ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 第一話 張り紙の依頼
帝国暦九十三年 白霜の月・氷狼の日(現代暦:二月下旬)
この日も部活は、テーブルトークゲーム同好会のような状態だ。
ユコが転校するかもしれないという話は、この日の朝のうちに皆に知れ渡り、もし本当に行くことになったら、盛大なお別れパーティーを開こうという話になった。
しかし、テーブルトークゲームは別腹である。
「もう私がゲームマスターをできる日も残り少ないですの。急いでカノコの物語を完結させましょう。――というわけでリゲルさん、しばらくは私がメインでゲームマスターをやりますの」
リゲルは、「それはかまわんが」と答えた。
「ユコのゲームを続けられるように、いろいろ考えてはいるんだけどね」
ラムリーザはそう言うが、まだ具体的な方法を思いついたわけではなかった。
「それでは今回の物語、『カノコ誘拐事件』の始まり始まりぃ~」
「カノコは前回のあのNPCか。そいつが誘拐されるとなると、相手はかなりの大物だぞ」
リゲルは、神妙な顔つきでラムリーザに話しかけた。
「まあ占い好きのお嬢様だからね、誘拐されることもあるだろうよ」
「いや、カノコは並みの女じゃない。ほら、なんだったか、カノコしか使えないとか、そんなチートな魔法を使っていたじゃないか。そんな奴が簡単に誘拐されるとは思えん」
「そこ、外野うるさいですの!」
リゲルは謎の笑みを浮かべて黙り込んだ。
「それで、ラムリーザの恋人のカノコはどこにいるのかしら?」
リリスの発言に、ソニアが噛みつく。
「カノコとラムは何もない!」
「外野はお黙り! というわけで、いつものメンバーは、これまたいつもの冒険者の酒場でご飯を食べたり、仕事を探したりしていますの」
「暇~、暇~。このマインド・スマッシャーの餌食になるやつ出てこ~い」
「仕事でも探したらどうかしら?」
「仕事かぁ、用心棒かなぁ。リリスも暇そうにしているから、そのノーエアーソードで尻でも拭いていたら?」
「エア・フィールド・ソードよ、変な呼び方しないで」
「生活費も残り少ないな。野宿なら、僕はいいけどソニアはできるかい?」
ラムリーザは、またソニアとリリスが喧嘩を始めそうな流れになったので、急いで口を挟んで会話をぶった切った。
「ラムと一緒なら野宿でも寝るよ」
「貴族出身なのに生活費少ないのですか?」
ロザリーンのツッコミに、ラムリーザは「こほん」と咳払いをした。
「はい、雑談はそこまでですの。それで、そうやって楽しく談義してると、一枚の張り紙を見つけましたわ」
「張り紙を剥がして、リリスの額に貼り付ける」
「張り紙の内容はよく見かける行方不明者の捜索願いです。でも、そこにはよく見知った顔が描かれていますの」
ユコは、前回と同様にソニアの意味不明な宣言を無視して話を進めた。
「見知った顔って誰だろう? ここにいない人だよね」
「そういえば、ゾンビ騒動のときにはいたけど、ここにいない人ってユコだよね」
ユコのキャラクターは、自分がゲームマスターをしているときは出られないので、他の人がゲームマスターをしている物語にしか登場しない。
「そこには、以前一緒に冒険した『カノコ』が描かれていたのであった!」
ユコは、周りの雑音をかき消すように、力強く宣言した。
「カノコ、か」
「ラムリーザの恋人」
ラムリーザとリリスは、ほぼ同時につぶやいた。それをソニアが聞き逃すはずがない。
「違う! カノコはリリスの恋人! レズ! 変態! むぐぐっ――」
「なるほど! カノコが行方不明になっていて、捜索願が出ているのだね」
ラムリーザは、不穏な発言をするソニアを押さえ込んで話を元に戻した。
「俺には、いまいちカノコの素性がわからんのだが」
