ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
Rカップとグリーン・フェアリー
帝国暦九十二年 盛歌の月・旅人の日(現代暦:七月中旬)
この日の朝、ラムリーザは自動車教習合宿の自室で、ソニアと共に目覚めることになった。
普段から同居生活しているので、今さらどうこういうことでもないのだが、合宿の寮でもこのようにしているのがばれてしまったら、何を言われるかわかったものじゃない。
もっとも、寮の規則に「他の部屋に行ってはならない」とか、「一人で眠らなければならない」といったものはなかったので、いろいろと言い訳はできるだろう。
それでも、朝から同じ部屋から男女が出てくるところを見られるのは、あまりにも決まりが悪い。そこでまずラムリーザが部屋から出て、廊下に誰もいないのを確認してからソニアを出す、という方法を取ったのである。
そして、朝食を取るために食堂に行ったのだが、先に来ていたリリスに「示し合わせたように、一緒に現れるのね」と言われてしまった。
ソニアは、それに対して「愛し合っている二人は、いつ何時も一緒にいるものなのよ」と、勝ち誇ったように笑みを浮かべて言い返す。
「ふーん、それで昨夜も一緒に寝たのね?」
「そんなの当然っ――」
「おほん!」
ラムリーザは盛大な咳払いで、リリスの誘導尋問に引っかかりそうになったソニアを制する。
自分からばらしてどうするのだ……。もっとも、咳払いした時点で怪しさ全開でもあるが……。
「なるほどね」
リリスは、すべてを察したように頷いた。
そして、特に何も考えず、なんとなくソニアの全身をしげしげと観察する。その視線は足元で止まった。靴下は、足首のあたりで何重にも不格好なたるみを作っていた。
「また靴下をだらしなくグシュグシュに履いてる……って、それって学校の制服の靴下じゃないの? なんでそんなチグハグなコーデなのよ……」
「だってラムが……」
「ああ、それが昨日バスの中で言った話につながるんだ。こいつ、学校の靴と制服の靴下しか持ってないんだよ。だから、こいつにカジュアルな足元コーデを選んでやってくれって話」
「そういうことね。その時はあなたも付き合うのよ」
リリスはふっと微笑を浮かべてラムリーザに誘いをかけた。
「いや、僕はちゃんとしたのがあるから……」
「お代と荷物持ち」
「……はいはい」
そんなたわいもない話をしながら、朝の時間は過ぎていった。
この日の教習も、授業や技能訓練などいろいろあって、すべて終わった後で、ラムリーザたち六人は談話室でくつろいでいた。
談話室には、三人掛けのソファーがローテーブルを挟んで置いてあったので、みんなでそこに陣取って雑談していた。リゲル、ラムリーザ、ソニアと、ロザリーン、ユコ、リリスの並びで座っている。
車の運転についての感想から始まり、今話題のゲームの話へと続く。まるで雑談部をそのまま持ち込んだような雰囲気だ。
途中、ラムリーザとソニアがトイレ休憩だと言って抜け出した。
ソニアは、「これは連れションだからね、あたしが出てくるまで先に戻っちゃダメだからね」とか言い出す。何がやりたいのか分からないが、ラムリーザは待たされることになった。
トイレから談話室に戻ると、リゲルの姿が消えていた。
ロザリーンに聞いてみると、個室に戻っていったそうだ。
「それで、ソニアは能天気爆乳娘かな? くすっ」
「なっ、なによそれ」
ソニアは、突然わけの分からない呼び方をされて戸惑ったようだ。その一方で、ラムリーザはあながち間違いではないなと、一人で納得していた。
「えーとね、ユコが神秘的な女神で、私が魅惑的な黒髪の美女」
「そしてロザリーンが、知的な参謀役、インテリジェンスガールって感じですわ」
「ふーん、略して知女?」
「その略し方は微妙だから、やめてください」
「で、それが何なの?」
いまいち話の流れを理解できないソニアは、不満そうな顔で三人を見ている。いきなり爆乳娘とか言われたので、あまりいい気はしていないようだ。
「えーとね、みんなの特徴やイメージから『二つ名』を考えていたの。それでソニアは、能天気爆乳娘ってこと、くすっ」
それでようやく話を理解したソニアは、とたんに怒りの表情をあらわにして叫びだす。
「何よ! なんであたしだけそんな変な二つ名なのよ! あたしがそれだったら、あんたたちはみんな『ちっぱい』でいいじゃないのよ!」
「はいはい、Jカップ様のお通りだ、邪魔する奴は突き飛ばせ」
「くっ……、ラ、ラムもそう思うでしょ?」
ラムリーザは、そこで振るなよと思った。ちっぱいがどうのこうのとか、正直どうでもいい。
というより、先日ジャンも指摘していたけど、リリスは全然ちっぱいじゃない。ソニアがでかすぎるだけだ。ユコとロザリーンは……ふむ……。いや、ちっぱいとか言うのって失礼じゃないか?
