ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第六弾「指輪に込められた願い 完結編」 第二話 地下墓地へ

帝国暦九十三年 黄金の月・森人の日(現代暦:六月上旬)

 久しぶりに開催されたテーブルトークゲーム。

 サーカス団の指輪についての話は、以前ゲームマスターのユコによって進められていたが、転校騒動などがあって中断し、忘れかけていたところを思い出して再開したものだった。

 下水道に流れ落ちたはずの指輪。それをロケーションの魔法で場所を調べてみたところ、下水道ではない別の場所にその反応が確認されたのであった。

「とりあえず行ってみることにしよう。雑談してないでゲームするぞ」

 ラムリーザは、自分も雑談していたことは棚に上げて皆を促した。

「そうですね、地図の上ではよくわかりません」

 ロザリーンも続き、良識派二人に話を進められて、ソニアとリリスは口論を止める。

「下水道の地図だけでなく、国の地図も確認しましょうと言ってますの」

 ユコはそう促すが、国の地図とは何だろうか?

「国ってどこの?」

「ここの」

「エルドラード帝国?」

「いえ、ゲームの中の国ですの」

「それはどこ?」

「……クルクルランドですわ」

 ユコは、たった今思いついたような名前をつけてしまった。まあゲームの中の世界、国の名前などさほど重要ではないのだろう。次に国の名前を尋ねると、おそらく別の名前になっているだろう。

「で、そのクルクルランドの地図は誰が持っているのかな?」

 ラムリーザの問いにユコは「ラムリーザ様が持っていますの」と答えた。ご都合主義全開だが、ゲームが停滞するよりは良いだろうと考えて、ラムリーザは気にせずに話を進めた。

「こんなこともあろうかと、クルクルランドの地図を持ってきていた! ――って、本当にクルクルランドで進めるの?」

 なんだよクルクルランドって、いつも回っているのか? などと思いながら尋ねた。

「……仮の地名ですの。細かいことは気にしないで進めますわ。ではノクティルカは、ラムリーザ様から地図を借りて、下水道の地図と照らし合わせました。『え~っと、この辺を通って……』などと言っていますの」

「この辺は?」

「『――なんだこりゃ? カタコンベ?』と、驚いているようですの」

「カタコンベって何? 息吸いボンベみたいなもの?」

 ソニアはよくわかっていないようだ。「息吸いボンベ」というものも、いまいちよくわからない品物ではあるが。

「じゃあ知力判定してみましょう。知力+セージ技能でダイスロールしてください」

「あたしセージ技能ないよ」

「じゃあ平目で」

 そういうわけで、みんなはころころとダイスを転がした。その結果は?

「最高10ですの? それですと、建国以前からある地下墓地だということぐらいしかわからないですわね」

「地下墓地かぁ」

「あまり近寄りたくないですね」

 ロザリーンは少し顔をしかめ、ソニアはなんだかわくわくしている。ラムリーザとリリスはあまり気にしていないようで、リゲルは――

「不思議なことに墓地から死体が消え、残されていたものは――」

「いや、もう死霊伝説はいいから」

 すかさずラムリーザはツッコミを入れて、リゲルのホラー談義をストップさせた。

「ではロザリーンは治安を守る立場だから知ってることにしますわ。そのカタコンベはもう盗掘され尽くしていて何もないけど、柄の悪い奴らの溜まり場になっているってことは知ってますの」

「墓地にはやく行ってみようよ」

 なんか知らんけど、ソニアはわくわくしている。ゾンビは苦手じゃなかったのか?

