ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


リーダーの選択、親友への無茶振り

帝国暦九十三年 白霜の月・賢者の日(現代暦:二月下旬)

 ラムリーザはこの日、珍しい客を屋敷に迎えることになった。

 ユコは何度か来たことがあるが、レフトールと子分のマックスウェルは初めてだった。

「珍しい組み合わせだね」

 ラムリーザの一言にレフトールは、「ゲーセン連合だぜ」と答えた。

「そっか、でもここはゲームセンターじゃないよ」

 そう言うとレフトールは、「これからゲームセンターになるんだぜ」と答えた。

 ラムリーザが首をかしげると、マックスウェルが横から「違うんだな」と突っ込んだ。

「格闘ゲームする? あたしが相手になるよ! なるよ!」

 よく考えると、ある意味ここもゲームセンターなのかもしれない。

 ソニアは、新しいカモ、いや新しい対戦相手を迎えられるかもしれないということで、楽しそうにしている。

「サイコ投げと宙二蹴りハメしかやらねー奴とは勝負しねーよ。それよりもだ、ラムさん」

 レフトールは、いつになく真面目な顔つきで語り出した。

「今日はラムさんに頼みがあって来たんだ。ユコを匿ってくれないか?」

「匿う? 何か危ない問題でも起きているのか?」

 数日前からユコの様子がおかしいので、ラムリーザはいよいよ不安になってしまう。今のユコも、なんだかそわそわしていて落ち着きがない。

「ああ、匿うって言い方はおかしいな……そうだな、居候させてやってくれないか?」

「居候って……簡単に言うけど」

 ラムリーザは三人を自分の部屋へ案内しながら、いったい何の話を持ち込んできたんだ? と考えていた。

 一方ソニアは、早速格闘ゲームを起動してソファーに座り、自分の隣をバンバン叩いて「座れ」と促している。ゲーム画面ではいつものキャラクターが待ち構えているが、もちろん誰も相手にしない。

「ユコ、一昨日の夜からいったいどうしたの? 昨日は学校休んでいたし」

 ラムリーザに話しかけられても、ユコは口を尖らせたまま黙り込んでいる。

「ラムさん、こいつこの春に転校するかもしれないんだ」

「転校? え? ユコ、引っ越すの?」

 ユコは、面白くなさそうにラムリーザと視線を合わせないまま頷いた。

「どこに引っ越すの? ……いや、今はそこじゃないか」

「そうだよ。で、こいつはラムさんたちと離れ離れになるのを嫌がっている。そういうわけで、ラムさんの家に匿う――じゃなくて、居候させてやってくれってわけだ」

 そこでラムリーザは、ある程度の事情がわかってきた。一昨日にユコが、突然メイドとして雇ってくださいと言ったのも、ラムリーザの屋敷に住み着いて、これまでどおり学校に通うつもりだったからだろう。

「ユコのお父さんの仕事は何だい? 権力を利用するみたいで何だか気が引けるけど、こちらに残れるように仕事を斡旋することもできると思うよ」

 ラムリーザは、そう提案してみる。次の春から本格的に始動するフォレストピアの開発には、人手はそれなりに必要になるはずだった。

「お父様は、地方の運輸を担当していますの。三年前からこのポッターズ・ブラフ担当として働いてきましたが、出世して次の春から新しい町で運輸の取りまとめをすることになったみたいなんです」

「運輸かぁ。この地方だと、シュバルツシルト鉄道の職員ってところだね」

「そう、それ」

 レフトールは、ない知恵を絞って提案した。

「リゲルのところが取りまとめやってんだろ? リゲルに頼み込んで、親父さんに取り計らってもらえばいいんじゃないか? この人事を止めてもらうようにさ」

「それなら、僕じゃなくてリゲルに頼まないと」

「いやぁ、ラムさんは人当たりが良いから相談しやすいけど、リゲルはどうも苦手だ」

 レフトールは、頭をかきながら照れくさそうに言った。

「それはわかる気がする。でもなぁ……」

 ラムリーザは、リゲルと父親の関係については、リゲルから聞いていてよく知っている。リゲルの元彼女ミーシャの件で、父と息子の関係は今のところ冷え込んでしまっていた。そんなリゲルが、父親に頭を下げるだろうか……。

