ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
はじめてののだま
帝国暦九十三年 朧影の月・詩歌の日(現代暦:四月中旬)
今日も快晴。誰が言い出したのか知らないが、晴れた日をスポーツ日和とは、よく言ったものである。
フォレストピアの中央公園は、花壇にイチゴが多く植えられていた。ただそれだけの理由で住民投票の結果「ストロベリー・フィールズ」と命名されていた。
別にイチゴ畑というわけではない。だが中央道路と同じで、名前をノリで決めるところがある困った住民たちだ。
中央公園ストロベリー・フィールズには、のんびりと散歩を楽しめる並木道、癒し効果抜群の大きな池がある。さらに、子供たちの遊び場になる遊具置き場のほか、広いスペースを確保した運動広場も備えている。
ラムリーザたちは、今日はその運動広場に集まって、「のだま」というスポーツで遊ぼうという話になっていた。集まったのは、ラムリーザ、リゲル、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンのいつものメンバーに、ソフィリータとミーシャの下級生コンビを加えた八人だ。
ラムリーザは、集まったメンバーのうちリリスの姿を見て、まずダメ出しをした。
「あのなぁ、今日はスポーツするって言ってただろ?」
「ええ、だからヒールのないブーツにしておいたわ」
「いや、それ――はいいけど。そこだけじゃなくてだな……」
リリスの下半身は、茶色いブーツに、黒いホットパンツ姿だ。どう見てもスポーツ向きの格好とは言いにくい。
ユコとロザリーンは、今日はおしゃれはせずにジャージ姿で、今日の目的から言えば正装だ。ソフィリータは普段から動きやすい格好をしているし、ミーシャも一応セーフだ。
スポーツをするのにふさわしくない格好のリリスだが、ソニアを例に挙げて反論した。
「ソニアだってあんな短いプリーツスカートでスポーツするのだからいいでしょう? それに、スポーツするには邪魔なものを胸にぶら下げているし」
「胸は関係ない。それとあいつはあれしかはくものを持ってないから最初から諦めてる」
ラムリーザは、まあいいかと思った。転んで余計なものが見えても、わざわざ心配してやる必要はない。変な心配をするより、怪我をしないことを祈ろう。
というわけで、用意した道具を使い、適当に分かれて各自準備運動を始めた。
のだまという競技は球技で、それぞれ攻撃と守備を交互に行う。ボールは拳ほどの大きさで、硬めのゴム製で弾力がある。木の棒、つまりバットで打ち返し、グラウンドを一周したら一点。細かいルールはいろいろあるが、だいたいそんな競技だ。
そこでラムリーザは、リゲルとキャッチボールをしてみた。
ソフィリータとミーシャは、それぞれ攻撃のときに使うバット――要するに木の棒をぶんぶん振り回していたが、そのうち二人の戦闘になってしまった。
少し離れたところでは、ソニアとリリスもキャッチボールをしている。ソニアの投げたボールは、ある程度正確にリリスのもとに届いているが、リリスの投げたボールはあまり正確とは言えなかった。
「リリス、投げるのヘタクソ。走り回らされるあたしの身になってみてよ!」
変な場所に返球してくるので、無駄に走らされたソニアは文句を言った。リリスは少しむっとした顔をしてボールを投げ返すのをやめると、そのままラムリーザのところへ向かった。
「ラムリーザ、ちょっとお願いがあるわ」
リリスは、ボールを受けるのに使用するグラブを左手から外しながら言った。
「どうしたんだい? ん、やっぱりその格好だとスポーツやりにくいんだろ?」
「違うわ、このグラブなんだけど、右手にはめるものが欲しいわ。私、右手だとボールをうまく投げられないのよ」
「ん? ああそうか、リリスは左利きだったね。ちょっとリゲル、しばらく抜けるからあいつらに守備練習でもしてやってくれ」
適当に揃えたのだま道具だったので、グラブは左手にはめる物しか用意していなかった。リリスのために、右手にはめるタイプのグラブを用意してやる必要があった。
そこでラムリーザはその場をリゲルに任せると、中央公園の正面にあるスポーツ用品店へ、リリスを連れていった。
リリス用のグラブを購入して二人が中央公園に戻ってくると、ラムリーザが頼んだとおり、リゲルが主導してシートノックと呼ばれる実戦を意識した守備練習をしている最中だった。
