ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
TRPG第六弾「指輪に込められた願い 完結編」 最終話 聖人の祈り
帝国暦九十三年 黄金の月・森人の日(現代暦:六月上旬)
さて、失われた指輪を求めて、カタコンベの地下四階へ足を踏み入れた一同。
そこに待ち構えているのはいったい何なのか?
「シャックスは、団長がいるという部屋の前まで一同を連れていきました、と。『ここが強そうな奴らの部屋。この奥にもう一つ扉があるんだけど、それはなんだか知らない』と言ってますの」
「罠を調べてやろう。あと、中の様子もうかがってやる」
リゲルはそう宣言してダイスを転がした。
「ええと、その結果ですと、罠はないようです。中には四人ほどいて、食事中のようですの」
「では鍵も開けてやる」
なんだか知らないが、リゲルは上から目線だ。だが仕事はこなし、ダイスロールの結果、鍵も外せたようだ。
「中にいる人はまだ気がついてませんの」
「じゃあ奇襲だな。がんばれよ、あほたれコンビ」
「あほたれ?」
ソニアとリリスはギロッとリゲルをにらむが、リゲルは知らぬふりだ。
「突入だ、えっと――」
場が荒れそうになったので、ラムリーザは急いで話を進めるが、そこで言葉に詰まってしまう。何を言うべきか?
「この国の憲兵隊ということにしときましょう」
ロザリーンの助け舟を借りて、ラムリーザは言葉を続けることができた。
「えーと、我々はクルクルランド憲兵だ、無駄な抵抗は――って、クルクルランド憲兵隊ってなんだよ、しまりがないな!」
「初めましてソニアでーすっ!」
「挨拶はいいから突撃せよ!」
「素直に降伏するなら、痛い目に遭わなくて良くてよ――って言ってみる」
戦いたがっているリリスはなぜか降伏勧告をする。降伏したら出番がなくなるのだが、よいのだろうか?
「『誰が降伏などするか!』と中にいた者は答えましたの。さて、全面戦争です。敏捷度順に行動宣言してくださいな」
「ええと、ロザリーンが一番素早くて、次にリゲルと僕が同じ値。で、リリス、ソニアと続いているね。あ、おっぱいの重さは敏捷度に関係ないから、戦闘に集中しようね」
ラムリーザは、リリスが何かを言いかけたので、先に釘を刺しておいた。ソニアの敏捷度が一番低いことについて何か言おうとしていることは明白だ。
「相手はどんな感じですか?」
最初に行動宣言ができるロザリーンは、ユコにそう尋ねた。
「えーと、ボス部屋の中にはボス格の赤髪と、男装の麗人、もやし系の男、無表情な傭兵の四人って感じですの」
「では男装の麗人に攻撃します」
ロザリーンがなぜその相手を選んだのかについては、追及しないでおこう。
「では命中判定――あらら、それだと回避されますね。次はリゲルさんかラムリーザ様ですわ」
「それなら、俺はもやし系の男を相手にしてやる」
「それじゃあ僕は、スリープクラウドをここでも一発」
「ええと、ラムリーザ様の判定ですと、赤髪は寝ない、麗人も寝ない、もやしは寝た、傭兵は寝ないですわ」
「あまり効かなかったなぁ」
「んじゃ俺はもやしは後回しで、無表情な傭兵に攻撃ということで」
リゲルの命中ロールの結果――
「おしい! 紙一重でかわされたみたいですの」
「まあいい、ここからが戦闘の主力だ。ほら行けお前ら」
「あ、その前に敏捷度から行って麗人の順番が先ですの。麗人はリリスを狙います、ダイスコロコロ、当たったね、コロコロ、十二点のダメージ、リリスの生命力は残り五ですわ。うーん、この麗人強かったかな?」
「何よ、最初からピンチって。まだ動いていないのに……」
なんだかリリスは不満そうだ。
「傭兵はソニアを狙いましょうか、ダイスコロコロ。あ、ソニアは回避しましたね」
「待ってそれありえない」
ユコの判定に、リリスはいちゃもんをつけた。
「何ですの?」
「ソニアは風船が邪魔で動けないのに、なんで私が大ダメージを食らってソニアが回避できるのよ?」
「何が風船だ!」
「外野うるさい、もやしは寝ている。はい、リリスの番」
「ダメージ大きいから、回復するまで下がる」
「……次のターンからは、私は回復に専念しますから」
ロザリーンは攻撃せずに控えることに決めたようだ。
「じゃあソニアの番ですの」
「敵ボスに攻撃する」
