ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


胸囲と握力とため息

帝国暦九十三年 朧影の月・旅人の日(現代暦:四月中旬)

 今日の体育の授業は、新年度最初の身体能力テストだ。

 ラムリーザは去年はソニアと二人で組んで回ったが、今年は仲間が増えた。みんなで集まって、わいわいと楽しみながら、それぞれの科目をこなしていた。

「ソニアまた今年も勝負するん?」

 授業が始まる前にラムリーザが問いかけると、ソニアは「もちろん」と答えた。ソニアはラムリーザと勝負するときには、ハンデは要らないというからたいしたものである。勝っても負けても、言い訳が生まれるのが嫌なのだ。それでも種目によってはソニアが有利だったり勝てたりするので、いい勝負になっていた。

「そういえばラムリィは握力が異常だったな、今年もまた強化されたのか?」

 去年はこの場にいなかったジャンが、リリスをチラチラと見ながらラムリーザに話しかけた。

「あ、俺もそれ知りたい」

 これも去年はいなかったレフトール。彼はラムリーザの握力で一度酷い目にあっているから、なおさら知りたいのだろう。

「ほらよ、測定器持ってきた」

 リゲルの持ってきた測定器を受け取ったラムリーザは、まずはソニアに測らせようと渡そうとするが、なぜかソニアは妙に不機嫌だ。この不機嫌さは、授業が始まってからずっと続いていた。

「どしたんソニア? 今年も去年と同じくこの種目から始めるぞ」

 ソニアは、この種目では負けるのがわかっているから不機嫌なのか?

「実は俺もそれなりに強いぞ」

 レフトールは、ラムリーザがソニアに差し出した握力計を横から奪うと、思いきり握り締めた。

「ほらみろ、七十四キロ。リゲル、お前よりは強いだろう?」

「ふっ、脳筋風情が力があるからって、でかい面するな」

「お、俺が脳筋だったらラムさんは何なんだ?」

「お前の『ご主人様』だろ?」

 リゲルにやりこめられて、レフトールはぐぬぬ、と呻いた。

 レフトールの次にユコが測定に入り、続いてリリスが測定する。

「はいソニアの番」

 改めてリリスから握力計を差し出されたソニアだが、プイと顔を背けてしまった。

「何があった? なんでソニアがそんなに不機嫌になっているんだ?」

 脈絡もなく反抗的な態度を取るソニアに、ラムリーザは少し心配になってきて、今日ここまでのことを思い返してみた。

 今朝起きたときは、とくにいつもと変わりはなかった。登校してから、体育の授業が始まるまではいつもと変わらなかった。

 始まる前は「今年も勝負だ」と言っていた。それが授業が始まって、最初の身体測定を終えて身体能力テストに移ってから、ずっとこの調子だ。

「身体測定で何かあった?」

 ラムリーザが思い当たるのはそのぐらいだった。

「あ、そういえば面白いことがあったわ」

 リリスは妖艶な笑みを浮かべて、ソニアの一点を見つめながら言った。

「言うな!」

 ソニアは怒ったように制するが、リリスは気にせずに言葉を続けていった。

「すっごいのよ、ソニアの胸囲。数字がまた更新されてたわ、百三センチ」

 ユコは思い出し笑いをし、ソニアは「うるさい!」と怒鳴りつけた。

 要するに、また膨らんだわけだ。去年から数字が五も増えたのは、さすがに目を疑う。カップ数で言えば、二段階も大きくなっている。

「百三センチのLカップ様、くすっ」

「Lなんて言ったら、なんだか新世界の神に対抗する探偵みたいな響きですのね」

 リリスとユコにからかわれて、ソニアはギリリと歯ぎしりする。

「そんなに怒るな安心しろ、俺の胸囲は百四センチだった。お前よりでっかいぞ」

 そう言ったレフトールは、喧嘩慣れしているし子分を大勢率いた親分らしく、説得力のあるガッシリとした肉体で、かなりガタイは良い。

 だがこの場合、慰めにはなっていない。それに、ラムリーザも似たような結果だった。

 そんな困ったやり取りを眺めながら、ラムリーザは改めて思った。ソニアとリリスのそばにユコもいる。やはりこの三人が揃わないと、賑やかさも半減だ。

 気がつくと、そばにリゲルの姿がない。周囲を見渡すと、ソニアやリリスの茶番劇に興味のないリゲルは、ロザリーンと組んで他の種目の測定に向かっていた。

「しっかしよ、去年はラムリーザがわざわざ写真で送ってくれたやつだけどさ、こうして直に見ると格別ですなぁ」

 とたんにユコが、むっとした顔でラムリーザを見た。いや、僕を睨みつけられても困るとラムリーザは思った。それにジャンはこういう奴だった。相変わらず下世話なところがある。