みんな初めてやる球技なので、ぎこちない守備としか言いようがない。あまり運動が得意ではないユコはボールに追いつくのがやっとで、ミーシャは頭でフライを受けている。ソニアはフライは捕れるけど、ゴロになると動きが怪しい。たぶん足元に転がったボールを見失いやすいのだろう。とりあえず普通にこなしているのは、ロザリーンとソフィリータぐらいだ。
要するに、経験者は一人もいない。
二人が戻ってきたところで、打ち役がリリスに代わり、リゲルは再びラムリーザとキャッチボールを始めた。
ラムリーザの返球は慣れていないために少しぶれてしまうが、リゲルはさすが慣れているようで、かなり正確に投げてくる。
「お前は力を入れすぎだ。ボールを鷲掴みするのではなくて、うまく指と手首を使って、あと腕をしなやかに振り下ろすと球威が増す」
などとリゲルは説明してくるが、ラムリーザはあまり理解できなかった。
「ゴム鞠はいつも握っているけど、投げることはほとんどないからなぁ」
「ちょっとしゃがんで捕手をやってみろ」
リゲルは、ラムリーザをしゃがませて、構えたグラブにボールを投げた。
「おっ、ど真ん中にボールが来たよ」
「うむ。正球、ストライクだな。次は少しグラブを左に構えてみろ」
ラムリーザは言われたように少しグラブの位置を左に動かした。リゲルはそこにも正確にボールを投げた。
「狙ったところに投げられるんだ、すごいね」
ラムリーザが褒めると、リゲルはにやりと笑って話を続けた。
「今の球は、右打者から見ると内角、左打者から見ると外角になる。あと高めとか低めとか、いろいろなところに投げ分けて打者を翻弄してやるのだ」
「なるほどー、打者に打たれないように読み合いをするんだね」
「そうだ。打者が内角に来ると思っているところに外角の球を投げてやると、届かなくて空振りする。逆に外角を狙っているときに内角へ投げると、詰まった当たりになって打ち取れる。まぁそんな具合だ」
「のだまって、ただ単純に棒で鞠をつつく球技だと思っていたけど、結構奥が深いんだね」
「ほほー、のだまをやっとるのかね」
そこに現れたのは、以前試食会に行ったこともあるリョーメン屋の店主だった。確か店の名前は「ごんにゃ」だったかな。
「こんにちは、ごんにゃの店主さん」
ラムリーザはすぐに立ち上がり、軽く頭を下げて挨拶をした。ごんにゃの店主は挨拶を返し、ボールを投げているリゲルのほうを見て言った。
「店の休憩時間に散歩していただけだよ。気にせず続けてくれや。それにしても兄ちゃん、コントロールいいねぇ」
ごんにゃの店主は、リゲルの投球術を褒める。確かにラムリーザの構えたところに、綺麗にボールを投げ込んできている。
「ふっ、こんなのはちょっとしたコツでどうにでもなるものだ。もっともラムリーザみたいに力任せではどうにもならんがな」
褒められたリゲルが得意げになっているのがわかる。
「変化球は投げられるのかい?」
店主の問いに、リゲルは「さすがにそこまでの技術はないな。それに投げられたとしても捕球できんだろう」と答えた。
「店主さん、なんだか詳しいですね」
ラムリーザの問いに、店主は「ユライカナンでは子どもの頃によくやったからなぁ」と、少し遠い目をして答えた。
そのとき、シートノックで守備練習をしている女性陣の間で、諍いが発生していた。
「今度はあたしが打つ!」
「いいからあなたは守ってなさい」
「リリスばっかり打つのずるい!」
「私はコーチだから、あなたたちを監督しているのよ」
どうやら打ち役について揉めているようだ。打つのがリゲルのときは文句を言わなかったが、リリスが打ち始めたことと、ソニアが守備練習に飽きてきたことが原因の言い争いだ。
ラムリーザは急いでソニアたちのもとへ駆け寄り、バットの奪い合いをしている二人から、逆にバットを奪い取ってしまった。
「なに? 今度はラムが打つの? あたしもう守備するの飽きた!」
「それなら試合でもやろうか。今日は八人集まっているから、四人ずつに分かれて三角ベースね」
「ラムと同じチームがいい」
「ソニアとリリスで取り取りでもする? と思ったけどやめた。誰を取るかで揉めるのがわかっているから今のなしね」
しばらくの間遊ぶのは中断して、試合を始めるための話し合いが行われた。結局のところ、じゃんけんをしてグーとパーだけを出して、ちょうど半分に分かれたところで、チーム分けを決めることにした。
