ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第四弾「サーカス団」 中編 消える箱

帝国暦九十三年 芽吹の月・旅人の日(現代暦:三月上旬)

 ユコがゲームマスターを務める物語は続いている。サーカス団が町にやってきたはいいが、雑談が弾みすぎて物語が進まない。

 雑談に終止符を打つべく、また「物語をさっさと進める」という名目のもとで、一気にサーカスの始まる夜へ時間が進められた。

「さて、皆さんはいつものように酒場『魅惑の壷』で、夜が来るのを待っていますの」

「また魅惑の壷? そんなに壷が珍しいかな?」

 ラムリーザのツッコミに、ユコはいつもの調子で「いいんですの」と受け流した。しかしその店名だけは、どこか譲らない響きがあった。

「さて、サーカス開演まで、あと三十分ぐらいの余裕がありますけど、皆様何しますの?」

 物語に自由度を持たせるために自由時間を作ったことが、ユコにとっては藪蛇だった。

「アマルーラでも飲んで過ごす」

 リゲルは一日中酒でも飲んでいるつもりだろうか。

「いつの間にか手に入った指輪について、ソーサラーのラムリーザさんの意見を聞きます」

 ロザリーンの行動は物語に沿っている。ソーサラーなら「ローエンシェント」は分かるはずだ。

「ええと、ローエンシェント? ルールブックを読んで勉強しておこうか」

 ラムリーザの行動は、ちょっとおかしい。ルールブックには、ゲーム内に出てくる言語の意味までは載っていない。

「ソーサラーなのにわからないのですか?」

「知っている……ということでもいいのかな?」

 どうもラムリーザとロザリーンの会話が噛み合わない。

 だが問題はここからだ。

「じゃああたしは酒場のマスターにご飯を注文する。アレオカレーにアレオふりかけをかけた、アレオセットをよろしく!」

 なぜかソニアは、ゲームマスターのユコではなくリリスのほうを向いて言う。意図は分かるが、アレオネタをいつまでも引っ張る子だ。

「ソニアの座っている椅子を、後ろに思いっきり引くわ」

 リリスの反撃は、もはや子供の悪戯だ。いつもは計画的にソニアを攻めるが、逆上すると行動が子供っぽくなってしまう。

「残念、あたしは空気椅子をマスターしているから、椅子を引かれてもそのままの姿勢で食べ続ける」

「それじゃあソニアの尻を蹴っ飛ばすわ」

「リリスの顔に、アレオカレーの入った器をぶつける」

 結局二人は、低レベルな争いを始めてしまった。

 そういうわけで、物語を進めるのはこれまでどおり、ラムリーザとロザリーンが主軸となる。

「指輪に何か彫り込んであるけど、詳しくは私にはわからなくて……。ラムリーザさんでも何かわかりませんか?」

「調べたい方は恒例の『セージ技能+知力』、技能がなければ平目ですの」

「じゃあ僕が調べてみよう」

 ラムリーザは、ダイスを二つ振った。

「あ、ラムリーザ様にはその指輪は『リンケージリング』の片割だとわかりましたわ」

「リンケージリングって何? 結婚のときに使うやつ?」

 ゲームの中のアイテムは、キャラクターが理解していても、プレイヤーにはわからないことがある。

「それはエンゲージリングですの。リンケージリングは、身につけた二人の間で、精神力を融通し合える指輪ですの。つまり、同種族・異性のキャラ同士がこの指輪をつけていた場合、互いの精神点を融通し合うことができますの」