「あそこですか。その方たちが拾って持っているのかもしれませんね」

 ロザリーンは、ダイスロールの結果に従った台詞を言った。

「奴らってなぁに?」

 ソニアはロザリーンに尋ねるが、ロザリーンはゲームマスターの意に沿った台詞を述べただけなので、設定までは知らない。だがユコがそれ以上語ろうとしないので、適当に設定を作ってみた。

「今はそのカタコンベは、はぐれ者のたまり場になっているのですよ」

「はぐれ者って、息吸いボンベのこと?」

「なるほど、その者たちが持っている可能性が高いってことだな」

 ソニアの無用な質問に被せるように、ラムリーザは発言してみた。ソニアの中では、息吸いボンベとは道具ではなくて人の名前だったようだ。

「カタコンベ周辺に、何か文字は書かれていますか?」

 ロザリーンの質問にユコは「聖人、ここに眠る」と答えた。

「それは一部で全貌は、『巨乳星から来たおっぱい星人、ここに眠る』と書いて――」

「聖人か、気になるな!」

 リリスの呟きをかき消すように、ラムリーザは大声で台詞を述べた。

「聖人ってなぁに?」

 ソニアの問いに、ユコは「地元の民話くらい皆知っているということで、聖人ってのは、大昔この土地にいた悪い悪魔を追い払った英雄ってことを思い出したことにしますわ」と答えた。ソニアの質問にいちいち律儀に答えていたら話は進まないのだが、この設定はある程度重要だったようだ。

「だから、爆乳星から来た――」

「まぁ、行ってみようじゃないか! ここにいてもどうしようもないからな!」

 場を乱さないように必死になるラムリーザを、リゲルはニヤニヤしながら見つめていた。

「ノクティルカは、『あぁ、もう行くのかい? じゃあ、これと同じ型の指輪を見つけたらよろしく』と言ってキュリアの指輪によく似た金の指輪をロザリーンに渡しました」

「今度は落とすなよ」

「いえ、それはあなたの考えたシナリオですから」

 数か月前の話を忘れかけていたラムリーザと、覚えていたロザリーンの違い。

「もちろん、その指輪には文字が刻まれてて、リンケージリングの片割れだってことは容易に想像つくよね?」

 ユコはそう言うが、ソニアは「想像できない」と答える。無論ゲームマスターはその発言をスルーして「じゃあ、ノクティルカは一行を見送るよ」と話を進めた。

「想像力の欠如はおっぱ――」

「必ず見つけてきます!」

 執拗なリリスのソニア攻めを事前に防ぐラムリーザ。おっぱいと想像力に何の関係があるというのだ? いや、おっぱいを想像するのは――まあいい。

「ああそうですわ、去り際にノクティルカは『ただ……。もし、そのカタコンベに「レスター・アレサンドロ」って僧侶の墓があったら……置いてきてくれる?』と依頼してきましたの」

「レスター・アレサンドロって誰かしら?」

「行くぞ――」

 リリスが何か言いかけたので、すかさずラムリーザは台詞を被せようとしたが、まともな質問だったのですぐに口をつぐんだ。リゲルはもうニヤニヤが止まらないといった感じだ。

「金の指輪は、キュリアの元恋人『レスター・アレサンドロ』のものだと説明してきて、さらに盗掘されたのをやっとの思いで取り返したものだからと言っていますわ。さて、レスター氏の正体を知りたい人は、レベルと知力でダイスロールしてくださいな。ああ、プリーストは補正ボーナス+1ですの」

 そこで一同は、再びダイスを転がした。ダイスを転がすときだけソニアとリリスは楽しそうだ。まぁ戦闘がないと二人はあまり表に出てこない。

「さすがプリーストですの。ロザリーンはこの土地の悪魔を封じた聖人の名前こそ『レスター・アレサンドロ』ってことを知っていますの。リゲルさんはギリギリのどまで出かかっている程度で、他の人はそんな偉い人がいたなぁとぼんやり思い出せる程度ですね」

 なんだか今日はロザリーンが活躍している。

「ふーん、あの人が元恋人なんですね。と他の皆に説明してあげます」

 ロザリーンは、再びゲームマスターの意に沿った台詞を口にして見せた。

「ラムリーザの元恋人はソニア、今の恋人はカノコ」

「しゅっぱーーつ!!」

 ラムリーザのリリスに対する被せは少し出遅れた。

「リリスは未来永劫恋人がいない!」

「その指輪の持ち主はそんなに凄いんだね! 墓荒らしに遭ってないといいね!」

 ラムリーザは、ソニアを押さえ込みながら話を元に戻そうとする。
              
夜のカタコンベ入口で、探索に来たラムリーザたちの一行が、人相の悪い見張り二人と対峙している場面
「さて、カタコンベについたのはいいんだけど、その入り口に二人の男が立っていますわ」

