ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


TRPG第二弾「カノコの依頼」 第三話 魔剣二本目と、覚悟の血判

帝国暦九十三年 氷紋の月・学匠の日(現代暦:一月下旬)

 エア・フィールド・ソードを誇らしく掲げるプリースト、ロザリーンが誕生した。
 
 この日は部室に集まって、テーブルトークゲームで前回の続きをすることになった。しかし魔剣の所持をめぐってソニアとリリスが互いに譲らず、結局ロザリーンが持つことでその場を収めた。

 というより、そうでもしないと二人が争ってばかりで話を開始できないのだ。

 前衛が持てば活躍の場を得られる魔剣だが、これは苦肉の策だった。ソーサラーのラムリーザは武器で戦う機会がほとんどないし、シーフのリゲルはゲームのルール上この魔剣を使いこなすことができない。そこで、剣で戦う機会もあるプリーストのロザリーンが持つことになった。

「はい、それでは続きを始めますの」

 無駄な時間を過ごしてしまい、ゲームを開始する前からユコは疲れきっていた。前衛二人も、開始前からいがみ合っている。

 ユコは、とりあえずスケルトン・ウォーリアーを出して、戦闘場面にすることで、場の空気を立て直そうとした。

 だが――。

「敵が出たん? それなら魔剣を装備したローザが戦えばいいんだ。あたしの剣は弱いから戦わないほうがいいと思う」

 早速ソニアは、ふてくされたような態度を取ってしまう。

「そうね、ロザリーン、魔剣の威力を見せてもらおうかしら。私が出しゃばると迷惑をかけるかもしれないわ」

 リリスも機嫌が悪く、嫌味なことを言っている。

「ちょっとあなたたち! 真面目にプレイしてください!」

「まあいい、このぐらいの敵なら僕たちだけでなんとかなるよ」

 ラムリーザはそう言って前に出ると、四体のスケルトン・ウォーリアーにファイアーボールをぶち込んだ。

 しかし、スケルトン・ウォーリアーたちを殲滅することはできず、致命傷を受けた一体を除く三体が襲いかかってきた。

「一体は私がなんとかします」
              
ロザリーンが、魔剣を振り上げて一体のスケルトン・ウォーリアーへ切り込んでいく場面
 ロザリーンは、魔剣を振り上げて一体の敵へ切り込んでいく。だが、残りの二体がラムリーザに飛びかかってくる。

「やばい。ソーサラーは装甲が薄いから、こいつらの攻撃を受けたらすぐやられるかもしれん」

 ラムリーザも一応ファイター技能を持っているが、ソーサラーの魔法を使うための制約によって、盾や鎧を着込んでいるわけではない。

 リゲルも直接戦闘には不向きなシーフなので、身を挺してラムリーザを救うことはできない。

「だいたい、ソーサラーが前に出すぎているのがいかんのだ」

 リゲルは、ラムリーザの猪突をとがめた。

「そんなこと言ったって、前衛が働かないのだから仕方がないじゃないか」

「ふむ、ソニアは自分勝手な考えでラムリーザを危険な目に遭わせるんだな」

 リゲルの辛辣な意見に、ソニアは強気で反論する。

「前衛は魔剣を持ったローザ! ローザがちゃんと戦わないからピンチになるんだ!」

 戦闘を放棄してちゃんと戦っていないソニアが、普通に戦っているロザリーンを糾弾する。無茶苦茶だ。

「スケルトン・ウォーリアーの打撃点はいくつ? 僕は装甲が薄いよ?」

「そのとき、カノコがファイア・シュートという炎の矢を飛ばす魔法を使って一体を攻撃し、同時にプロテクションの魔法をラムリーザにかけて防御を援護してきました」

 ラムリーザは、一体の敵に対して回避ロールを行うが、回避できずにダメージを受ける。しかし、カノコのかけてくれたプロテクションの効果で、致命傷は免れた。

「ありがとう、カノコちゃん」

 ラムリーザは、実際にはこの場にいないNPCのカノコに礼を言う。

 だがリゲルは、「待てよ」と口を挟んできた。

「さっき、同時に魔法と言わなかったか? 魔法は一ターンに一つしか使えないはずだが?」

「はい、カノコはスピード・スペルという魔法技能を持っていて、一ターンに二つの魔法を使うことができるのですわ」

「なんだそれは……」

 リゲルは、ユコが作り上げたオリジナルルールに眉をひそめた。だが、それほどルールを熟知していないラムリーザには、その魔法がものすごく魅力的に見えていた。

「へぇ、それはすごいね。僕もそれを使って、右手からファイアーボール、左手からブリザード、合わせてヘルファイアー! とか合成魔法ができるんだね」

「いいえ、スピード・スペルはカノコが独自に開発したもので、一部の人しか知りません。また、彼女以外が使用することは、事実上不可能ですの」

「なんだそりゃ……」

 ラムリーザは落胆して、リゲルと同じ台詞をつぶやいた。

「まあよい。それよりもだ、今回の敵が魔剣でも隠し持っていたことにして出せよ」

 リゲルは、ゲームマスターに命令するという越権行為に出た。自分の作ってきたシナリオに口を出されたユコは、一瞬嫌な顔をしたが、ソニアとリリスの様子を見て、「それもそうですね」と答えた。

