ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


秘技、エターナル・ライディーン! んん? よっわ!

帝国暦九十二年 陽翼の月・創世の日(現代暦:九月下旬)

「ここの駅前に、ゲームセンターがあるんですの。一度みんなで行ってみませんか?」

 この日の放課後、ユコは部活が始まってしばらくした頃に提案した。要するに、今日はみんなで出かけよう、ということだ。

「そういえば、みんなゲーム好きだけど、ゲームセンターには行かんの?」

「えーと――」

 ラムリーザの問いに、ユコはちょっと言いにくそうに視線を斜め下へ落として言葉を続けた。

「――ゲームセンターは、不良のたまり場ってイメージだから、怖いんですの……」

 ユコはリリスと一緒によく出かけているが、そういった理由で、ゲームセンターに二人で行ったことはこれまでになかったのだ。

「あたしはラムと一緒に帝都で何回か行ったことあるよ。別に普通の遊び場所じゃん」

 空気を読まないソニアが、不思議そうに言った。それに対してユコは憤慨して答えた。

「ラムリーザ様と一緒なんだから、怖くなんかないでしょ?! ソニア、あなたはとことんずるいですの!」

「そうね、ソニアはずるいわ。それは否定しない」

「な、何よ二人して……」

 声を荒げるユコに、リリスも加勢してソニアを責めた。二人掛かりの攻撃を喰らって、ソニアは少し言葉に詰まってしまった。

「リゲルはどうなんだい?」

「ん、俺はたまに行くことはあるけどな」

「よし、それじゃあ今日はこれからゲームセンターに行くか」

 ラムリーザは、リゲルも誘ってゲームセンターに行くことにした。最近はリゲルも多少は丸くなって、音楽活動以外の部活のイベントにも参加してくれるようになっていた。そこにロザリーンの存在が大きいのだが。

 ユコが怖くて行けないなら、ラムリーザが一緒なら行ける、ということなのだろう。だったら、ついて行ってやろうという気になったのだ。

「ラムリーザ様とリゲルさんがいてくれたら平気ですわ」

 ユコは、嬉しそうにみんなを先導して街に繰り出したのだった。

 

 ポッターズ・ブラフ駅前のゲームセンター『ゲーマーズ・ヘヴン』は、帝都にもあるような、普通のゲームセンターだ。一回あたりのプレイ料金が銀貨一枚で百エルドというのは帝都でも同じで、高くもなく安くもない。

「一度これをやってみたかったんですの。ユーナのイベントで改造……っと、なんでもないですわ」

 ユコはメダルゲームに興味があったようで、早速銀貨をメダルに交換して遊び始めている。

 筐体の上部からメダルを投入し、いい位置に落ちると何枚かのメダルが下の取り出し口に落ちてくる仕組みだ。

 単純な仕組みのゲームだが、ユコは一心不乱になってメダルを次々に投入している。

 ラムリーザはユコの隣に腰掛けて、メダルを一枚拝借して同じように投入してみた。

 チャリンと落ちたメダルは、せり出してきた壁に押されて他のメダルを押し、その結果、三枚ほどのメダルが取り出し口から転がり出た。

「まあ、こんなもんか」

 ラムリーザは、とりあえずメダル一枚を三枚に増やしてユコに返すと、周りを見渡した。

 

 見たところ、リゲルはロザリーンと二人でエアホッケーをして遊んでいるようだ。二人で円盤をパコパコ打ち合っている。

 ソニアを探すと、ソニアはリリスと一緒にパンチングマシーンで勝負しているみたいだ。荒っぽいやつらだ。

 二人が遊んでいるゲームは、『ジーフォース・ティターン』という名前で、パッドを殴りつけた際の速度や打撃力に応じて『ギガ』という単位で数字が表示される仕組みになっている。

 交互に打ち合っているようだが、新記録が出るたびに押しのけて挑戦しているのだ。だいたい60ギガ前後の勝負だが、筐体によって数値や単位が異なっているので、ラムリーザ自身も打ち込んでみなければ、それがどの程度の威力なのかわからなかった。

