ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 最終話 脳筋親衛隊のハッタリ

帝国暦九十三年 白霜の月・守護者の日(現代暦:二月下旬)

 さて、テーブルトークゲームは続いている。

 ひとまずカノコは無事に保護できたが、犯人を突き止めなければ気が済まないというソニアとリリスの意見を取り入れて、物語はもう少し続くことになった。

 ラムリーザは「毒を、誰がどうやって持ち出したのか」――そこだけが引っかかった。

「でも学院の講師に喧嘩を売ったらまずくないですか?」

 しかしロザリーンは慎重だ。犯人候補筆頭のエレンウェンは、魔術師ギルドの講師をしている。

「気にしない!」

 一方、ソニアは単純だ。リリスも同意している。なんだかんだで、似たもの同士の二人だ。

「ただ、エレンウェンが犯人であるという決定的な証拠がないんじゃないか?」

 ラムリーザも慎重論を唱える。それを聞いて、ソニアもリリスも黙り込んでしまった。

「自白させる方法とかないかしらね」

「リゲル、どうしたらいいと思う?」

 ラムリーザお得意の、困ったときのリゲル頼みが発動した。

「もともとリップルドールという毒薬を持っているのはアサナ――じゃなくてユウナだけだろ? それならマヒル――じゃなくてユウナのところに行ってみて、誰かに貸したとか、その毒薬を置いている部屋に、誰かが入ったか聞いてみたらいいだろう。アサナ――じゃなくてマヒル――じゃなくてユウナにな」

 わざとらしく名前を間違えるリゲルを、ユコは不満そうに睨みつけている。ラムリーザとしては、名前の間違いなど、朝だろうが昼だろうが夕方だろうがどうでもよかったが、ユコはそうではないらしい。

 リゲルは全くの無表情のまま、わざとらしく小首をかしげてみせている。ユコはといえば、手元のメモ帳をペンで激しく叩きながら、「マスターに対する冒涜ですの!」とでも言いたげな抗議の視線を送っていた。

