ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


自由気ままな二人

帝国暦九十三年 翠雫の月・森人の日(現代暦:四月下旬)

 目の前に迫ってきた小惑星をかわすと、その先には流星群が広がっていた。スペースシップは大きく揺れながら、流星群の間をうねるように飛んでいる。

 シップは目的地の第一ファーンデイションへ向かい、銀河中心部のバルジへ進路を取っていた。

 ミュルミデオンの道と呼ばれる航路を進んでいたが、この流星群は座標図に載っていなかった。この近辺にあった惑星が砕けたのか、小惑星同士がぶつかり合ったのかは知らないが、旅の途中で想定外の宙域に迷い込んでしまったようだ。

 突如船内に激しい衝撃が伝わり、シップは大きく揺れた。流星の一つが衝突したようだ。けたたましいアラーム音が響き、シールドの一部損傷を示していた。

 このままではシップは破壊されてしまう。

 ここで船長は、一つの賭けに出た。

 高次元空間へ飛び込んで、流星群をやり過ごすことにしたようだ。

 目の前に広がる流星群が、糸を引くように光の尾を残して後方へと消えていった。

 これでもう安心だ。銀河中心付近まで、このまま高次元空間航法を続けていけばいいだろう。

 ………
 ……
 …

 すごかったなぁ……。

 明るくなった船内――いや部屋の中で、ラムリーザは椅子に座って目の前のスクリーンをぼんやりと見つめていた。

 周囲はざわざわとしていて、宇宙航海を見終わった観客たちが、一人、また一人と席を立って外へ出ていった。

 体感型のバーチャルマシンってすごいんだな。

 ラムリーザは改めてそう思うと、他の観客と一緒に部屋を出た。

 

 ここはポッターズ・ブラフ地方最東端にある街、アミティヴィル。

 ラムリーザが来ている場所は、この街にある地方最大の遊園地、ポンダイ・パークである。

 体感型のバーチャルマシンに案内されて、一人でこの素晴らしい宇宙旅行――正確にはバーチャル世界――を体験していたのだ。

「どうです? すごいでしょう!」

 ポンダイ・パークの広報担当エドワード・リージスは、得意げにラムリーザへ説明していた。

 ラムリーザがこの遊園地に来たとき、一人でいることに気づいたエドワードは、すぐに声をかけてきたのだ。

 何でも、フォレストピアにも遊園地、つまりアミューズメントパークを展開させようという話が持ち上がっていた。

 ちょうどフォレストピア側とどう接触しようか考えていたところへ、ラムリーザ本人がパーク内に現れたのだ。

 この機会を逃す手はないということで、広報担当エドワードとラムリーザという、妙な取り合わせで遊園地を散策することになったのだ。

「すごいね、遊園地も捨てたものじゃないよ。いや、これはすごい。画面に合わせて椅子が揺れたり、風が吹いてきたり。本当に宇宙を航海しているような気分になったよ」

「でしょう、でしょう。さて、お次のお勧めアトラクションがこちらになりますよ?」

「いや、人探しをしているので……」

「それなら一緒に探してあげましょう。見つからなければついでに次のアトラクションを見ていってくださいな」

「うーん、まぁそれでいいか」

 実は、ラムリーザは一人で来ていたわけではなかった。本当ならソニアと一緒にいるはずなのだ。

 しかし、はぐれてしまったわけではない。

 遊園地に着いたときから一人だった。

 かといって、ソニアは家に残っているわけではない。この遊園地のどこかにいるはずなのだ。

 ラムリーザは、携帯型情報端末キュリオを持ってくるのを忘れたことを、今さらのように悔やんでいた。

 

 ことの発端は、数日前、学校での休み時間に遡る。

 

 休み時間、ラムリーザはジャンと二人で廊下に出て、並んで窓の外を見ながら話していた。

「なぁラムリィ、お前ソニアとデートしたことあるのか?」

「デート? やったと思う」

 ラムリーザはそう答えたものの、ポッターズ・ブラフに来てから、ソニアと二人で出かけたことはそれほど多くなかった気もしていた。

「でもさ、お前ら同棲しているじゃん?」

「露骨過ぎるな、あまり大きな声でそんなことを言うんじゃない」

「事実だろ? まあそれはいいんだ。同――いや、一緒に住んでいたら出かけるときからすでに一緒で、待ち合わせとかやったことないだろ」

「だね」

 これだけは自信を持って言えた。

 ラムリーザは物心がついてから、ソニアとずっと同じ屋根の下で生活してきたので、二人でどこかに出かけるときも、一緒に家を出るところからスタートだった。

「待ち合わせで、相手がいつ来るかな? と待っているときのドキドキ感も捨てたもんじゃないぞ」

「そんなものですかねぇ」

 ジャンはそう言うが、ラムリーザ自身が今さらソニア相手にドキドキするとはあまり考えられなかった。

「というわけでだ。今度、学校が休みの日があるだろ? その日にソニアを誘って――そうだな……ああ遊園地。この地方にも大きな遊園地があったじゃないか、たしかポンダイ・パークだっけ?」

