ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
第三回フォレストピア首脳陣パーティー
帝国暦九十三年 黄金の月・竜神の日(現代暦:六月上旬)
さて、週末には定期的に「フォレストピア開発打ち合わせ」と称した首脳陣パーティーを行うことになっている。三回目ともなると、目新しいパーティーとは言いにくい。ほとんどが馴染みの顔ばかりとなり、小さな集団もできあがってきていた。
これまでに、リョーメン、スシ、ギュードンと大衆食堂が増えてきている。さらに次回は、ユライカナンから新しい店舗「ミスターラムバーグ」が来る。羊の肉を使ったラムステーキが有名だというが、これもまた大倉庫での仮店舗体験から始めることになっていた。
今回の議題第一弾として挙がったのは、フォレストピアオリジナルの祭りを作ってみようという話だった。
フォレストピアの地形で目立つのは、東のアンテロック山、西のロブデオーン山の二つだ。二つの山が、東西から街を挟むようにそびえ立っている。この二つの山をつなぐように、直線ではなく半月状に山脈が連なっている。山脈の中央から東側をアンテロック山脈と言い、その中腹にオーバールック・ホテルが建っていた。
アンテロック山脈は、ポッターズ・ブラフ地方に面しているのでわりと有名だが、西のロブデオーン山脈は、フォレストピアができるまではほぼ未開拓の地でもあった。ちなみにその山脈の麓には、ラムリーザの住む屋敷、フォレスター邸がある。
二つの山脈の中央部、山脈を分けるような位置に竜神殿が建てられている。
これがフォレストピア北部の、山で囲まれた地形である。
つまり、フォレストピアは北側を山に抱かれていて、視線も話題も自然と山へ寄っていく街だった。
「ロブデオーン山頂からアンテロック山頂へと、山と山の間を移動して競争する祭りを作ってみよう!」
声の大きなココちゃんカレーの店主が、そう叫んでいた。なんだか知らないが、勢いに任せてそのままそれが祭りとなってしまいそうな雰囲気になりつつあった。
「山から山へ移動する? やったことない競技だね」
「さしずめ山移動大会ってところか?」
ラムリーザとリゲルは、離れた位置から民衆会議――つまり、住民の意見交換の場の盛り上がりを見つめながらつぶやいた。地元の有力者から一般の職人までが、身分を越えて額を突き合わせ、自分たちの街の未来を語り合っている。
それが面白いのかどうかはわからないが、住民たちはなんだか盛り上がっているのだった。しかしそれはそれで、山に挟まれた地形ならではの祭りになるかもしれない。
「スポーツの大会とかどうだろうか?」
今度は祭りからスポーツへと、話題が変わっていった。
ユライカナンでは、のだまが盛んである。ごんにゃの店主などは、店の定休日などには、中央公園のスポーツ広場に子供たちを集めてのだまのコーチをしている。
これは、休日にラムリーザたちがのだまで遊んだときに審判をやって、楽しかったからだ。
「のだまか、またやろうか?」
「さすがに今度は俺とお前で組めそうにないから、どっちでもいい」
リゲルはのだまの再試合には消極的だ。以前遊んだときは、ラムリーザとバッテリーを組んで、ソニアたちを徹底的にやっつけてしまった。そういうこともあり、次回遊ぶときはラムリーザとリゲルは別チームということになるだろう。で、ラムリーザが捕手でなければ全力投球できないのでリゲルは面白くない。だから乗り気ではないのだ。
それに、ラムリーザはソニアにも、のだまをまたやろうとは言い出せないでいた。あのとき徹底的に弱点を攻めたのを根に持たれ、今ではソニアはのだま嫌いにもなりかけていた。悪いことをしたものだ。
もう一つ、ユライカナンで盛んなスポーツはプロレスだ。こちらは帝国でもテレビでやっているが、まだラムリーザたちは、実際に体験したことはなかった。ただし、ごっこ遊びはした。
