ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


アフレコ案件発生、文化祭が忙しい

帝国暦九十二年 黄昏の月・守護者の日(現代暦:十月中旬)

 授業中のこと。

 そろそろ定期試験の結果が返ってくるころだ。果たして勉強会の成果は出たのだろうか。

 ラムリーザは、自分の結果を見てひとまず安心した。ソニアたちの勉強を見ながらでも、なんとか平均点は維持できたようだ。

 一応普通に授業は聞いていたし、ノートも取っていたし、直前に復習も少しはやった。これで平均点が取れなければ、試験の難易度が高すぎると言えるかもしれない。

 前回と同じく、ユコがこちらを振り返って勝負を挑んできた。

「あ、一点負けましたわ。何でもお申し付けください」

「だから君は、なんでいちいち勝負したがるし、負けたら負けたで身を捧げるんだね? あ、命令できるのね。なんでもかんでも勝負事にしないこと、以上」

「あーあ……」

 ユコはしゅんとしてみせるが、知ったことではない。

 ラムリーザにとって、ユコは何の問題もない。試験で問題があるとしたら、彼女ではなくて看板娘の二人だ。

「ソニア、結果はどんなだ?」

 早速ラムリーザは尋ねたが、ソニアはまたしても答案用紙を隠そうとする。

「隠しても無駄だぞ、補習になったらがっかりするだけだ」

 ソニアは「むー」とうなったが、仕方なく答案用紙をラムリーザに手渡した。

 相変わらずバツが多い。

 だが、前回よりもやや丸が多い気もする。

「あっ、ソニアは39点ね、また勝ったわ」

 リリスはうれしそうに答案用紙を見せてくる。

 こちらは41点。決して良くはないが、前回の倍近い点が取れている。いや、前回が悪すぎただけ、一応進歩はあったと見てあげよう。ソニアは前回、十点台だった気がするし……。

 問題は、今回の赤点基準だ。前回は35点だったが、今回は?

 そのとき、担当の教師は前回と同様に宣言した。

「えー、今回は38点未満の者は補習を行うので、放課後集まるように」

 これまた同じように、クラスの一部から不満そうな声が上がる。

「やったーっ!」

 一方ソニアは、答案用紙を掲げてその場に勢い良く立ち上がった。

 ああ、一点ギリギリでパスしたね、おめでとう。ラムリーザは、心の中で拍手をしてあげる。

 リゲルとロザリーンは問題ないので、今回は誰も補習に引っかかることはなく……って、やめなさい!

 ソニアは、うれしさのあまり席を離れて、不思議な踊りを踊っている。

 まあいい、今は好きなだけ踊らせておいてあげよう。

 ラムリーザは、寛大なのだ。

 

 放課後になり、今回はみんな揃って部活に行ける。

 文化祭のクラスの出し物としてカラオケ喫茶をやることになったので、即席でもいいから、一曲でも多く演奏できるようにしておいたほうがいいだろう。

 その前に、演奏できる曲のリスト作りをレルフィーナに頼まれていたっけ……。そう思いながらラムリーザが教室を出たときだった。

 クラスメイトのデドロワとガーディアが、急いでラムリーザのそばにやってきた。

「ラムリーザくん、それに皆さんっ」

「なんぞ?」

「文化祭の出し物でR18ゲームを出すから、協力してくれ。あ、俺たち電脳部なんだ、よろしくな」

「お、おう……。でもなんでR18?」

「君たちは以前、校庭ライブで、そういった類の歌を披露してたから、そっちに理解があると思って」

「いや、理解があるのはユコだけなんだけど……いや、リゲルもか?」

 ラムリーザがユコに話を振ると、彼女は乗り気で「任せてください」と言った。

 だが、リリスは「冗談じゃない」と否定的だ。そりゃそうだ。

 そもそも、学校行事でそういう方向に寄せるのは、さすがにまずい気がする。

「あたしがメインヒロインなら引き受けるよ! 引き受けるよ!」

 いや、オファーは演劇じゃなくてR18ゲームだぞ? ソニアは話をちゃんと聞いていたのか?