「なんだか便利な指輪だね。ソニアは基本的に精神力を使わないから、僕とソニアがそれぞれ指輪をはめていたら精神力が実質二倍になるんだ。でも片方だけか……」

「誰が持っているのかわからないけど、相手も身につけていたら使えるかもね」

「ただし、どちらか片方でも精神に影響を与える呪文を受けた場合、それは両者に影響を及ぼしてしまいますわ。あとこの指輪は、両者が一キロ以内にいなければ使えません」

「む、それは危ないな……。でも、なぜそんなものがロザリーンのポケットに?」

「いつの間にかポケットに入っていたのです。たぶんすれ違った少年に、逆スリ……って言うのかな? それをやられたんだと思います」

「う~ん、治安が悪い……のか? それとも――」

「ああ、そうそう。ラムリーザ様はさらに、ローエンシェントの刻印のほかに「キュリア」という単語も見つけましたわ」

「キュリア? 携帯型情報端末の?」

「それはキュリオですの」

 なぜか先ほどから、ラムリーザとユコはボケとツッコミをやっていた。ソニアが相手ならツッコミ役になっているが、それ以外だとボケ専門なのだろうか。

「キュリア……。人の名前でしょうか?」

「なんてやっているうちに、そろそろ開演なんですの」

「よし、行ってこい」

 ユコはサーカスの開演を告げたが、リゲルは行かないようなことを言ってくる。

「え? リゲル行かんの?」

「サーカスなんて面白いところに一人で行ったら、ロザリーンにとやかく言われそうだしな」

「とやかく言いません」

 ロザリーンにきっぱりと言われて、リゲルもあっさりと行くことになった。単純にリゲルは、意表を突く行動をとってみせて、ゲームマスターのユコの様子を観察している節があった。これまでは特に、キャラクターのネーミングへのツッコミが多かった。

「キュリアって何かのキャラ?」

 ラムリーザは、こっそりとリゲルに聞いてみたが、リゲルにはこの名前に覚えがないようだ。リゲルの知らないゲームから取ったのか、突っ込まれるのを避けて、ゲームから名前を借りるのをやめたのかはわからない。

「サーカスって、見世物小屋みたいなのもあるよね? 吸血鬼とかが檻に入っているのかなー」

 ソニアは、わくわくしているようなそぶりを見せて、相変わらずリリスを攻撃してくる。

「Zカップの奇乳とかが出てくると思うわ」

 しかしユコは、二人の発言を無視して話を進めている。

「さて、入り口ではちょっとしたお菓子とかパンフレットなんかが売られていますの。皆が席についたころに、ちょうど座長さんの挨拶が始まりました。ちなみに座長さんは女性ですの。『皆様、今宵はわれらモンストレスサーカスにご来場いただき誠にありがとうございます。私が座長のキュリアでございます。どうか束の間ではございますが存分にお楽しみくださいまし』、まあこんなところですわ」

「キュリア? 聞いたような名前だな?」

「私が持っている指輪に刻まれていた名前ですね」

「まぁ、指輪の話はショーを見たあとでもいいか」

「空中ブランコに火の輪くぐり、空中浮遊に水中脱出ショーと内容はてんこ盛りですの。そして、幕間のピエロ劇。背の高い仮面ピエロと、チケット売りをしていた耳と尻尾のお姉さんが出てきました」

「あたし喉が渇いた!」

 ソニアは、リリスとの舌戦を中断してラムリーザに訴えた。

「そうか、これで買って来い。あ、僕の分もよろしくね、何かは任せる」

 ラムリーザは、ソニアに五百エルドの銀貨を渡しながら、使い走りのようなことを頼む。とりあえずソニアはリリスと言い合いをしているだけなので、少し抜けたところで進行に影響はない。むしろ、展開はスムーズになる。

「キャラクターの台詞なんだけど、まあいっか、お金もらえたし」

「なんだそりゃ!」

 今さらお金を返してもらうのも面倒になって、ラムリーザはソファーにどかっともたれて天を仰いだ。

「はいは~い。皆さん楽しんでいただけましたかぁ~? ここらでちょっとお客様に手伝っていただいて、ちょっとしたショーをしたいと思いまぁ~す」

「どうしたユコ、媚びるような声を出して」

「今のは耳尻尾のお姉さんの台詞ですの」

 ラムリーザは、なりきりロールプレイを聞くうちに、現実とゲームの境目が曖昧になっていた。こうなれば、自分もなりきって一緒に楽しんでしまおうと考えた。

「よーしパパ、手伝っちゃうぞぉ!」

「パパって何かしら? ゲームの中のラムリーザは既婚? 奥さんはカノコかしら」

 リリスはくすりと笑って、ラムリーザの設定を掘り下げてくる。しかしそれは、爆弾発言でしかない。

「違う! ラムの奥さんはあたし! カノコは召使い!」

 案の定、騒がしくなってしまった。

「七十歳のラムリーザの奥さんね、いいわ、ソニアおばあさん」

 ラムリーザの七十歳設定は、公式設定になりそうだった。

「外野うるさいですの、それでは今からバラの花を投げますので、受け取った方は前へどうぞ~」

「受け取った人は誰になるんだ?」

「そうですわねぇ、ダイスで決めましょう。一番出目が大きかった人が当たりということでどうぞ」

 五人は揃ってダイスを転がした。ラムリーザとしては、リゲルが当たればユコが困る様子が見られそうで、ちょっと意地悪な期待をしていたが、ダイスの出目が一番大きかったのは、無難なソニアだった。

