ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


マックウェル・ヨンディーヌ スマイルは0エルド

帝国暦九十三年 豊灯の月・王の日(現代暦:五月中旬)

 ユライカナン経由で入ってきたジャンクフード店、マックウェル・ヨンディーヌ。もともとはユライカナン産ではなく、他国から入ってきたものだ。今回はそれが、ユライカナンを経由して入ってきた形になる。

 そういうわけで、今日も駅前の大倉庫に作った仮店舗に集まっていた。今日のメンバーは、いつものフォレストピア組の六人と、リゲルの車で来たリゲル、ロザリーン、ユグドラシル、ミーシャを加えた十名だ。リリスがジャンと一緒に現れた気もするが、まあいいだろう。

「そういえばこの店は、先日旅行に行った先にあったよな」

「今日体験することになっていたから、そのときはあえて入らなかったけどね」

 先日まで修学旅行でユライカナンに行っていた。戻ってきてから学校は今日まで休みで、明日からまた通うことになっている。

 さてと、今日も楽しくやっていこうではないか。

 

「ルァンルァンルゥ~」

 

 仮店舗に近づくと、突然ピエロのような格好の人が、謎の掛け声と共に現れて一同は驚いた。

「何これ! 変!」

 ソニアは怒ったような声を出す。「変」という感想はどうかと思うが、とにかくソニアには変に見えたのだろう。

「そうね、まるで怪人だわ」

 それにリリスも同調する。そう言われると、ピエロのような人も黙っていられない。

「怪人とは失礼なっ。マックウェルのヒーロー、ドンナルダーだぞっ」

「ごめんごめん、びっくりしただけだよ。突然現れるから」

 ラムリーザは、ソニアとリリスを後ろに追いやってから、その場を取りなした。

「ピエロみたいなのが出てくる怖い映画があったよー」

「うん、いっとっとー。また見に行こうかね」

 その後ろでリゲルとミーシャが雑談している。

 どうも場の空気が良くないので、さっさと店に入って料理を堪能することにした。

 座席は、これまでの反省を生かして、ソニアとリリスを分断した。ラムリーザは、ソニアとユグドラシル、ソフィリータ、ミーシャで一つのテーブルを囲むことにした。もう一つのテーブルは、リゲル、ジャン、リリス、ユコ、ロザリーンの五人だ。

「ユグドラシルさん、そういえばリョーメンとスシが学食に現れましたね」

「うん、本場の味とまではまだいかないけど、ある程度は真似られたと思うよ。そのうちフォレストピアで料理人に勉強させて、本格的にやっていこうと思うけどね」

「今年中にできるかなぁ?」

「難しいと思うけど、来年引き継いだ会長が音頭を取ればいいのさ。物事をすべて一代で片づける必要はないのさ。そうそう、ラムリーザくんが生徒会長に立候補しないかい?」

「それはちょっと気が早すぎます。それに僕はフォレストピアのことで忙しいから、学校のことまで手が回らないと思いますよ」

「だったらあたしが会長になる!」

 そこにソニアが割り込んできた。生徒会長ソニア、うむ、あまりイメージが湧かないね。

「なんだかしっちゃかめっちゃかな生徒会になりそうだけど、それはそれで面白そうかも」

 来年には卒業してしまうので、ユグドラシルは後のことは知らぬ、みたいなことを言う。

「さて、この店のメニューはどんな感じかな?」

 雑談はほどほどにして、メニューを開いて眺めてみる。今日は味より「店のノリ」を確かめる日だ。

「えーと、ハンバーガー? 牛肉バーガーに、魚バーガー、卵バーガーに鶏肉バーガー」

「パンで挟むものばかりだね」

「ジャガイモや鶏肉を揚げたものもあるみたいだよ。よし、自分はこのチーズバーガーってのがおいしそうだからそれにしよう。チーズとか好きだしね」

「あたしはスマイルにする」

 そこでソニアは、メニューの一番下に書いてある項目を指差して言った。

「0エルドだと?」

「どれだけ頼んでもいいんだ。あたし、スマイル十個!」

 怪訝そうにソニアを見つめるラムリーザの後ろから、店員がくすくす笑いながら説明した。

「それは笑顔よ、笑顔はプライスレスで、いくらでも差し上げますよ」

「むーん……くっ、じゃあ十個注文したから、笑顔十個持ってきて、この机の上でにこにこしろっ」

 ソニアは引っ込みがつかなくなって無茶を言い出した。

「そんなに店員はいませんよ」

「じゃああんたの笑顔食べる! 食べたら代わりの顔を持ってきてまた食べさせむーっ、むーっ……」

「そんなあんぽんたんなこと言うな」

 ラムリーザに頭を抱えられてソニアはうめいた。

「自分はチーズバーガーよろしく」

「じゃあ僕はこのジャンボバーガーで」

「あたしもジャンボバーガー! とスマイル七つ!」

 ソニアはラムリーザと同じものを注文するが、まだスマイルにこだわっているようだ。

「では私はネギかき揚げバーガーでお願いします」

「ミーシャはこのぷにぷにバーガーがいいなぁ」

 ラムリーザは、ミーシャの注文を聞いてハッとした。嫌な予感がして、メニューを見返してみたが、どこにも白いずんぐりむっくりのぬいぐるみは描かれていなかった。ただ単に似たような名前をつけただけだろう。念のために景品はないか? と店員に聞いてみたところ、今はありませんと答えが返ってきたので安心していた。