「ええと、スケルトン・ウォーリアーを退治したあなたたちは、敵の装備の一つである魔剣マインド・スマッシャーを手に入れましたわ」

「あ、それいいね。それならソニアとリリスで魔剣を一本ずつ分けることができる」

「スケルトン・ウォーリアーは、剣まで含めて一つのパペットゴーレムのはずだが……」

 いいアイデアだねと喜ぶラムリーザと、その判断にツッコミを入れるリゲル。

「何ですの! あなたが出せと言ったんじゃないですか!」

 リゲルは、自分でいい案を出しておきながら、あとからその案の欠点を突いてくる。そう、先日のネットオークションでの海賊船長エルリグのように。

「あたし、エア・フィールド・ソードがいいから、リリスがマインド・スマッシャー持ったらいい」

「ダメよ、私がエア・フィールド・ソードを使うわ」

 どうやら魔剣を二本出しても、この二人はいがみ合うようだ。

「マインド・スマッシャーのほうがかっこいいと思うから、ソニアはそっちにしなさい」

 放っておいたら延々と平行線をたどるので、ラムリーザは根拠のない理屈を作り上げて、ソニアを一歩引かせることにした。

 ラムリーザに諭されて、ソニアはおとなしく引き下がった――と見せかけて、最後っ屁を放つ。

「エア・フィールド・ソードを使ってたら、ノーエアーう〇こが出やすくなって取り返しのつかないことになるんだ。陰湿なリリスにぴったりね」

「マインド・スマッシャーって呪われた剣で、装備すると足元が見えなくなるのよ、怖いわね。まぁあなたは元から見えてないから関係ないけどね、くすっ」

 不毛な争いでは、リリスも負けてはいない。

「二本とも呪われた魔剣で、二人とも呪われたことにしていいから、ゲームマスター、話を進めてくれ」

 ラムリーザは、どうでもいいことはスルーして、ユコにゲームの続きを語らせた。

 

「さて、地下四階まで潜ったあなたたちは、また新しい部屋へたどり着きました。カノコが――」

「カノコのそばから離れない」

 ラムリーザは、食い気味でカノコを守ろうとしてみた。前回、カノコが閉じ込められたことがあったからだ。

「カノコが部屋に入ったとたん、クリスタル状の物質に閉じ込められてしまいました」

 ――が、残念ながら無理だった。カノコを救うことはできなかった。

「部屋に持って帰って飾る」

「そのとき、どこからともなく『彼女を助けたくば、汝らの覚悟を見せよ』という言葉が聞こえてきましたわ」

 ソニアの宣言を無視して、ユコは物語を進めた。

「覚悟か……」

「今は十七時だよ」

 ラムリーザは、ソニアがいきなり時刻を告げたので何事かと思って聞き返した。

「だってさっきユコが、何時? って聞いたから」

「いや、それ『なんじ』違いだから……」

「あほは放っておいて、カノコを助ける方法を考えましょう」

 リリスは、またソニアに喧嘩を仕掛けてきた。

 ラムリーザは、いきり立つソニアを抱えて押さえ込み、「覚悟って何だろうね?」とみんなに聞いた。

「そうだソニア、あなたそのJカップかKカップか知らないけど、それでクリスタルを挟んでみなさいよ」

 リリスはさらに喧嘩を仕掛けた。どうも魔剣絡みの件で、今日の二人はいつもに増して仲が悪い。

「なんでそんな変態じみたことしなくちゃダメなのよ!」

「そのぐらい覚悟を見せなさい、一メートル様」

「だまれちっぱい! この大平原!」

 リリスのどこが大平原なのかわからないが、比較の問題でソニアから見たら大平原なのだろう。

「覚悟を見せるって、他の作品――あの、ユコさんが知っている作品でそのようなケースはありましたか?」

 ソニアとリリスが喧嘩をしている一方で、ロザリーンはリゲルと相談している。ラムリーザは、どちらに加わるべきか考えようとして、その考え自体が無意味だということにすぐ気づいた。

「クリスタルを破壊……いや削ることはできないかな?」

 ラムリーザが質問すると、「クリスタルは破壊不可能です」という答えが返ってきた。

「あっ、そうだ。覚悟を決めてクリスタルにアレオふりかけをかけます!」

 ソニアは、ゲームマスターのユコではなく、リリスのほうを向いて宣言した。明らかにゲームではなくて、単純にリリスに嫌味を言っていること間違いなし。

 アレオ製品で痛い目に遭ったリリスは、ぎりりと歯ぎしりをする。

 場は、ユコから見て真っ二つに割れていた。二人掛けのソファーと、一人掛けのソファーが二つずつ向き合った配置だ。

 ゲームマスターのユコは一人掛けのソファーに座り、マスターシートで手元を隠している。ユコの正面の一人掛けにはリゲルが陣取り、二人掛けにはユコから見て、リリスとロザリーン、ソニアとラムリーザが座っていた。

