ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
TRPG第一弾「死と埋葬」 第一話前編 葬儀屋兼村長
帝国暦九十二年 静寂の月・氷狼の日(現代暦:十二月上旬)
放課後、部室にて。
前回のキャラクター作成に続いて、今日は実際にテーブルトークゲームをプレイすることになった。
ゲームマスターはリゲル。急遽話を仕上げたということで、内容は粗削りだというが、テストプレイも兼ねているのでそれでよいことにした。
今日も部室中央のソファー周りに集まって輪になっている。
「さあ、百エルド賭けなさい。何が出るかな? 入ります!」
リリスは今日のために持ち込んだダイスを使って、何やら勝手に遊びだした。そのうち一つを手のひらに乗せると、そのままテーブルにかぶせるように置いてダイスを隠す。
ソニアは「三」と言って銀貨を一枚置く。ユコは「六」と言って同じように銀貨を置いた。ロザリーンは参加せずに、不思議そうに三人を眺めていた。
二人が銀貨を置いたところで、リリスはゆっくりと手を上げた。手の中にあったダイスは、一の目を上にして止まっていた。
「はい外れ、銀貨は没収ね」
リリスは微笑を浮かべ、二人の銀貨を回収した。
「えっと、君たちは何をやっているのかな?」
リゲルは腕を組んだまま静観しているので、ラムリーザは仕方なくリリスに尋ねた。
「チョボイチよ。ダイスの目を当てられたら、賭け金の四倍のお金をもらえるの」
「はぁ? チョボイチ?」
「ラムリーザも賭けていいのよ」
「それじゃあ金貨一枚――じゃなくて、ゲームは? テーブルポークだっけ?」
「テーブルトークゲームですの」
「あーもう、それでいいから、そっちはやらないのか?」
リリスはクスッと笑って答えた。
「いいわ、二百エルド稼いだし」
「ちょっと待ってよ! あたし取られただけじゃない!」
「あーうるさいっ。リゲル、早速ゲーム始めてくれ」
「チョボイチやりたいのなら、俺は別にかまわんぞ」
リゲルは、腕組みを解いてギターを手に取る。
ラムリーザはリリスからダイスを取り上げ、騒ぐソニアをなだめて、改めてリゲルにゲームをやってもらうよう頼み込んだ。
リゲルは「仕方ないな」という顔でギターを床に置き、全員にキャラクターシートを配り始めた。先日作成したキャラクターの設定は、一枚の紙に記録されていて、リゲルが管理していた。
「では始めるぞ。えーと、お前らは全員死んで、このゲームの世界に転生……、いや転移したということにしよう。いや、転移だとダメか、転生だな」
「ずいぶんと乱暴な展開だな」
「仕方ないだろ。キャラクターを作るときにユコがお前らをそのまま作ると言って、そのとおりに作ったんだから」
「せめてワープとかにしないか?」
「それだとお前、魔法使いになれないだろ?」
ゲームの導入からこの調子で、なかなか始まらない。それにソニアやリリスが騒ぐのではなく、ラムリーザとリゲルが真顔で討論している。
「ラムリーザ様、これはそんなゲームですの」
ラムリーザはユコにそう言われて、これ以上突っ込むのはやめようと考えた。
「よし。それじゃあ、俺の運転するバンにお前ら全員が乗っていたところ、運転を誤って谷底に転落してしまった。バンは爆発し、お前らは全滅してしまった。魂だけが次元の裂け目に吸い込まれ、気づけば見知らぬ空の下だ、ということにする」
リゲルは事務的な口調で言い捨て、手元のメモをめくった。
「ちょっと生々しいぞ、それは……」
「ラムリーザ様!」
「ぬ、すまん……」
こうして、物語が始まった。
ラムリーザ、ソニア、リリス、ロザリーンの四人は、十六歳になったとき、駆け出しの冒険者になっていた。すっかり顔馴染みになっていた四人は、今日も冒険者ギルドで次の仕事を探していた。
ソニアとリリスは、勇敢なのか無謀なのかわからない戦士であり、ロザリーンは竜神テフラウィリスに仕える竜巫女。そしてラムリーザは、冒険に憧れていた魔導師学校の生徒だった。
「という設定にしておく。文句はないな?」
現実世界での全滅から、異世界転生後の流れまでを一通り語ってから、リゲルは一同を見回した。
「私はいない扱いなんですの?」
「お前は今後ゲームマスターと掛け持ちになるから、サブキャラ扱いとする。それでいいだろ?」
「冒険者ギルドって何ですか?」
「細かいことは気にするな、依頼所みたいなものだ」
いくつか指摘が入ったが、三人が頷く中、リリスだけは一つ注文をつけてくる。
「ラムリーザと私が恋人同士という設定をつけておいてね」
