ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


プレオープンのカラオケハウス

帝国暦九十三年 豊灯の月・氷狼の日(現代暦:五月下旬)

「おい、フォレストピアにカラオケハウスを作ってみたぞ」

 放課後、今日は部室で駄弁るかジャンの店で音楽活動をするか考えていたラムリーザは、ジャンに思い出したように話しかけられた。

 最近はフォレストピアの街づくりをジャンに任せっきりで、ラムリーザはほとんど事後承諾で判を押すくらいしかやっていなかった。だから街のことについては、ジャンのほうが詳しいところがある。

 もちろんジャンも、一任されているからといって好き放題やるわけではなく、そこはきちんと考えて街づくりをしていた。それに、今回のように報告は忘れない。

 もちろんラムリーザには、気に入らない点があれば修正できる権限があった。しかし、ジャンのセンスに問題がないからか、今のところダメ出しをしたことはない。

 要するに、適材適所だ。何もすべてを一人で抱え込むことはない。せっかく優秀な仲間がいるのだから。

「カラオケハウス? ああ、歌を歌って遊ぶ場所ね」

 ラムリーザたちは、カラオケハウスへ出かけたことはあまりなかった。歌が歌いたければ自分たちで演奏して歌えばいいだけなので、わざわざカラオケハウスへ行く必要がなかったのだ。グループ内で行こうといった話が出ることも少なかった。

「なんだ、行ったことないのか? あ、まあ、そっか、いつもスタジオで好き放題歌っているし、スタジオのほうが音質いいからな。一度は行ってみないか? せっかくできたばかりだし」