「アミティヴィルのあれだね。帝都に帰るときに、汽車の窓から毎回観覧車とかが見えていたよ」

「そうだそこだ。よし、遊園地デートをするぞ。俺もリリスを誘う。お前もソニアを誘え、ダブルデートだ。ただし家は別々に出ろ。汽車も別々に乗り――そうだな、ソニアは汽車でお前はバス、みたいに移動手段は別にして、とにかく遊園地に着くまで一緒にいるな。それで待ち合わせというものをやってみたらいいぜ」

 そういうわけで、ジャンの提案でラムリーザはバスで、ソニアは汽車で遊園地へと向かったわけだが、待ち合わせの場所で会うこともなく今に至る。

 もっとも、遊園地で待ち合わせるつもりで別々に出かけたものの、ラムリーザとソニアは肝心の待ち合わせ場所を決めていなかった。

 これはわざと決めなかったのではない。いつも一緒に出かけていた習慣のせいで、待ち合わせるという発想そのものが抜けていたのだ。

 さらに運の悪いことに、ラムリーザは連絡手段となりうる携帯型情報端末キュリオを家に忘れてきてしまった。

 こうなったら会うのも大変だ。

 ドキドキは、もうとっくに慣れたと思っていた。けれど今日は、探しても見つからないだけで、胸の奥が妙に落ち着かなかった。

 汽車側の入り口と、バス側の入り口が離れていたのも、混乱に拍車をかけた。

 こうしてラムリーザがソニアを探して遊園地内をうろうろしていたところで、ポンダイ・パークの広報担当エドワード・リージスに捕まったわけで、今に至っている。

 

「どうです? 見世物小屋ですよ。世にも珍しい生き物を紹介していますよ」

 エドワードの案内で、ラムリーザは見世物小屋に入っていた。

 見ると、頭が八つに分かれた蛇がいる。

「なんだかすごいのがいるね」

「八岐大蛇、ヒュドラとも呼ばれている。これが大きくなったら危険な生き物になるが、小さいうちはこのように面白い見世物になるんだ」

「大きくなったらどうするんだい?」

「好奇心は身の破滅ですよ」

 なんだか怖いことを言われ、ラムリーザはそれ以上質問することをやめた。

 それよりも、ソニアがどこで何をしているのかも気になった。ずっと入り口で待ち続けていたのでは気の毒だ。しかし入り口なら何度も見て回ったが、そこにはいなかった。

 そういえばジャンとリリスも来ているはずだが、その二人にもまだ会っていない。

 本来なら四人で見て回っていたはずなのに、どうしてこうなった? ラムリーザは、エドワードの案内で、珍しかったり奇妙だったりする生き物を見て回るのだった。

 

 見世物小屋の見物が終わった後も、ラムリーザはエドワードと一緒にソニアを探しながら遊園地内をいろいろ見て回っていた。

「ここが当遊園地最大の目玉であるアトラクション、ファンハウス『惨劇の館』ですよ!」

 エドワードは、とある大きな施設の前でラムリーザを振り返って得意げに説明した。

「なんだか物騒な名前ですね」

「簡単に言えば、お化け屋敷です。入ってみますか?」

「ん~、ソニアと一緒に入りたいので、今回はパスしようかな」

「それは残念。しかし彼女さんいませんね、本当にここに来ているのでしょうかね?」

「ん~、ソニアに限ってすっぽかすとは思えないし、フォレストピアの駅前までは一緒に行ったんだけど、そこから別れたんだよなぁ」

 フォレストピアの駅前で、ソニアは汽車に乗り、ラムリーザはバスに乗ったのだ。

「探すなら高いところ、ジェットコースターとか観覧車とか、いかがでしょう?」

「ん~、ジェットコースターはやめとく。観覧車に乗って全体を探してみようか」

 そこでラムリーザは、エドワードと別れて観覧車へと向かった。

 別れ際にエドワードは、「フォレストピアでの遊園地開発、検討しておいてください」と言い残して立ち去った。

 その後ラムリーザは、ソニアを探すために観覧車に乗り込んだ。

 少しずつ高度が増していき、遊園地全体が見渡せるようになった。

 ラムリーザはじっくりと見渡してみたが、ソニアの姿はなかなか見つけられなかった。

 遠くで疾走するジェットコースター、きらきらと光る池の水面。そのどこかに彼女がいるはずなのに、無数の人混みの中からソニアの青緑色の髪を探すのは、砂漠で一粒のエメラルドを探すようなものだった。
              