「なんでそうなるのよ!」
当然ソニアが噛み付いてくる。
「ラブコメは、やらん。キャラ同士の細かい関係設定は、お前らで勝手に作っておけ」
リゲルは短く答えて、話を続けた。
そこへ、ユコがやってくる。
この四人組には、いつもユコが仕事を持ち込んでくることになっていた。
ユコは一人の男性と一緒に酒場へ入ってきて、まっすぐに四人の集まっているテーブルに向かった。
その男性は、田舎の村フィオリーナの自警団員で、村で起きた事件についてひどく困っているので、助けてほしいと言った。
彼の名前はシェリフ。彼は、四人に「フレディ・ルモイン」という男を知っている者がいるか尋ねた。
「あたし知らない」
「うん、聞いたことないね」
「まあ、ユコは知っているということで、話を進めよう」
「なんだかサブゲームマスターみたいですわね。いいですわ、ええと、彼は自称画家でしたっけ。知っていますわ」
「ん、それでいい。シェリフは、そのフレディという男が大変なことになってしまったので、村に来てもらいたいと言ってくる」
リゲルの語りで物語は進んでいくが、ラムリーザは少し突っ込んでみた。
「自称画家って何?」
「適当に思いついただけですの」
「そ、そうか……。で、大変なことって?」
「まあ突っ込むな。それで、そのフレディとやらが、何者かに襲われて重傷なのだ、と言っている」
「なるほどね」
ラムリーザは納得し、ソニアはなぜかわくわくしたように言った。
「魔物か? 猛獣か?」
「いや、魔物って……」
「異世界だからな、ありえることだ」
そう聞いて、ラムリーザはゲームだということを思い出した。少し現実的に考えすぎたようだ。
話は続く。
シェリフは「とりあえず村まで来ていただけないでしょうか?」と頼んだ。
大怪我をしたということなら、プリーストのロザリーンが役に立つだろう。
そういうことで、ラムリーザたち四人は、ユコ、シェリフと共に、田舎の村フィオリーナへ向かっていった。
村の様子は、一見すると何も問題が起きていないように見える。ひっそりとした感じで、村人も何も起きていないかのように普通に生活している。
まずは、村長に挨拶しておくことにして、四人は村長の屋敷に向かった。
「シェリフは、村長に会っておきましょうと言う。彼の話では、村長は葬儀屋も兼ねているそうだ」
「不思議な村だな……」
「嫌な兼業ですね……」
ラムリーザとロザリーンが、それぞれ感想を述べる。
「そのままシェリフに案内されて、村長のいる部屋へ通される」
「やぁ、村長さんおはこんばんちは!」
ソニアが無意味に明るく挨拶する。
「ちなみに部屋の中には、一人の初老の男と、横たわっている女の死体がある」
「……リゲル悪趣味! あたしその部屋に入らない!」
明るく挨拶したかと思えば、すぐに怒った顔でリゲルを糾弾した。ころころ忙しい娘だ。
「えーと、死体? 葬儀中?」
「ですよね……村長兼葬儀屋ですし……」
「シェリフは、『ドップス?』と呼びかけるが、村長は作業に夢中でこちらに気がつかない」
「ソニアが部屋に入らず騒いでいる隙に、ラムリーザのそばに寄っていくことにするわ」
「ラブコメは知らんから、そういう行動は好きなだけ勝手にやってくれ」
「待ってよ! ラムに近寄るな根暗吸血鬼!」
「死体があるから部屋に入れない小心者、くすっ」
「死体は怖くないけど、村長が気味悪い!」
「黙れ、話を続けるぞ」
さっそく口喧嘩を始めようとしたソニアとリリスを制して、リゲルは話を続けた。
シェリフに大声で呼ばれて、ようやく村長のドップスは、こちらに気がついて振り返る。
「ああ、失礼。わしが村長のドップスだ」
ドップスと名乗った村長は、さらに語り始めた。
「コリンズ夫人は意外に厄介だったのだ……。かわいそうに……戦いの最中に死んだような顔だった。厚化粧のほうが売春婦の葬式には喜ばれる」
どうやら、ドップスは死に化粧をしていたようだ。話はさらに続く。
「まるで子供の工作みたいなものさ。なくなっていた目玉はおが屑で作って入れた。義歯は、アルミの箱を曲げて作った。頭蓋骨の前面は、後部の骨で補った。片手の指がなくなっていたので、羊皮紙で包んで別の手を重ねた」
誰も頼んでいないのに、ドップスは長々と語り、最後には両腕を広げて自画自賛するような仕草を見せた。
「これを見ろ、わしの作った作品を! これは芸術だ。わしは芸術家だ!」
ゲームマスターリゲルの台詞に、部室内はしんとしてしまった。
「ん? どうした?」
固まってしまった一同に気がついて、リゲルは話を止めて尋ねた。