 この二人の「静かなる攻防」には、ソニアたちの騒がしさとはまた違った温度の低さがあって、見ている側としては妙に新鮮な気分になる。

「よし、そうしよう。犯人が確定してから暴れようね」

 ラムリーザは、ソニアとリリスを諭しながら話を進めた。

「ほいほい。それでは再びユウナのお店ですわ。『皆さん、おかえりなさいです』と迎えてくれました」

「カノコは元に戻ったの?」

「カノコは店の奥で寝ています」

「リップルドールの在庫はちゃんとあったんだっけ?」

「在庫はちゃんとあったけど、前に置いていたところから動いているみたいですの」

「それ、使われているんじゃないのかな?」

「そうなんですの……」

 そこでラムリーザは、あることに気づいて尋ねてみた。

「リップルドールってどうやって使うのかな?」

「『あの毒は、刃に少し塗って使えば効果があるんです』と、ユウナは答えました」

「ということは、例の剃刀に塗って使ったということですね」

 これで、犯行の凶器は確定した。あとは、この毒薬を盗んだ者が誰かを示す証拠が見つかれば解決だ。

「ユウナは、『毒薬を保管している地下室に何か怪しい跡が残っていないか調べてほしいです』と言ってます。誰か、シーフ技能と知力で判定してくださいですの」

 それを聞いたソニアは、リリスに話しかけた。

「悪党のリリスは、シーフ技能持ってなかったっけ? 見た目からして悪党のリリス」

「技能使いたくないから、リゲルがやって」

 リリスは、むすっとしてリゲルに行動を譲った。リゲルは黙ってダイスを振る。

「あ、リップルドールの在庫のそばで、何かの毛を発見しました。明るいところでよく見ると、それは猫の毛だとわかりますの」

「猫? ユウナは猫を飼っているのかな?」

「ユウナは『猫さん飼っていません。猫さん飼ってるのはエレンウェンです』と言ってますの」

「ファミリアの魔法で盗みを働いたな……」

 リゲルは小さくつぶやいた。

 ラムリーザが「それは何?」と尋ねると、リゲルは「小動物を使い魔にする呪文だ。ソーサラーならお前も使えるはずだ」と答えた。

「僕も使えるって……あ、そういえばルールブックの呪文リストに書いてあった気がする」

 慌ててルールブックを読み返すラムリーザの横で、リゲルは「実務に追われて魔術の研究を怠る地方貴族そのものだな」と、これまた的確なツッコミを忘れない。

「う~ん、まだ完全にルールを覚えていないな。それなら何を使い魔にしようか」

 ソニアが手を挙げて、「オカピとかどう?」と勧めた。

「いや、それは怒られるかもしれん。じゃなくて、最近エレンウェンってここに来たのかな?」

 ラムリーザは、逸れかけた流れを軌道修正した。

「『実はこの前ユウナの家でティーパーティーをやった』と、ユウナは泣きながら答えましたの」

「ん~、それなら誰にでも機会があるじゃないか。とりあえずそのパーティーっていつかな?」

「少し前に、研究員みんな集まったと言ってますの。でも、猫の毛が残るとしたら、猫さん飼ってるのはエレンウェンだけですぅ~。テュリウスは鳩さんだし、ユウナとリンナはソーサラーじゃないですの」

 その瞬間、ラムリーザは推理の歯車が一つ、静かに噛み合った気がした。

「めんどくさい! なんか自白に効く毒ないの?!」

 しびれを切らしたソニアは声を張り上げて問いかけた。

「毒を使うのですか? う~ん、ゾンビ・メイカーとか――」

「毒を使って解決するのはよくないぞ」

 この日のラムリーザは、ソニアを諭してばかりだ。

「つまり地下にある薬品棚に近づけたのは、使い魔として動かされたエレンウェンの猫だけ、ということですね?」

「よし、エレンウェンをとっちめよう!」

「そうね、これはもうエレンウェンしかいないんじゃないかしら?」

 ある程度疑惑が確証に変わりつつあるので、ソニアとリリスは早く戦闘をやりたいためか、話を先に進めたがる。

「よし、行こう。ハッタリかましてでも自白させてやるんだ!」

 ソニアがどんなハッタリをかますのか興味深い。

「そういうわけで、ユウナに案内されて、みんなは魔術師ギルドの前にやってきました」

「ん、エレンウェンさんに面会に来ました」

「エレンウェンですか? え~っと、どのようなご用件でしょう? あ、これは受付嬢の台詞ですね」

「どうしよっか?」

 ラムリーザは、リゲルとロザリーンに意見を求めた。ソニアとリリスも動きたがっているが、今はまだ早い。

「ユウナさんを見せて、研究仲間だと答えましょう」

「研究仲間と聞いたので、『少々お待ちくださいませ』と言って受付嬢はエレンウェンを呼びに行きました」

「エレンウェンってどんな人だと思う? あ、なんでもない」

 ラムリーザは、ユコの視線を感じてリゲルに尋ねるのはやめにした。

「しばらくすると、長い髪をかき上げながら階段を降りてくる一人の女性が現れ、ユウナに講義中に訪問されても困る、と文句を言っています。あ、それであなたたちに気がついて、『この方々は?』と聞いてきました」