リゲルは腕を組んだまま考え込むそぶりを見せた。リゲルにとって、カノコはゲームバランスを崩すチートキャラでしかなかった。
「一緒に冒険した相手でもありますし、行方不明なら当然探さなくてはいけませんね」
卓の空気は、ゲームを純粋に楽しむラムリーザとロザリーン、粗を探して考察するリゲル、そして不真面目なソニアと茶々を入れるリリスの構図だった。
「行方不明になったのは、数日前からですの。捜索依頼者は、マコといってカノコの妹だそうです」
「ふむ、カノコの出てくる次の作品に登場した、カノコに似たようなキャラを選んだか。ユコ自身に見た目が似ている奴をセレクトしているな?」
リゲルは、うんうんと頷きながら、自分とユコにしかわからないような台詞を言った。
一方ラムリーザは、カノコもマコもユコみたいな響きだな、くらいの認識だった。
「マコもリリスと一緒にカノコと三人で――」
「こほん、調べてみるか。魔族が絡んでいるかもしれないしね、そうだろソニア?」
ラムリーザは、また余計なことを言いそうになるソニアを遮って話を進めた。
「まぁ暇だし、やってみようかな?」
「暇……ってソニア、君は知り合いが行方不明になってるのに心配じゃないのか?!」
ラムリーザは、能天気なソニアの発言にツッコミを入れた。暇じゃなかったら、カノコの捜索はなしか? まぁ一度一緒にダンジョン探索をしただけといえばそれだけだが。
「心配だよ~?」
ソニアは、不自然な笑顔で答えた。
「明るく言うな、明るく。説得力に欠ける!」
「とまぁ雑談をしているところに、ちょうどよく依頼人が酒場にふらふらやってきましたの」
「カノコ――じゃなくて今回はマコか。マコってどんな感じの少女なのかな?」
「たぶんカノコと同じ金髪で、おっとりとして和やかな天然系。見とけよ、絶対『あらあら、まあまあ』と言うからな。ちなみに、カノコと同じく巨乳だ」
「そこ! 話を逸らさない!」
リゲルの考察を、ユコは一刀両断にぶった切った。痛いところでも突かれたか?
「でも、マコさんのことをこっちは知らないけど、大丈夫ですか? カノコさんに似ている――って、これはリゲルさんの考察なだけで、実際はどうなのかわかりませんし」
ロザリーンが心配することももっともだ。カノコなら覚えているが、マコとは初対面になってしまう。
「カノコに似ているけど、金髪かどうかはわかりません。マコは、張り紙の前に集まっている君たちのところにやってきました」
「いや、金髪かどうかは見たら分かるんじゃないか?」
ラムリーザの問いに、ユコは「赤髪ですの!」と答えた。リゲルに考察された設定から変えたようだ。
「髪の色なんてどうでもいいんですの! マコは、皆さんこんにちはぁ~と挨拶してきた」
「ゆったりとした口調でか?」
ユコは、リゲルのツッコミをスルーして何も答えない。
「とりあえず、カノコに何があったのか尋ねてみます」
ラムリーザはあくまで、真面目に物語を受け入れて話を続けた。
「ド~ンと、相談してよ。格安だよ~」
一応話には参加しているが、妙に軽いソニア。
「知り合いの不幸を、商売にするな」
ラムリーザも、一応突っ込んでおく。
「ええと、姉がここ数日帰ってこないのと、いつもなら外泊なんてめったにしないし、してもちゃんと連絡をしてくれるのに、と説明しました」
「どこに行くとか、言っていませんでしたか?」
「マコは、何も聞いていないと答えます。最近は研究が忙しいからって部屋にこもりきりなことのほうが多かったそうですの」
「研究?」
「カノコしか知りません、使えませんの魔法でも作っていたんだろう」
リゲルのツッコミを、ユコはまたしてもスルー。
「お偉いさんから、ええと、『何とかマン』の研究を任されているらしいですの。書類にはその言葉だけ、何度も出てきたそうですわ」
「マン?」