「とりあえず、ラムさんのところに居候させたら、転校する必要はなくなるんだけどな」

 そこでラムリーザは、いつもソニアが言うことを聞かないときに、脅しに使っている施設があることを思い出した。

「そういえば、学校指定寮の桃栗の里ってのがなかったっけ?」

「親が入寮を許してくれないんだとさ」

「ああ、ユコを手放したくないのね。その気持ちも分かる、分かるけど、どうしよっかなぁ」

 ユコを手放したくない両親の気持ちも分かる。友人たちから離れたくないユコの気持ちも分かる。

「二つに一つだ」

 レフトールは、指を立てて言葉を続けた。

「ラムさんがユコを引き受けるか、ユコの親に転校を止めさせるかだね」

「いや待って、寮に入れたくないのなら、僕のところに居候させるのも反対されるんじゃないかな?」

 それでなくても、ラムリーザ自身がこの歳で人を引き取るのは難しいだろう。また、転校を止めさせると言っても、仕事の都合による転勤なのだから仕方がない。学校指定寮に入れるにも、親の同意が必要だ。

 ラムリーザも、ソニアの生活態度が悪くなると、寮に入れるぞと言って脅している。その件については、ソニアの言動を親に報告してしまえば、実現は難しくないだろう。

 要するに、ユコは残りたい。親は手放したくない。寮も居候も親の同意が要る。――となると、根っこは転勤そのものだ。

 ラムリーザは、そこで腹を決めた。リゲルに頼ろう。嫌でも、ここはそれしかない。

「ねー、あたし待ってるんだよ。誰か対戦しよーよ!」

 相談に加わらず、相変わらずソファーをバンバン叩きながらずっとゲーム画面の前で待っているソニアが口を挟んできた。

「おっぱいちゃん、ゲームなんかで格闘せずに、俺とそこにある大きなベッドの上で格闘しないか? へっへっへっ」

 レフトールは、ソニアの巨大な胸を凝視しながら、いやらしい笑い声を上げて言った。

「こらこら、まだ昼前だぞ?」

 ラムリーザのツッコミも、どこか的が外れている。

「おっ、夜なら問題ないのか。ん? 待てよ? ソニアはラムさんの屋敷に居候? それともたまたま遊びに来ているだけ?」

「居候になるのかなぁ?」

「あたしもここに住んでるもん。それより対戦!」

「めんどくせぇ。マックスウェル、相手をしてやれ」

 レフトールは、ソニアのお守りをマックスウェルに押し付けた。しかし、マックスウェルも嫌そうな顔をする。

「えー? こいつ、ハメ技ばかり使う奴だろ? 前にピートがゲーセンで喧嘩になってたじゃんか、そんな奴と対戦するのは嫌なんだな」

 ソニアの格闘ゲームでの悪名は広まっているようだ。負け役を引き受けてくれるラムリーザ以外は、まともに対戦に応じてくれなくなっている。

「はいこれ!」

 ソニアは、二つ目のコントローラーをマックスウェルに押しつける。不本意ながら、マックスウェルは対戦に応じるしかなくなってしまった。

「でもさぁ、ラムさんが他人のソニアと住んでいるのなら、そこにユコを加えてあげても問題なくね?」

 レフトールは現状を見て軽く考えているが、ラムリーザとソニアの事情は年季が入っていて、普通の関係ではない。恋人同士の同棲、というのも語弊がある。けれど生まれたときから同じ屋根の下で暮らしてきたのだから、この現状も自然に受け入れられている。

 しかしユコが急にそこに加わるとなると、さすがにラムリーザにも抵抗があった。

「ソニアは恋人だしね」

 そこでラムリーザは、無難な回答をしておく。

「ユコも恋人にすれば?」

 レフトールも無茶を言う。ラムリーザは、その状況を想像して、ある先輩の顔が浮かび上がった。

「……いや、それだとニバスさんになってしまう」

「ニバス? ああ、あのハーレム先輩か。いいじゃん、ラムさんもハーレム作れば。このユコと、ついでにあの根暗吸血鬼とか連れ込んでも、誰も文句言わねぇって」

「こら、その呼び方をしない。僕の仲間でいたいのなら、リリスと名前で呼べ」

 ラムリーザは、レフトールに厳しい顔をしてみせた。それに数か月前、子分に「またハーレム作ってやがる」と言わせたのは誰だ? と問い詰めたい。

「お、ああ、す、すまん。リリスとユコね。そういえば、ユグドラシルが生徒会長に当選していたな」

 レフトールは、慌てて世間話を混ぜ込んで誤魔化す。ラムリーザたちはあまり話題に上げていなかったが、少し前に投票結果が出て、ユグドラシルは無事に生徒会長に就任することができていた。

