ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


二人の時間 遊具の上の秘密基地

帝国暦九十三年 豊灯の月・守護者の日(現代暦:五月下旬)

 ストロベリー・フィールズ――それはフォレストピアの中央公園につけられた名前だ。

 以前「のだま」で遊んだスポーツ広場や散歩道があり、他には子供の遊び場として木やロープで作られた遊具が置かれている場所もある。

 この日ラムリーザとソニアは、学校が終わったあとにちょっと寄り道して中央公園に立ち寄っていた。

 最初は散歩道をうろうろ。時々、道端になっているイチゴの実を採っては食べていた。

 このイチゴが、この公園の名前の由来になっている。特に栽培目的で育てているわけではないので、育った実は自由に食べてよいことになっていた。

 しばらく公園内をうろうろした後、二人は遊具広場へたどり着いた。二人とも、もう小さな子どもじゃない。だからこそ、この広場をどう思うのか。

「そういえば校庭に遊具を作ってくださいとか要望を出した子がいたなぁ」

「あれ、半分本気だよ。校庭に回転ジャングルジムとか、回転遊具、メリーゴーラウンド、ティーカップとか作ってくれたら面白いのに」

「回るものばかりだね」

 遠心力で胸が浮き上がって、肩が楽になるのかな? などと妙なことを考えながら、ラムリーザはちょっと休憩しようと思って遊具広場へ足を踏み入れた。フォレストピアの駅からずっと歩き詰めで、足が疲れてきていた。

 ラムリーザがソニアを連れて向かった遊具は、四角錐状に木材の柱で組まれている。その柱の間に、ハンモックみたいに数枚の幌が張られていて、その上に登って遊ぶものだ。幌は柱の幅に合わせて上の段に行くほど小さく狭くなっている。また一枚おきに中央部に大きな穴が開いていて、上下の段に移動できるようになっていた。

 幌の上は、木の影がゆらゆら落ちていて、妙に秘密基地っぽかった。

 ラムリーザは、ちょうど中央あたりの、寝転がるのに十分なスペースのある段にもぐり込み、ソニアも後についてもぐり込んできた。

 寝転がるラムリーザの横で、ソニアは上の段の幌の中央に開いた穴から体を出して上をのぞいていた。

 ひんやりとした幌が、寝転がると気持ちいい。

「ソニア、おいで」

 ラムリーザは、ソニアを呼び寄せた。そのままぎゅっと抱きしめてみた。

 離れた場所から見ると、幌自体が二人の体重で少しめり込んだ形になっていて、二人が何をしているかはそばまで近寄らないとわからないだろう。

 そこでラムリーザは、ソニアのおでこにチュッと口づけをした。

「おでこなんてやだぁ、口にしてよ~」

 ソニアが不満を言ったので、今度はそのうるさい口をラムリーザ自身の口でふさいだ。

「んっ――」

 そのままラムリーザは、ソニアの頭を撫でる。青緑色の髪が、指の間をさらさらと流れる。

「――んんーんっ!」

 ソニアは悶える。青緑色はラムリーザの好きな色。その美しさを改めて堪能した。外の散歩道を行き交う住民たちの微かな話し声さえも、今ははるか遠くの出来事のように感じられるほど、その空間は二人だけの濃密な静寂に満たされていた。

 唇を離すと、ソニアの大きな瞳がすぐ間近で潤んでいた。

「可愛いなぁ、ソニアはなんでそんな可愛い顔しているんだい?」

「ふえぇっ、もう、あ、ううんっ、やだぁっ」

 ソニアはラムリーザの問いかけには答えずに、ただ悶えながら、ラムリーザの手をつかんで自分の頭から引きはがした。

「何だよ、撫でたらダメ?」

「んーん」

 ソニアは、ラムリーザの胸に顔をうずめながらうなずいたのかどうかわからない返事をした。だからラムリーザは、別の要求を出してみた。

「それなら足触るよ」

 そう言って、ソニアの健康的で肉付きの良い太ももへと手を伸ばした。

「足触ってもいいけど、ぴちぷにょはダメ!」

「それはできない相談だなぁ」

 ラムリーザの手がスカートの端に触れた瞬間、ソニアは慌てて押さえた。

「そこはダメ!」

 ソニアは、ミニスカートを触られたことに抵抗した。ソニアにとっては、下着や靴下には触られたくないが、肌に触れることは問題ないということなのだろうか?