「何々、カラオケ? あなたたちカラオケ行くの? あちきも連れてってー。マイクは譲らないけど、友情は守るわ」

 そこに突然、普段はあまり絡まないクラスメイトの女子生徒が割り込んできた。

「レ、レルフィーナ?」

 クラスの人気者であり、去年の文化祭では実行委員として活躍したレルフィーナが、ラムリーザたちのそばへ駆け込んできた。

「あちきカラオケ好きなんよー。できたばかりって聞こえたけど、すごく気になるよ。どこにできたの?」

「フォレストピアだよ、新開地の」

「あー、あそこね。行こ行こーよ、カラオケ。帰りの体力は考えない方向で」

「じゃ、今日はカラオケで遊ぶか」

 そういうわけで、今日は部活動はお休みしてみんなでカラオケハウスへと遊びに行くことに決まった。

 校門前で、ソフィリータとミーシャと合流し、普段のメンバーにレルフィーナを加えた一同は、フォレストピアへ向かう汽車に乗り込んだ。

「そういえば、あちきはフォレストピア行くの初めてかもしれない」

「レルフィーナはどこに住んでいるんだっけ?」

 ラムリーザの問いにレルフィーナは、「エルム街のマンション。だからあんまりよそには行ったことないのよねぇ」と答えた。

 エルム街なら、ポッターズ・ブラフ地方最大の繁華街だ。そこに住んでいるのなら、わざわざよそに出かけることは少ないだろう。

「で、カラオケハウスはどこにできたんだっけ?」

「ペニーレインに入ってすぐのところだな」

「ペニーレインって何?」

 すぐさま質問してきたレルフィーナに、ラムリーザはどう答えたものかと考えた。

「えーと――」こんな内容でいいものやらと思いながら言葉を続けた。

「――フォレストピアの一番街メインストリートから一本外れた二番街。名前は住民が投票で決めた、語源は知らない」

「ふーん、なんだか面白そうね。語源がないなら、今から作ればいいわ」

 レルフィーナの言う「面白い」は、通りの名前なのか命名方法なのかはわからないが、そうこうしているうちに汽車はフォレストピアへ到着した。

「でっかい倉庫にでっかいホテルねー」

 初めて来たらしいレルフィーナが、フォレストピア駅から出てすぐに漏らした感想だ。

 駅前で目立つのは、ユライカナンからの物資を溜め込んでいる倉庫と、ホテルも兼ねているジャンの店、フォレストピア・ナイト・フィーバーの二つだ。

「あのホテル、俺の店だから」

 なんだかジャンは、得意げだ。しかしレルフィーナには、ジャンが経営しているという意味がピンと来ないようだ。

 一番街のロング・アンド・ワインディング・ロードをすぐに逸れて、二番街へと入り込んだ。そこでラムリーザは、数日前のことを思い出して顔をしかめた。

「む、顔が引きつっているぞラムリィ。ああ、建国祭の日のことか、ユコとソニアの二人がずっと射的屋にはまっていたけど、あのぬいぐるみ取れたのか?」

「取れた取れないの問題じゃなく、取れすぎた。三十個以上も部屋にある、さすがにうっとうしい」

「何よ、ユッコなんかもっといっぱい取ってるからあたしの取った数なんて可愛いもの!」

「で、ユコは何個取ったのだ?」

「五十個までは数えたけど、それ以上はめんどくさくなりましたの」

「お、おう、なんだか知らんがすごいな」

 他人事ながら驚くジャン。ココちゃんフリークのソニアとユコはいいのだが、それに巻き込まれているラムリーザはいい迷惑だ。ソニアがラムリーザの部屋に入り浸っているので、ココちゃんもすべてラムリーザの部屋に転がっているのだ。さらにクッションだからという理由で飾らせないのだから邪魔でしょうがない。

 そしてその射的屋が置かれていた場所の後ろに、ジャンの言う新しくできたカラオケハウスができあがっていた。看板には、音符のマークと「ミュルミデオン」の文字だけがぶら下がっていた。

「ミュルミデオンか。しかし中身はえらく殺風景だね」

 それがカラオケハウスの名前だった。そしてラムリーザの言うように、店の中に入ってみると、飾りも何もなく、妙に地味な感じだ。

 店の名前は、体感型バーチャルマシンで聞いた言葉を借用したものだった。ラムリーザにとって、ポンダイ・パークで一番印象に残ったのが、体感型バーチャルマシンでの宇宙旅行だった。

「実は、今できたばかりなんだ。放課後前にちょうど連絡が入ってね。だから君たちがお客第一号ってわけだ。ちなみに、まだプレオープン。正式にオープンするのは明日以降だ」

「……なるほど、まだ骨組みだけってわけだ」

「えー、なになにそれ、そんなのにあちきが入っていいの?」

 ジャンの説明に、ラムリーザは納得した。しかしフォレストピアをあまり知らないレルフィーナが、驚いた声を上げた。

「この街はできたてだからね。こういうことは多々あるんだよ」

 ラムリーザの言葉に、レルフィーナは「ちょ、店って、できた瞬間から動くの? こわっ」などとはしゃいでいる。

「で、部屋割りとか決める? 全員で一部屋に入る?」

「そこで料金制度だが、リゲルにうかがってみよう。どう設定する?」

「そうだな――」

 リゲルは腕組みして持論を述べ始めた。

 まず料金は、一部屋いくらという制度にして、部屋を時間単位で貸し出す形式にしよう、というものだ。

「えー? 一人いくらとかじゃないの?」

 カラオケハウスによく遊びにいくレルフィーナは首をかしげる。

「一時間あたり一人五百エルドだとしよう。二人で入れば一時間千エルドかかる。しかし二人だから一人当たりの時間は単純計算で三十分になる。つまり、これだと三十分で一人五百エルドとなる。人が増えれば増える分、同じ料金で持ち時間が減る。人数分の料金を取るのは不合理だと考えられるから避けよう」

