ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


第一回フォレストピア首脳陣パーティー

帝国暦九十三年 朧影の月・竜神の日(現代暦:四月上旬)

 今日は「首脳会議」と称する月例のパーティーが、フォレストピアの大倉庫の会議室で開かれた。

 去年までは、オーバールック・ホテルで定期的に開かれる、地元の有力者が集まるパーティーに参加していた。だが、ここ数回のパーティーは、実質的にフォレストピア開発の打ち合わせになっていた。

 そこでホテルでのパーティーには今年から参加しないことにして、フォレストピアで打ち合わせ目的のパーティーを個別に行うことにしたのだ。

 この定例会は、今後フォレストピアの進捗会議も兼ねる。

 急ごしらえのパーティションで区切られただけの空間には、まだ新しい木材の匂いと、かすかに機械油の匂いが漂っている。

 オーバールック・ホテルのような豪華なシャンデリアの代わりに、むき出しの電球がテーブルを照らしていたが、その無骨さがかえって「これから自分たちで街を創っていく」という熱気を感じさせていた。

 ラムリーザ側の取りまとめ役は、ラムリーザ、リゲル、ロザリーンの三人だ。今回はそこにジャンが加わり、さらにおまけのようにソニアもいる。その他の参加者は、運輸系、建築系など、街の発展に必要な現場の責任者だ。

 ちなみに、運輸系全体を取り仕切っているのはリゲルの父親だ。一方、フォレストピアに限って現場を管理しているのが、今年からその職務に就いたユコの父親だ。

 この人がうっかり屋さんだったため、ユコが転校するという話になってしまい、お別れ会などという茶番劇を演じることになってしまったのだ。それに加えて、フォレストピアという名称が、ラムリーザたちの内輪でしか広まっていなかったことも、問題の一因だった。

 ユコの父ボビーは、ラムリーザたちと会って話をした後、次回からはユコも連れてくるよ、と言っていた。今回はユコのパーティードレスが間に合わなかったそうだ。

 こうなると、主要メンバーの中で参加しないのはリリスだけになってしまう。これでは不公平かもしれないので、なんとかしてあげたいが、具体的にどうすればいいのか、まだ分からない。

 リリスの家族はポッターズ・ブラフで会社勤めをしているだけなので、このパーティーに参加する理由がないのだ。

 それから、この集まりには、ロザリーンの兄であるユグドラシルも参加している。その理由は後述しよう。

 とはいえ、主要メンバーはまだ学生で未成年だ。実際に物事を動かしているのは、それぞれの親たちである。

 ラムリーザは「未来の領主」と言われているが、今はまだ母親ソフィアの補佐という立場であり、リゲルの父親やロザリーンの父親も、その大人側の中心にいる。このあたりの顔ぶれは、去年までオーバールック・ホテルで顔を合わせていた参加者が、そのまま移ってきた形だ。

 最近、リゲルの父親とロザリーンの父親は妙に仲がいい。それ自体は、リゲルとロザリーンにとって悪い話ではない。

 だが、リゲルにはそれが面白くない。一年前、高校に上がる前に、リゲルは付き合っていた彼女を、相手が平民だからという理由で、父親に強引に引き裂かれた。リゲルは、そのことをまだ恨んでいる。

 ちなみにジャンの父親は、シャングリラ・ナイト・フィーバー一号店の経営で忙しいので、二号店はあくまでジャンが中心になる。

 ジャンは表向き、調子がよくて少しスケベ親父っぽいところがある。だが仕事など、やるべきことはきっちりやりこなすタイプなのだ。それに、ラムリーズのマネージャーのようなこともやってくれている。その点はすごいと、ラムリーザは思っていた。