 ラムリーザはしばらくの間、メダルゲームをやっているユコの隣に座って、ソニアたちの様子を眺めていた。

 二人とも、一部を除けばほぼ同じ体型なので、筋力にも差がないのか、どちらかが圧倒しているわけでもない。いい勝負を交代で打ち合い続けていた。

 そのとき、ソニアがラムリーザのほうへやってきた。

「ユッコ、一発でいいから、あれ殴ってみて」

 ユコも参戦させようというのだろう。だがユコは否定的だ。

「いやですの。私はあなたたちみたいな野蛮人じゃないですわ」

「別に人を殴るわけじゃないんだから、関係ないじゃないのー」

 ソニアは、嫌がるユコを無理やり立たせて、引きずっていこうとした。

「ああもう! ラムリーザ様、そこでメダルを見張っててくださいね」

 そういうわけで、ユコはパンチングマシーンのほうへ行き、ラムリーザはユコの席とメダルを監視することになってしまった。とりあえず一枚拝借してもう一度投入してみたが、今度はうまくいかずに一枚もメダルが出てこなかった。これは黙っておこう。

 

「秘技、エターナル・ライディーン!」

 

 嫌がっていたわりにはなんだかノリノリで、大袈裟な技名を叫んで、ユコはパッドを思い切り殴りつけた。相変わらずちょっとしたところで妙な芝居を打つ娘だ。

 しかし結果は48ギガ。技のイメージとは裏腹に、それほど威力はなかったようだ。

「弱いね」

 リリスは微笑を浮かべてつぶやいた。

「何ですの! 私は華奢なの。あなたたちみたいなゴリラ女じゃないですわ!」

 ユコはそう吐き捨てて、メダルゲームへ戻っていった。まあ、ユコの体つきはソニアたち二人より華奢だ。それほど力がなくても不思議じゃないだろう。

 だがユコの一言は、リリスの煽りを生み出してしまったようだ。

「ソニアはゴリラじゃなくて、牛なんだけどね」

「何でよ! 誰が牛よ! あたしが牛だったら、リリスはカラスじゃないの! それかゴリラのゴリリス!」

 ソニアは憤慨した勢いをそのままゲームに持ち込み、数歩後ろに下がって助走をつけながら叫んだ。

 

「トルネードミキサー!」

 

 そのまま勢いに乗ってパッドを殴りつけた。どうでもいいが、助走をつけてのプレイは、禁止じゃなかったっけ?

「それ、牛の超人だから、くすっ」

 リリスはさらに煽ったが、結果は70ギガ。助走をつけた分、威力が増したようだ。

「やった、70到達! どや!」

 そのままどや顔でリリスのほうを振り返って、得意げになっている。

 そのときである。

「女子供が粋がってるんじゃねぇよ」

 荒っぽい声とともに、ガラの悪い男が三人現れた。こういうのがあるから、ユコは一人で行きたくなかったんだな。

「何よ! だったらあんたはどうなのよ!」

 リリスは黙り込んでしまったが、ソニアはこういうときも強気だ。70ギガと表示されているボードを指さして、三人を挑発している。

 ラムリーザは、言い合いぐらいなら放っておこうと考えた。もし乱暴を働き始めたら、いつでも飛び出せるように身構えてはいたが。

 ソニアの挑発を全然気にすることもなく、一人が前に出てソニアを押しのけてパッドを強打した。明らかに先ほどまでとは衝撃音が違う。だがまあ仕方ないだろう。体格差がある以上、敵うわけがない。

 記録は100ギガ。

 ソニアは悔しそうにして黙り込んでしまった。いや、そこで悔しがっても仕方ないって、などとラムリーザは心の中で突っ込む。

「まあざっとこんなもんだ。女子供はあっちのジャングルジムででも遊んでなって」

「ふっふっふっ」「ふっふっふっ」

 三人組は声を合わせて煽ってくる。揃いも揃って大人げないやつばかりだ。

 そこにリゲルがやってきた。いつの間にかエアホッケーは終わったようだ。

「むっ、リゲルか?」

 どうやらリゲルのことは三人には知れ渡っているようだ。これが知名度というやつか。

「ちょっとそこ通るぞ」

 リゲルは何も関心がない風を装って、突然パッドを殴りつけた。衝撃音からしていい勝負か?

