ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


のだま対戦 一回表裏の珍事

帝国暦九十三年 朧影の月・詩歌の日(現代暦:四月中旬)

 休日、フォレストピアの中央公園ストロベリー・フィールズにて。

 ラムリーザたちいつものグループは、のだまというスポーツで遊ぶために、公園内の運動広場に集まっていた。

 練習だけでは面白くないし飽きるということで、八人を半分に分けて二チームを作って、簡易的に三角ベースの試合を始めたところだ。

 

「プレイボォールゥ!」

 

 審判を買って出たごんにゃ店主が、最後を巻き舌気味に叫ぶ開始宣言をして、試合は始まった。

 ラムリーザチームは後攻で、メンバーは守備についている。投手はリゲルで、捕手はラムリーザ。一塁側をソフィリータが守り、二塁側をミーシャが守る陣形だ。

 攻撃側の一番打者は、ソニアである。こういうときに一番に飛び出してくるのが彼女だ。

 ラムリーザは、とりあえずど真ん中にグラブを構えてみる。試合前の打ち合わせで、変なところに投げられるとリゲルの速球を捕球できないかもしれない、と話していた。だから、ラムリーザの構えたところを狙って投げるということにしていた。

 リゲルは、ラムリーザのグラブを目がけて直球を投げる。リゲルはコントロールが良いが、さすがに素人では変化球は無理だった。仮に変化球を投げられたとしても、ラムリーザは捕球できないのだから、これでいい。速球と言っても、今のところラムリーザには受け止められる速さだ。

 それでもソニアは振り遅れ、かろうじてボールはバットに当たったが、一塁線の外側にコロコロと転がっていった。

「ファールゥ!」

 ごんにゃ店主は、再び最後を巻き舌気味に叫んだ。

 ソフィリータは軽やかなステップでボールに追いついて拾うと、リゲルに投げ返した。

 リゲルの作戦はこうだ。下級生コンビのうち、ミーシャの運動能力は信用していない。だから、あまりボールが転がってこない二塁側にミーシャを配置した。そしてソフィリータの今の動きを見る限り、一塁側に置いたのは正解だったようだ。リゲルの速球は引っ張らせにくいので、ボールは一塁側に飛んだり転がったりしやすい。

 ソニアは、軽く一度素振りをして、再びバットをじっと構えた。

 ラムリーザはグラブを構える前に、自分から見て左側に立っているソニアの様子を確認した。

 運動するぞと言って出かけたのだが、ソニアは相変わらず丈の際どいミニスカートを履いている。ラムリーザは「ああ、今日は水玉なのね」と、そんなことを頭の隅に浮かべながら次はどこに投げさせるか考えた。油断すると、変なところに意識を持っていかれる。

 それでもラムリーザは、再びじっくりとソニアの様子をうかがう。ソニアはどこにボールが来ると思っているのだろうか? その逆をつけば、空振りに仕留めることができるだろう。

 そこでソニアの視線を見て、どこを狙っているか観察してみた。

 それにしても、邪魔そうなくらい大きい。バットを構えていると、胸が窮屈そうだ。

 ラムリーザからすれば、ソニアはパンツ以外でも、どうしてもその巨大な胸に目が行ってしまう。先日の身体計測の結果では、百三センチのLカップだったか。それだけ大きければ、去年よりもさらに足元の視界は悪くなっているだろう。

 視界?

 ラムリーザは、そこではたと気がついた。ソニアには死角がある。

 ソニアの目線と胸の頂点を結ぶ線を想像する。そしてその角度を保ったまま下へ向かうと、その線よりも内側は、ソニアにとって死角となっているはずだ。

 ラムリーザは、その内側、さらにストライクぎりぎりのコースへグラブを構えてみた。

 リゲルの第二球が投げられた。

 ソニアは一瞬振りかぶったが、胸の下をボールが通ったときに見失ったのか、そのまま見逃し。

「ストオォルアァ~イクゥ!」

 巻き舌が好きな店主だ。

 ソニアは、むっとした表情で店主のほうへ振り返るが、店主から「インコースギリギリに入っているよ」と教えられたので、相変わらず不満そうな顔をしながらも、再びバットを構えた。

 ラムリーザは何も考えずに、先ほどと同じ場所にグラブを構えた。

 リゲルの投げたインコースぎりぎりのストライクを、ソニアは胸の下を通る際に見失い、二球目も見逃した。

「ストオォルアァ~イクゥ! バッター、アウッ!」

 最初のファールを挟んで、結局は三球で三振だ。

 ソニアは、口をへの字に曲げてすごく不満そうだ。しかしリリスにバットを奪われて、打席の外へ追い出されてしまった。

 二番打者はリリスだ。リリスはソニアと同じ打席に入って軽く素振りをしてみたが、少し首をかしげて、今度は反対側の打席に入った。右利きのソニアと違い、左利きのリリスは打席も反対だ。

 ラムリーザは、自分から見て右側に立っているリリスの様子もうかがった。ソニアほどひどくはないが、リリスもスポーツするような格好ではない。黒いホットパンツにロングブーツ。リリスはヒールがないから大丈夫と言っているが、普通はブーツでスポーツをするだろうか?

