ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第六弾「指輪に込められた願い 完結編」 第三話 カタコンベ最深部へ

帝国暦九十三年 黄金の月・森人の日(現代暦:六月上旬)

 ソニアは、誇らしげにマインド・スマッシャーを掲げると、アイボリーという名の悪党に立ち向かっていった。

「ソニアなら泣き落とし攻撃でもすればよかったのに、ふえぇとか言ってね、くすっ」

 この期に及んでソニアを煽ることを止めないリリス。しかしロザリーンは、「外道相手には通じませんね。むしろ逆効果です」と慎重だ。

「それでは命中判定、攻撃ロールを行ってください。こっちは回避と防御ロールを行いますの」

 ここに来て、ようやくソニアがダイスを振る行為が意味を成した。これまでは他の人の行動に合わせて振っていただけなので、何の意味もなかったのだ。

「ええと、その目なら当たりますね。では次に攻撃ロールを」

 そう言ってユコはダイスを振り、ソニアも続けて振った。

「食らえっ、信田流奥義蒼雷ッ!」

 ソニアは、謎の技名を叫んでいる。不思議な流派を作るんじゃない。

「うーわ、その目だとダメージこんなに入るんですの? 死ねますわね。一撃で戦意喪失したアイボリーは降参しましたの。えっとね、『いたた……ひえぇ~参った! 何でも話すからこれ以上手荒なことは勘弁して下せぇ~』などと言っていますの」

「急に卑屈になったわね、口ほどにもないわ。破裂寸前のおっぱいバースト――」

「ではロザリーン、指輪を見てもらおうか」

「そうですね、この指輪を見てもらいます。これと同じ指輪を知りませんか?」

 リリスがまた余計なことを言いそうになるのを、ラムリーザは遮って話を進めた。

「アイボリーは、『最近団長が下水道で拾ったやつだ! こないだグラランのガキに盗まれたのが戻ってきてんでねぇ』などと言っていますの」

「どこの下水道ですか?」

「最近クルクルランドの下水道が地震で崩れて、このカタコンベと繋がったと言ってます」

 とりあえず今日のところは、どうやらクルクルランドで突き通すらしい。

 ラムリーザはさらに質問を加えてみた。

「中には、あとどれくらい人がいるのかな?」

「アイボリーは、『あと五人ほどかな』と言ってます」

「団長とは何か?」

「その質問には、『おうよ! 俺たち『輝石の盗賊団』の団長でさぁ!』などと言っていますの」

「リゲルの知り合い?」

 ソニアの問いに、リゲルは何も答えなかった。

「ではその団長が指輪を持っているんだね?」

「ええ、『この指輪はセットじゃないと価値がないそうで、団長がやたらと入れ込んでいる』と言っていますの」

「情報集めが着々と進むな。邪魔はするなよ」

 ラムリーザは、ソニアを抱き寄せて余計なことをさせないようにし、リリスにも視線で行動を制していた。

「それで、団長さんは中にいるのですか?」

 ラムリーザの質問が途切れたところで、今度はロザリーンが質問を重ねる。

「『団長はこの奥で次のプランを練っていると思う』と、アイボリーは言ってます」

「それじゃあ、奥に行ってみようか。今度は突っ込むなよ、罠とかもあるかもしれないし、中に敵がいれば、いやおうなく戦闘になるから無茶はしない」

 ラムリーザは、ソニアとリリスの二人を警戒しながら話を進めていた。二人がまたゲームの進行を妨げようとしたら、すぐに制するつもりでいるのだ。

「奥と言っても、地下四階ですけどね」

「えらく深いな。……って、最初の依頼もそんな感じだったか」

「おい」

 そのときリゲルは、ラムリーザを手招きしてそばに寄せる。そして小声で何やら指示した。

「えっとユコ、そのアイボリーに道案内させようと思うけど、できる?」

 リゲルの指示を聞いて、ラムリーザはユコに尋ねてみた。リゲルの意図は、この見張りを人質に取れということだったのだ。人質と言えば聞こえが悪いので、道案内という形で使うことにした。

「アイボリーは、あっけなく案内を引き受けましたの」

「相当ビビっているな」

「おっぱいバースト食らったから恐れているのよ、くすっ」

「違う! パーティーに吸血人間スネークがいるから怯えているだけ!」

 またソニアとリリスによる不毛な争いが始まった。ソニアもなんだか新しい言葉を使おうとしているようだが、どんどんわけがわからなくなってきている。

「眠っているエボニーはどうしますか?」

「えっと、今は縛っておいて、後で憲兵にでも突き出しますか」

「では、アイボリーの案内でカタコンベの中へ進んでいきました。地下一階、地下二階には小さなお墓がいくつも並んでますの」

「あっ、この墓石に『リリス、ここに眠る』って書いてあるよ」

「ソニア、墓地で一人ぼっち」

「さむっ! リリスは寒いから、今日からサムって名前ね!」

「こほん、このお墓は何か特別な意味はあるのかな? とアイボリーに尋ねます」

 リリスが何やら寒いことを言ってのけたので、多少は和みながらラムリーザはユコに尋ねる。

「アイボリーは、『俺たちはこのあたりの人間じゃないのでわからん』と言ってます」

 ソニアしか反応しなかったので、リリスはなんだか恥ずかしそうだ。ここで攻めればソニアは優位に立てるのに、攻め時がわかっていないので追撃をしない。もちろん追撃されても場が荒れるだけなので困るのだが。

