ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 第三話 アンティークの人形

帝国暦九十三年 白霜の月・守護者の日(現代暦:二月下旬)

 さて、一日置いてテーブルトークゲームの続きをすることになった。

 ちなみに昨日は、本来のバンド活動の練習に充てていた。毎日遊ぶのはよくないということで、一日遊んだら一日練習する。この形は、年が明けてから崩していない。

「さて、そろそろ学年末試験期間に入って、部活動の練習禁止期間にも入るので、なんとか今日中に終わらせますよ」

「ゲームの日は練習していないんだけどねっ――と、どこからだったっけ」

 ラムリーザは軽口を叩こうとしたが、ユコに軽く睨まれて話を修正させられる。

「ええと――」

「三角関係で、リーダーは贔屓をしてはいけないという話だったわ」

 リリスはユコの発言を遮って、余計なことを言う。またあの話を蒸し返すのか?

「違うっ、その話はやめよう。ゲームが進まないぞ」

 ラムリーザは、開始早々慌てふためく。前回は下校のチャイムに救われたが、部活動の開始早々にこの話をやられたのではたまらない。

「カノコが人形にされて、リンナのアンティークショップに行くか、カノコと関係のあったエレンウェンとテュリウスの魔術師ギルドに行くかという話でしたわ」

 ユコは、今回はリリスにつられずに状況説明をしてくれた。

「魔術師ギルドって、ギルドに関係ない人も入れるんでしたっけ?」

「入れないかもしれないから、まずはリンナのところに行ってみよう」

「じゃあ、ユウナに案内されてリンナの経営するアンティークショップへやってきた一行ですの」

 ラムリーザたちは、とりあえずリンナのほうから話を聞くことにした。

「さて、カノコらしき人形はあるかな?」

「やっぱりラムリーザはカノコにぞっこんね」

 リリスはくすりと笑ってラムリーザを見やる。ラムリーザは「とんでもない」と言いたげに、

「いや、念のため探してみただけだよ。マスター、リンナはいるのか?」

 と、話を進めようとした。

「アンティークショップの前では、筋骨隆々とした女性が箒で道を掃いていますの。それで、『いらっしゃい。おや、ユウナかい? 珍しいね、店から出るなんて』と笑いながら言ってきました」