「そうかっ! おまんじゅうの研究だっ!」
「それは違うと思う」
今日は、妙なところでラムリーザとソニアのボケとツッコミが炸裂していて、まるで夫婦漫才だ。
「おまんじゅうならあなたの胸に、大きなのが二つついているじゃないの。いや、あなたのはおまんじゅうにしては大きすぎる。でかまんじゅう、くすっ」
「うるさいちっぱいまんじゅう!」
「こほん! ええと、『マン』ってどういう研究者なのかな?」
油断すると、すぐにソニアとリリスが喧嘩を始めるからいけない。
「マコは、『研究については難しい書類だらけで全然わからない』と答えました」
「研究のスパイにでも拉致されたのかな? 何か部屋に残っていませんでしたか? 手がかりとか……」
ロザリーンの問いに、ユコは「一応、当時のままにしてあります」と答えた。
「行方不明と研究に関連性があるのかどうかわからないが、行ってみたほうが早いんじゃないかな?」
「鍵と手紙は残っていないか? ……両親と兄弟たちと一緒に、遠くへ引っ越した線もあるだろう」
「ええと、男はラムリーザ様とリゲルさんで、残りは女ですね」
ユコが完全にスルーするので、リゲルの考察は独り言になってしまっていた。
「男女、関係あるのか?」
「マコは、『男の人に部屋を見せるのは恥ずかしい』って言っていますの」
「そんなものなのか?」
ソニアと同居しているラムリーザには、その考えがいまいち理解できなかった。部屋の中ではソニアは、ラムリーザがいるにもかかわらず、肌を見せながらうろついていることも多々ある。
「それで、探し出したらいくら報酬をくれるのかしら?」
リリスが静かに、そして大事なことをつぶやいた。
「マコは、『たくさん払えたら、こんな苦労はしません……』と答えた」
「あらあらまあまあ、か」
リゲルは笑みを浮かべながらつぶやき、ユコはキッと睨みつける。
「とりあえず行ってみましょう、ここにいても進展しませんし」
「そうだな。まあ、カノコならいい報酬くれそうだ」
「おそらくこいつからもらえるのは、とても霊験あらたかな奴が売りつけた、五十万ぐらいする幸運を呼ぶ壷あたりだろう」
「マコは『みんなついてきて』と言って、先導して酒場から出ていきました!」
リゲルの一言一言をあえてスルーするのは、ユコにとって何か思い当たる節があるということだろう。もっとも、二人にしかわからない清らかさの低そうな内容なので、他のメンバーは意図せずスルーしていたが。
「リリスは根暗吸血鬼でムッツリだから、女の部屋でも何をするかわからないよ」
「ソニアの足を蹴っ飛ばします。足元見えないから、回避不可能ね」
ソニアとリリスは、今回もまた二人で勝手にバトルを始めてしまった。こうなると、残った三人でしか調査はできない。
「さて、カノコとマコが暮らしていた部屋に到着しました。二人は一つの部屋で共同生活をしていて、ちょっと散らかっています」
「散らかっているって、どんな感じかな?」
「ん~、机の上は紙だらけ、床の上は本と服だらけですわ」
「机の上のものを調べます」
ラムリーザの宣言にユコは、『セージ技能+知力』を基準としたロールを要求した。それに従い、ラムリーザはダイスを転がす。
「う~ん、その結果だと書類に何が書かれているかはわからないですねぇ」
「あたしタンスの中を調べる!」
さっきまで外でリリスとバトル中だったはずのソニアが、いつの間にか部屋の中にいる体で宣言した。
「タンスを見るなら、シーフ技能と知力判定をしてくださいの」
ソニアは、ダイスをころころと転がす。ユコは、その結果だと「きれいに畳まれたハンカチが見つかった」と答えた。
「ハンカチ? パンツじゃなくて?」
「それはどうでもいいですの。とにかく、机の上を探った人は全員『シーフ技能+知力』で判定してください」
「僕は分からなかったけどね」