 ゲームマスターの目の前に不真面目な二人がいるものだから、非常にやりにくい。

 結局ソニアとリリスはお互いに正面を向いたまま罵り合い、それを無視して残りの三人は相談していた。

「この場合、クリスタルの前で何かしらの行動を示すか、クリスタルに何か手を加えるかのどちらかだ」

「あなた、クリスタルの前で着ているものを全部脱ぎ捨てなさいよ」

「クリスタルに水でもかけてみるか?」

「クリスタルにアレオカレーをかける」

「水をかけることが覚悟になるかしら? 覚悟と言うくらいだから、それなりのことはやってみせないと」

「あなた、クリスタルの前で裸踊りしてみなさいよ」

「覚悟を決めたとき、リゲルなら何をする?」

「そうだな、商談とかなら土下座もありうるが、俺はそこまで卑屈になれない」

「リリスをクリスタルの前で土下座させる」

「ユコさんの持ってきたシナリオですから、元ネタがあるはずです。カノコって何でしたっけ?」

「エロゲ――こほん、美少女ゲームのヒロインだ」

「というと、覚悟を決めるとなると、告白かな?」

「ラムリーザ、告白してみろ」

「な、なんで僕が……」

「あなた、ラムリーザよりカノコが好きと言いなさい。それでラムリーザは私に譲りなさい」

「な、なんであんたなんかに!」

「ラムリーザ……」

「ん?」

「とりあえずそっちのあほを黙らせろ」

「リリスにクリスタルをなめさせ――むーっむーっ!」

 ラムリーザは、ソニアを抱え込んで、自分の胸にソニアの顔を押し付けて抱きしめた。片方が黙れば、罵り合いは終わる。

 雑音は消え去り、再び作戦会議が始まった。

「覚悟を見せる。覚悟を決めたとき、どのようなことをするのか……」

「カノコというキャラはこの際関係ないだろう。ユコはただゲームから名前を取っただけで、実体はオリジナルルールを振りかざすチート魔導師だ」

「そういえば――いえ、関係ないかもしれませんが――」

 ロザリーンは、あらかじめそう断って話を続けた。

「私、先日新開地の開発について聞いてから、ユライカナンについていろいろ調べてみたのです」

「ユライカナン?」

「フォレストピアの食糧の件で、ユライカナンの習俗にも目を通していたのです」

「まぁ、確かにゲームとは関係なさそうだがな」

「食文化だけでなく、儀礼や誓約の形も少し調べていました。するとユライカナンでは、誓いの文書などで血判状というものが使われているそうです。書状で覚悟を示す際に、自らの血で捺印するらしいです」

「血液か……」

 少しの間、部室に沈黙が訪れた。

 その沈黙を破ったのは、リリスとラムリーザだった。

「ソニアは処女じゃないから血液は――」

「マスター! クリスタルに血液で捺印します!」

 リリスが事実無根のことを言いそうになったので、ラムリーザは慌てて遮って宣言した。

「もっと派手に言ってほしいですの!」
              
ラムリーザが、クリスタルに鮮血を浴びせた場面
「手の甲を切って、鮮血を浴びせる!」

「ビンゴ! クリスタルは砕け散り、カノコは解き放たれました」

 ラムリーザたち三人は、やれやれと肩をなでおろす。ソニアは顔を押し付けられていたラムリーザから解放されて、プハーッと深呼吸をする。リリスはすまし顔で特に何もしない。

「さて、地下四階は他に行くところはなく、いよいよ最後の地下五階に通じる階段へたどり着きました。あなたたちは――」

 そこで、いつもの下校時刻を告げる放送が流れ始めた。

「今日はここまでだね」

「ああもう、リリスとソニアが文句ばっかり言うから、あまり話が進みませんでしたの!」

「リリスが悪い」

「ソニアが悪い」

「魔剣を二本用意するという機転を利かせられなかったユコが悪い」

「リゲルさん!」

 ソニアとリリスの言い合いはいつものことだから無視するものの、リゲルの指摘したところはユコにも痛かったので思わず怒鳴り返してしまった。

 リゲルは肩をすくめると、さっさと鞄を手に取って帰宅してしまった。

「続きは明日――いや明日は、練習する日にして、明後日にしようね」

 年末ごろは遊んでばかりだったので、今年に入ってからはせめて遊びと練習を半々にしようとしていた。

 というわけで、次回はいよいよダンジョン最深部。

 霊薬エリクシャーは見つかるのか?

 強敵が待ち構えているのか?

 今は誰にも、わからない……。

 だけど、だからこそ面白い。ダンジョンの最深部は、いつだって「くだらなさ」の向こう側にある。