ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
第二回フォレストピア首脳陣パーティー
帝国暦九十三年 翠雫の月・星々の日(現代暦:五月上旬)
今日は、定期的に行うことにした、フォレストピアでの「首脳会議」と称した進捗報告会の日だ。
ラムリーザは去年まで、オーバールック・ホテルで行われていたパーティーに参加していた。
しかし、伴侶を見つけるという当初の目的はもう必要なく、この地方の有力者との顔合わせも一通り終わっていた。前者はソニアとの仲がほぼ決定事項だし、後者のうちフォレストピアの開拓に必要な人たちは、今年から新たに始めた進捗報告会のほうに参加している。
さらに今回からは、会議を兼ねたパーティーは、フォレスター家の屋敷のホールで行うことになった。
前回の定例会では、まだ屋敷に引っ越したばかりで使うには早すぎたので、駅前の大倉庫にある会議室を借りて行った。だが、そこから何日か経ってようやく屋敷のほうが落ち着いたので、場所を変えたのだ。
「あらぁ、皆さんお揃いですの?」
初めてパーティー用のドレスを身にまとったユコが、ラムリーザたちのそばに来た。
この地方全般の運送を取り仕切っているのは、リゲルの家であるシュバルツシルト家だが、このフォレストピアに限って運送をまとめているのは、ユコの父親だった。
ユコの父ボビーは、前回の集まりでラムリーザに話したとおり、今回から娘のユコも連れてきたというわけだ。
むき出しの電球がぶら下がっていた大倉庫とは違い、屋敷のホールに設えられたシャンデリアの柔らかな光が、彼女の少し緊張した横顔を淡く縁取っていた。
「ドレスを身にまとって、呪いの人形もいよいよ本格的だねっ」
早速、要らないことを言うのはソニアだった。パーティーでは初めて会う相手に対して、初めて着たドレスを貶してくるあたり、相変わらずである。しかも当の本人は、メイドと執事の娘という、ただの平民である。
ラムリーザ周辺の他のメンバーは、先ほど述べたシュバルツシルト家のリゲル。一流ナイトクラブ、フォレストピア・ナイト・フィーバーの店長ジャン。そして、ポッターズ・ブラフ地方の首長を務めているハーシェル家のユグドラシルと、その妹ロザリーン。そして、ラムリーザの妹のソフィリータだ。
よく考えてみれば、ほぼラムリーズのメンバー全員だった。
「ユコも有力者の娘に格上げか。この豪華メンバーの中で、使用人の娘だという立場のソニアだけがあまりにも見劣りしすぎる。おそらくパーティー開始五分で、地の底へ沈むだろう、くっくっくっ」
いつものように、ソニアに対して冷徹な攻撃を仕掛けてくるリゲル。
「何よ! あたしは実は皇帝陛下の隠し子なのよ!」
どう考えても嘘にしか聞こえない反撃をする時点で、ソニアはリゲルとは勝負にならないことが判明していた。そんなソニアが互角に戦えるレベルの相手と言えば――。
「これはいかんな」
ジャンは神妙な顔つきでつぶやいた。今この場にいない仲間のことを考えていたのだ。
ユコが参加するようになったので、この場にいないのはリリスだけになった。もっとも、レフトールとミーシャもいないわけだが、少しばかり長い付き合いのリリスは、その二人とは別格のはずだ。
「どうしたジャン?」
「ん、いや、リリスだけがいないのはちょっとな、と思ってね。やっぱり近いうちに、俺はリリスに対して動くことにする」
「んんん? 魔女がパーティーに来たら、マッチを撒き散らしてハチャメチャメッチャンコになるから来なくていい!」
ソニアはリゲルにやられた腹いせを、今この場にいない人に向けている。
「ほう、エルはいてもいいと言うんだな? リリスがいたら楽しいパーティーになると思うが」
ジャンは、ニヤリと笑みを浮かべてソニアのほうへ振り返った。
「エルって何よ?」
「エル、エル、エルはラムのエルエル」
ジャンはそのまま、メロディに乗せて歌うように語り出した。意味はわからないが、「ラムの」というフレーズにソニアは反応する。