そこでラムリーザは、めんどくさくなって適当に答えることにした。
「僕から言わせてもらうと、ソニアも含めてみんなちっぱいだ」
リリスは、それを聞いて「ぷっ」と吹き出してしまう。ユコも、ごそごそと自分の鞄から何かを取り出そうとしている。そしてロザリーンは苦笑いしているだけだ。
一方ソニアは、何とも言えないような情けない顔をして、弱々しくラムリーザに問いかけた。
「じゃあ……ラムはどのくらい胸があったらいいのよぉ……」
「Jカップで足りないって言うのだから、それこそLカップとかOカップとか、そのくらい必要なんじゃないの?」
リリスは、ソニアの顔をニヤニヤした目つきで見ながら、話を盛ってからかった。
「めんどくさいなー。おっぱいがJとかFとかKとか、どうでもいいじゃないか。カップなんか知らんよ……それだったらもう、ラムリーザのRにちなんでRカップでいいよ」
ラムリーザはカップ数など詳しくないし、胸のサイズの話をするのもあまり乗り気じゃないのでさらに適当に答えたが、リリスとユコの二人はそれを聞いて「Rカップ!」と吹き出した。
そしてリリスは、「ちょっと待って、計算するから」と言いながら、目線を上にやって頭の中で計算して、それから笑いをこらえながら言った。
どうやらラムリーザの思惑は外れてしまい、火に油を注ぐような結果になってしまったらしい。
「Rカップ、R65だとして、大体118cmってところかしらね。ソニアは確か98cmだったから、ラムリーザの基準に20cmも足りてないわ。うん、確かにあなたもちっぱいだね」
リリスが算出したその数字が、談話室の空気を物理的な重圧に変えた。
「ソニアも豊乳丸飲みます?」
ユコが鞄から取り出して差し出したのは、例のバストアップサプリだった。
「ふっ……ふええぇぇん……」
とうとうソニアは泣き出してしまった。
もちろん冗談とはいえ、ソニアが誇っていた「バストサイズ最強」というアイデンティティーを崩してしまったのだ。リリスにからかわれたり、何よりもラムリーザに足りないと言われてしまったりしたことで、彼女のプライドはズタズタだ。
「あ、泣いた」
「やれやれだ……」
ラムリーザは、泣き出したソニアを抱き寄せて、頭を胸にうずめる。ソニアは、ラムリーザの胸の中で、ぐすっぐすっとしゃくりあげている。
そして頭を撫でながら、「君はおっぱいだけじゃないだろ、足とかも綺麗なんだし」と慰めてあげる。これが慰めになるのかならないのかは、この際は置いておくとして。
「足ねぇ……」
リリスは、ソニアの足をじっと見つめた。そしておもむろに手を伸ばし、すねの辺りまでグシュグシュにずり落ちている靴下を、引っ張って持ち上げようとした。
「やっ、やめてよ!」
ソニアは足を引いて、リリスの手から逃れる。そして、ぎゅっとラムリーザにしがみついた。
「ソニア……」
その時、ユコが優しい口調で語りかけた。
「あなたの二つ名、思いつきましたわ」
「何よ! また変なのだったら、もうあんたたち嫌い!」
ユコは、にこっと笑って言葉を続けた。
「グリーン・フェアリー」緑の妖精――
それは、以前ラムリーザがソニアに抱いたイメージと同じ名称だった。
「どうです? お気に召しましたか?」
「グリーン・フェアリー……?」
ソニアは、もう一度自分で復唱してみる。そして、「グリーン・フェアリー、かわいい!」と声を張り上げて、突然元気になった。さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。
「ちなみに、僕のイメージは?」
ラムリーザは、ついでという感じでなんとなく聞いてみた。
「ラムリーザ様? えーと、自治領主様?」
「なっ――ま、いや、いい……聞かなかったことにする」
どうやらユコの中で、ラムリーザは実像と異なった独自のイメージが作り上げられてしまっているようだ。確か進路相談の話でも、そんなものが出ていたような気がするが、どっちみち虚像なので割とどうでもいい。
「今度、皆さんをイメージした音楽を作ってみるのもおもしろいかもしれませんわね」
「うんっ、それおもしろそう!」
ソニアはユコの提案に喜ぶが、妙なイメージを持たれてしまっているラムリーザは、何ともいえない気分になってしまった。自治領主様をイメージした曲か、想像がつかないね。ひょっとしたら、禿げ頭にされてしまうかもしれない。
しばらくして、そろそろ時間も遅くなってきたので、みんな雑談部を切り上げて自室に戻ることにした。
ユコはさっそくみんなのイメージサウンドを作り上げたが、肝心の歌詞は全然思い浮かばない――というより、すぐに喧嘩になってしまい、全然まとまらない。
曰く「おっぱいがどうのこうの」などと、ラムリーザは何度場が荒れるのを抑えただろうか。
結局、作詞に関しては後日いろいろと考えてみることにして、今日は解散となったのだ。
ラムリーザが自室で寝る時間までのんびり過ごし、そろそろ寝ようかなと思ってベッドに横になり、スタンドの電気を消そうとしたとき――。
予想通り、今夜もドアが開いて、ソニアが姿を現したのであった。
しかも、昨日と違って戸惑いは見せずに堂々と、荷物まで持ち込んできたのである。これはラムリーザの部屋に住み着く気満々だな。
荷物をベッド脇に置いて、いつものように当然の顔で隣に潜り込んでくるソニアを見て、ラムリーザは小さく息を吐いた。
やれやれ、ほんとに依存症だな、と口の中でだけつぶやく。けれど、今夜も感じていた物足りなさが、またじんわりと薄れていくのを自覚してしまうのだった。
部屋の隅には、昨日まではなかったソニアの鞄が、持ち主の定着を主張するように佇んでいる。そこからあふれた着替えや小物が、無機質だった教習所の個室を、少しずつ「ふたりの部屋」へと書き換えていく。
狭いベッドは、もう窮屈じゃない。窓の外で鳴く夏の虫の声を聞きながら、ラムリーザはソニアの背中にそっと手を添え、深い眠りの淵へと沈んでいった。
こうして今夜も、ひとりよりも、ふたりがいい。