夕暮れの遊園地を見下ろす観覧車のゴンドラ内で、ソニアを探していたラムリーザが一人眠ってしまっている場面
 そのうち、ゆったりと動く観覧車の心地よさに、いつの間にかうとうとと眠りに落ちていた――。

 ………
 ……
 …

「お兄さん、起きなさい。もう閉園時間ですよ!」

 ラムリーザは、突然身体を揺すられてハッと気がついた。

「あ、しまった、つい眠りこけてしまったみたい。ごめんなさい!」

 ラムリーザは急いで立ち上がり、起こしに来た観覧車の係員に謝った。

 すっかり辺りは暗くなっている。通常営業日の閉園時間ということは、夜の八時を過ぎているのだろう。

 観覧車はラムリーザの乗っているゴンドラのところで止まっていた。最後の一人となっていたのだろう。

「五時間近く観覧車で眠り続ける人は、初めて見ましたよ、まったく」

「僕も初めて見ました。いやぁ、妙な人もいるものですねぇ」

「ワンデーパスを使ってまでねぇ」

「ふ、不思議だねぇ……」

 ラムリーザは、へこへことお辞儀をしながらそそくさと観覧車から離れていった。

 結局ソニアとは遊園地で遭遇することはなかった。ラムリーザは、最後まで一つだけ開いている正門へ向かっていった。閉園時間を少し過ぎていることもあり、最後まで遊んでいた人だけで他にはほとんどいない。

 ラムリーザは、正門前に三人の人影が動かずに立っていることに気がついた。近寄ってみると、ソニアとリリスとジャンの三人だった。

「あ、ラムが出てきた」

 嬉しそうに言うソニアだが、ジャンとリリスは呆れたような顔をしている。

「お前、何やってたんだ?」

 ジャンの第一声はそれだった。まあ、もっともな質問ではある。

「……ソニアを探すために観覧車に乗っていたら、寝てたみたい……」

「なんじゃそりゃ……」

「あたしもラムを探してたよ。キュリオで電話かけても全然出ないんだもん!」

「ごめん、キュリオは家に忘れてきた」

「なんじゃそりゃ……」

 ジャンは先ほどから同じ言葉しか返さない。

「いや、本当に悪いっ。四人で遊ぶはずだったのにバラバラになってしまって、本当に申し訳ないっ」

 ラムリーザは平謝りするしかなかった。

「あたしは十分楽しかったから別にいいよ」

 ソニアにそう言ってもらえるのは、ラムリーザにとってせめてもの救いだった。

「まあ俺もお前ら二人で遊んでいると思っていたから、リリスと二人で回っていたけどね。でもせめて帰りは一緒にしないと残してきたみたいであまりいい気がしないから待ってたら、閉園時間ごろにソニアが一人で出てきてあれっ? となったわけだ」

「ソニアは今日一日何をしていたんだ?」

 ラムリーザは、ソニアの行動が気になって尋ねてみた。ずっと探し回っていたのなら大変だっただろうが、十分楽しかったと言ったのなら何をやっていたのだろう?