ソニアの攻撃ロールの結果、ボス格の赤髪に生命力の半分ぐらいのダメージを与えることができたようだ。
「くっ、乳妖怪が活躍しているのに……」
「リーダーはソニアに攻撃、コロコロ、あ、回避」
「信じられない!」
リリスはソニアの活躍により、ますます不満そうになった。逆にソニアはかなり嬉しそうだ。
「次のターンです、ロザリーンはリリスに回復でしたね?」
ロザリーンの回復により、リリスは戦線に復帰した。
「ではこのターンもスリープクラウドで」
ラムリーザは、再び相手を眠らせる作戦に出た。しかし――
「うーん、ロールの結果、誰も眠りませんでしたの」
「まいったな……」
「まあいい、人数的には少し有利になっている。再び俺は傭兵に攻撃な」
「はい、リゲルさんも攻撃ロール。当たりましたね、ダメージは――」
リゲルはダイスを転がしていく。
「――三点のダメージですね」
「まあそんなものだろう、地道に行くぞ」
「あ、でもそろそろ下校の時間だよ」
ラムリーザは壁の時計を見てそう言った。窓の外もすっかり赤くなっていた。
「急ぎましょう、麗人はまたリリスに攻撃ですの」
「ソニアと違って回避できるはずだわ!」
リリスは口で言うだけでダイスを振ろうとしない。
「振ってくださいですの!」
ユコに強く言われて、リリスは不満そうな顔でダイスを転がした。
「回避できなかったらゲームバランスおかしいから」
「文句言わないの、回避できました」
ユコはそう言うが、リリスはそれで当然だと思っているらしく不満げだ。
「えっと、もやしは寝ているから傭兵はリゲルさんに攻撃。あ、回避できましたね。はい、リリスの番」
「リーダーに攻撃するわ」
「待って、リーダーはあたしの相手!」
「ダメ、あなたにばかりいい格好はさせない。リーダーに攻撃」
ソニアは文句を言うが、リリスは無視してダイスを転がした。
「その目ですと、当たり。ではダメージ判定をどうぞ」
リリスがダイスを振ろうとしたとき、その手をソニアにつかまれた。
「何をするのかしら?」
「リリスの攻撃を邪魔す――あわっ、むがもが!」
ラムリーザは、リリスのほうに身体を乗り出すソニアを引っ張り込んで押さえ込んだ。
「はい、ゲームを続けて。時間がないから無駄なことはやらないように」
「えーと、その目だと四点のダメージですの。はい次ソニアどうぞ」
「リリスに攻撃する」
「ダメですの!」
「あ、ソニアもリーダーに攻撃で」
そう宣言したのはラムリーザだ。下校の時間が迫ってきているというのに、ソニアの無意味な行動に付き合っていられない。さらにもう少しで話が終わりそうなので、今日中に終わらせておきたかった。
「ソニアは赤髪のボス、えーとね、ボスはアンバーという名前ですの。アンバーに三点のダメージを与えましたわ。んでアンバーの攻撃ね、麗人がリリス狙いだから、リーダーはソニア狙い。コロコロ、命中しましたわ」
「当然でしょう、巨大な風船をぶら下げて――」
「えっと、ダメージはいくらだい?」
ラムリーザはリリスの言葉を遮ってユコに尋ねる。一瞬の油断も見せられないとはこのことだ。
「えーと、アンバーの攻撃力がこれだけで、ソニアの防御力がこうだから、六点のダメージですの」
「そんなの痛くないもん」
「お乳が片方もげるぐらいのダメ――」
「次のターン、ロザリーンの行動、はいっ」
なんだかラムリーザがサブマスターっぽくなってしまっている。そんな必死なラムリーザを、リゲルはニヤニヤしながら眺めているのだった。
「それじゃあソニアさんがダメージ受けたので回復をします」
「次はリゲルだね」
「ゲームマスターが代わっているぞ。それはまあいいが、傭兵に攻撃だ」
リゲルはラムリーザをからかいながらダイスを転がす。五と五が出て、「お、クリティカルだな」と言ってもう一度振る。
「結構大きなダメージが出ましたわね。あ、傭兵は戦意喪失ですの。次はラムリーザ様ですわ」
「んじゃ、麗人にファイアーボールをぶつける」
ラムリーザは、眠らせる魔法が効かないし、動ける敵が残り二体になったので、リーダーはソニアたちに任せて、残る麗人目がけて攻撃魔法を放った。
「ええと、魔力がこれだけで、麗人はコロコロ、あ、抵抗失敗。ああ、麗人も戦意喪失ですね。麗人が動けなくなったので、次はリリスどうぞ」
「ソニアを攻撃――リーダーに攻撃するわ」