 格好はどうでもいい、リリスもソニアほど極端ではないが、胸が大きいほうだ。先ほどと同じように、目の位置と胸の頂点を結ぶ線を引き、死角になりそうなところへグラブを構えてみた。

 リゲルのリリスに対する第一球が投じられた。

「ブオォ~ルゥ!」

 再び店主の巻き舌。しかし今度は、外れたことを示す判定だった。

「入ってない?」

 ラムリーザの問いに店主は、「インコースに入りすぎて外れているね」と答えた。

 どうやらリリス相手だと、その死角のコースはストライクに入りにくいので、胸の死角を狙う手は使えない。

 ならば反対側を攻めるか、とラムリーザは左側、リリスから見てアウトコースにグラブを構えた。しかしリゲルは首を横に振った。どうやらアウトコースには投げたくないようだ。

 リゲルの考えでは、左打者のリリスにアウトコースを投げて流されると、ミーシャの守る二塁側にボールが飛んでしまう。その危険だけは避けたかったのでラムリーザの指示する場所に投げたくなかっただけだ。

 ラムリーザは仕方なく、今度はインコースの高めでストライクになる位置に構えてみる。だがリゲルは首を横に振って、ラムリーザにグラブを少し下げるようジェスチャーで示した。リゲルの投げたい球は、インコースで高さは真ん中あたりだ。

 ラムリーザはそこにグラブを構え、リゲルはそこを目がけて今度はソニアのときとは違い、打ちやすそうな手ごろな球を投げた。

 リリスは思いっきりバットを振ると、ガツッと鈍い音を立ててボールに当たり、一塁側に転がっていった。

「フェアーッ!」

 店主の判定は、今度は巻き舌にならない。

 ヒットになるか?

 しかし、一塁側を守るソフィリータは、素早くゴロに追いついて拾い、そのまま一塁ベースへ走り込んだ。リリスよりも先にベースを踏んだソフィリータは、「これでいいの?」といった具合に審判役の店主を見つめている。

「バッターアウッ! 一塁ゴロ!」

 店主の宣言が入り、これでツーアウト。もう一人アウトになれば攻守交替だ。

 三番打者はユコ。運動が不得意な彼女は狙い目か?

 ラムリーザは、ど真ん中に速球を要求する。リゲルは頷くと、投球動作に入った。

 リゲルの渾身の力を込めて投げた速球は、景気の良い音を立ててラムリーザのグラブに飛び込んできた。球が速すぎたのか、ユコは手出しできずに見送った。

「ユコ、振りなさい。振れば捕手が取り損ねることもあるから」

 リリスのユコに対する忠告を聞いて、ラムリーザは、別にリゲルの球はそこまで豪速球でもないから、と思った。それにコントロールが良くて、グラブを構えたところからほとんど動かさずに捕球できるので、よほどの暴投がない限り、後逸することはないだろう。

 二球目も同じコースへ飛び込んできた。振れと言われたユコはとりあえずバットを振ったが、それはラムリーザのグラブに飛び込んだ後だった。

 結局ユコは、三球三振で終わり。

 

 さて、攻守が入れ替わり、ソニアチームが守り、ラムリーザチームが攻撃となった。

 ソニアチームの投手はソニアがやるようで、捕手はユコが務めている。一塁側をリリスが守り、二塁側はロザリーンが守っている。

 そして、ラムリーザチームの一番打者は、ソフィリータだ。

 ソフィリータは軽く素振りをしたあと、右打席に入った。

 審判のごんにゃ店主も構え、ソニアは振りかぶって第一球、投げた!

 さすがにリゲルほどのスピードはないが、なんとかストライクゾーンに投げ込むコントロールはあるようだ。

 ソフィリータは強振する。振った勢いとは裏腹に、カツリと軽い音をあげて、打球は弱々しく転がった。バッティング慣れしていないため、バットにかすっただけのようだ。

 ボールはころころと投手のソニアの足元へ転がっていく。ゴロを捕ろうとソニアはかがむが、大きな胸が邪魔でうまく打球を処理できない。ソニアがようやくボールを手にしたとき、ソフィリータはすでに一塁へ進んでいた。内野安打だ。

 リリスがソニアのもとへ歩み寄った。

「あなたゴロがうまく処理できないんだから、捕手やりなさいよ。投手は私がやるわ」

「うるさい! ちっぱいは外野に行ってろ!」

 ソニアはリリスを押しのけて、次の投球動作へ入っていった。リリスは仕方ないか、といった表情をして元の位置に戻った。

 二番打者はミーシャだ。ミーシャは、適当にバットをぶんぶん振り回して、右打席に入った。

 ソニアはミーシャに対して、振りかぶって第一球投げた!

 ミーシャは「えいっ」と甘ったるい声で掛け声をあげて振ったが、バットとボールは二十センチ以上も離れている。というより、スイングがめちゃくちゃだ。バットに振り回されているといった感じだ。

「ストオォルアァ~イクゥ!」

「待て待てミーシャ、まず持ち方が違う。右手が上で、左手が下だ」

 リゲルの助言が入り、ミーシャはバットの持ち方を修正する。リゲルはさらに素振りをしてみせて、「振り方はこうだ」と助言した。リゲルの助言の甲斐あってか、ミーシャのスイングは多少マシになったようだ。

 ソニアは振りかぶって第二球、投げた!