「あたしは遊園地に着いたらすぐに中に入って、ラムを探しながらいろいろ回っていたんだよ」

「いや、エル。そこは入り口で待ち合わせるべきだろ?」

 ジャンのツッコミに、ソニアはきょとんとした顔で答えた。

「待ち合わせなんてしてないよ、今日は別々に遊園地に行こうって話になってたし」

「いや、行くまでは別々だけど、着いてからも別々に移動することないじゃないか」

「なんで?」

 ソニアは不思議そうに答えた。

「何でって、エルおま――」

 そういえばラムリーザには心当たりがあった。

 以前帝都に住んでいたとき、ソニアと二人でいろいろな娯楽施設に遊びに行ったことはあるが、現地では一緒に回らずに別行動で遊んでいたことも何度かあった。

 何度も「夕方の何時に入り口で集合」と決めて、二人とも個人的に自由に過ごしたことがある。

 帝都時代の二人は、恋人同士という関係ではなく、もっとあっさりとした仲だったのだ。

 普段からベタベタせず、そういった行動を取っていた。その感覚が今も残っていて、今回は昔のように過ごしてしまっただけのようだ。

「やれやれ、幼馴染が恋人関係に進展したら、常人には理解しがたい行動に出る場合もある。そういうことでいいか……」

 ジャンは、諦めたようにそう語った。

「で、ソニアは何をしていたんだ?」

「ラムに会わないなぁと思いながらいろいろ見て回ったけど、あのジェットコースターが無茶苦茶面白かったから、ずーっと乗ってた。気がついたら閉園時間だった」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 ラムリーザは、ソニアの行動を聞いて唇を噛んだ。高いところから探すためということで観覧車とジェットコースターの二つをエドワードに勧められたときに、観覧車を選んでしまったのが間違いだったと気づいたからだ。

 あそこで観覧車を選ばずにジェットコースターを選んでいたら、ソニアに会うことができたはずだった。

「結局お前らは、観覧車とジェットコースターを別々に乗りに来ただけだな。デートじゃねぇよ、そんなのは……」

「ジャンとリリスはデートしたのか?」

 ラムリーザの問いに、ジャンは「まあな」と答えた。

「えっ? リリスはジャンとデートしたの? 浮気者!」

「なぜそうなるのかしら?」

 突然、ソニアはリリスに噛みついてくる。

「リリスはラムのこと狙っているはずなのに! でもラムの本命はあたしだから、リリスは付かず離れずラムの恋人候補としてキープされたまま、他の男と付き合わずにずっとラムのことだけを思っていないとだめなの! でもラムと結ばれるのはあたしだけどね」

「何そのギャルゲーのヒロインに、オタクから求められるような負けヒロインみたいな扱い」

「リリスには、あたしとラムのウェディングケーキを作ってもらう予定なんだから、そのときまでラムのことだけ一途に思っていないとダメなの。無論ラムには選ばれないけどね」

「なんかエルお前、むっちゃくちゃひでーこと言ってるな」

 ジャンも呆れた目でソニアを見据える。

「幼馴染は、彼の新しい出会いと、その子との関係を応援する立場であるべきじゃないかしら?」

 リリスの問いに、ソニアはムッとしたように答えた。

「ラムに新しい出会いはないの!」

「いやあるし、というかあったし。リリスやユコと会ってるだろ?」

 ジャンはすかさず突っ込む。

「緑色の髪は不人気だから、ソニアが負けヒロインになるべきなのよねぇ」

 リリスもどんどんソニアに反撃してくる。一体どの分野で不人気なのか、さっぱりわからない。

「根暗吸血鬼とか、使い道のない役立たず魔女なんかに言われたくない! そもそもラムに好かれている時点で、他の人たちから不人気でも何の問題もない!」

「あなたは途中でフラれて、その結果精神を病んでしまえばいいんだわ」

「そしてエルは歩道橋の上で、寝取ったヒロインを殺しにかかる、と。一言、死んじゃえ、とつぶやいて……」

「いや、物騒な話はそのくらいにして、そろそろ帰ろう」

 ラムリーザは、不穏な話をするジャンとリリスを制して話を先に進めた。

「お前を待っていたんだけどな」

 すっかり夜も遅くなっている。最終の汽車までには十分時間はあるが、いい加減おなかもすいてきていた。途中でどこかで食べて帰るか? そんなことを考えながら、四人は帰路についた。

「話の続きは帰りながらしよう。ところでジャン、君が時々口にしている『エル』って何だい?」

 ラムリーザは、ジャンの言葉を聞き逃していなかった。

「ん? エルはカップのエルだろ?」

 しかし、したり顔で答えるジャンを見て、ラムリーザは「あ、もういい」と答えた。なんてことはない。ただの地雷だった。

 

 こうして、ダブルデートになる予定だった一日は、よくわからない、いや、別行動をしていた二人にとっては通常運転の範疇だった内容で幕を閉じた。

 ジャンの言うデートの正解は、たぶんこうじゃない。でもラムリーザにとっては、ソニアがいつもの顔で隣にいることが、いちばんの正解だった。

 失敗した待ち合わせすら、あとで笑い話にできる。それが二人のいつもの調子で、それだけで十分だった。

 それに加えて、いつになるかはわからないが、フォレストピアにアミューズメントパーク、つまり遊園地を作るという話も固まりつつあるようだ。さしずめ「ポンダイ・パーク・フォレストピア支店」といったところか。

 そんな一日であった。