「わーい、やったー」

 などと一人喜んでいる。ひょっとしたら、無難ではないかもしれない。

「こういうのって、生贄になった、ということよね?」

「むっ、さすが魔女、そういう発想をする!」

「喧嘩してないでソニア、ステージに行ってこい」

 ラムリーザは、また喧嘩になりかけるので話を軌道修正する。しかし、今度はユコが煽ってくる。

「はい! じゃあ、そこの牛みたいな胸をしたお嬢ちゃんはステージ上にどうぞ、とお姉さんが言ってますわ」

「牛だとぉ?!」

「あら、お嬢ちゃんまた会ったわね。お名前は? とお姉さんは聞いたよ」

「会ってない!」

「チケットを買ったときに会ってますわ」

「む~、あたしの名前はメアリー・トレッキーです」

「嘘をつくな」

 ラムリーザは、ソニアの頭を小突いて言った。

「牛呼ばわりする人には偽名で十分なの!」

「かわいいお名前ね、アタシはウルフィニカで、こっちのピエロはファンティーナよ、よろしく、とお姉さんは言いましたわ」

 ラムリーザは、リゲルに目線で名前チェックを投げかけたが、リゲルは首を左右に振っただけだった。どうやらこれも元ネタはなさそうだ。もしくは、リゲルが知らないだけか。

「何が始まるのでしょうか」
              
ウルフィニカが、人間大の箱をくるくる回しながら「皆様、こちらの箱には種も仕掛けもございません!」と言う場面
「早速だけど、『さっきの人が消えるマジック、不思議だったでしょ? 体験してみたくな~い?』と、ウルフィニカと名乗ったお姉さんが聞いてきました」

「やだ」

 ソニアは、ぷいとユコから顔を背けて反抗する。

「うん、体験してみたいって言ってるよ」

 すかさずラムリーザが、ユコに助け舟を出した。

「インビジリティという姿を消す魔法があるから、おそらくそれだろう」

「インビジリティは基本的に、自分にしかかけられません。えーと、『でしょでしょ~? ってわけで、ソニアちゃんに協力してもらおうと思うんだ』とウルフィニカは言いました」

「言ってない、それにあたしの名前はメアリーだからソニアなんて知らない」

「えっと、さっきの人は、どこに消えちゃったのかな?」

 妙な構図になった。舞台に上がっているのはソニアだが、物語を進めているのはユコとラムリーザだ。ソニアは一人、駄々をこねている。

 元をたどれば、ユコが牛発言をするからソニアがへそを曲げただけなので、ユコにも責任はある。

「うふふ、それは体験すればわかるわ……と口元だけに妖艶な笑みを浮かべて言ってますの」

「リリスみたいだね」

 ラムリーザがリリスのほうを向くと、リリスはユコが言うような妖艶な笑みを浮かべてみせる。

「あたし体験しないよ」

「ソニアは、『わかった、協力するよ』と言っている」

「『おぉ~!? 物分りのいい子って、大好きだよ。じゃ、この箱の中に入って入って』とウルフィニカは、大きな箱を指さしていますわ」

「ソニアは中に入った」

 ラムリーザが勝手にソニアのロールプレイをするので、ソニアは面白くない。

「ちょっとラム! 勝手に話を進めないでよ!」

「じゃあ反抗してないで、素直に物語を楽しみなさい」

「ゲームの自由度を楽しもうとしているの!」

 ラムリーザは、ソニアの頬を片手で軽くつかんで言った。

「『いいえ』と答えても、『そんなひどい』を延々と繰り返されるだけだよ」

「ラムリーザって、ゲームをやっていないように見えて、妙なところで詳しいわね」

 リリスは、感心したような、うれしそうな、そんな感じで言った。

 ラムリーザとしては、ソニアのプレイを見ているだけなのだが、印象深いことだけは記憶に残っている。いつだったか、お姫様の問いかけに、一分ほど「いいえ」を繰り返していたのを覚えているだけだ。

 もちろん、そのゲームの自由度がなくておもしろくないか? と問われたとしても、そんなことはない。

「消えたまま戻ってこなかったりして」

 リリスがつぶやき、リゲルも謎のうなずきを見せる。

「『皆様、こちらの箱には種も仕掛けもございません!』人間大の箱をくるくる回しながら、ウルフィニカは言いました」

 リリスやリゲルの不穏な発言には目もくれず、ユコの物語は動き始めていた。

 続く――