「それじゃあ先に進むか」

 冷たく湿った空気の中、石の階段を下りるたびに、地上の気配が遠ざかっていく。

 並ぶ墓石はどれも古びていて、灯りに照らされるたびに、影が不気味に揺れる。

 ふざけ半分のやり取りをしながらも、一行が踏み込んでいる場所がまともではないことだけは、誰にでもわかった。

「――って感じですの」

 ユコの語りを聞いているうちに、ラムリーザの脳裏には、松明の煤けた匂いと、吸い込むたびに肺を冷やす地下の空気まで浮かんでくる。

「なんだか本当に物語みたいだね」

 真面目に物語を演出するユコと、ふざけ続けるソニアとリリスの対比が激しい。

「それで、地下三階には大きな棺が一つ。荘厳な雰囲気の中で祀られています。アイボリーは、『あのでかい墓は、この土地の英雄の墓ってことになっている』と言ってますの」

「英雄って誰だっけ?」

「誰でしたっけ?」

 ラムリーザはロザリーンと相談するが、彼女も名前は忘れてしまっているようだ。

「少なくともソニアではないわね」

 リリスが余計なことを言い、ソニアも「リリスが英雄だったら世界が滅亡する」と根拠もないことを言ってのける。

「レスター・アレサンドロだろ?」

 そんな中、リゲルだけはしっかりと覚えていたようで、その英雄の名前を告げた。

「あっ、それじゃあこのお墓に、預かってきた指輪を置けばいいのですね?」

「そうですの。でもアイボリーは、『ちょっくらこの棺の蓋を開けてもらえないか?』と聞いてきてますよ」

「自分で開けるべし」

 ラムリーザはそう答えるが、アイボリーは縛られて連れてこられているので開けられないと言った。

「アイボリーに尋ねます。ところで、貴方たちのボスは、魔法などは使えますか?」

「『団長は魔法使えないけど、他に精霊使いが一人いる』と答えました」

「精霊使いですか。あっ、蓋を開ける前に罠の確認をリゲルさんにお願いします」

「それじゃあシーフ技能で知力ロールをしてみてくださいな」

「シーフ? リリス、呼んでるぞ」

 リゲルは、わざとリリスに話を振ってみる。

「私はシーフ技能なんて認めないからあなたがやって」

 リリスは、悪党の生まれという設定で勝手に取得してしまったシーフ技能を快く思っていない。だから、シーフがメインのリゲルに丸投げだ。

 リゲルはふっと笑うと、ダイスを転がした。

「ええと、その目ですとわかりますね。でも棺に罠はありません」

「それじゃあ誰か、この棺を開けてみよう」

「ラムが開けて」

 ソニアはそう言うが、リゲルは「ファイターじゃなくてソーサラーに力仕事をさせるのか」などと突っ込んだ。

「だって一番力が強いのはラムだもん」

「ソーサラーが一番力持ち、不思議な設定だな。このパーティのファイターは非力なようだ」

 なんだか知らないが、リゲルは饒舌になった。やっていることは結局ソニア煽りなのだが、ソニアが騒ぎ出す前にラムリーザは「それでは棺を開けます」と宣言した。

「アイボリーは、『そこが地下四階への入り口だ』と言っています。棺の中には下り階段が続いていますよ」

「最深部だね、それじゃあ降りていこう。ソニアとリリス、どっちが先頭で降りる?」

「ラムが先頭」

「ソーサラーが先頭?」

「私が一番乗りするわ」

「あ、ダメ、あたしが行く」

 この場面を映像化すれば、棺の中にある地下四階への入り口前で押し合いをしている二人を眺めることができただろう。

「あっとその前に、蓋の裏に張り付いた、小さな人影がありますの」

「こんにちは! はじめましてソニアでっす!」

 またやらかした。今日のソニアは、馬鹿プレイに徹してゲームの進行を妨害することで楽しんでいるようだ。人影と聞いただけでこれである。
              
地下墓地の棺を開けたラムリーザたちが、蓋の裏にしがみついていたシャックス・ポップ・グラランを発見する場面
「人影を捕まえる」

 ラムリーザは落ち着いて話を元に戻す。これでソニアの行動も面倒なことにならないだろう。

「人影はソニアに声をかけられてびっくりし、さらにラムリーザ様に捕まって騒ぎ始めましたわ」

「どう騒いでいるかな?」

「じたばたしながら、『うわー! うわー! やめてよぉ~! いぢめないでくれよぉ~』って感じでしょうか?」

「ガキっぽいな」