「ラムのエルって何よ!」
「エル、エル、エルはカップのエルエル」
「カップのエルって……あっ、誰が風船だ!!」
「静かにしろよ!」
Lカップの胸をからかわれていると気づいて騒ぎ出すソニアに、リゲルはうんざりしたような視線を向けた。
「何よジャン! 焼肉のタレみたいな名前むーむーむーっ!」
パーティー会場で騒がれると注目を浴びて仕方がないので、ラムリーザはソニアを捕まえて口を塞いだ。しかしそこに、ジャンがさらに追い打ちをかける。
「おい、エルがお前を見つめているぞ。何かを決めたみたいだ」
「いや、もうエルはいいから」
「蛙って緑色しているのが多いよな?」
「いや、もうリゲルも煽らなくていいから」
また前回と同じような展開になりそうだと感じたラムリーザは、さっさと雑談を切り上げて進捗報告に移った。ジャンやリゲルのさらなる攻撃にさらされないように、ソニアを引き連れて会場を移動し始めた。
ひと通り挨拶が済んだところで、ラムリーザは軽く手を叩いた。
「じゃあ始めようか。ここまでの進捗と、これからの新ネタだ」
前回の集まり以降に決まったことは、まずユライカナン産の食文化だ。リョーメン屋の「ごんにゃ」とスシ屋の「ドドメセ」が、新たにフォレストピアで店を開くことになった。
それ以外ではカレー屋のココちゃんカレーが、国内のチェーン店だが店舗を開いている。景品のココちゃん目当てで、ソニアたちが激辛マグマカレーにチャレンジしたことが記憶に新しい。
あとは店として独立しているわけではないが、せそ汁というものも入ってきている。
ユライカナンの人たちに言わせれば、せそ汁は主食じゃないので定食のおかずとして加えると良いとのことだった。
街の施設などの命名も進み、中央公園はストロベリー・フィールズ。メインストリートは曲がりくねっていないけど、ロング・アンド・ワインディング・ロード。住民のノリは、相変わらずだ。
そして今現在、住民の間で話し合われているのが二番街の名前である。これはもうしばらくしたら、なんとなく決まりそうで、こちらはペニー・レインになりそうだ。
このあたりの命名については、ラムリーザは住民任せで、よほど変なのをつけられない限りすべて住民の感性に頼ることにしていた。
それらのうち、中央公園にある運動広場で休日に遊んだ「のだま」については、もともと国内でも小規模ながら浸透していたので割愛。のだまのスポーツクラブを開いてもよいが、そこは住民任せでいいだろう。
あとは、フォレストピア・ナイト・フィーバーのバンド不足を補うために、ユライカナンから来てくれそうなグループを探しに行ったくらいだろうか。これもラムリーザ主導ではなく、店長のジャンが自ら探しに向かっていた。言葉の壁がないのが楽なところだった。
おとぎ話では、巨大な塔を建てて天まで登り、神の世界まで支配しようとした王が、神の怒りに触れて人々の言葉をバラバラにしてしまったというものがあるが、この世界にはそんな強欲な王はいなかったということである。
以上で、すでに決まっていることの進捗報告はおしまい。ラムリーザはソニアを連れて、再びグループのところへ戻っていった。
ユグドラシルの姿を見てラムリーザは、オーバールック・ホテルのパーティーに最後に参加したときのことをふと思い出した。
「ユグドラシルさん、そういえばオーバールック・ホテルでのパーティーで、次に何かやってみたいことがあるって言ってませんでしたか?」
「えーとっ、自分、何か言っていたかな?」
ユグドラシルは、二ヶ月以上前のことは忘れかけていたようで、しばし考えた。それからぽんと手を叩いて言った。
「そうそう、あれだよ。ほら去年のパーティーでは、よく一緒に演奏したじゃないか。あれで新しい曲を演奏しようかな、と思っていたんだ」
「ああ、そういうことですか。そうですねぇ、ユグドラシルさんもラムリーズに加わります?」
「ラムリーズ? 軽音楽部? 僕は楽器はバイオリンぐらいしか扱ったことがないけどいいのかい?」
「部活? ああ、そうなるか」