ラムリーザに続いて、ロザリーンが判定するために、ダイスを転がした。
「あっ、ロザリーンは指にちくっと痛みを感じたよ」
「えっ? 何かしら?」
「よく見ると、剃刀レターが見つかりましたの。どうやら剃刀の刃で切れたみたいですね。……さて生命力による抵抗ロールをしてもらいましょう」
ロザリーンがダイスを転がしている横で、ラムリーザは気になったことがあるので尋ねてみる。
「マコさんに、何か心当たりは? と聞きます」
「ん~、最近研究チームとの関係で悩んでいたみたいだけど、思い詰めて家出するようなタイプじゃない、と答えました。あ、ロザリーンは抵抗に成功していますわ」
ソニアとリリスも机の上を調べていたが、二人ともロザリーン同様剃刀レターに引っかかってしまっていた。
「二人ともダイスを一個だけ振ってください。ええと、このパーティーにはシーフ役はいないんですの?」
「確かリゲルがシーフじゃなかったっけ?」
「もうリゲルさん! 考察ばかりしていないで探索して下さいですの!」
その間に、ソニアとリリスはダイスをそれぞれ転がしていた。リリスは六を出し、ソニアは四を出した。
「やった、私の勝ちね」
嬉しそうに微笑みを浮かべるリリスと、悔しそうに睨みつけるソニア。
「勝負じゃありませんの。えっと、ソニアは身長がぴよっと一メートル縮んでしまった」
「えっ? 一メートル?」
みんなの視線がソニアに集まる。
「なっ、何よっ! 胸じゃなくて身長でしょ?!」
「あなた、またおっぱい膨らんでないかしら?」
なめるような視線でソニアの胸を眺めながらリリスはつぶやいた。
「そういうリリスは、背中に蝙蝠状の翼が生えてきました」
「へー、ますます根暗吸血鬼に拍車がかかったね」
トラップに引っかかった者同士が、罵り合ってしまう。
「悪いのはリゲルさんですの。最初からリゲルさんが調べてくれていれば、あなたたちはそうなっていなかったのかもしれないですわ。マコの素性がどうのこうのなんてどうでもいいことばかり気にして」
ユコはぶつぶつと文句を言っている。
「なんだ? 化け物屋敷と化したか」
他人事のようにリゲルは、自分が招いた現状を楽しんでいた。
「とにかく、みんなダイスを振ってください。セージ技能を持ってなくても、知力を足していいですの!」
なんだかユコは、やけになったような、いらいらとした口調でロールを促した。
まずはソニアが転がした。
「う~ん、わかりませんわね」
続いてリリスが転がす。
「う~ん、わかりませんわねぇ」
その次は、ラムリーザが転がした。ラムリーザはセージ技能を持っているので、結果は二人よりも高かった。
「う~ん、ラムリーザ様には『なんか愉快な毒があったなぁ~』って記憶が脳裏をかすめましたわ」
「そっか、二人の症状は何らかの毒によるものなんだね。待てよ、その剃刀に毒が塗られていたということは、カノコもその毒にやられたのかもしれないな」
ようやく物語が進展したからか、ユコのいらいらは少し和らいだようだ。
「さすがラムリーザ様、鋭いですわ。マコは、『毒なら、カノコ姉さんのチームの中に一人ヒーラーがいたような』とつぶやいています」
「では、その人に聞きに行きますか?」
ロザリーンは一同を見渡して尋ねた。
「うん、それでいいね。ところで、そのヒーラーってどんな人?」
「マコは、ユウナという小柄な人がヒーラーで、表向きは薬屋をやっているらしい、と言っています」
「薬屋か、二人の状態を治してくれるかもね」
「その人が何か知っているかもしれませんね」
「早く治してよ、リリスは翼でかっこいいけど、あたしこんなちっちゃいのやだ!」
そういうわけで、ユウナというヒーラーの薬屋へ会いにいくことになった。マコによれば、ユウナはカノコと親しそうだったし、何か知っているかもしれない。
続く――