 ユコの説明では、店の奥からは古い時計の針の音と、磨かれた金属の匂いがしてきた。棚には人形や仮面が並び、どれも目だけが妙に生々しいらしい。

「さて、知っていることを教えてもらおうかしら」

 リリスはユコに詰め寄るような仕草を見せながら、静かに問いかける。

「な、何ですの?!」

 ユコは、リリスを押し返しながら言った。リリスの聞き方ではダメだと言わんばかりに、ロザリーンは改めて問い直す。

「リンナさんに、『カノコさんが失踪しているのですが、最近見かけていませんか?』と尋ねます」

「リンナは、『カノコは最近ぱったり見かけなくなった』と答えました」

 そこにソニアが乗り出してきてさらに尋ねる。

「人を人形にする、ラブドールだっけ? の話は?」

「それはダッチワイフですの! リップルドール!」

「ものすごい間違いだな……」

 ラムリーザは、ソニアの頭を小突きながら、感心したように言った。

「それで、最後にカノコさんに会ったのはいつになりますか?」

 ロザリーンが的確に質問をしてくれる。戦闘ではなくこういった情報収集では、前衛の二人はあまり役に立たない。

「カノコと初めて会ったのは、数か月前で、リンナたちのチームの中では、一番新しいメンバーだそうですの」

「いえ、初めてじゃなくて最後なのですが」

「あ、間違えましたの。えーと、『最後に会ったのは一週間ほど前ぐらいで、何でももう少しで論文が仕上がるって部屋と図書館を往復してたっけ』と答えました」

「ここでもやっぱり一週間ほど前か」

 ラムリーザとロザリーンは、互いに顔を見合わせて頷く。

「ちなみに、どんな論文を書いていたと思う?」

 ラムリーザは、思わずユコではなくリゲルに聞いてしまった。どうも参謀的なリゲルに、つい助言を求めてしまう癖がついていた。

「リンナは脳筋だから、論文は書けない。カノコは占いについてだろうな」

「リンナって脳筋?」

 ラムリーザは、今度はユコに尋ねた。

「知りません!」

「いや、ユコが用意したNPCじゃないのかな?」

「こほん。そのあたりで、なにか変わったことはありませんでしたか? カノコさんが、だれかと喧嘩してたとか?」

 ロザリーンがいなければ、つくづくゲームは進まない。誰も口にはしないが、実際にそんな空気だ。

「喧嘩っていうか、エレンウェンが一方的に突っかかってるだけなんですけどね!」

 ロザリーン以外がわき道にそれてばかりなので、ちょっとユコは不機嫌になっている。

「よっぽど気に食わないんですね」

「エレンウェンって学院の講師なんだよね。なんで突っかかっていくのかな?」

 今度はラムリーザが尋ねる。二番目に真面目なプレイヤーだ。

「『う~ん、エレンウェンはプライドが高いからね。よっぽど新人のカノコが活躍するのが気に食わないんだろうね』とリンナは答えましたの」

「その二人はなぜそんなに仲が悪いのでしょうか?」

 ロザリーンの問いに、ユコは少し声のトーンを落として答えた。

「リンナは、『今から話すことを黙っていられるかい?』と聞いてきましたよ」

「もちろん、口は固いよ」とラムリーザ。

「私も大丈夫」とロザリーン。

 リゲルとリリスは黙っているが、口は固そうだ。リリスは微妙だが、あまり他の人と話す機会もなさそうだ。

「あたしはしゃべるかなぁ」

 ソニアは空気を読まずに邪魔をしてしまう。

「んじゃソニアは店の外に出ていてもらうということで話を進めよう」

「やだ、聞く」

「じゃあしゃべるな」

「うん」

「要するに、最後にカノコを見たのは一週間ほど前。研究絡みの軋轢もあった――ここまでで合ってる?」

 ラムリーザとソニアの、どうでもいいようなやり取りがあったあとで、ラムリーザは話を戻そうとした。

 するとユコはうなずいて、先ほどと同じトーンで語り出した。

「実はね、私ら五人は皇帝陛下じきじきに任された、とある生物に関する研究をしているのさ」

「とある生物とは?」

「風船おっぱいお化けのことでしょう?」

 リリスの茶々は、あえて無視して話を進める。ソニアは一人憤っているが、これも気にしないでおく。

「まだ私たちにも正体のつかめない未知なる生き物です。皇帝陛下はそれを「エーリアン」と呼んでいた、とリンナは言っていますよ」

「まんじゅうじゃなかったの?」

 ソニアのツッコミも無視して、ユコは話を進める。

「それで、カノコはそれについての論文を書いていたけれど、エレンウェンはどうもそれが気に入らない、と言ってますの」

「どうしてですか?」

「エレンウェンが腹を立てているのは、カノコがラムリーザ様のお気に入りだということですの。エレンウェンは、ある意味ラムリーザ様の狂信者だからね」

「ちょっと待った」

 ラムリーザは、ユコの作り上げた物語の不審な点を見逃さなかった。というより、この展開はあからさまに無茶苦茶すぎる。

「なんで僕がカノコを気に入っているんだよ」

「あら、結構かばっていたみたいですけど」

 リリスは、ここぞとばかりに攻勢をかけてきた。むろんラムリーザを煽っているわけではない。狙いはソニアだ。

「依頼者を保護していただけだよ。ユコはなんかカノコを危険な目に遭わせるような物語展開にしていたし」

「危険から守っているうちに芽生える恋の物語」

「そんなことは、ない」

 ラムリーザは、きっぱりと答えた。ソニアが騒ぎ出す前に話を進めようと思ったが、今の流れはまずい。ユコは物語を進めるために、都合のいい恋愛感情まで勝手に配置しているらしい。