「ポテトと飲み物がついたセットですと、お得になってますよ」

「んじゃセットで、飲み物はメローグリーンで」

「では自分はマウンテンビューにしよう」

「あたしはワンバサ!」

 そんな感じに、それぞれ注文をしてしばらく待つことになった。お互いに顔を見合わせて黙ったまま、まるで牽制し合っているような空気が流れる。

 このテーブルのメンバーを見て、ラムリーザはユグドラシル以外は去年の年末に映画を見に行った面子だなと思い出した。

「ミーシャちゃん、最近どんな映画を見た?」

 そこで、少し怖いような気になるような、そんな質問をしてみることにした。

「『顔のある眼』、面白くなかった」

 それを聞いたラムリーザは、ああ、なんか修学旅行のバスの中でリゲルが言っていたな、と思い出すのだった。念のために、感想の詳細を聞いてみる。

「顔さえ無事なら他がグロでも許されるって風潮がつまんないのー」

 うん、リゲルの言っていた感想と同じようだ。

「付き合うとしてイケメン美女の生首と、ブサメンブスの健康体でどちらか選べと言われて、前者を選ぶような狂気を感じたのー」

 そこまでひどいのか……。

 その後、注文の品が届いてからは、再び口数が減り、黙々と新しい味を堪能するのだった。

 

 食事が終わったあと、隣のテーブルでは、リリスとユコがなにやら話をしている。

「そういえば新しい曲の楽譜を仕上げましたわ」

「エロゲ?」

 リリスに聞かれて、ユコは「知りません」と答えた。これは怪しいかもしれない。

「メインボーカルが一人、サブボーカルが一人、あとはコーラスから成り立っていますの」

「そう、ならば今ここで担当を決めちゃおう」

 そう言ってリリスは席を立つと、隣のラムリーザたちがいるテーブルへとやってきた。

 ラムリーザたちが振り返ると、リリスはソニアとミーシャに用があると言った。しかしソニアは、ぷいとリリスから顔を背けて言い放った。

「あたしは魔女に用はない」

「いいわ、それなら私とミーシャとで、メインボーカルとサブボーカルの争奪戦やるから、ソニアはコーラスに回ってね」

「なんだとぉ?!」

 それを聞いてソニアは席から立ち上がった。

「待て、大食いはいかんぞ。数を競う勝負はだめだ」

 飲食店で勝負となれば、大食いに決まっている。

 以前リョーメン屋でソニアとリリスが大食い勝負をして大迷惑をかけたことがあるので、そこのあたりは慎重になっていた。

「大食いはしないわ、早食いで勝負よ」

 そう言ってリリスは、ラムリーザから離れるようにソニアとミーシャを連れて、別のテーブルへと向かっていった。

 ラムリーザが止めようとする間もなく、数分後、リリスたちのテーブルには、三十個のハンバーガーが並ぶことになっていた。

 大きなジャンボバーガーが三個、チーズ入りバーガーが十二個、普通のハンバーガーが十五個ある。これを三人で十個ずつ分けて早食いをするらしい。

 最初に大きなジャンボバーガーを一つ。その後普通のハンバーガーとチーズ入りバーガーを交互に九個。先に完食したほうが勝ちだ。

 焼き立ての肉汁と濃厚なチーズ、そして揚げ物の油が混ざり合ったジャンクな匂いが、一瞬でテーブルの周囲を支配していく。

 丁寧に作られたユライカナンの料理とは対照的な、胃袋を力任せに満たしにくるような茶色い塊の山。その圧倒的な光景を前に、さすがのソニアも、一瞬だけごくりと喉を鳴らして視線を鋭くした。

「それ、大食いにならないか?」

 三人の様子が心配になってやってきたラムリーザは、その光景を見てそうつぶやく。テーブルにずらりと並んだハンバーガーの数は、さすがに普通ではなかった。しかしリリスは、ラムリーザのつぶやきをスルーして話を進めていった。

「大食いじゃなくて早食い。一番がメインボーカル、二番がサブボーカル、ビリはコーラスに回ってね」

「ミーシャ、無理はするな」

 リゲルはミーシャを気遣って止めさせようとするが、「ミーシャも歌うもん」などと言ってやる気満々なようだった。
              
マックウェル・ヨンディーヌの仮店舗の、大量のハンバーガーが並ぶテーブルで、ソニア、リリス、ミーシャが新曲のメインボーカルを賭けて早食い勝負をしている場面
 というわけで、よーいどんの掛け声と共に、三人は一つ目のジャンボバーガーから食べることに取り掛かった。一個目から大きなバーガーだ。先が見えたような気がするが、こうなってしまったらラムリーザは黙って見ているしかない。

 ソニアとリリスはほぼ同じペースでかぶりついていて、ミーシャが少し遅れ気味か?