 ミーシャは「えいっ」と振るが、まだバットとボールは十センチほど離れている。

「ストオォルアァ~イクゥ!」

「待て待てミーシャ、振る瞬間に目をつぶっちゃダメだ。ちゃんとボールを見て振らないとダメだぞ。それに振り回す必要はない、当てればいいんだ。投手前に転がしたら、あいつは処理できない」

「うるさいリゲル!」

 ソニアはいきり立って、三球目を投げた。

 ミーシャは再び「えいっ」と振る。ボールはカツリと軽い音を立てて、力なく前に転がった。なんとかかすらせることに成功したようだ。

 リゲルは、これで二者連続内野安打、満塁で本命二人に打席が回る。良い傾向だと考えた。しかし――

「やったーっ、ボールが当たったよ! リゲルおに~やん! ミーシャ、バットにボールを当てられたんだよ!」
              
ミーシャがバットにボールを当てたのに走らない場面
 ミーシャは一塁方向へ走らずに、リゲルのほうを振り返ってバットを高々と掲げて歓喜の声をあげた。

「いや、走れよ!」

 リゲルは慌ててミーシャに指示するが遅かった。ソニアはゴロをなんとか拾うと、一塁にいるリリスへ投げた。ミーシャは、ピッチャーゴロでアウト。その間に、ソフィリータはもう一つのベースへ進塁していた。

「お遊びはこれまでだ」

 三番打者ラムリーザは、ブンブンとバットを振り回しながら右打席へ入った。

「ほお、領主さんはなかなか鋭いスイングを見せてくれるな。結構力がありそうだね」

 店主は、ラムリーザのスイングを見て感心してくる。

「握る力は百三センチ――いえ、百三キロありますの」

「わざと言い間違えるんじゃないっ」

 ラムリーザはユコの一言に慌ててソニアの様子を見るが、どうやら聞こえていなかったようで安心した。

「それだけの力があったら、ホームランでも見せてもらおうかな」

 店主はラムリーザに期待するような言葉をかけてくるが、ラムリーザは「当たればね」と謙遜してみせる。

 ラムリーザは改めて打席に入り、バットでホームベースをちょんちょんと叩く。次に大きく振り上げ、ゆっくり上段から振り下ろして、神主のような構えで止めた。それから、ゆっくりと投手のソニアのほうを振り向き、じっと目を見つめた。

 その様子をマウンドから見ていたソニアは、ラムリーザに鋭い眼光でじっと見つめられて、胸の内が不安でいっぱいになってしまった。どんなときも自分をかばって助けてくれたラムリーザが、こうして敵として立ちはだかっていることを意識して、自然と息が荒くなる。

「ソニア、投手交代する?」

 リリスに声をかけられて、ソニアははっと我に返った。

「だっ、大丈夫よっ」

 ソニアは心を奮い立たせて、ラムリーザに対して第一球を投げた。ラムリーザは、大きくスイングして空振り。力はあるが、技術は素人だ。無駄に力が入っている。

「ストオォルアァ~イクゥ!」

「ちゃんと球を見て打てよ」

 リゲルの指摘した通り、振る瞬間は目線が泳いでいた。

「次は当てるよ」

「構えと動作だけは大物に見える、というところがなんとも、だな」

 リゲルは鼻で笑って、打者としてのラムリーザを評価した。

「言ってろ」

 ラムリーザは短く答え、再び大きく振り上げたバットをゆっくりと下ろして、神主打法で構えた。

「だいたいその構え自体が熟練を必要とする打ち方なんだ。素人がやってもタイミングが取りづらいだけだ」

 リゲルはぶつぶつとラムリーザの打撃を評論している。

「リゲルおに~やん、何を言ってるの? ミーシャ打てたのになんで怒られるの?」

 だがミーシャに話しかけられて、顔がにやけてしまうのだった。

 ソニアの二球目もラムリーザは空振り。しかしその鋭いスイングは、一度見るごとにソニアの闘志を少しずつ奪っていった。

「ストオォルアァ~イクゥ! スイングだけは、すごいねぇ」

 宣言の後に店主の呟きが聞こえ、ラムリーザはなんとかしようと思うのだが、振り回してもバットにボールは当たってくれない。

 ラムリーザは、ソニアの闘志をさらに奪ってやろうと思い、じっと見つめるだけではなく、にやりと不気味な笑みを浮かべてみせた。

 ラムリーザスマイルを見て、ソニアは「うっ」となった。ソニアにとっての心の支えであるラムリーザが敵であることは、やはり辛いものだった。

 それでもソニアは、気力を振り絞って第三球目を投げた。

 当たれば、何かが壊れる気がした。ボールでも、空気でも、ソニアの意地でも。

 ラムリーザは、今度はしっかりとボールを見て、渾身の力を込めてバットをフルスイングした!