「カノコもそうだけど、うるさいだけの娘より、頭のいいエレンウェンのほうがいいんじゃないのかしら? ――あっ?!」

 しゃべっていたリリスが突然悲鳴を上げた。彼女に向かって鞄が飛んできたからだ。投げつけたのは、もちろんソニアだ。

「アレオ狂信者のリリスは黙ってろ! 一万エルドも貢いだくせに!」

 ソニアの怒声に、リリスはピクッと反応する。ソニアの言ったことは半分事実だ。

「さらにエレンウェンに惚れてるテュリウスが話をややこしくしてくれているんですの」

「テュリウス→エレンウェン→ラムリーザ←カノコね、さすがモテモテのラムリーザ。ソニア、あなたは諦めてクルスカイと平凡な人生を歩んだほうがよいんじゃなくて?」

 リリスは、ソニアを煽り続けている。強引にラムリーザを、別の女のものにしたがっているのがまるわかりだ。

「リリスがアレオと相思相愛になるのなら検討する!」

 ソニアは、アレオ攻撃の一点張りだ。今のリリスは、まだアレオ騒動の傷が完全に癒えてはいない。

「とにかく! 怪しいのはエレンウェンということでいいかな?」

 ラムリーザは、細かいところはごまかして話を進めようと試みた。

 しかしソニアはリリスを睨みつけたままだし、リリスも笑みを浮かべてソニアを眺めている。ロザリーンは、この場をどうまとめたらいいか思案中だが、結論が出ていないようだ。

「エレンウェンが怪しいどころか、断定しても良いんじゃないか?」

 ラムリーザは、リゲルに意見を求めた。リゲルなら、この荒れた場でも冷静な判断をしてくれるはずだ。

「ラムリーザは英雄の名にふさわしい男だが、神ではない。二股どころか三股をして生きていくという過ちを正さなければならないのは、俺にとっても辛いものだ。しかしそれが、エルドラード帝国にとっての最良なのである」

「なんだそりゃ……」

 物語の中でエレンウェンやカノコが一方的に惚れているだけで、現実のラムリーザは、リリスやユコの誘惑を振り切り、ソニア一筋で通していたはずだ。三股とか言われる筋合いはない。

「とりあえず、それでいいから話を先に進めて」

 ラムリーザは、埒が明かないのでユコにお願いすることにした。
              
アンティークショップで、リンナがカノコに似た人形を持ってくる場面
「ええと、リンナは奥から人形を一体持ってきて、『この人形はやっぱりカノコだわ。ユウナ、早く解毒剤を飲ませてあげな!』と言いましたの。その人形は、笑っているのに、目だけが笑っていませんの」

「え? カノコの人形があったんかい」

「『やたらとカノコに似た人形が持ち込まれてきたんだよ。しかも本人が行方不明の間にね。怪しいと思ってとっておいたのさ』とリンナは言いましたの」

 どうやら、リップルドールの影響で、カノコは人形にされていたようだ。これが本当にカノコならば、行方不明事件も解決だろうか?

「とりあえず、カノコ人形が誰かの手元に残って、悪用される状況は避けられたか」

 その後は、ヒーラーのユウナが、カノコ人形を持ち帰って解毒させて元に戻すということになった。めでたしめでたし……か?

「事件解決ですね」

 ロザリーンも同じ考えのようなので、ラムリーザは、変な方向へ話が進みかけた物語が終わることに安心した。

「ちなみに、その人形持ってきた奴は?」

「さすがにエレンウェンでもテュリウスでもなかったようですの」

「ん~、まいっか」

 ラムリーザは、不穏な空気を漂わせるソニアとリリスから離れようと、鞄を整理し始めたが――

「待って、何か釈然としない!」

 ソニアが騒ぎ出した。

「ラムに手を出そうとするエレンウェンを、とっちめてやらないと気が済まない!」

「無事にカノコが戻ってきたから、問題は解決したんだよ」

 ラムリーザは諭してみるが、リリスも納得できないといった様子で反論する。

「今回は戦ってないし、犯人をはっきりさせたいわ」

 まだエレンウェンが犯人だという、はっきりとした証拠はない。

 どうやら物語は、もう少し続くようだ。