いらんことをしようとしてラムリーザに睨まれて、リリスはまともな宣言をした。この場面で時間がたっぷり残っていて、ラムリーザが適当に流していたらボス戦は大変なことになっていただろう。意図的に同士討ちを始める前衛二人、だめだこりゃ。
「えーと命中。ダメージは、あ、クリティカルですの。もう一回ダイスを転がして頂戴」
ユコにそう言われて、リリスはもう一度ダイスを振る。六の目が二つ出た。さらにクリティカルのようだった。
「それだと、十点のダメージですね、ボス格のアンバーは『降参、降参!』と言ってますの」
「やだ、許さない。あたしも攻撃してとどめを刺す!」
「殺したら指輪の場所がわからなくなりますよ?」
ラムリーザは、「それでもやっつける」と言い張るソニアを捕まえて抱えると、「指輪を返してもらおうか」と言った。
「ボス格のアンバーは、『持ってけ泥棒っ』と言って、指輪を投げつけてきましたの」
「いや、泥棒はそっちだから――」とツッコみかけたが、時間がないのを思い出したラムリーザは、「これで問題は解決したね、盗賊団はひっ捕らえよう」と続けた。
「でも、指輪を返すという話でしたのでは?」
ロザリーンに指摘されて、ラムリーザはもともとの目的も思い出した。
「聖人の墓に返すのだったね、墓はどこだ?」
「えっと、アンバーが『聖人ならその奥にいるぜ。その醜さに耐えられたら返すがいい……くっくっく……』と笑っていますの」
「リゲルみたいな奴だね」
ソニアがまた余計なことを言うが、リゲルはリリスと違って言い返したりせずにじっとソニアに鋭い視線を向けるだけだ。ソニアはその視線に気がついて、ラムリーザの脇に身を寄せて隠れてしまった。
「とりあえず憲兵隊に報告して、僕らは奥の部屋を確認しに行こう」
「はい、こうして輝石の盗賊団は神殿に引っ立てられていったのであった。で、奥の部屋に通じている扉には鍵がかかっていますの」
「時間がないから開いていることにしようよ」
「ダメですの。リゲルさん、開錠ロールお願いしますわ」
ここで失敗したら話はどうなるのだろうか、とラムリーザは少し気になったが、リゲルの振ったダイスは大きな目が出て開錠に成功したようだ。
「ほら開けたぞ、レディーファーストだ。間抜けコンビから入っていけ」
「いや、危ないから僕が先に」
「先頭に立って進むソーサラーがどこの国にいるか。ファイターの二人に行かせろよ」
「そ、それもそうだね」
「それを言ったら罠の確認をしながら進む盗賊が先頭――あ、リリスが悪党で盗賊だから先頭で」
今度はソニアがリリスを煽る。
「もう誰が先頭でもいいから、皆で手をつないで一緒にゴール――じゃなくて、奥の部屋に入ります」
ラムリーザは、めんどくさくなって妙な行動宣言をした。
「それでいいですの。ドアを開けると、細い通路がしばらく続いています。心なしか寒いですの」
「リリスが墓地で一人ぼっちなんて言うから」
「うるさいわね、この自家製殺虫剤!」
動揺したリリスは、謎の煽り文句を投げつけてくる。これにはさすがのソニアもきょとんとしていた。
「外野うるさい。しばらく歩くと、丸い広間に出ましたの」
灯りが届いた先の広間は、そこだけ時間が止まっているようだった。
冷えた空気は動かず、祭壇にひざまずく影だけが、長い年月を越えてなお祈りの姿勢を崩していない。
その場に立っただけで、一同はようやく、この地下墓地のいちばん奥まで来たのだと実感した。
「――物語っぽく言ったら、こんな感じですの」
「こんにちはーっ!」
この期に及んでソニアはプレイスタイルを変えようとしない。そんなソニアにユコはチラッと嫌そうな視線を向け、話を続けた。
「人影は何も答えない……なぜならそれは……」
「ソニアの妄想だからさ、くすっ」
「外野うるさい、僧侶のミイラなのですわ。俗に言う即身仏ってやつですの。そしてそのミイラには左手の薬指がないんですの」
「いきなりホラー?」
「面白いじゃないか」
不快そうな視線を向けるリリスと、なんだか楽しそうな口調で答えるリゲル。
「この指輪の収まるべき指がないなんて、ね」
指輪を持っているロザリーンはそうつぶやいた。
「盗掘されたときに切断されたのだろう」
あっさりとグロっぽいことを言ってのけるリゲル。
「えっと、ミイラの足元には、一冊の古びた日記が落ちています」
