ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
ペパーランド開店 格闘キャラ弱体化の悲劇
帝国暦九十三年 豊灯の月・学匠の日(現代暦:五月下旬)
放課後。
ラムリーズの活動は、部活と称して遊ぶか、真面目に部活をするかの二択だった。
しかし時々ユコは、どちらにも参加せずにふらっと抜けることがあった。といっても、ゲームセンターに遊びに行っているだけだから、特に気にすることではない。
そのときユコは、用心棒として毎回レフトールを連れ回していた。今ではゲーセン仲間としての関係が成り立つほどである。
「私は今日はゲームセンターに遊びに行きますわ。というわけで、レフトールさん、よろしくですの」
ユコは今日はゲームセンターへ遊びに行くようだ。早速レフトールに声をかけている。
「あいよっ、がってん承知ノ介!」
二人がいつも向かう先は、繁華街であるエルム街のゲームセンター。しかし今日は、その二人を見てラムリーザは声をかけてみた。
「フォレストピアのゲームセンターが今日から開くけど、行ってみないかい?」
フォレストピアも街としての形を整えるために、ゲームセンターの一つや二つは用意しなければならなかった。しばらく準備していたが、ちょうど今日から利用できるようになったのだ。
「メダルゲームはあるんですの?」
ユコの問いにラムリーザは、「ゲームセンターにあるべきものは、一通り揃っているはずだよ」と答えた。
「おい、レフトール。君はユコのボディガードやってるのか?」
ジャンはレフトールに尋ねた。自分はリリスを狙っておきながら、そのリリスの友人の動向には気を回しているといったところか。
「なんかいつの間にかそんな感じになっとるね。まぁ俺もたまにはゲーセンで遊びたいからちょうどええけどな」
「なんかきっかけでもあったのか?」
「こいつがウサリギ派のチンピラにナンパされていたというか、絡まれていたというか、なんかあったのを助けてやってからずっとだな。まあ、王女様に仕える騎士みたいなもんだ」
「それ以上は話さなくていいですの!」
ユコがビシッと言い放ったので、レフトールは口をつぐんだ。悪名高かった不良の大将が、お嬢様言葉の少女におとなしく従っている。そこにリゲルがいつもの口調で問いを投げかけた。
「お前はラムリーザの番犬とか言いながら、王女様に仕える騎士へ浮気しているんだな」
これにはレフトールも言い返す。
「俺はラムさんの身を守る。ついでにラムさんの取り巻きの身を守っているだけなんだな、これが」
「それなら俺の身も守ってくれるん?」
ジャンは悪戯っぽい笑みを浮かべてレフトールに尋ねた。
「野郎の身は守らん。自分でなんとかしろ」
「ラムリーザも野郎なんだが?」
「えーと、ラムさん。フォレストピアのゲーセンに案内してくれや」
レフトールは自分の旗色が悪そうだと判断すると、さっさと話を切り上げてラムリーザに早く行くよう促した。
「それじゃあ今日は、久しぶりにみんなでゲームセンターに行ってみようか」
「んだんだ、レッツラゴーだ」
レフトールは、いつぞやを思い出させるようなフレーズを発して、先陣を切って教室から飛び出していった。
普段ゲームセンターによく行くのはユコだけだ。
ソニアやリリスもゲーム好きだが、主に家で遊ぶ派でゲームセンターに行くことは少ない。
というより、ユコはメダルゲームが好きなだけで、他のゲームは家にあるゲーム機でも遊べるようなものだ。精々ゲームセンターのほうが、画面が大きいとか画質がいいとか、そのくらいだ。家庭用機への移植は劣化コピーだとよく言われているが、ソニアやリリスはあまり気にしていなかった。
途中で下級生コンビのソフィリータとミーシャに合流して、いつものメンバーはフォレストピアへ向かっていった。
フォレストピアのメインストリートから一筋それた二番街ペニーレインに、そのゲームセンターは建っていた。