「学校にのだま部はあるけど、プロレス部はないね。よし、自分が生徒会長のうちに、プロレス部を発足してみよう」
ユグドラシルが部活を作ると言っても、肝心なのは部員が集まるかどうかだ。
レフトールあたりは喜んでプロレスをやりそうだが、真面目に部活動をするかどうかはわからない。ラムリーザと一緒に入れば、今の軽音楽部でのドラム練習と同じように真面目にやりそうではあるが、どうなるだろうか。
「あたしもプロレスやってみたい。リングネームはグリーン・フェアリー」
「必殺技はチチビンタね、くすっ」
ラムリーザたちの会話にソニアが割り込んできて、そこに余計な茶々を入れたのは、今回からパーティーに参加しているリリスだ。
「何よそれ! そもそもなんでここにリリスがいるのよ?!」
紫のドレスに身を包んで、いかにも闇の女王のような出で立ちをしているリリスに噛みつくソニア。
「俺が招待した。ソニアが参加していてリリスが参加していないのは不自然だからな」
得意そうに説明したのはジャンだ。
「あ、リリスはとうとうジャンの軍門に下ったのね。焼肉のタレごとき、サキュバスにかかればいちころだったんだねー」
ソニアは、ジャンとリリスをセットで煽る。しかしこの煽りでは、どちらを攻撃しているのかわからない。そもそもどちらがどちらを従えたのかすらわからない言いようだ。
ここのところパーティーでは、ソニアとジャンの煽り合いが見ものだったが、今回からはそこにリリスも加わっている。
「この地方の領主様は、風船おっぱいお化けの呪いに取り憑かれて、毎晩ぱふりんこしてもらわなければ生命を維持できなくなっているの。気の毒よねぇ」
リリスの攻撃は、ラムリーザまで巻き込んで広範囲に爆撃してしまった。
ラムリーザは修学旅行での嫌なことを思い出して、「ぱふりんこを出すな……」と呟いたが、すぐにソニアの怒声にかき消された。
「ふんだ、どこぞのクラブハウスのオーナーは、夢魔に取り憑かれて精気を吸い取られ、吸血鬼に取り憑かれて血を吸われて日に日に弱っていってるじゃない、酷い話!」
ソニアもリリスを真似て、ジャンを巻き込んでの広範囲爆撃を仕掛けた。
「この世界には、たまたま貴族の執事とメイドの娘だというだけで、幼いころから貴族風に暮らしてこられた、ただの平民がいるらしいな」
これはジャンではなく、リゲルの攻撃だ。なんだか知らないが、ソニアは多方面から集中攻撃を受けている。
「この世界には、昔の恋人と復縁して、今の恋人とも変わりなく交際を続ける二股男がいるという噂があるそうな」
ジャンは、なぜかリゲルを煽っている。
「黙れ、そんなのは単なる噂だ」
それぞれの攻撃の方向が別になってしまって、誰が敵で味方かわからなくなっていた。みんながみんなを攻撃している。
収拾をつける役がいないまま、会話だけが増殖していく。首脳陣パーティーというより、雑談の乱闘だった。ただ、この容赦のない言葉の弾丸が飛び交う騒がしさこそが、彼らなりの不器用な連帯感でもあった。
「えーと、この流れだと僕はユコを煽らないとダメなのかな?」
「ラムリーザ様に煽られる……なんだかゾクゾクしますわ、やってみてください!」
なんだかわからないが、ユコは期待している。期待されたら仕方がない、ラムリーザはあまり波風が立たないように、ネタを慎重に選びながら煽ってみた。
「どこぞの国には、転校するする詐欺を実行して、ぬいぐるみを騙し取った娘がいるらしい」
「ぬいぐるみじゃなくてクッション!」
しかし味方のはずの人物から、反撃を食らってしまうラムリーザであった。
「この流れですと、私、詐欺女はロザリーンを煽らないといけないんですのね。では――」
煽り合いは先が読めない不可思議な展開となっていた。その一方で、ソニアとリリスは骨付き肉で戦闘を始めてしまった。せめて食べた後の骨だけでやるならともかく、身がついたまま振り回すので、肉が飛び散って汚い。
「ソニアもリリスも行儀よく!」
ソニアは、骨付き肉を掲げて敬礼!