「では日記を拾い上げ、埃を落として読みます」
「人の日記を読むロザリーン、趣味悪いねー」
なぜか批判してくるソニアだが、ロザリーンは「交換日記やっててそんなことを言うの?」と返した。
「最近交換日記滞ってますわ、誰が止めているんですの?」
「僕は書いたよ、じゃなくて話を進めようよ」
ラムリーザはすぐに答えたが、自信がなかったので話を先に促して逃げた。
「日記には悪魔との戦いの記録が書かれています。日付は今から百年くらい前、最後の数ページはきっと己の血で書いたであろうどす黒い字でこう記されていた」
そこで一旦言葉を止めて、ユコは一同を見渡してから続けた。
『私の力では、この悪魔を完全に倒すことは難しいであろう。私は最後の力をもってこの悪魔を封印することを決意した。……ただ一つ心残りなのは、キュリア……貴女のことだけ……。どうか私の分まで幸せに生きてほしい。願わくは、彼女に神の祝福を……』
さっきまで騒がしかった部屋の空気も、窓の外から聞こえる木々のざわめきさえも、そのときだけはぴたりと止まったかのように思えた。
百年前の地下墓地で、たった一人で悪魔を封じ、恋人の幸せだけを願って果てた僧侶が残した、どす黒く固まった祈りの跡。いつもは声を荒らげて反論するソニアも、冷ややかな笑みを絶やさないリリスも、卓の上に広げられたユコ手書きのイラストを見つめたまま、ただ静かにその重みを胸の奥へと染み込ませていた。
数秒ほど皆が黙り込んでいたが、そこに下校時間を告げるチャイムと放送が鳴り響いた。
「何ですの! せっかくの場面で空気を読まない時報! じゃなくて下校チャイム!」
「ま、あれだな。死者の書と呼ばれているナチュランデモントも血で書かれているから似たようなものだ」
リゲルは妙なうんちくを語り出した。おそらくホラー映画の設定だろう。
「そんなんじゃないですの! これは後日談ですけれど、キュリアは彼が再びこの世の土を踏むことを信じて永遠の時を手に入れたのです。その代償は大きかったけどね……。はい、以上で指輪に込められた願いは完結ですの」
これにて、思ったよりも長編となった、ユコがゲームマスターを務めるサーカス団の指輪についての物語は幕を閉じたのであった。
「あ、この二つの指輪はどうしましょう?」
ロザリーンの問いに、マスターシートを片付けて帰り支度を始めたユコは「ロザリーンの自由にしていいですわ」と答えた。
「売れ」と言うリゲルにロザリーンは「やっぱり二つとも持って帰りましょう。返すなら自分の手で返すべきです」と答えた。
「あたしとラムが想いを引き継いで、お互いに指輪を身につけるってのはどう?」
「それならカノコを訪ねて指輪の片割れを渡さなくちゃね」
これをきっかけに、再びソニアとリリスの口論が始まる。
「でもさぁ、死んだ男の気持ちで考えるなら逆に指輪が呪縛になってるから、二つとも封印すべきじゃないかな? キュリアを解き放とうよ」
「へぇ、そんな考えもあるんですのね」
ラムリーザの考えに、ユコは驚いたような表情を浮かべて「そうか、封印しちゃうんだ」と続けた。
「私は、間違っていても、どこかで永遠の愛を信じていたいと思います」
ロザリーンの意見はこうだった。男子と乙女とでは考え方が違うというのだろうか。それとも、現実を見るラムリーザと、祈りを残したいロザリーンなのか。
ラムリーザは反論しようとして、結局やめた。正しさだけでは割り切れないものが、この指輪には確かに残っているような気がしたからだ。
何はともあれ、これにてテーブルトークゲームも一つの結末を迎えたのだった。
指輪を取り戻して終わり、ではなく、その指輪にどんな想いが込められていたのかまでたどり着けたのは、なかなか良い終わり方だった。
ぐだぐだと雑談ばかりで進まない卓だったけれど、最後にこうして物語が一本きちんとつながると、それはそれで悪くない。
ユコのゲームは、やっぱり少し不器用で、でもちゃんと優しい話になるのだなと、ラムリーザは思った。
ラムリーザは、リリスとの口論が途絶えないソニアを引き離すと、見回りの教師が現れる前に、皆を促して部室を立ち去るのであった。
指輪に込められた本当の願いは、おそらく形を変えて、今を生きる自分たちのこのぬくもりの中に受け継がれているのかもしれない。