーとね……」
              
夜のラムリーザの部屋で、ソニアが金塊集めゲームに熱中し、相談に来たソフィリータが兄の隣で話す機会をうかがっている場面
 ソフィリータは、少しの間顔を背けて恥ずかしそうな表情を浮かべた後、ラムリーザの目を見つめて言った。

「学校の生徒会長さん――」

「ふえぇっ!」

「なっ、何だっ?!」

 ソフィリータが何かを言いかけたところに被せるように、再びソニアは悲鳴をあげた。

 見ると、ソニアの操るキャラクターが穴にはまっている。どうしてそうなったのやら……?

「金塊取ったら身動き取れなくなった」

「その状況だけじゃわからん、やり直してみろ」

 ソニアはもう一度やりなおしてみるが、金塊を取るために穴に飛び込んだみたいだ。そのまま身動きが取れずにいる。

「それ、横のレンガを壊してから取ったらいいんじゃないか?」

「難しいなー、これ……」

「そもそも、なんでそんなパズルゲームを選んだんだよ。格闘ゲームのほうがよかったんじゃないか?」

「だって金塊集めだよ、金塊だよ、すごいじゃない。夢が詰まっているよ!」

「それで穴にはまっていたのでは夢もクソもないけどね」

「ふえぇ……」

 それでもソニアはもう一度やり直して、今度は穴にはまることなく金塊を回収するのだった。

「で、誰だっけ?」

 騒動が終わった後、ラムリーザは再びソフィリータに向き合ってみた。

「……今日は、いいです」

 そう言い残してソフィリータはラムリーザの部屋から立ち去ってしまった。まあ、そばでソニアがゲームをしていて、トラブルが発生するたびに何度も悲鳴をあげられるようでは話をしづらいだろう。

 そんな感じに、夜の時間は過ぎていった。

 ソフィリータの気になる人が、どうやら学校の生徒会長らしい、ということだけは分かった。

 途中で何度も邪魔が入ったせいで、肝心のところはずいぶんぼやけてしまったけれど、それもまた今のこの家らしい。

 兄妹で落ち着いて話すにも、なかなか一筋縄ではいかないのである。

 寝る前の時間までに、ソニアはさらに三度ほど悲鳴をあげたのであった。

 このゲームの完全クリアへの道のりは長そうだ。むしろラムリーザのほうが興味を持ち、ソニアがプレイしていないときには、彼のほうが夢中になっているのだった。