 ラムリーザは、まずは靴下で覆われた太ももを揉んだ。

「んんーんっ」

 ソニアはくすぐったいのか、身をよじってからさらにギュッとラムリーザにしがみついた。

 それを受けてラムリーザは、今度は太ももの付け根、むき出しの部分をギュッと握ってみた。すべすべしていて柔らかくて温かくて触り心地も揉み応えも申し分ない。

 それから再び靴下で覆われた部分に触れ、続けてむき出しの部分にも触れた。これが、ラムリーザが何度も望んでいるぴちぷにょだ。

 相変わらず、ぴちっとした靴下の感触と、ぷにょっとした太ももの感触が、対比効果で強調されて触れた感触が妙に心地よい。

 その感触は、ラムリーザに少し困った衝動を生み出した。

「んー、ソニアの足はおいしそうだなぁ。食べちゃいたいね」

 ラムリーザはもぞもぞと幌の上で動いて、ソニアの足のほうへ移動した。

「ダッ、ダメっ、食べたらそれで終わりだよ、もう足を触れなくなっちゃうよ!」

 ソニアの抵抗の言葉も、少し意図がずれている。しかし確かに食べてしまえば足がなくなって、以後触ることはできなくなってしまうのも事実だ。

「それならば――」

 ラムリーザは、チュッとソニアの太ももにキスをした。キスだけならなくならない。

「ひんっ」

 くすぐったいのか、ソニアの体がビクッと震える。そこにもう一度、キスをした。

「ふえぇ……」

「可愛いなぁソニアは」

 ラムリーザとソニアは、しばらくの間ピラミッド状の遊具の中で、外から見えない程度にじゃれ合っていた。

 幌の影の中は、外の世界と切り離された小さな秘密基地みたいだった。近づいたり離れたりするたびに、幌が小さく波打って二人の気配だけが残る。

 どれくらい経ったのかは、よくわからない。

 ピラミッドから出たとき、空は茜色に染まっていた。そろそろ帰るとするか。

「次はこれに登ろうよ」

 ソニアは、ロープを組み合わせて作られたタワーに登りながらラムリーザのほうを振り返って言った。

 ラムリーザは下から見上げる形になり、ソニアの無防備な下半身を眺める形になった。短いスカートがひらりと揺れて、ラムリーザは視線の置き場に困った。

「置いて行っちゃうぞ、はやくついてきてー」

 ロープのタワーを一メートルほど登ったソニアを見て、ラムリーザはあることを思い出してソニアの足をつかもうとした。

 一瞬、別のよこしまな考えがよぎったが、すぐに打ち消した。危ない。ソニアは足元が見えていない。
              
夕暮れの中央公園の遊具広場で、足元が見えにくいままロープのタワーに登るソニアを、ラムリーザが心配して支えようとしている場面
「ちょっと待て、それ以上登るなっ」

「なんでよー、離してよー」

「降りられなくなるから止まれ――ってか、足元のロープは見えているのか?」

「あ――」

 そう、ソニアの巨大な胸は、それ自体が下方向への視界を邪魔する。足元が見えないので、ロープの位置もほとんど把握できていないはずだ。

 あまり高くは登っていなかったので、ソニアはその場所から飛び降りて事なきを得た。

「これがスペランカーだったら終わっていたね」

「あたし別に身長の半分の高さから飛び降りて死なないよ!」

 そんなわけで、ロープのタワーを登るのはやめにしておいた。

 危ないところだった。ソニアは大口を叩くけれど、足元が見えなくなると途端に脆い。胸の大きさが笑い話で済むときもあれば、こうして本当に危険になるときもある。

 だからラムリーザは、手を伸ばせる距離にいてやるしかない。人並み外れた発育の良さは、時に彼女の小さな視界を簡単に奪ってしまう。だからこそ、ラムリーザがすぐ隣でその足元を支えてやらなければいけない。

 それが世話焼きとか責任感とかじゃなく、ただ落ち着くからだと思ってしまうのが、いちばん厄介だった。

 この広場にある遊具は、あと一つ。木でできた立体的なジャングルジムと迷路を組み合わせたようなものだ。

 二人はその遊具の中までは入り込まず、外側に突き出ている滑り台の場所に並んで寝転がった。子供用の遊具ということもあり、ソニアはともかくラムリーザは体が大きすぎて入っていくのは困難だった。

 なんでもない遊具でも、ソニアといると楽しいものだ。ラムリーザはそう考えながら、徐々に沈んでいく夕日を眺めていた。

 言葉は減っていった。代わりに、触れた場所だけが確かなものになっていく。

 ラムリーザは、こんな寄り道がいちばん贅沢なんだと思っていた。

 