 要するに、今はまだ大人が動き、子どもはそれを見て学ぶ。フォレストピアは、そういう街だ。

 さて、最初の議題は何か? という話になったが、最初は身内側の簡単な自己紹介から、ということになった。

 堅い話ばかりだと息が詰まる。だからまずは、笑えるところから始める。気分がほぐれたところで、本題に入ればよい。

 今さらという気もするが、第一回だし、初対面の人もちらほらいる。そこで、ここで一つ整理をしておこうということだ。

 ラムリーザはリゲルに「整理って何だよ。リゲルもやるんだぞ?」と言い、リゲルもそれを了承する。

 そして、自己紹介ならジャンも聞きたいと言うので、ラムリーザは仕方なく小さな壇上へ上がった。

「えーと、僕は――」

「あ、ラムリィは知ってるからいいや。将来はここの領主になるのと、特技はりんご潰し? いや、ドラム演奏にしとくか? 他の初めましての人を聞きたい」

「ちょっ……聞きたいと言っといてそれはないだろう? それに、他の人たちも聞いているのに」

「だって俺、お前のことよく知っているし。代わりにみんなに紹介してやってもいいぜ。それよりも、そっちの二人について俺は知りたいなー」

「ほー、去年一年間の僕については知らなくてもいいんだね? 去年はバンドグループ――」

「――ラムリーズを作ってそのリーダーで、週末ごとに帝都でライブをやっていましたよ、みなさん」

 ジャンは、得意顔でラムリーザの経歴を語り出した。

「……ソニアと――」

 ラムリーザが、ソニアとの関係について触れようとすると、

「――ようやく幼馴染と手を取り合って二人で歩んでいくと決めて、すでに肉体関係があ――」

「ちょっと待った!」

 ラムリーザはジャンの演説を遮って、慌てて母親ソフィアのほうを振り返った。幸い母は、ラムリーザたちの会話を聞いていなかったようで、もっぱらリゲルの父親やユコの父親と話していた。

 それを見てラムリーザは安心する。母親の前では、今もまだソニアとは清い交際をしていることになっている。

 そもそも肉体関係などまだない。事実無根のことを吹き散らかされても困るというものだ。

「もういい。リゲル、後はよろしく」

 ラムリーザはそう言って、リゲルにバトンタッチをした。これ以上ジャンに余計なことを言われたくない。

「リゲルか、ラムリィの参謀みたいな感じ? それともご意見番みたいな感じ?」

 ジャンは、ラムリーザに対してはそれ以上追及しようとはせずに、興味はリゲルに向いていた。

「どっちも似たようなものだな。正式な役職というわけではないが、ラムリーザの相談役になっている。今はフォレストピアには住んでおらず、汽車で三駅ほど離れたアチェロンという街に住んでいる。いずれ、ここに建造中の天文台が完成したら、そこに寝泊まりする予定だ」

「趣味や特技は?」

「ギター演奏にしておく。ああ、天文学にも興味があるな」

「星を見る人?」

「……それでいい、次」

 リゲルはそこまで言うと、ロザリーンにバトンタッチした。

「ソニアと違って、知的な感じの女性でいいね」

 ジャンの評価に、ソニアは「ジャンの馬鹿!」と騒ぐ。

「こほん、ええと、私もリゲルさんと同じで、ラムリーザさんを補佐する立場です。住んでいる場所もリゲルさんと同じ、将来は――そのとき考えましょう。特技はピアノ演奏」

「うん、そうだったね、ライブでピアノ担当だったね。あとはクラス委員やってる。え? 去年もやってた? ソニアと違ってすっげー真面目だね!」

 ジャンは、再びソニアを引き合いに出してくる。ソニアは、「ジャンなんて嫌い!」と騒ぐ。

「別にソニアに嫌われてもええし、どうせラムリーザ一筋だろー? 俺はリリス一筋だもんねー」

「へー、あんな魔女がいいんだ。それじゃあジャンは科学者だ、魔女と同じ使えないクラス!」

「いや、俺は万能キャラのレンジャーでよろしく。いやいや、そんなことはどうでもいい。次は俺ね。俺はジャン、フォレストピア・ナイト・フィーバーのオーナー代理ね。いずれは俺の店になるが、ラムリィのフォレストピアみたいなもんだ。特技はギター、だとリゲルと被るから、歌にしとくわ。J&Rではリードボーカルやってたしね。なるほど、みんなのことがよくわかったよ、これからもよろしく」