 一方テレビの画面では、ソニアの操る緑色の軍服男が、マックスウェルの操る格闘家を画面端に追い込んで、宙二蹴りハメと呼ばれているハメ技で固めていた。

「とにかく、ユコのことだが……」

 そこで、これまでほとんど口を開かずに聞いてばかりいたユコが、ようやく口を開いた。

「みんなありがとう、私のためにここまで動いてくれて……」

「まだ少し期間があるから、なんとかしてみるよ」

 ラムリーザは、あまり望みは持てないが、ユコを安心させるようなことを言った。

「そうだな、たとえ遠くに行ってしまっても毎日手紙を送るよ。想いのすべてを送るから、遠く離れてしまってもな」

 レフトールの安心させようとする言葉は、少し芝居がかりすぎている。

「あはっ、レフトールさんのその台詞って、なんだか歌の歌詞にできそうですわ。遠く離れてしまっても、毎日手紙で想いをつづるなんてね」

「で、レフトールのユコに対する想いって何だい?」

 ラムリーザの問いにレフトールは、「愛だろ、愛!」と力強く答えた。

「レフは、ユコと付き合っていることにしているんだな」

 マックスウェルは、ソニアと真面目に対戦することを放棄していた。適当にコントローラーを操作しながら、顔は画面ではなくラムリーザたちのほうを向けて、茶々を入れてくる。

「ほんま? いつの間に?!」

 マックスウェルの一言を真に受けて、ラムリーザは驚く。

「私は付き合っていませんの!」

「だよなぁ。ま、俺もおっぱいちゃんのほうがいいけどな」

 ユコに力いっぱい否定されて、レフトールは頭をかきながらソニアの胸へ手を伸ばそうとする。だが手が届く前に、ラムリーザに腕をつかまれてしまった。

「ダメだ。ソニアに触っていいのは、僕が許したときだけだ」

 レフトールは、ラムリーザにつかまれた腕を慌てて引っ込ませるが、ラムリーザはガッチリとつかんでいて離さない。

「待って待って待って、手を離そう、離そうじゃないか、力入れたらダメだぞ、あーダメだ。こりゃダメだ、困った困った」

 レフトールの、ラムリーザ握力恐怖症もすっかり染みついてしまっている。慌てふためいて、おかしな台詞を発している。

「ちなみに、今日は帝都でライブだ。これからそろそろ出ようかなと思っていたところだけど、レフトールはどうする?」

 ラムリーザの手から逃れたレフトールは、つかまれていた腕をかばいながら「それすげーな、行ってみたいぞ」と答えた。

「汽車賃は持ってるのか?」

 マックスウェルの冷静なツッコミに、レフトールは「うぐ」と顔をしかめる。

「いいよ、今日だけなら僕が出してあげる。せっかくだからマックスウェルも行こうか」

「おう、行こうぜ行こうぜ」

 すっかり乗り気になってしまったレフトールは、マックスウェルも同行するように促した。

「ちょっと! この人さっきからよそ向いて適当なプレイしかしていない!」

 ようやくソニアも、マックスウェルが真面目にゲームをプレイしていないことに気がついた。マックスウェルは、ただ画面端でガードしているだけだ。そこにソニアは、ひたすら同じ技で体力を削っているだけだった。

「よし、このせっこい奴の相手は、今度は俺様がやってやる」

 レフトールは、ユコの問題が少しは良い方向へ動いたので安心して、ソニアの相手をしてやるのだった。

 ラムリーザは軽口を受け流しながらも、心の中ではもう決めていた。――リゲルに頼る。そう決めて、彼に連絡を取った。

 指が止まったのは一瞬だけだった。それでも送信を押した。――押すしかなかった。リゲルに頼むのは、ずるい。そう分かっていても、他に動かせそうな駒がなかった。

 リゲルにユコの事情を話し、「転勤をなかったことにできないか、父親に話してみてくれ」と頼んでみたのだ。

 リゲルは現在父親とは仲が悪い。そういうわけで最初は渋ったが、ラムリーザの熱心な頼み込みで、少しぐらいなら話してみる、と受け入れてくれた。
              
ラムリーザが、ユコの転校をなんとかするために、リゲルに連絡を取ったあとの場面
「これでよし」

 ラムリーザは、ユコの目の前で親指を立ててみせる。それを見たユコも、嬉しそうに微笑むのだった。

 ユコの笑顔は、久しぶりに軽かった。その笑顔を、もう一度だけ守れた気がした。

 少しは、気が楽になったかな?

 そうだといいのだけどね。