 リリスは体育館ステージ脇の階段に腰をかけると、わざと足を高く上げて組み替えて見せつける。またリリスの誘惑が始まった。

「リリスもはしたない、ジャンさんもエロいですわ。ラムリーザ様の親友はとんだエロ助ですのね。見損ないましたわ」

「僕は違うよ……」

 なんで自分が責められるのかわからないラムリーザであった。

「ふんっ、素足のほうが絶対いいのに。ラムもそう思っているはず」

「勝手に決めないでくれ」

 ジャンのせいで、ラムリーザは居心地が悪くなってしまった。もっとも、ソニアの言ったこと自体は、ラムリーザにとっても事実だった。ただし、ぴちぷにょはまた別の話だ。

 そんなこともあり、リゲルに合流して三人で測定を進めるか? などとも考え始めてしまった。

「あのさー、靴下なんかどうでもいいから、ラムさん握力はよ測ってくれや」

 レフトールに話題を転換してもらって、ラムリーザはしめたと思って流れに乗ろうとするが、残念ながらリリスに邪魔をされてしまった。

「そうね、目標百三キロを目指してみたら良いと思うわ」

「なんだそりゃ」

「ラムリーザとソニアで勝負するんでしょ? ソニアは百三だから、ラムリーザも百三を出さないとダメなのよ」

 ソニアは黙って、ぶるぶる震えている。いかん、怒りが爆発する寸前だ。

 ラムリーザはソニアの気を紛らわすために、握力計を差し出す。ソニアはそれを受け取ると、怒りに任せて思いっきり握り込んだ。結果は四十キロ。女子にしては、かなり握力があるほうだ。

 リリスはむっとして、ソニアから握力計を取り上げた。とりあえず負けたくないようだ。

 しかしリリスの結果は三十八キロ。ソニアには少し負けたが、それでも十分力のあるほうだ。二キロの差は、ソニアの怒りのパワー分、上回ったということにしておこう。

「なんだ、リリスよっわ」

 ほんの小さな勝利を得て、ソニアの機嫌が少しだけよくなる。しかしリリスは負けていなかった。

「参りました、Lカップ様には敵いません」

 降参宣言に見えて、しっかりと煽っている。さらに、「さあラムリーザ、百三キロを目指してね」と結局話を元に戻してしまった。今日はとことんソニアのバストサイズをからかうつもりらしい。……今日のリリスは、このネタで粘る気だ。

「百三も出たらこえーよ」とレフトールは言った。顔面と指を潰されたこともあるからその恐怖には説得力がある。

「でもソニアは、その百三の風船おっぱいお化け」

「俺は大きい胸が怖いから、部屋に投げ込まないでくれよな」

 リリスとレフトールの会話は、傍から聞いただけでは意味不明の領域に入っていた。

「それじゃあ、代わりにおまんじゅうを投げ込もうかしら?」

「百三センチのおまんじゅう?」

「なにそれ怖い」

 リリスとレフトールの謎のやり取りの一方で、とうとうソニアは爆発してしまった。

「百三、百三うるさーい! ふええぇぇ~ん!」
              
ラムリーザが、ソニアの肩を抱き、握力計を片手にその場を立ち去る場面
 またしてもリリスに泣かされてしまったソニアを見て、ラムリーザはため息をつき、ソニアの肩を抱き、握力計を片手にその場を立ち去った。