 こうしてジャンは、グループの自己紹介を終えたが、完全にスルーされていたソニアが騒ぎ出した。

「ちょっと! あたしは?」

「あれ、お前おったん? 役職何? なんでおるん?」

 ジャンは、いたずらっぽくぶっきらぼうに返事をする。ソニアは、一瞬不満顔をしたが、すぐに「うーん」と考え出した。

「あたしの役職は何だろう? 何がいいかなぁ?」

 ジャンは、「正直、話し合いの場には、いてもいなくても――」と言い掛けたが、すぐにソニアに割り込まれた。

「あたし将軍がいい!」

「青軍曹か?」

 リゲルもいたずらっぽい笑みを浮かべてソニアをからかい、ジャンもすかさず同調する。

「いや、緑軍曹? どっちかと言えば、悪魔将軍じゃないか?」

「なにそれ強そう、かっこいい」

 ソニアは、からかわれているのもわからずに、嬉しそうな表情をする。

「ダメだな、かっこいいのは似合わない。ラムリィの足を引っ張るお邪魔虫副官でどうだ?」

 ジャンの提案に、リゲルは「賛成だ」と答えた。

「うるささ! ラムの足なんて引っ張らない! えーとね、それで趣味や特技は――」

「ソニアの特技は、おっぱいが大きいこと。というわけで、自己紹介おしまい」

「ちょっと待ってよ! それ何よ!」

 ジャンの締めくくりで自己紹介は終わった。ソニア一人だけ不満そうにしているが、まぁ仕方ない。
 
 彼にとってソニアは、ラムリーザと同じぐらい知り尽くしている相手なのだから。

 

「さて、現在フォレストピアは、未曾有の危機に直面しております。この問題を解決しないと、住民は全員餓死します」

 場面は変わり、今度はユライカナン関係者との打ち合わせだ。

「何それこわい」

「大げさすぎ」

 ソニアやジャンはツッコミを入れたり怖がったりしているが、ラムリーザは話を続けた。

「食料問題の話ですね?」

 一方ユライカナンの生産者代表は、ラムリーザの大げさな前振りも気にしていないようだ。

「はい。以前連絡したとおり、この冬の異常気象で、食料生産が当初予定の半分にも届いていません。ですので、一刻も早く食料の援助をお願いしたいのです」

「それでしたら、早速第一品目の準備が進んでおります。どこかに仮店舗をご用意いただければ、すぐにでもお届けできますが」

「早いね、これは最優先事項にして、今からこの大倉庫の一角に場所を設ける作業に取りかかりましょう」

 大倉庫の管理人の話では、急げば明日にでも開けるとのことだ。

 そこで、明日の休日を利用して、ここ大倉庫の一角に設けた仮店舗で、ユライカナンの食料を試してみることになった。

 こうして明日の予定はできた。まずは食べること。街づくりは、そこからだった。

 だが明後日からは学校、平日は学校があるからあまり作業に専念できない。これが学生という立場のつらいところだ。
              
フォレストピアの大倉庫で、首脳陣パーティーが開かれている場面
「次の議題、街にあるそれぞれの公共施設や通りの名称について」

 リゲルは帳面をめくって、議題を進めた。それを受けて、ラムリーザは集まった人たちのほうへ向き直って述べた。

「えーと、これについては会議に集まるたびに、一つずつ決めていこうと思います。今回は初めてなので、この場で名前の候補を挙げてもらい、投票も同時に行います。それでは第一回記念に、駅から伸びる大きな一本道、メイン・ストリートの名称を決めようと思います。しばらく時間を取りますので、各自、名前を考えて挙げてください」

 ラムリーザの提案を受けて、しばらくの間、会議室はざわざわとしていた。

「ラム~、ご馳走の種類が少ないよぉ」

 ソニアは両手に骨付き肉を持って、ラムリーザに文句を言った。

「ついさっき食料問題について話をしたばかりだろ、贅沢は言わない」

「ソニアって、やわらかくて美味しそうだな」

 ジャンが舌なめずりするのを見て、ソニアはラムリーザの後ろに隠れてしまった。

 そんなことをやっているうちに、パーティーの参加者の間からいくつか名前の候補が挙がった。

「ええと、ペニーレインですか、シンプルでいいね。それと、ロング・アンド・ワインディング・ロード、いや、確かに街で一番長いけど曲がりくねった道じゃないんだけどね。次は、ブルー・ジェイ・ウェイ、なんかかっこいいね。最後は、グンキ・ンサ? ……何だろう?」