「なんかよくわかんない」

 ソニアのツッコミを無視してリゲルは話を締めくくった。

「つまり、一部屋一時間で千エルドぐらいに設定していれば、人数が増えて持ち時間が減ったとしても、その分料金が頭割りになって安くなるから問題ない」

「よし、じゃあそれでいこう」

 ジャンは、店主と何やらごにょごにょと話をしている。料金体系も、たった今決定するみたいな感じだ。

「ちょっとそれずるいよ。エルム街のカラオケハウス、大勢で行ったら同じ金額で歌える時間が少なくなるのに、そっちのほうが絶対いいじゃん」

 なんだかレルフィーナは憤慨している。

「まぁいろいろ理由はあるが、俺がカラオケにあまり行かんのはそういう不合理が理由だな。かといって、一人で行く気もしない」

「ミーシャがリゲルおにーやんと行くよ、行くよ」

「了解了解、今度連れていってやるよ」

 またリゲルの笑顔。ソニアたちにキモいと評される笑顔をミーシャに見せるリゲルであった。

「こほん、今来てますよ」

 ロザリーンの咳払いで、リゲルはすぐに真顔に戻った。

「よし、一部屋一時間千エルドに決まった。全員で入るか? それとも部屋割りするか?」

 レルフィーナは、まだ「それずるい、安すぎるし効率もいい、ずるい」とぶつぶつつぶやいている。

「勝手に俺の理想を述べただけだが、それで採算は取れるのか?」

 リゲルは少し首をかしげてジャンに問う。

「この街は、国を挙げて発展させようとしているから、いろいろと国から援助が出ているし、スポンサーが帝国随一の名家フォレスター家だからな。この街自体がそのフォレスター家の庭みたいなものだから、気にしなくていいんだよ。娯楽に投資、実務と労働で成果だ」

「うん、街自体が帝国宰相の私有地みたいなものだ。レルフィーナの言うようにずるいな」

 リゲルは頷きながら答えた。

「それに、フォレストピアはまだ娯楽が少ない。歌を聞きたければ俺の店に、そして歌を歌いたければここに来るしかない。客の奪い合いにはならないね。さて、全員で一部屋にすると一人当たりの歌える時間が減るから、二つか三つの部屋に分けるぞ。どうする?」

 なんだか今日は、ジャンが仕切っている。もともとラムリーザと組んでバンド活動をしていたJ&Rでもジャンがリーダーだった。どちらかと言えば、ラムリーザよりジャンのほうが、人を動かしたがる性質があるのだ。

「あたし、ラムと入る。ラムと入れないんだったら帰る」

「よし、帰ろうか」

 ソニアは茶化すリゲルをキッとにらみつけると、ラムリーザにくっついて後ろに隠れてしまった。

「ラムリーザとソニア、レルフィーナもラムリーザと同じ部屋にしよう。リゲルはロザリーンと入ればいい。ソフィリータはミーシャと入ればいい。残りの三人で一部屋使おう。よし、四部屋用意してくれい」

 ジャンは一気に部屋割りを決めてしまい、他の者が口を出す前にさっさと部屋の準備をしてもらっていた。二人か三人で一部屋、ひとまずはあまり文句の出ない組み合わせだろう。さらに、文句が出ないように、うまく自分とリリスを同じ部屋にしているようだった。
              
カラオケハウス・ミュルミデオンの殺風景な部屋で、ソニアがマイクを持って歌い、レルフィーナが端末を操作し、ラムリーザがソファーで見守っている場面
 ラムリーザが飲み物を人数分用意して部屋に入ったとき、すでにソニアは部屋に飛び込んでいて歌う準備を済ませていた。

「ルゥッシーアォゥ!」

 部屋に入ると同時にソニアの大声が炸裂。お気に入りのルシアから入ったようだ。威勢のいいことだ。相変わらずソニアの声は、よく響く。レルフィーナも二番手として曲を入力するため、端末をいじっていた。

 ラムリーザはドカッとソファーに腰を下ろすと、歌っているソニアをぼんやりと眺めていた。

「二つの世界が重なるとき、そこに見えてくるユートピア――」

 二番手、レルフィーナの「第二世界の夜明け」が始まった。先ほどソニアが歌ったルシアも、この第二世界の夜明けも演奏しながら歌うことのできる曲だ。

 去年の文化祭でやったカラオケ喫茶のおかげで、演奏できる曲が一気に増えたので、そういうこともあってカラオケに行く機会のなかったラムリーズであった。

 ラムリーザは歌っているレルフィーナを改めて眺めてみた。クラスでは人気者だが、ラムリーザとあまり関わることのなかったクラスメイト、レルフィーナ。その華やかさだけなら、ボーカル専用要員としてバンドメンバーに入れても問題ないだろう。