 ラムリーザは心の中で頭を抱えたくなった。

 だがソニアは、以前ギャルゲーのイベントをなぞっていておもしろかったようで、快く引き受けている。ギャルゲーじゃなくてR18ゲームなんだけどな。R18ゲームなら、えーと、その、見せられないようなこともするのだろう。いいのだろうか?

 ラムリーザは瞬時にそのような考えを巡らせ、慌てて口を挟んだ。

「待て、R18ゲームはいかん。せめてR15に……というか、文化祭でR18の出し物をしてOKなのか?」

「それはもっともだ……。仕方ない、表現はR15までに抑えておこう」

「大丈夫ですの!」

 ユコが割って入る。余計なことを言うなよ……。

「見せられない部分はカットしますわ!」

 ……もういい。好きにしてくれ。怒られるのは君たちだ。
              
ソニアたちが、電脳部の出し物になる予定のゲームの手伝いを決める場面
 こういうわけで、電脳部の出し物になる予定のゲームでは、登場人物のイメージとしてラムリーザの周りの女の子たちが選ばれたのだ。

 理由は単純で、以前「そういう曲」を歌っていたから……。

 それと、風紀監査委員に目を付けられたらめんどくさいということで、やはりR15あたりにとどめておくことにしたらしい。それならとりあえず安心して、好きにやらせよう。

 話を進めていくうちに、電脳部の二人はある一点に難色を示し始めた。

「ところで、ソニアをメインヒロインにするのはちょっと……」

 当然ソニアは反発する。

「なんで?! あたしのどこがいけないの?!」

「いや、その……ソニアは胸が目立ちすぎる……。やるなら爆乳枠で……。メインにすると、ゲームの方向性が極端になってしまう……」

 ぼそぼそと言葉を選ぶように説明するが、そんなことで納得するソニアではない。

「何よ! 『強まったソニア姫と雑魚のちっぱい集団』ってタイトルにすればいいじゃない!」

「それはちょっと……」

 まあ、そうだろう。ラムリーザは、自分は関係ないという顔をしながら、しっかりと聞き耳を立てていた。

「というわけで、メインヒロインはロザリーンにしたいのだけど、いいかな?」

「仮面優等生がそんなにいいの? あんた騙されてる!」

 一人、ソニアがわめき立てるが、電脳部の二人に通じるはずもない。二人ともきょとんとした顔で聞き返した。

「かめん? かめんって何だ?」

「ローザはね、表では真面目な優等生だけど、裏では攻撃的で怖いのよ」

「まじで?」

「ソニアさん、変なイメージ作るのはやめてください」

「攻撃的で怖いのはお前だろうが」

 ロザリーンとリゲルは、口々にソニアを非難する。

 それに対してソニアは、「攻撃的で怖いのはリゲルだ」などと言い出して、もう何が何だかわからない。

 結局、何の話だかわからなくなったので、ラムリーザはもう一度尋ねてみた。

「えっと、僕の仲間をスカウトしてどうするんだい?」

「それはだねぇ、文化祭に向けて作るR18――あいやいやいや、ギャルゲーのオープニングテーマやエンディングテーマ、それと台詞のアフレコをお願いしようかなってね」

「台詞? 声優の仕事ですの?」

 ラムリーザと電脳部とのやり取りに、ユコが乗り出した。

「まぁ、そういうことになるかな」

 それを聞いて、ソニアが調子に乗ってくる。

「へー、すっごーい。こんな感じ? えへん――赤子のほうが歯応えあるわ! 力無き者は見るのも汚らわしい!」

 ソニアが芝居がかった啖呵を切ると、ラムリーザ、リリス、ユコの三人が、それぞれ別のことを頭に浮かべて顔をしかめた。

 リリスとユコは、試験勉強会の日にラムリーザを怒らせて、ゴムマリを破裂させたのを思い出していた。一方、ラムリーザは、対戦で何度その台詞を見たことか。

 ラムリーザは、ソニアを押しのけて話を進めた。

「それで、イメージとか言ってたけど、実写でソニアたちを撮影するのか?」