 記録は112ギガ。

「うわ、やった! なんだ、たった100ギガなんだね。どや! 112ギガだぞ!」

 ソニアは自分が打ったわけじゃないのに、一人で調子に乗って自慢し始めた。

「……馬鹿か」

 リゲルはそんなソニアを、いつもの冷めた目で睨み付けている。

「くっ、リゲル、そいつはお前の女か? 踊り子ちゃんじゃなかったのか?」

「こんな騒がしい女は、知らんな」

 リゲルはさらに鋭い目でその男性を睨み付けると、そのままパンチングマシーンの前から立ち去っていった。そのまま格闘ゲームのほうへ行き、誰かがプレイしているところに乱入して対戦を始めた。

「ちょっと待って? 今、騒がしい女って言った?!」

「うるさい女だな……」

 三人組の中で、一番体格のいい男性がソニアを押しのけてパッドを殴りつけた。パッドはさらに激しい音を立てて叩きつけられる。

 記録は120ギガ。

「う……」

 ソニアは再び言葉に詰まってしまった。自分よりも50ポイントも多い記録に少し怯えているのか、一番体格のいい男性をチラチラとしか見ることができない。

 調子に乗ったり落ち込んだり、ソニアも忙しい。

 

「ちょっと、勝手にメダル取らないでよ!」

 ラムリーザは、隣に座っているユコが突然不満そうに声を張り上げたのを見て、いつの間にかリリスが傍に来ていることに気づいた。

 リリスは、ガラの悪い三人と関わりたくなかったようで、リゲルが立ち去ったあたりでパンチングマシーンから離れていたらしい。

 リリスはユコの文句を気にも留めず、奪い取ったメダルをラムリーザと反対側の筐体に投入する。残念ながら、メダルの落ちた位置が悪すぎて、一枚も返ってこないという結果になったが。

「ねぇ、ラムリーザは見てるだけなの?」

 リリスは先ほどから何もしていないラムリーザに問いかけた。

「まあね。パンチングマシーンぐらいで一喜一憂しているソニアを見ているのが面白いかな」

 男性には敵わなくて普通だろうに、得意げになったり悔しそうにしたりするソニアを見て、面白いというよりはむしろ苦笑いしていた。

 それでも、ちょっと雲行きがおかしくなったのも事実だ。

「その危なっかしい格好で、よく粋がれるな。その胸で風でも起こす気か? その目立つ身体で、派手に鳴らしてみせろよ」

「ひゃっひゃっひゃっ、せいぜい頑張れよ」

 言い回しが下品というより、相手を人として扱う気がない。からかってるんじゃない。最初から、屈服させるつもりの声だった。

「なっ、何が目立つ身体よ!」

 それでもソニアはくじけずに、パッドを殴りつけた。しかし残念ながら記録は68ギガ。

「よっわ」

「あれ、元気なくなったねー」

 ラムリーザは、ここらで援護射撃しておこうか、と思った。なんだかソニアが、必要以上になじられ始めている。

 そういうわけで、ラムリーザは席を立ち、パンチングマシーンのほうへ向かっていった。

「あ、ラム……」

 さんざん罵倒されて意気消沈しているソニアが、困ったような視線をラムリーザに向けた。続いて三人組も、ラムリーザをジロッと睨んだ。

「誰だお前は?」

「ココちゃんという者です。お見知りおきを」

 ラムリーザは、やはりリゲルと違って知名度がないな、と思いながら適当に返事をする。とっさに出た『ココちゃん』が何だったかを少しだけ思いめぐらせて、例の白いぬいぐるみ、いや、クッションだったことを思い出した。

「ぷっ」

 ココちゃんという名前にソニアが噴き出す。よかった、少しは機嫌が戻ったようだ。

 しかし、問題はこれからだ。ラムリーザが記録を出せなかったら、ソニアはますます落ち込んでしまうだろう。しかし、逆に勝ってしまったら、ソニアを調子づかせるだけという結果になるのも見えていた。

「ちょっとごめんよ」

 そう言って、パッドの前に立ち、右手の拳を思いっきり握りしめる。次に右足を一歩引いて、左手を前に突き出して構えを整えた。

 問題はさておき、とにかく勝つ必要がある。こういう連中を黙らせるには、力を見せつけるのが効果的だ。

 帝都の実家で、何度か妹のソフィリータと組み手をしたことを思い出す。また、格闘技に興味を持った妹の指南役をしてくれていた身辺警護のレイジィが、言っていたことを思い出す。

 打ち付ける瞬間、左手を引いて力を込める……。

 頭の中でイメージしながら、ラムリーザは力強くパッドを殴りつけた。

 

 バターン! ガタッ!