「思い出の歌、目に浮かぶわ。あの星空、思い出の町――」

 気がつくと、ソニアは二曲目を入れて三番手として歌い始めていた。この曲は、去年の夏休みにリゲルの別荘があるクリスタルレイクへ行く途中に、車の中でソニアたちが歌っていた曲だ。

「あ、どうでもいいけど僕の順番をさりげなく飛ばしたね?」

 ソニアが歌い終わったところで、ラムリーザはそうぼやいてみた。

「あ、ごめーん」

「ラムリーザ、歌う?」

 レルフィーナはマイクを差し出してくるが、ラムリーザは「いいよ、好きなだけ歌いなさい」と言って、ソファーに深く座り直した。

 それからしばらくの間、ソニアとレルフィーナは交互に歌い続けていた。もともと歌うのが好きな二人、放っておけばいつまでも歌い続けそうな勢いだ。

 カラオケは、歌に集中できるのが良いところかもしれない。普段はベースを弾きながら歌っているソニアだが、今日はのびのびと歌っているようだ。歌の練習には良いかもしれないな、とラムリーザは思いながら二人の歌を聞いていた。

「ちょっと休憩したいからラムが歌って」

「そうね、のどが渇いてきたわ。ここまで来ると、水にも期待してしまうみたい」

 二人はラムリーザにマイクを渡して、ジュースを飲んだりソファーに寝転がったりしている。

「飛ばしすぎ、二人で二時間近く歌い続けているんだからすごいよ」

 途中、一度だけ一時間の時間延長を入れていた。これは他の部屋のメンバーとも話をして伸ばしたものだ。

 さてと――。

「青空に居候~、萌える娘に声をかけよう。青空に居候~、萌えない娘には時間をかけるな――」

 ラムリーザは、お疲れモードの二人の前で、ゆったりと歌っていた。

 ほかの部屋からも、時折ミーシャの笑い声やリリスの妙に澄んだ声が漏れてきていた。

 さて、そんなこんなで残り時間も少なくなってきた。

「最後に三人で歌えるものにしようよ」

 レルフィーナはそう提案したが、そんな歌ってあったかな? と思うラムリーザであった。

「あ、これがあるよ。『クッパとヘビと竜王とうみうしとうまうしとパンパースの歌』で、これ知ってる? 大勢で歌う曲だよ」

「あ~あれね。聞いたことあるけどパンパースって何?」

「気にしたらおしまいよ。歌ってるうちに、だいたい納得するから」

 レルフィーナも知っているようで、ラムリーザにそう言った。

「別名、カジャションゲリア」

「うーん、異国の言葉かな?」

 ソニアに解説されてラムリーザは首をかしげたが、とりあえず気にしないことにして三人ともマイクを持って立ち上がった。

 しかしこれは、なんだか修学旅行のときにユライカナンのテラで聞いた、お経のような雰囲気の歌だ。一応三人で声を合わせているが、ちっとも盛り上がらない。

「ダメだ、やっぱり最後はこれにする」

 そう言ってソニアは、お得意の「きーらきーら」を打ち込んでいた。最後ということでレルフィーナも一緒になってユニゾンで歌っていた。つまり、レルフィーナもあのゲームを知っているのか……。

 そんな感じで、カラオケハウス「ミュルミデオン」のプレオープンは終わった。明日から早速本格始動するようだ。

 店は殺風景で、料金も今決めたばかりで、どこまでも作りたてだった。それでも、歌が始まれば部屋の中はちゃんと遊び場になる。

 ソニアはいつもより自由に声を伸ばし、レルフィーナは見慣れない街の仕組みに目を丸くしながら、それでも最後には同じ曲で笑っていた。

 フォレストピアは、建物だけ先に増えていく街だと思っていたけど、こういう声のようなものも、少しずつ積み上がっていくらしい。

 ちなみに、この日も主にソニアとユコの要望で、ココちゃんカレーで食べて帰ろうという話になり、ラムリーザの部屋にいるココちゃんの数は、六体に増えたのだった。