「ふっ、庶民の茶番劇だ」
リゲルは小さくつぶやき、ニヤニヤしていた。
教訓。格式ある場所でソニアとリリスを混ぜてはいけない。
一方、民衆会議では地名決議の話題に移っていた。
今日のお題は、ロブデオーン山脈の中央付近にある、大きな湖の命名について。この湖は人工的に造られたもので、もともとは山の頂上から流れる大きな川をせき止めて造ったものだ。
これは街の水源にすることと、水力発電所を造るというのが目的だった。
最近になって造られた湖なので、まだ名前がない。そこで以前、通りの名前を決めたときと同じように、案を出してもらって投票という形で進んでいた。
「民主主義という制度を知っているか?」
「ええと、国家の主権者が人民である体制のことだね」
ソニアやリリスがまだ煽り合いを続けている中、そこから抜け出したラムリーザとリゲルは、再び活気に沸く民衆たちを眺めながらそんな会話をしていた。
「この会議場だけは、帝政である帝国の中で数少ない民主的な場になっているな」
確かに街のことは、ラムリーザの一存で決めてもいい権限を持っていた。しかしラムリーザは、あえて一部の提案を民衆に任せているところがあった。地名決議などは、その最たるものであろう。
「まぁ名前ぐらいは自由につけさせていいと思うんだ。よっぽど変なのは訂正させればいいし、今のところはそんな変な名前は付けられていないし」
「ちなみにお前なら、湖の名前は何にする?」
「んーと、ほのぼのレイクとか?」
「……民衆に名前を付けさせるのも、あながち間違いではないようだな」
そんな会話をしているうちに、湖の名前の候補が出そろったようだ。声の大きなココちゃんカレーの店主が、五枚の紙を読み上げている。
「五つ挙がったな、一つ目はポリシーンパン、二つ目はほのぼのレイク」
「誰かが冗談半分で書いたのだろうが、どうやらお前と同じセンスの民もいるようだな」
「それは良いセンスという意味で? 悪いセンスという意味で?」
ラムリーザの問いに、リゲルは笑みを浮かべただけで答えることはなかった。
「三つ目はエルオアシス、四つ目はハニーパイ、五つ目はペリーモだ」
これからこの五つの名称を投票にかけて、湖の名前が決定される。
「リゲルはどれが良いと思う?」
ラムリーザは、一人一人が投票用紙を受け取って書き込んでいく様子を見つめながらリゲルに尋ねてみた。
「ほのぼのレイクはない。ポリシーンパンやハニーパイは湖につける名前じゃない。エルオアシスが良いんじゃないか? エルとかついているしさ」
リゲルは、ちらりとソニアのほうを見てそう言った。
「いや、エルオアシスのエルはカップのエルではないと思うよ」
ラムリーザは、リゲルの視線に感づいてそう答えておいた。
会議では名前の投票をしながら、話題はさらに次へ進んでいった。罵り合いを切り上げたジャンが、民衆の前に立って話を進めている。今ではラムリーザの仕事は、最終決議を下すことと、資金提供者としての役回りだけになっている。
「新しく造ってほしい施設は何かな? ユライカナンからの店以外にも、街にあるべき施設を要望の多い順に作っていこうと考えています」
ジャンはうまく話をまとめている。これなら十分に任せられるだろう。
要望が多かったのは、図書館の建設だった。何気に知的好奇心の強い住民が多いようだ。
「図書館なんて要らない」
その様子を見て、ソニアは不満そうにつぶやいた。
「あほには要らん施設だからな」
リゲルに毒づかれてソニアは「なによぉ」とさらに不満そうになってしまった。漫画を置くなら許す、とかつぶやいている。
そのとき、別の方面から唐突な意見が上がった。
「街の西外れ、まだ未開拓の場所に土地を譲ってほしいな」
西の外れで未開拓といえば、ロブデオーン山脈のさらに西方面。国境の川であるミルキーウェイ川までの間に広がる広大な土地。農地がぽつぽつと広がっているが、その大半はまだ未開発のままだった。