「ペパーランドですの? 初めて聞く名前ですわね」
新しいゲームセンターの名前はペパーランド。その名前を見てユコは首をかしげた。
「街の施設の名前は、所有者が特に決めなければ住民投票で決めることになっているからねぇ。この街の住民のネーミングセンスは、僕もいまいちよくわからないんだ」
ラムリーザも首をかしげる。なんといっても、メインストリートが別に曲がりくねっているわけでもないのに「ロング・アンド・ワインディング・ロード」である。これが住民投票で決まったのだから、今後も不思議な命名が増えていくことだろう。
「名前なんてどうでもいいですの。中身で勝負ですわ」
ユコは最初に名前に突っ込んできたくせに、すぐにどうでもいいようなことを言い出してさっさと中に入っていった。
ゲームセンター『ペパーランド』の中は、客の数はそれほど多くない。基本的にフォレストピアの住民しか来ないだろうから、まだそれほど賑わっていないようだ。
ポッターズ・ブラフの住民なら、よほど新しいもの好きでもなければ普通はエルム街のゲームセンターに通うものである。
「ここならウサリギ派のチンピラもあまり来ないんじゃないかね」
レフトールは、周囲を見渡してそう言った。
「それでも行くときは同行してもらいますわ」
「はいよっ」
ユコは学校帰りならレフトールを連れまわすだろうが、休日となればラムリーザに連絡が来る可能性は高かった。もっともユコは、休日はあまりゲームセンターで過ごすことはない。
早速ユコは現金をメダルに替えてメダルゲームに取りかかっていた。レフトールは子分のマックスウェルと二人でパンチングマシーンで遊んでいるし、ミーシャとソフィリータはぬいぐるみキャッチャーで遊んでいる。ぬいぐるみキャッチャーの目玉は、やっぱりココちゃんだろうか?
リゲルとロザリーンはいつものようにエアホッケーに取りかかり、ラムリーザとジャンは車のレースゲームで勝負をしていた。
そして騒動は、ソニアとリリスが対戦を始めたビデオゲームコーナーで起きた。
去年からよく遊んでいた格闘ゲームだが、この春からバージョンアップしていろいろと仕様が変わっていた。ぱっと見では、キャラの色が変わっているだけだが、ゲームスピードが少し速くなっていたりと変わった部分はいろいろあった。
「なによぉ、アルタイルが緑色じゃなくて銀色になってる。サイテー、おもしろくない」
ソニアは色で選んでいたのか? いや、そういうわけではないということを、去年散々ハメ殺されたラムリーザにはわかっていた。
「緑じゃないなら選ばなければいいじゃないの、そんなインチキキャラ」
リリスもソニアと喧嘩に発展したことがあるので、ソニアがそのキャラを選ぶことには否定的だ。
だがソニアは「やだね」と一言答えて、結局いつもと同じキャラ――ただし色は銀色――を選んでリリスとの対戦が始まった。
そういうわけで始まった対戦だが、すぐにソニアの様子がおかしくなった。タイミングは合っているはずなのに、画面の中だけが遅れてついてこない。
「あれ? なんか前と同じタイミングで二段蹴りが出ない」
以前とキャラの使い勝手が変わっていたのだ。得意の前方宙返り式二段蹴りとでもいうのか、ハメ技で多用していたその技の必要なタメ時間が長くなっているような気がした。
「あ、そういえばバランス調整が入ったらしいわね。その技を出すための必要タメ時間が長くなったらしいよ」
「なんだとー?」
ソニアが以前と同じタイミングで技を出せなかった理由はそこにあったわけだ。そういえばこの技を連発してハメ攻撃をしていたっけ。そのあたりの調整が入ったのだろう。
「これで二段蹴りハメはできなくなったってことね、くすっ」
「まあいいや、十段攻撃をぶち込んでやる!」
ソニアは連続攻撃で、リリスの操るキャラを一気に叩きのめそうとした。しかしリリスは落ち着いていた。
「それともう一つ変更点があったわ。よく見て――」