 ラムリーザは、ユコの反応を見てそう感じた。そこにソニアの、「なぜ蓋の裏にいたのですか~?!」が炸裂する。これはまだ普通の会話だな。

 だからラムリーザは、「何者かと尋ねる」と宣言して、ソニアの発言を無難な方向へと誘導していった。

「えっと、その人影は『オイラ、この階段に閉じ込められちゃって』などと言ってますの」

「閉じ込められた? アイボリーはこの人? のことを知っていますか?」

 ロザリーンの疑問形三連発。人影なだけで、人とは限らないのだ。現にサーカス団は魔物の集まりであった。

「アイボリーはその人影を見て、『あっ! てめぇは指輪を盗んだグラランだな!? 何しに来やがった!』などと言ってます」

「グララン、まさか悪魔じゃないでしょうね?」

「吸血怪獣チュパカブラがパーティーにいるのに、今さら悪魔なんて恐れない」

 今日のリリスは、いろいろな吸血鬼に変身している。ただし、ソニアの言葉の上でだけで。

「爆乳おっぱい遊戯は黙っていなさい」

「なっ、何よそれっ!」

「こほん! えっと、その人影の名前がグラランってことでいいんだね?」

 ラムリーザは、二人の口論を遮ってユコに尋ねた。

「ええ、人影は自分のことをシャックス・ポップ・グラランと名乗りましたわ。で、彼は『ここにはお宝がいっぱいあるから、また来たくなったのさ』などと言ってますの」

「それで棺の中に?」

「いえ、『お宝もらったのはいいけど、ここの蓋が閉まって閉じ込められた』と言ってます。彼一人の力では蓋が持ち上がらないそうで」

「では、指輪のことを知ってますか?」

 ロザリーンの問いに、ユコは「少し前にお姉ちゃんにこっそりあげた」などと答えた。

「そんな話あったっけ?」

「最初にスリ入れてきたあれでしょうか? でもあのときは少年だったような?」

「シャックスは少年ですの」

「なるほどね。でも盗掘されていて宝はここにはもうないって言っていませんでしたっけ?」

「ええと、シャックスはアイボリーたち一味のお宝を奪いに来ているようですの。それを聞いたアイボリーは、『ふざけんなー』などと言いながらじたばたしています」

「どのみち団長には会わなければならないか」

「ええと、シャックスさん、君かな? とにかく、『この奥に、この指輪の片割れがあるので、それを取りに行かねばならないのです』と伝えます」

 ロザリーンは、相手が少年なら君付けがいいと考えたのだろう。確かこの指輪にまつわる話の冒頭でスリ入れたのは少年だった。数か月前の話で、多少はあいまいだが。

「もとはと言えば、こいつが盗んだからこうなっているんだよなぁ」

「シャックスは、『細かい部屋がいっぱいあるんだよね。でもお宝の部屋は一つだけ』と言ってますわ」

「お宝は別にいいので、この盗賊団たちがいる場所が知りたいです」

「盗賊団の部屋ですか? 一応シャックスは知ってますの」

「ではそこに案内してください」

「あ、いいこと思いついたわ」

 唐突にリリスがロザリーンとユコのやりとりに口を挟んだ。

「何ですの?」

「この際、ここを根城にしている盗賊団を壊滅させましょう。そうでないと、過去の英雄たちも寝付きが悪いでしょうし」

 やはり探索だけでは暇を持て余すリリスは、お得意の戦闘を希望した。暇だからといってソニアとふざけられても困るので、ラムリーザもここは一気に殲滅させようと考えた。

「いいね、その正義を行使するべし!」

「ラム、正義だったの?」

「な……ソニアは何?」

「蛮族」

 答えたのはリリスだった。

「おっと、行くぞ。シャックリ、団長のところに案内するんだ」

「ラムリーザ様、シャックリじゃなくてシャックスですの。壊滅させるってことは、団長のところですね」

 いよいよ最深部へ向かうことになった。

 英雄の棺だと思っていたものの下に、さらに深い階層へ続く道がある。それだけで、この地下墓地そのものが、ただの墓では終わらない場所のように思えてきた。

 ここまで来れば、もう引き返す理由はない。

 指輪の行方も、盗賊団の企みも、そしてこの地下墓地の奥に眠るものも、次の一歩で明らかになるはずだった。

 最深部には盗賊団の団長がいて、指輪の片割れも、おそらくそこにあるのだろう。

 ゲームクリアも、もうあと一息というところだ。最深部には、いったい何が待ち受けているのだろうか?

 それを知っているのは、ゲームマスターのユコだけである。