 一分もしないうちにソニアとリリスはジャンボバーガーを食べ終わり、二つ目である普通のハンバーガーに取り掛かった。飛ばし気味の二人に対して、ミーシャはあくまでマイペースを保っている。勝てないとわかっているので、味わって食べているのか?

 先行する二人が普通のハンバーガーを食べ終わったところで、ミーシャはジャンボバーガーを食べ終わった。

 三人が食べているのを見ているだけでは退屈になり、ラムリーザは追加でチキンナゲットを注文して食べ始めた。サクサクとした食感が口に心地よい。

 しばらくはソニアとリリスが先行してミーシャが追いかけるという図式になっていたが、折り返しを過ぎたところから少しずつ展開が変わってきていた。

 リリスは苦しそうに顔をゆがめ、ソニアも表情が険しくなってきていた。危険な兆候だ。

「待った、やっぱり大食いになっている。ここで終わりにするんだ」

「真剣勝負に口出ししないで」

 ラムリーザの忠告に、リリスは言い返した。しかしその声は力弱い。

「コールドゲームなんてずるいのだ」

 ミーシャも文句を言ってくる。しかしこちらはそれほど苦しくなさそうだ。

 ソニアが七個目のハンバーガーにかぶりつくのを見て、リリスも七個目にかぶりつく。しかしリリスはそこで固まってしまった。

「吐き出したら二度と食事会に連れていかないからな」

 リリスの様子を見てラムリーザがそう言うと、リリスはぎょろりと険しい視線を向けた。ただし、鋭いのは視線だけで表情全体は苦悶そのものだった。

「んぬんうんむん――」

 今度はソニアが苦しそうなうめき声を上げる。

「吐き出したら桃栗の里行きだからな! 二人とも吐き出す前に止めるんだ!」

「なぁに? 桃栗の里ってミーシャが住んでいる寮だよ」

 ラムリーザのソニアに対する脅し文句を聞いて、ミーシャはきょとんとした顔で聞き返した。そういえばミーシャは親元を離れて一人でこの地方へとやってきて、寮から学校に通っていたのだった。リゲルに再会するために……。

「こら、ミーシャの住まいを、できの悪い奴の隔離施設みたいに言うな」

 去年と違って、リゲルは桃栗の里をソニア収容所扱いにすると文句を言ってくるようになった。めんどくさくなったものだ。

 いつの間にかミーシャも七個目に取り掛かっていて、先行する二人に追いついていた。リリスは七個目を一かじりしたところで固まっているし、ソニアも七個目の半分くらいで止まっている。吐き出すわけにはいかないので止まるしかないのだ。

 そのうちミーシャは八個目に取り掛かった。それを見てリリスは、慌てたように七個目の二口目にかぶりついて――、そのまま持っていたハンバーガーを落として両手で口を押さえる。ラムリーザと一瞬目があった後、リリスは席を立ち、そのまま店の外へと飛び出していった。

 外から不穏なうめき声が聞こえてくる。外でやらかしたな――。

 その声を聞いて想像したのか、ソニアも「うえっぷ」とうめいて口を押さえた。

「吐き出したら桃栗――じゃなくて、表に放り出すよ」

 表に放り出す――なんだろう、とっさに口をついて出たが、ラムリーザはそのフレーズに聞き覚えがあった。ソニアがしょっちゅうぬいぐるみのココちゃん相手につぶやいている言葉だ。クッションらしくしないと表に放り出す、だったっけ?

 ソニアは、あの不条理で愛おしい脅し文句を、今度は自分にぶつけられる羽目になってしまった。

 しかし、それを聞いたソニアは、リリスと同じように店から飛び出していってしまった。外の惨状を目の当たりにしたのか、ソニアの気味の悪いうめき声が直後に聞こえてきて、それにリリスのうめき声がミックスされた。

 ラムリーザは、大倉庫の清掃員に心の中でお詫びするのだった。

 修学旅行が終わって、みんな日常へ戻ったはずだ。けれど、結局やっていることは、またいつもの勝負ごっこで、またいつもの騒動だった。

 それでも不思議と、嫌な感じはしない。こういう騒がしさごと、フォレストピアの生活になってきたのだろう。

 結局ミーシャは、ずっとマイペースを保ったまま、十個すべてを完食してしまった。次の歌のリードボーカルは、ミーシャということになった。

 ソニアとリリスが派手に転び、ミーシャだけが淡々と勝った。勝負の結果としては綺麗すぎるぐらい綺麗で、だから余計に笑ってしまう。

「いろんな意味で、ワンパターンだな」

 リゲルの皮肉に、ラムリーザは苦笑して「もう連れてくるのをやめようかな」と答えるしかなかった。

 次の歌の主役が誰か決まっただけで、今日という一日はちゃんと形になった。

 騒動の後に残るのが、それだけというのも悪くない。

 もちろん、店に罪はない。だからフォレストピアにも、マックウェルが誕生したのだった。