 残されたのは、「やりすぎですわ」と嗜めるユコと、ぺろりと舌を出して反省のそぶりを見せないリリスだった。

 レフトールは子分のマックスウェルと合流して立ち去り、ジャンはリリスの姿をなんだか嬉しそうに眺めているのであった。

 結局、ラムリーザは握力百二キロで、数字だけで言えばソニアに一ポイント負けた。

 握った瞬間、計測器がきしむ音が聞こえたような気がした。去年と同じだ――いや、去年よりも少し嫌な音だったかもしれない。

 ………
 ……
 …

 その日の夜、ラムリーザはソニアを連れてメイドのナンシーのところへ赴いた。

「あらラムリーザ様、ソニアを連れてどうされたのですか? あっ、またソニアが何か悪いことをしたのでは?」

「いやいやいや、ソニアがすぐやらかしたと決めつけるのはよくないよ。いや、結構やらかすけど――あいやいや、今日は違うよ」

「それなら安心しました。しかしなんですその格好は!」

 ラムリーザは、ソニアをあえて上着を脱がせて制服のブラウスだけを着せたまま連れてきていた。百三センチの胸は大きく膨らみ、上二つのボタンは留まらず、三番目のボタンも今にもちぎれそうだ。

「そうなんです。今日はこの格好をなんとかしてほしいと思って連れてきたんです」

 ラムリーザがナンシーに説明している間、ソニアは顔をそむけていじけている。

 ナンシーは、昨日と同じようにボタンを留めようとするが、やはりどうにもならない。

「まったくもう、なんであなたはそう極端に偏った成長をするのですか!」

 母親に責められて、ソニアはますますいじけてしまう。

「まあまあ抑えて抑えて、育ってしまったものは仕方ないので、今後どうするかが大事なんだよ。そこで、ソニアの体型に合ったブラウスを特注できないかな。専用の仕立てでも、乳袋でもいいからさ」

「なるほど、わかりました。サイズの合っていないブラウスを無理やり着ているのですね、しょうがない子」

「いや、普通のブラウスだとサイズを合わせるのも困難な体型なんですよ」

「ではソニア、ちょっとそれを脱いで。今から測ります」

「やだ、もう今日測った」

 ソニアは、ラムリーザの後ろに隠れてナンシーの手から逃れた。

「ではその結果を言いなさい」

 ナンシーは促すが、ソニアは恥ずかしそうに黙ったままだ。そこでラムリーザは、ソニアの両肩をつかんで励ました。

「ソニア、ここで言わないとずっとその無理のあるブラウスを着続けることになるんだぞ」

 本当のことを言えば、去年からそうしてあげればよかったのだが、最初は引っ越しや新しい街での生活でいっぱいいっぱいで、ソニアのブラウスのことまで気が回らなかった。

「百三……」

 ソニアは、蚊の鳴くような声でサイズをつぶやき始めた。

「次は?」

 ナンシーは、そんな数字は気に留めないようで、先へ促した。

「五十七センチ、九十一センチ」

 ソニアは、胸のサイズに比べて、腰と尻のサイズは平気そうに答えた。

「Lカップあたりですか?」

「そっ、そうよっ……」

「わかりました、そのサイズで普通に着られるようなブラウスを数着仕立てておきます。それまでは、そのはしたない格好をどうします?」

「ん~、セーターでも着せる? でも制服でセーターは指定されてないから、また風紀委員に怒られそうだな」

「その格好のほうが十分風紀を乱していると思いますよ」

「まあなんとかする。どうすればいいかわかんないけどなんとかするから、ナンシーは新しいブラウスよろしくね。というわけでおやすみ~」

 ラムリーザはそう言い残して、ソニアを連れて部屋へ戻っていった。

 今夜はソニアが落ち込んでいるので、寝る前に少し景気づけが必要だな。そう考えながら、ラムリーザはソニアの肩に手を回して抱き寄せた。

 部屋にたどり着く前に、妹のソフィリータとすれ違うことになった。

「リザ兄様、ソニア姉様、今夜もお楽しみですか?」

「そういうことは言わないの」

 ラムリーザは、他に誰も聞いていないだろうな、と周囲をきょろきょろ見回しながらソフィリータを制する。

「今度、私も混ぜてくださいね」

「ちょっ、なっ――」

「冗談です、それではおやすみなさい」

 ラムリーザは驚いて引きつった顔で、自室へ戻っていくソフィリータの後ろ姿を眺めていた。

 それよりも、ソニアのしょんぼりした顔を、今夜のうちにいつもの顔に戻してやらないといけない。

 その後、二人は部屋に戻ってから早速ぴちぷにょ!