 とりあえず参加者の意見をまとめると、四つほど候補が挙がったので、この場で投票を行うことにした。会場の全員に小さな紙を配って、それぞれ名称を記入してもらって投票するのだ。

 集まった投票用紙を見て、ラムリーザはうんざりしてしまった。意外と多い……。

 こういった開票作業が得意なロザリーンが手伝ってくれることになった。クラス委員をやっていただけあって、手際がいい。そういえば去年、進路希望のアンケートをまとめていた実績があった。

「話も一段落ついたところで、二号店のスケジュールについて話しておきたいのだけどいいかな?」

 頃合いを見計らって、ジャンは個人的な相談を持ちかけた。

 ジャンは、ラムリーズには週に三回出てほしいと言った。メインで扱いたいし、まだ他のバンドの確保が進んでいないので、去年よりも出演回数が多くなる。

「まぁ部活代わりに出てもいいかな、去年より場所が近くなって、気軽に参加できるようになったし」

 部活と言っても、現状は遊びと練習が半分半分なので、ラムリーザたちにとって、日々のスケジュールはそれほど変わらないだろう。ユコも結局いなくならなかったので、問題ない。

 こうなると、部室は主に遊び場となってしまうな……。

 そう考えながら、ラムリーザはロザリーンと一緒に開票作業を進めていた。

「大変だったら俺も演奏に参加するよ」

 ジャンはそう言ってくれる。ソフィリータも加わったことだし、ローテーションで休みながら演奏できるだろう。

「待てよ……」

 そこでラムリーザは気がついた。ドラム担当が自分しかいないので、自分は休むことができない、ということに。

「ジャン、ドラムの練習もしておいてくれないかなぁ……。僕が休めない……」

「おうふ……。ん、まぁやってみよう」

 ジャンは了承してくれたが、ソニアは「ラムが叩かないと、あたしベースやらないよ」といつもの決まり文句を並べた。

「いいよ、俺が叩くときは、リゲルにベースやってもらうから」

 ジャンは、まったく気にしていない。

 

「他に話をしておくことはあるかな?」

 そろそろ会議もお開きかな、という時間になってから、ユグドラシルがラムリーザに尋ねた。

「ユライカナンの文化を取り入れたお祭りみたいなことをやってみる、という予定はないのかな?」

 ユグドラシルは生徒会としての活動で、ユライカナンとの文化交流を挙げていたので、早速情報収集を始めたのだ。彼がこの場に参加する目的は、主にこういった内容だった。

「祭り、何かありますか?」

 ラムリーザは、近くにいたユライカナンの大使に尋ねると、「お祭りで近いものは、ミルキーウェイ・フェスティバルかな」と答えた。

「いつですか?」

「真藍の月ですね」(注釈:真藍の月:現代暦では六月下旬~七月上旬頃)

 まだまだ先の話だった。

 

 さて、そんなこんなで時間は夜九時を過ぎたので、今日のパーティーと称した会議はここで終わりとなった。

 リゲルもここからなら、帰宅まで車で三十分くらいしかかからないので、あまり負担にはならない。

「それじゃあ明日またここに集まってね。いよいよ始まるよ、食事体験が」

 ラムリーザは、メンバーにそう伝えると、小さな壇上に上がってパーティーの締めの挨拶をした。

 これにて、第一回フォレストピア首脳陣パーティーは終了。

 会議と呼べば堅いが、パーティーと呼べば気が楽になる。笑い声が混ざれば、予定表の数字にも、人の顔が浮かぶ。

 フォレストピアには、まだ何もない。けれど、こうして「決める場所」だけは先にできた。

 ――悪くない第一回だった。