 夕日が落ちて、東の空が蒼くにじんだ頃、そろそろ帰ろうかと立ち上がったところで、ソニアはラムリーザにお願いした。

「そうだ。ねぇ、ココちゃんカレー食べて帰ろうよ!」

「なんでまたカレー? こないだ食べたばっかりじゃないか」

「カレーが食べたいの、ねぇ行こうよー」

 本当にカレーが食べたいのか? ラムリーザはあえて尋ねてみた。

「正直な気持ちを言ったら連れていってあげる」

「ぬいぐ――クッションのココちゃんが欲しい」

 ものすごい勢いで即答した。ラムリーザも分かっていたが、結局はそういうことである。

「……よし行こう」

 とりあえずはソニアの正直な要求を聞けたので、その願いを聞き入れてココちゃんカレーへと向かっていった。

 そういうわけで、ラムリーザの部屋にいるココちゃんの数は、ついに七体に到達したのであった。

 

 夜、寝る前。

 ソニアは部屋の中で七体のココちゃんと自分で輪を作って座り込み、なにやら話し込んでいた。

「ココちゃんはクッションなのにクッションらしくしないから、もうクッションって認めてあげない。でもぬいぐるみにしては、はげぼうず過ぎるからぬいぐるみとも認められない。クッションでもない、ぬいぐるみでもない、ココちゃんは一体何?」

 そこでソニアは一体のココちゃんを抱きかかえて、さらに言葉を続けた。

「クッションらしくできんの? クッションらしくしないのならもうクッションじゃなくてクッションもどきって呼ぶよ? ぬいぐるみでもクッションでもないならクッションもどき! クッションもどきは嫌?」
              
ソニアに動かされたココちゃんが、うんうんと頷いている様子
 ソニアはココちゃんを動かして、縦にうんうんと頷かせる。

「じゃあはげぼうず」
              
ソニアに動かされたココちゃんが、いやいやと首を振っている様子
 ソニアは、ココちゃんを今度は嫌々といった感じに横に動かした。

「じゃあクッションだ。クッションらしく下に敷かれなくちゃダメだね」

 さらに嫌々とココちゃんを左右に動かすソニア。

「クッション違うん? じゃあぬいぐるみ?」

 今度は左右ではなく、縦にうんうんと頷かせる。

「そんなはげぼうずなぬいぐるみはない。バタバタしてもいかん」

 そう言って、ソニアは抱いていたココちゃんを手放して、再び七体のココちゃんと輪になる。ココちゃんがバタバタしていたのは、ソニア自身の動かし方によるものなのだが、そこは突っ込まない。

「ココちゃんは、下に敷かれるクッションか、はげぼうずなぬいぐるみか、そのどっちかにしかなれないの。クッションもはげぼうずも嫌なのだったら、クッションもどきとしか呼べないの」

「何をやっているんだ?」

 いい加減心配になってきて、ラムリーザは口を挟んでみた。

 はたから見れば、ソニアはぬいぐるみの群れ相手に説教を垂れているようにしか見えない。それも、クッションだのぬいぐるみだの、あげくの果てにはクッションもどきという造語まで飛び交っている。

「ココちゃんがクッションなのにクッションらしくしないから、クッションらしくするよう言い聞かせているの」

 ソニアは、七体のココちゃんの頭を一体ずつぽんぽん叩きながら答えた。

「クッションらしくしているじゃん」

 そう言ってラムリーザは、輪の中から一体のココちゃんを拾い上げると、ベッドの上へと持っていき自分もベッドに上がっていった。もちろんラムリーザには、クッションらしさというものはわかっていない。それでも一応ココちゃんを庇ってやっただけだ。

「あっ、クッションなのにベッドの上に行った!」

 何だか以前にも聞いたことのあるような、ソニアの非難である。ラムリーザはソニアの訴えを無視して言った。

「そろそろ寝る時間だぞ。まだ遊び足りないなら、自分の部屋に帰ってから遊ぼう」

 そう言われると、ソニアもベッドにもぐり込んでくるしかない。

「クッションなのに、クッションなのに……」

 ベッドに横になった二人の上に乗っかっているココちゃんを見つめながら、ぶつぶつとつぶやいているソニアの額に口づけすると、ラムリーザは部屋の明かりを消して眠りにつくのだった。

 特別な場所へ行かなくても、どれだけ不条理なココちゃんに部屋を占領されていても、一日の終わりにこの腕の中に帰ってくる確かなぬくもり。

 子供用の遊具の上で過ごした時間は、帝都でのどんな立派なデートよりも、今の二人にはちょうどよかった。