「僕とリゲルは分けたほうがよくないか?」
「なんで?」
ラムリーザの提案に、ソニアはきょとんとした顔で答える。
毎度のことながら、ソニアは男女の力の差をあまり考えないところがあった。ラムリーザと体力勝負をすることになっても、決してハンデを要求しようとしない。
「いいんじゃないの」
そう答えたのはリリス。
「ライトノベルやファンタジーでは、男女の力の差がない作品はわりとあるし、中には女子のほうが強い設定の世界もあるわ。冒険者グループ随一の筋力の持ち主が女の子だったり」
「ここはファンタジーだったり、ライトノベルの世界なのかい?」
ラムリーザのリリスに対するツッコミはさておき、特に反対はでなかったので、そのままジャンケンでチーム分けをすることになった。
「それではグーとパーだけでじゃんけんだぞ、じゃっしっけっ!」
ラムリーザの掛け声で、全員が腕を振り出す。結果は全員パー。
「なんだよ、みんな同じチームかよ。やり直し、じゃっしっけっ!」
今度はラムリーザとリゲルがパーで、残りは全員グー。
「これでも俺はいいぞ」
そう言ったのはリゲル。相手全員を三振に打ち取る自信があるらしい。
「ごんにゃの店主さんも入れて、男子対女子で試合する?」
「まってくれ、おっちゃんはもう走り回ったりできないよ。審判をやってあげるから、君たちだけでやってくれ」
ごんにゃの店主に断られたので、もう一度じゃんけんをやり直すことになった。
「それではもう一度、じゃっしっけっ!」
「むっ?!」
「むむっ!」
うまく四人ずつに分かれて、あちこちから声が漏れた。
その結果は、ラムリーザ、リゲル、ソフィリータ、ミーシャのチームと、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンのチームに分かれた。
「うーむ、やはり僕とリゲルは分かれたほうがよくないか?」
「俺は別にこの組み合わせでも構わないぞ」
リゲル自身としては、ラムリーザとバッテリーを組みたいので、このチーム分けに肯定的だ。
「まあいいんじゃないかしら? ラムリーズの二枚看板が揃っているし、ロザリーンもいるし。足手まといはユコだけ」
「なんですの! と言い返したいけど、スポーツはちょっとね……」
「ラムと一緒のチームがいいなぁ」
「いいの、男子と下級生のチームと、私たちのチームで一応バランスは取れていると思うわ」
ソニアはぐずるが、リリスはこのチーム分けに肯定的だ。ロザリーンも「まあいいでしょう」と答え、ユコもとりあえず受け入れた。
そういうわけで、便宜上、ラムリーザチームとソニアチームと呼ぶことにして、対戦が始まった。
「プレイボールゥ!」
審判を引き受けたごんにゃの店主が、声を張り上げて試合開始を宣言するが――
「ちょっと待って、どっちが先攻?」
「あたしが先攻!」
すでにソニアは、バットを持って打席に入っている。リリスも二番打者で良いと考えたのか、打席のすぐそばで待ち構えていた。
「えーと、先攻後攻はどう決めようか、店主さん」
ラムリーザは、のだまに詳しい店主に尋ねてみた。
「一般的にはビジターチームが先攻、ホームチームが後攻だけど、君たちにビジターもホームもないしなぁ」
「まあいいや。ソニアがそうしたいと言うのならさせてやろう。というわけで、僕たちは守備につくけど、守備位置はどうするリゲル?」
「俺が投手をするから、お前は捕手をしろ。一塁側はいろいろ仕事があるからミーシャには荷が重いのでお前の妹で。三塁――いや三角ベースだからもう一つの角か、そっちにミーシャが守る。ミーシャの守備は不安だが、まあ、俺の球は引っ張らせないから大丈夫だろう」
「えー、捕手? 地味だなー」
「さっきの練習のときみたいでいいんだ。それにお前が捕手なら全力投球できるからやりやすい」
「それもそうだな、しかしなぁ」
「ラム~、早くしてよ~」
ラムリーザは打席に入っているソニアに急かされて、あまり乗り気ではなかったが捕手に回った。そして、ソフィリータとミーシャを守備につかせてから、ソニアの右後方に腰を下ろしてグラブを構えた。
そのラムリーザの後ろに審判役のごんにゃの店主が立ち、のだまの基本形が整った。
そして店主は改めて叫んだ。
「プレイボールゥ!」
いよいよ試合が始まった!
ルールも配置も怪しいのに、なぜか胸だけは高鳴る。スポーツって、そういうものかもしれない。