「いや――」
ラムリーザは、遠慮がちに口を開く。
「――すごい設定だな。専門家はすごいというか、なんというか……」
「嫌! この村長嫌!」
「悪趣味ね……」
ソニアは不満そうに叫び、リリスも顔をしかめてつぶやいた。
「戦闘中に死んで、身体が欠損しているということね」
一人、ロザリーンだけが落ち着いて対応する。ゲームだと割り切っているなら、この反応が正しい。
「とりあえず、悪趣味な演説は置いておいて、用件を聞きたいんだけど、いいかな?」
「待って、遺体をチェックします。欠損の仕方に、不自然な点はありませんか?」
ロザリーンの宣言に、リゲルは首を横に振って答えた。
「村長は、『こらっ、そこ。わしの芸術に触るでない』と言って、チェックを阻んできた」
「いやいやいや、芸術ってあのね……」
ラムリーザは再びツッコミを入れるが、リゲルは知らん振りだ。
「いや、まだチェックする前なのですけどね」
「さて、自警団員のシェリフは、『村長に挨拶も済んだことですし、早速病院に向かいましょう』って言っているぞ」
リゲルは話を進めようとするが、ラムリーザは遺体が気になり、聞いてみることにした。
「それよりも、そこの夫人はどうして死んだんだ?」
「村長は、『わしは葬儀屋じゃ、死因までは知らんぞ』と答える」
「いや、指とか目とかなくなっているんだろ? それなら、普通に死んだわけじゃないと思うけど」
「そうね、フレディと同じ者に襲われたのかもしれませんわ」
「というより、どこで死んでたのかな? 死因だったら、過度のダメージによるショック死か失血死だと思うけど」
「やっぱり遺体を調べてみる必要がありそうですね」
「村長は調べさせないようにしている」
「いやいやいや……」
リゲルはなぜか遺体を調べさせないので、話が進まない。
その代わり、自警団員のシェリフが「病院から連絡があって、昏睡状態に陥っていたフレディの意識が戻った」と言った。
「殺人事件なのだから、遺体の確認ぐらいさせてくれないと困るけどなぁ」
「そうね、遺体確認を不許可にしていたら、村長にも嫌疑がかかりますね」
ラムリーザとロザリーンの二人がしつこく食い下がると、リゲルもようやく遺体の確認を許可してくれた。
「村長はかなり偏屈で、自分の仕事場に踏み込まれるのを嫌がっている。だから簡単には見せないのだが、それならセージ技能を基準に、知力ロールで判定してみろ」
「判定?」
「ダイスを二つ振るんだ」
「それじゃあ私が調べます」
ロザリーンはそう言うと、ダイスを二つ手に取って転がした。その目は三と六を示している。
「死んでいるのが不思議だ。外傷も、争った痕跡も残っていない、というところだな」
「あー、そういえば死体の傷は修復したんだったな……」
「そういうことだな」
ラムリーザのつぶやきに、リゲルはにやりと笑う。
「えーと、この人がどこで倒れていたか、村長は覚えていますの?」
「村長ではなく、シェリフが『この人は、村の通りで何者かに襲われていました。私が駆けつけたときにはすでに……』と言う」
ユコとリゲルの会話を聞いたラムリーザは、ここは場所確認だけしてさっさと病院に行こうかと考えた。フレディという生き証人がいるのだから、村長よりフレディに聞いたほうが話は早い。
リゲルは、フレディのほうは、村の近くの川岸で倒れていたと言った。
「良いのかしら、連続殺人事件かもしれないけど……」
ロザリーンは、まだ何か腑に落ちないようだったが、村長にこれ以上話を聞いても無駄だと感じたのは、ラムリーザと同じだった。そこでラムリーザについていき、病院へと向かうことにしたようだ。
そこまでプレイしたところで、ラムリーザは、ソニアとリリスが先ほどから全然話をしていないことに気がついて尋ねてみた。
「ところで、ソニアとリリスは静かになってるけど、どうしたん?」
「私はファイター、戦闘になったら呼んで頂戴」
「あたしもバトルやりたい。推理はおもしろくなーい」
「そ、そうか……」
二人にとっては、推理より「殴れる相手」のほうが分かりやすいのだろう。
こんな感じで、初めてのテーブルトークゲームは進んでいった。
ラムリーザは、少し冷たくなった部室の空気を深く吸い込み、次のページをめくるリゲルの指先を、じっと見つめていた。
机の上の紙とダイス、そしてリゲルの淡々とした語り。
ラムリーザは、思っていたよりも鮮やかに、頭の中に景色が立ち上がってくるのを感じていた。
まだ手探りだけれど、次に何が起きるのか、少し楽しみになっていた。