「土地の契約書は後で領主から頂くとして、何を造るのかな?」
ジャンに促されて前に出た人物を見て、ラムリーザは「この人、知ってるぞ」とつぶやいた。
「広大な敷地をいただき、そこにアミューズメントパークを作ろうと考えております」
彼はエドワード・リージス。先日ラムリーザがジャンに誘われて、ダブルデートという名目で出かけたポッターズ・ブラフ地方最大の遊園地、ポンダイ・パークの広報担当者だ。
あの日、ラムリーザとソニアのデートは成立しなかったが、その代わりに広報担当との会談の場になっていた。エドワードが別れ際に言った「フォレストピアでの遊園地開発、検討しておいてください」という言葉を、ラムリーザはしっかりと覚えていた。
「あの日のアレか……」
一方ジャンは、エドワードの話を聞いて顔をしかめた。ジャンにとって、あの日は半分成功、半分失敗だった。
リリスとデートするという目的は達成できたが、ラムリーザとソニアのデートを成立させられなかったのを密かに悔やんでいる。
「いずれは俺が一から十まで段取りを決めて、デートを成立させてやる」
「は?」
エドワードに変な顔をされて、ジャンは思わず口に出していたことに気がつき目をそらした。
「アミューズメントパーク、遊園地、覚えた。他に、何かある?」
ジャンの口調は妙にぎこちなくなったが、話は進んでいったようだ。
あと、湖の名前は「エルオアシス」という無難なものに決まった。
開発報告や、開発予定の話も終わり、パーティーも終了となった。一人、また一人と帰っていく。そのとき、またか?! という話になってしまった。
「ラム、ココちゃんカレーでカレー食べて、会議お疲れ様会をやろうよ」
ここのところソニアは、なにかと機会があれば必ずココちゃんカレーに行きたがる。
「またぁ? もう、飽き飽き――というか、さっきからいっぱい食べていたじゃないか、まだ食べるん?」
「ココちゃんは別腹!」
「あ、私も行きますの!」
ココちゃんフリークの二人はラムリーザに詰め寄った。
「おう、俺は帰るから、じゃあなまた学校で」
ジャンは早口でそう言い残すと逃げるように立ち去り、リリスも同じようにその後について立ち去ってしまった。辛いカレーに付き合わされるのは勘弁、ということだろう。
ラムリーザは困ったような視線をリゲルに向けたが、彼は「俺はロザリーンを送っていかないといけないしな。というわけで今日はさらばだ」と言って立ち去ってしまった。
ラムリーザのそばにはソニアとユコが詰め寄ってくる。
「カ、カレーが食べたいのか?」
苦し紛れにラムリーザは尋ねてみた。しかし二人の答えは普通に「ココちゃんが欲しい」との一点張りだった。ココちゃんも罪作りなぬいぐるみ――いや、クッションだ。
「そんなに食べるとまたおっぱいが膨らむぞ」
これまた苦し紛れにソニアを脅してみる。
「私はもう少し大きくしたいから、ちょうどいいですの」
「ユコだけ食べに行くのはずるい」
今日はソニアだけじゃなかったので、通用しなかった。仕方なくラムリーザは、二人を連れてココちゃんカレーに行くのだった。
そして同じように、真っ赤な激辛カレーを泣きながら食べる二人。
さらに店でカレーを食べているときに、今日の会議に出席して中心人物となっていた店長があとから戻ってきて、「おや? 領主さんはパーティーのあとにうちで食べていってくれるのかい? ありがたいことですじゃ」などと言われ、苦笑で返すしかできなかった。
祭りも湖も遊園地も、少しずつ形になっていく。
その裏で、ラムリーザの部屋だけは白く丸い物体で着実に埋まっていくのだった。
そういうわけで、ラムリーザの部屋に転がるココちゃんの数は、めでたく八体になりましたとさ、ちゃんちゃん。