 ユコは、まるでそこに本当に大階段があるかのように、人差し指と中指をトコトコと机の上で歩かせてみせた。

「靴音がカツカツと廊下に響きますの。現れたのは、眼鏡の奥で冷徹な光を宿す、いかにも『プライドの高いエリート魔導師』といった雰囲気の女性ですわ」

 ユコの声色が少し低くなり、芝居がかった響きを帯びる。こういうときの彼女は、いつもの似非お嬢様モードを忘れて、完璧に世界を支配する「マスター」になりきっている。

「え~と、なんだろ、カノコ親衛隊?」

「やっぱりラムリーザはカノコのことが――」

「いいから話を進めようね」

 ラムリーザは、リリスの発言を遮ってユコに続きを促す。

「エレンウェンは、カノコに親衛隊がいたなんて初耳ね。それでカノコ親衛隊の皆様に『何用ですか?』と聞いてきましたよ」

「いや、実際は違うんだけど、どうしようリゲル?」

「親衛隊に任せてみよう」

「リゲル~……」

「こらぁエレンウェン! なんであんなことしたぁ?!」

 話の進め方に困ったラムリーザの横で、ソニアが大声でユコを問い詰めた。行動の宣言というより、役になりきっている感じがする。

「私に怒鳴られても知りませんの! でもエレンウェンは、『あんなこと』と聞いてぎくっとしたようです。『何のことかしら?』と少し動揺しているみたいです」

 ソニアの声の圧に顔をしかめながら、ユコはエレンウェンの怪しい反応を示した。

「もう、ネタは上がってるんだ、観念しろよーっ」

 ソニアは、ダイスを握りしめて啖呵を切っている。ラムリーザに「落ち着け」と肩を押さえられながらも、エレンウェンを演じるユコに、ハッタリをかました。

「この剃刀に見覚えがないの?! あんたの指紋がべったりとついているんだけどね!」

 ユウナの地下室で見つけた猫の毛――その話をあえて伏せたまま、剃刀だけ見せるようだ。

 ソニアの言うように、実際に指紋が付いていたかどうかはわからない。だが、これで相手の反応を見てみるのもよいだろう。

「エレンウェンはどきっとして答えました。『そんな剃刀、雑貨屋に行けばどこにでも売ってるじゃない……ってそんな! ちゃんと手袋はめて――っ!』」

「ん? 今、手袋はめて、と言ったな?」

「あっさりと自白しましたね」

 リゲルがすぐに反応し、ロザリーンも続いた。
              
ソニアがハッタリをかまして、エレンウェンの自白を誘った場面
「エレンウェンは、『……し、しまったわ! 完璧な犯罪計画が、よりによってこんな脳筋親衛隊のハッタリで……!』と膝をついてガックリとうなだれていますわ」

「事件は解決したし、あとはソニアとリリス、お好きにどうぞ」

 ラムリーザは自分のプレイを終えた気分になって、ソファーに深くもたれ、大きく伸びをした。ロザリーンもそれに倣った。

 一方、ラムリーザの隣では、ソニアが待ってましたとばかりにダイスを転がし始める。どこまでやるのかわからないが、エレンウェンをとっちめるつもりらしい。

「このマインド・スマッシャーの錆にしてやるぜっへぇ!」

「エレンウェンはソーサラーですのよ」

 ユコも、エレンウェンを操って戦う気満々のようだ。

「エレンウェンにディザームを仕掛けるわ」

 しかしリリスは、ソーサラーの持つメイジスタッフを落としにかかった。スタッフがなければ魔法はうまく使えないというルールを突いた行動だ。

「ダメですの!」

「何がダメなのかしら?」

 ラムリーザは、ゲームを終えてギターを取り出して奏で始めたリゲルの演奏を聞きながら、下校の時間までのんびりしようと、そっと目を閉じた。

 言葉だけで紡がれた冒険が終われば、そこにあるのは、ただの部室と、楽器とコードという現実。静かなバラードが部室の空気に溶けていく。

 夕暮れのひととき、戦いの元気な掛け声が、部室に響き渡っていた。オレンジ色の夕日が部室の床に長い影を落とし、埃が光の粒のように舞っている。

 画面のない、言葉とダイスだけで作られた冒険は、こうして賑やかな喧嘩とともに幕を閉じる。リゲルの奏でる柔らかな旋律を子守唄代わりに、ラムリーザは重くなったまぶたをゆっくりと閉じた。

 明日になれば、学年末試験という名の現実が待っている。ユコの転校問題、そしてフォレストピアへの旅立ち。

 けれど、今はただ、この騒がしくて愛おしい余韻に浸っていたかった。