「こんにちはーっ!」

「こら、なぜそこで唐突に話しかける!」

 ラムリーザは、先ほどからソニアを押さえてばかりだ。

「あなたは誰かしら?」

 そうしているうちに、リリスもソニアに引き続いて前に出たようだ。用心もクソもあったものではない。これまでずっと暇だったので、明らかにゲームを破壊しようとしている二人だ。

「えっ、話しかけるんですの? あからさまに人相のわっる~いオッサン二人組ですのよ?」

 ユコも突然の二人の行動に慌てふためく。

「まずは聞き耳を立てて二人の会話を盗み聞きする場面だろ?」

「顔が怖いから悪者。戦闘開始よ」

 リリスはいつもの怪しげな笑みを浮かべて、戦う気満々なようだ。

「初めまして、ソニアでーすっ!」

 一方ソニアは、嬉しそうに話しかける風を装っている。

「……えーと、それじゃあこうしますわ。ラムリーザ様が聞き耳を立てると、男Aが『まったく見張りもたるいぜ、なぁエボニー』と言います」

「見張りはエボニーさんだ!」

 何がやりたいのかわからないソニア。いや、ゲームの妨害だということはわかるのだが。

「次に、男Bが無愛想に『あぁ……』と言ったので、男Aが『何だよ、話し甲斐のないやつだなぁ』とか言っているところで、ソニアが『こんにちは』と言って、リリスが『あなたは誰かしら?』と言ったことにします。気がついたら、ラムリーザ様の元に二人はいない、と」

「なんか無茶な展開だな……」

 ラムリーザは、無茶苦茶嬉しそうにしているソニアと、いつもの微笑を浮かべているリリスを見つめてそうつぶやいた。

「成り行きを見守りましょう……」

 ロザリーンもそうつぶやくのが精一杯のようだった。

「『なんだなんだ!? このガキャァ? あっち行け』と男Aが言いますの。ああ、男Aはアイボリーという名前にしましょう」

「アイボリーさんだーっ!」

「やかましいですの! この風船おっぱいお化け! ……とアイボリーが言ってきました。男Bのエボニーは、『女……帰れ。俺たち、おまえに用ない』などと言ってますの」

 ユコは執拗なソニアの嫌がらせに一瞬怒りかけたが、すぐに冷静さを取り戻して話を進めた。

「ずいぶんと片言ですね」

 ロザリーンはラムリーザにそうつぶやき、ラムリーザはうんと頷いた。

「私たちは指輪を探しに来たの、知ってる?」

 リリスもゲームを妨害するつもりなのだろうが、今回の発言はそれなりに物語に沿った内容だった。

「アイボリーは、『あぁん、指輪だぁ? そんなもんなぁ、ピンからキリまで持ってるぜ? だからどうしたってんだ? いい加減にしねぇとオシオキだぞ?』などと言ってますの」