 

 叩きつけた衝撃で、筐体自体が震えて音を立てた。まるで一瞬、浮き上がったように見えた。

 ソニアは、その激しさに「うわっ」と小さく声を漏らした。
              
ラムリーザが、パンチングマシンで圧倒的な結果を出す場面
 記録は堂々たる145ギガ。

「…………」

 三人組は、唖然として立ち去ってしまった。

 その後ろ姿を見て、ソニアの表情はみるみる満面の笑みに変わった。

「きゃー、やっぱりラム最高だぁ。強い男って、ラムみたいなのを言うんだよねー。えっ、あんた何? 120? よっわ!」

 去っていく三人組に聞こえるように、わざと大声で叫ぶ。だが三人は振り返ることもなく、ゲームセンターから立ち去っていった。

 すっかりソニアは調子づき、リリスも「ラムリーザって強かったんだ……。そっか、りんご握りつぶすんだもんね……」とつぶやきながら感心している。

「ユッコの三倍のパワー。ユッコが一番よっわ」

 ソニアは自分が「よっわ」、と言われて悔しかったのか、その言葉を連発し、今度はユコに対して得意げに使う。

「いいんですの! 私はラムリーザ様に守ってもらうんだから、余計な力は必要ないんですの」

「エターナル・ライディーンより、ココちゃんパンチのほうが三倍強いんだよね」

「う、うるさいですわ――」

 そこでユコは言葉に詰まってしまうが、リリスがすぐに耳元で何かをささやいた。それを聞いたユコは、大声を張り上げてソニアを挑発する。

「一メートルの牛怪人! バッファロー・ガール!」

「なっ――!」

 ラムリーザはやれやれと肩を落とした。ソニアを元気づかせたら、今度は内紛を勃発させてしまった。

「ちょっといいですか?」

 そこに救世主となるのかどうかわからないが、ロザリーンがパンチングマシーンの前に立った。

 そこでまさかの150ギガパンチを出すのか?

 ロザリーンは綺麗なフォームで一発パッドを殴りつけた。

 記録は72ギガ。

 よかった、普通だ。

「よっわ――、じゃなくて、72?!」

 ソニアは一瞬ラムリーザと比較して煽ろうとしたが、すぐに自分の記録を上回っていることに気がついて声が裏返った。

「ええと、ラムリーザさんには当然敵わないけど、ソニアさん? えーと、よっわ」

 ロザリーンにしては珍しい煽り文句、まるでネットなら語尾に草が生えていそうな調子で放ってから、リゲルがプレイしているゲームを見るためにその場を離れていった。

 よくぞ言ってくれた! とラムリーザは心の中でガッツポーズをする。これでソニアもおとなしくなるだろう。

 

「エターナルフォースブリザード!!」

 

 ゲームセンターにいる客の何人かが、パンチングマシーンのほうへ振り返る。

 ソニアはロザリーンに負けたことが納得いかず、ユコみたいな謎の技を叫びながら再び叩き始めた。

 しかしなかなか70ギガに到達することができない。

「ラストスパイラルアゲイン!」

「バーニングサラマンドルバニッシュ!」

「ミスティックシャドウエクスプロージョン!」

 ソニアは大声で謎の技を連発する。かっこいいような響きを持たせているつもりだろうが、64、58、52とどんどん記録は落ちている。これは、ゲーム風に言えば、パワーがピークを越えて減少していっているのだろう。

 とうとう肩で息をし始めた。もう限界だろう。

「くっそー、ここは最強の技で……」

 ソニアは大きく振りかぶって叫んだ。

「ココちゃんパンチ!」

 ソニアとしては、最高記録を出したココちゃん、もといラムリーザにあやかるつもりだったのだろうが……。

「よっわ」

「くすっ」

 ユコがからかい、リリスも噴き出す。その記録は、最低記録の45ギガ。

「ふえぇ……」

 ラムリーザは、散々なソニアに苦笑しながら、まだ拳に残る熱を感じていた。

 こんな力は、見せびらかすためじゃない。でも、ソニアが笑ってくれるなら、今日はそれでいいか、とも思ってしまう。

 結局この日は、ココちゃんことラムリーザの出した145ギガの記録を超える者は、現れなかったのである。