リリスは、ソニアの操るキャラの攻撃をしっかりとガードして、二段蹴りを放った直後に追撃しようとしたところを落ち着いて投げ技を合わせた。
「――ぽいっ」
「あっ、投げられた!」
その後、何度かソニアは連続攻撃を仕掛けようとしてみたが、二段蹴りの後に技をつなげようとするとリリスに投げられてしまっていた。
指が勝手に動くのに、技が出ない。いつも通りのはずなのに、いつも通りじゃない。
「何よこれ! おもしろくない!」
「ハメ殺しをしてくるほうがよっぽどおもしろくないんですが。ま、連続で技が入りすぎる二段蹴りのあとに隙が生まれて技が繋がらなくなったみたいね」
「そ、そんな……」
ソニアは得意のハメ技が使えなくなり、リリスをどう攻めればよいかわからなくなっていた。ハメ技しかやらない娘は、それを封じられると何もできないものだ。
「さらに、これも弱体化したみたいだけど、本当かしら?」
リリスは試すように、今度はジャンプして上から攻撃を仕掛けた。ソニアはこれまでのように、しゃがんだ状態での強パンチで迎撃を試みる。しかし――
「あっ、迎撃できない……」
「あーやっぱりね。そのパンチは対空迎撃がやりにくくなったみたいよ。くすっ」
「な、何よそれ! なんかずるい!」
「今までのあなたのほうが十分ずるかったわ」
どうしようもなくなったソニアは、めんどくさくなって「サイコ投げ」だけでリリスをハメ殺そうとした。しかしリリスはソニアの単調な攻撃を見切って、迎撃技で落としてくる。ソニアはもう何もできなくなっていた。
そのまま手も足も出ないまま、リリスに簡単にやられてしまっていた。
「よっわ、くすっ」
「ふえぇーん! もうこんなクソゲーやらない!」
二戦目の試合が始まろうとしていたが、ソニアは完全にへそを曲げて、そのまま試合放棄して立ち去ってしまった。そんなソニアをリリスはくすっと笑い、してやったりとでも言わんばかりの笑みを浮かべて横目で眺めていた。
ソニアはラムリーザのそばへ行き、そのままレースゲームに参加する。まぁレースゲームならハメ殺すとかズルイ戦法はないだろうし、ソニアもそれほど慣れているわけではない。ラムリーザ自身もスピードを持て余して、しょっちゅう壁に激突している。
「ん? ソニアこっちに来たん? ならばリリスはあっちで一人か。それなら俺は、あっちでリリスと格闘ゲームでもしてくる」
ジャンはソニアが入ってきたのを見て、リリスと一緒に遊ぼうとした。
「あんなクソゲー、面白くないよ」
ソニアは吐き捨てるように言い放ったが、ジャンは気にせずレースを終えて立ち去っていった。
一通りゲームセンターで遊んだ後、どうせなら食事をして帰ろうという話になった。
しかしソニアとユコの提案で、今日も強引にココちゃんカレーに行くことになってしまった。カレーが食べたいわけではない、激辛カレーを完食した景品のぬいぐるみ――いや、クッションが欲しいだけだ。
まだ景品をもらっていないロザリーン、ミーシャ、ソフィリータも激辛カレーの「ココちゃんマグマカレー」に挑戦したが、苦悩するだけになってしまった。三人に言わせてみれば、「たかがクッションのためにこんな辛いの食べ続けるソニアとユコは変!」とのことだったが、まあどうしても欲しいものがあるのなら必死にもなれるということだろう。
店内の垂れ幕を見ると、「ココちゃん残り235体」と書かれている。しばらくマグマカレー通いは続きそうだ。
ソニアはさっきまでの不機嫌を引きずりながらも、クッションを抱えてしまえば急に機嫌が落ち着くのだから不思議だ。
格闘ゲームの中で、ずるい勝ち方ができなくなった。その不満は、今夜の夢の中で精々暴れて発散すればいい。現実のソニアは、結局いつも通り、目の前の欲しいものにまっすぐで、負けたままでは終わらない。
そういうわけで、今日もまたラムリーザの部屋に転がっている「ココちゃんぷにぷにクッション」の数が、一体増えたのである。
街が少しずつ育っていくように、ソニアの戦い方も、いつか少しは育っていくのだろうか。