「指輪頂戴!」

 ソニアはリリスの話に乗っかって指輪を求めるが、もともと話を進める気のないリリスは、また余計なことを言い始めた。

「ふっ、蛮族風情が。そこの蛮族生まれの奇乳と仲良くしたらいいのに」

 二人の男を罵っているのか、ソニアに喧嘩を仕掛けているのか。おそらく両者、いやリリスのことだから後者である可能性も高い。

「何よ、悪党生まれの手逆病ののっぺら病め!」

 案の定、あっさりと牙をむくソニア。簡単に仲間割れだ。

「アイボリーとエボニーは、ソニアを捕まえていけないことをし始めた」

「なっ、なっ――」

 リリスのとんでもない宣言に、ソニアは口をぱくぱくさせてそれ以上何も言えない。

「そんな展開はありません!『オレは蛮族じゃねぇ! 頂戴だぁ? それなりのモンは持ってるんだろうな? あん?』とアイボリーは怒鳴りつけてきますの」

 ユコはなんとかゲームを進行させようとするが、リリスはさらに煽ってくる。

「私たちはそこを通るので、どきなさい――」

 あ、今度はゲームを進行させる内容だった――

「――邪魔だわ、そこの足元が見えない原因みたいに」

 ――と思ったが、しっかりとソニアを煽ることは忘れない。

「風船はもういいですの! エボニーのほうが、『おんな、俺たち一族バカにした……ユ・ル・サ・ン!』などと言ってリリスに突進してきましたわ」

「あら、怒りを表現するくらいの脳はあったみたいね、まぁそっちのみどりんぼも怒るくらいならできるけど、くすっ」

 みどりんぼって何だろう? ソニアの髪の色のことだろうか? おそらくそうだろう。

「いや、煽ってないでどうするんですの?」

「避けるわ」

「では回避力でダイスロールしてください」

 そう言われてリリスはダイスを転がした。ソニアも真似て転がすが、今回は彼女は関係ない。

 ユコもダイスを転がして、「ああ、それなら回避できますね」と言った。

「えーと、エボニーは、だだだっとあさっての方向に走り去って、また振り向きました」

「ああユコ、敵の二人を眠らせる――魔法は何だっけ?」

 ラムリーザはリゲルのほうを振り返った。それに対してリゲルは短く答えた。

「スリープクラウド」

「――をかけます」

 ラムリーザは、リゲルの答えをそのまま利用して宣言した。

「魔法かける? じゃあ、魔力でダイスロールしてみてください。その一方で、エボニーは再びリリスに向かって、『コロス……』などとつぶやきながら突進してきましたの。リリスもまた避けるなら回避でダイスロールを」

 ラムリーザとリリスは、ユコに言われるままにダイスを転がす。誰かがダイスを転がすと、ソニアも一緒になって転がす。これでなんとなくゲームらしくなってきた。

「うーん、今度はギリギリで避けていますね」

 リリスは先ほどより出た目が低かったのでギリギリなのだそうだ。

「わざと紙一重でよけて相手にプレッシャーを与えたのよ。不必要に大きな膨らみがあったら紙一重なんて無理だけどね、くすっ」

 何をやってもリリスはソニアを煽ることは忘れない。

「膨らみはいいから! ええと、抵抗できるかな?」

 ユコはそう言いながら二度ダイスで魔法の抵抗ロールを行った。

「その隙に間合いを詰めておきましょう」

 ロザリーンも仕方なく場面に登場した。このままだとリリスが一人暴走するだけだ。

「あ、エボニーは眠ったけどアイボリーは抵抗しましたね。ではこうしましょうか。ロザリーンが出てきたところでアイボリーは、『こいつは上玉だ』と言いながら詰め寄ってきたけど、そこへスリープクラウドが飛んできて、『おわち! んなろ、こしゃくな真似を~!』ってなったことにしましょう」

「なにそれ、ロザリーンは上玉だけど私は違うのかしら?」

 関係ないところでリリスは不満げだ。

「だってロザリーンは貴族のお嬢様だもん。悪党のリリスとは違う」

「黙れ蛮族おっぱい」

「吸血狼男!」

 やはりソニアとリリスの小競り合いは続く。勝手に狼男、つまり男扱いされてしまったリリスであった。

「こっちは指輪持っていますか? 眠ったほうのポケットを探ります」

 ロザリーンの行動宣言に対してユコは「エボニーのポケットに指輪はないですの」と答えた。

「では、探し物したいんで通らせてもらいたいんですけど……って無理ですね、もう臨戦態勢ですし」

「ソニアとリリスがおもいっきり神経を逆撫でしましたからね」

「あたししてない、リリスだけが勝手にやった!」

「責任の押し付け合いをしていないで、もう仕方がないから攻撃しなさい」

 ラムリーザに諭されて、ソニアは「じゃあアイボリーに攻撃する」と宣言した。

 こうして、ぐだぐだとした口論の果てに、結局は力ずくで道を開く流れになってしまった。

 指輪を追うはずの冒険は、相変わらず寄り道だらけだ。けれど、ようやく物語そのものは動き出した。

 指輪の行方も、聖人の墓も、門番たちの正体も、まだ何一つはっきりしていない。

 テーブルトークゲームはまだまだ続きそうである。