「いや、グラフィックはCGで描くよ。ただ、キャラのモチーフになってもらいたいだけなんだ」

「あとテーマソングだけど、うちのメンバーに作詞能力を持った人はいないよ」

「それは以前、校庭ライブで歌ってくれたアレでいい。あの歌結構良いし、イメージにぴったりだ」

「あれは元々ギャルゲの歌らしいし――」

「あっ、大事なこと忘れてた!」

 今度はソニアがやり取りに割り込んでくる。

「そのゲームの主人公は誰? 誰のイメージ?」

「クラスのイケメンのスカイテイルをイメージしようと思って――」

「やめた!」

 ソニアは、さっきまで乗り気だったのに、突然降板を申し入れた。

「待ってくれ、スカイテイルはかっこよくていいじゃないか?」

「ラムが主役じゃないとやらない」

「……巻き込むな」

 ラムリーザは、自分は絶対に参加しないぞ、という意思表示をする。

「あ、それもそうね。私もラムリーザが主役じゃないとやらないわ」

「私もですの」

 ソニアに続いてリリスとユコも降板宣言をする。

「君たちはまったく……」

「ついでに言うなら、リリスルートがメインになるようにしてね」

 いや、メインはロザリーンで行くと言っていたのだが、もうどうでもいいことになっている。

「うーん、まあいいか。こういったゲームの主人公の顔は出ないし。じゃあラムリーザくん、主人公のイメージになってくれていいかな?」

「えー、僕も台詞しゃべるのか?」

 どさくさに紛れて、ラムリーザも参加しなければならない空気になっている。アフレコなど、恥ずかしくてやっていられない。

「いや、主人公はイメージだけ。こういうゲームには主人公の声は入れないんだよ」

 そういえば、ソニアが買ってきたギャルゲー『ドキドキパラダイス』も、主人公の台詞には一言も音声が入っていなかった気がする。

 ラムリーザは、ソニアがプレイしなかった「後輩のおとなしい女の子」ルートを攻略したので、ある程度覚えている。つまり、そういうものなのだろう。

 そういうわけで、ラムリーザはしぶしぶ電脳部の依頼を引き受けることにした。しかし、ちゃんと断りも入れておく。

「わかった、好きにしていいよ。でも、先日のホームルームでカラオケ喫茶することになったのは知っているよね? 僕たちは、それに向けて準備する必要もあるから、空いた時間にってことで頼むよ」

 ラムリーザの申し入れに、電脳部の二人は「大丈夫」と答えた。

「アフレコ作業には、録音できる場所が必要なんだよね。でも、放送部は遊びでは使わせてもらえないから、軽音楽部のマイクを借りようと思ってたんだ。つまり、録音場所として軽音楽部の部室を借りたいんだ。歌の収録もあるから、部室を貸して!」

 ラムリーザは、それなら演奏の合間にアフレコさせてもいいか、と思った。気分転換にもなるだろう。

「あまり邪魔にならないようにね」

「ありがとう、恩に着る」

 話がまとまったところで、ラムリーザはふと思うところがあり、他の人に聞こえないように電脳部の二人に近寄って小声で聞いた。

「ところで、リリスはいいのかい?」

「え? なんで?」

「いやほら、印象とか……。なんというか、昔……」

「昔? リリスを知ったのは、この学校に入ってからだけど。美人だと思うよ」

「そうか、ならいいよ」

 この二人は、たぶん今まではリリスとは別の学校に通っていたのだろう。

 

 こうして「ラムリーズ」の女性陣は、文化祭での電脳部の出し物であるギャルゲーにイメージ提供と声(アフレコ)として登場することになった。

 文化祭の準備だけでも手一杯なのに、今度は録音と台詞。

 ソニアたちは強気に見えて、いざ「声」を入れるとなれば、案外そわそわするかもしれない。

 それに――主人公のイメージが自分だなんて、面倒だし照れくさい。けれど、少しだけ……悪くない、とも思ってしまった。

 活動場所は同じ部室なので、それほど大きな変化はないかもしれないが、いったいどうなることやら。