ラムリーザは、今年に入ってからはジャンの店でのライブのことしか考えていなくて、部活のことはソニアやリリスに任せっきりなので、一瞬何のことかわからなくなってしまったが、すぐに持ち直した。
「去年の生徒会長だったジャレス先輩や、部長のセディーナ先輩みたいに、生徒会活動がメインであまり部活には顔を出さないと思うけどなぁ」
「まあそうなりますねぇ」
実際ラムリーザ自身も、去年まで部長を務めていた先輩のことはあまり印象に残っていなかった。
「ああ、でも部活をやらないと合わせて練習できないかぁ。うん、ちょっと考えてみるよ」
そんな感じに平和な雑談もしていた。ジャンやリゲルがソニアをからかわなければ、平和なのだ。
しばらくすると、その雑談の場にユライカナンから新たにやってきた人物が加わった。
「兄ちゃん、バクシングという競技があるんだけどやってみないかい?」
「バクシングですか?」
そういえばラムリーザは聞いたことがあった。ユライカナンにはプロレス以外の格闘技として、主に拳を使って戦う、バクシングというスポーツがあることを。
「ユライカナンでジムを経営していてね、このフォレストピアにも作ってみたいんだ」
「わかりました、明日実際に体験してみましょう。場所はどうしましょう? 仮店舗、いや、仮ジムとして駅前の大倉庫に場所を用意できますか?」
「大丈夫大丈夫、このパーティーが終わったら、早速倉庫の一室を借りて仮ジムを作り上げるさ。明日の昼過ぎには仕上がるようにするから、それから来てくれれば体験できるさ」
「では何人か連れて参加してみますね」
文化は食べ物だけではない。スポーツの文化も体験していきたいものである。
その後、ユライカナンの食文化の一つとして、新しいメニューと店舗出店の話が上がった。
そのメニューは「ギュードン」だそうだ。主に牛肉と米を使ったメニューだそうだが、これも一度食べてみるという話になった。まるで怪獣みたいな名前なのが、面白い。
明日は休日だが、先ほどバクシングの予定を入れてしまったので、こちらは次の休日に、またメンバーを集めて仮店舗を訪れるという話でまとまった。
さらに、「二十相面(にじゅうそうめん)」というメニューも挙がった。
これは最初に体験したリョーメンに似ている麺類だが、麺を作る際に油を加えるという違いがあるらしい。これも後日体験してみようということになった。
こうしていろいろ話が決まり、次の定例会までに当面体験していくものはスポーツの「バクシング」であり、食文化では「ギュードン」に「二十相面」だ。
二番街の名前が決まるのも時間の問題。
あとは、街とは関係ない個人的な話、というかバンドの話だが、ジャンの提案でレコードを作ってみようという話になっている。
これは帝国をはじめ、ユライカナンなど近隣の国でレコードが流行っているというのもあり、国内よりも先にユライカナンでデビューしてしまうという謎の展開になりそうな事柄であった。
以上が、今回の進捗報告会で決まった内容である。
「ところでエル」
「何よ、焼肉のタレ」
話が一段落すると、再びジャンはソニアをからかいにくる。この辺りは、ソニアの存在自体にツッコミどころが多いので仕方がないと言えば仕方がない。
そういえば二年前に帝都で暮らしていたときもこんな感じだったな、とラムリーザは二人の様子を見て思い出していた。
ジャンもなんだかんだで、ソニアとくだらない口論を楽しみたいのだろう。そういうのもあって、フォレストピアに二号店を作ったのだろうか。
ラムリーザは、再び騒がしくなり始めたソニアの口を塞ぎながら、そう考えているのであった。
どんなに真面目な会議を重ねても、最後はこうして、いつもの笑い声と騒がしさがすべてを包み込んでいく。
計画通りの美しい街にならなくたっていい。このいびつで、温かくて、騒がしい落差こそが、この街に流れるリズムなのだから。
こうして定期的に街の進み具合を確かめて、次の遊びと次の仕事を決める。フォレストピアの定例会は、いつの間にかそんな場になっていた。