ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
バカアクションゲーム
帝国暦九十二年 盛歌の月・星々の日(現代暦:七月中旬)
「ん、朝か」
ラムリーザは、目覚めて時計を見ると、普段起きる時間と同じだった。夏休みに入ったけれど、生活のリズムは崩れていないようだ。
ふと自分の右脇に目をやると、ソニアはまだ腕の中で穏やかに眠っている。ちなみに、二人のあいだでは「添い寝」という行為は、すでに当たり前のものとなりつつあった。
「休みだからのんびりしてもいいか……」
ラムリーザはそう思い、ソニアが起きるまでそのままにしておいてやることにした。
ソニアは横向きにくっついているので、その大きな胸がラムリーザの脇腹に押しつけられている。
ラムリーザが暇つぶしにソニアの胸をつついてみると、ソニアは「んっ……」と反応して声を漏らす。だが、それで起きてくる様子はない。
「Jカップ様……か」
それから、リリスの言っていたことを思い出していた。
ソニアを放っておいて起きようかとも考えたが、右肩は完全に枕にされていて、右足にはソニアの左足が絡みついている。これでは、ソニアを起こさずに身動きが取れそうになかった。
しばらくそんなことを考えていたとき、ベッドサイドテーブルに置いてあるラムリーザの携帯型端末キュリオが着信音を鳴らした。
ラムリーザは左腕を伸ばしたが、もうちょっとというところで届かない。
仕方がないので、ソニアの頭を抱えている右腕をそっと抜き取り、身体を伸ばしてキュリオを手に取った。画面を見ると、ジャンからの通話のようだ。
ラムリーザは通話ボタンを押し、「やあ、おはよう。わしは竜王じゃ、わしの仲間になれば世界の半分をやろう」と言ってみた。
「ありがとう。ならば世界の半分である、女の世界を頂こう。はい決まり、リリスとソニアよこせ、さあよこすんだ」
「さりげなく二股かよ。で、何の用?」
「ああ、昨日の話を確認しておきたくてね」
昨日も帝都のクラブで「ラムリーズ」のライブをやったが、その時にジャンから「これから夏休みだけど、どうする?」と聞かれたのだ。長期休みに入るぶん、ステージに立てる機会も増える――本来なら、そのはずだった。
だがラムリーザたちは、夏休みに入ってからすぐに、自動車教習合宿に行くことにしていたので、しばらくは帝都に行けない旨を伝えていた。そういうわけで、週末もしばらく出られないことも伝えていた。
今朝のジャンからの電話は、そのことの確認だった。
「というわけでよろしく」と言って、ラムリーザは通話を終了させた。
携帯電話をベッドサイドテーブルに置いて、ふとソニアのほうを見ると、彼女は目を覚ましていて、寝起きの割には力強い瞳でラムリーザを見ている。
先ほど、腕を引き抜いて頭を動かしたり、真横で話をしていたために、目を覚ましたようだ。
ソニアは、ラムリーザが電話を終えたのを確認すると、もぞもぞと動いてラムリーザの身体の上に乗りかかった。
そして、「今日はこのまま……」と言って顔を近づけてくる。
ラムリーザは朝からキスか、目覚めのキスというやつかな、と考えソニアの首に手を回した。
そしてお互いの唇が触れる瞬間、部屋のドアをノックする音が聞こえ、「朝食はどうなさいますか?」という声がドア越しに届いた。
二人は一瞬固まったが、ラムリーザは「これから行きます」と返事をして、ソニアに軽くキスをして、そのまま身体を起こした。
そしてベッドから降りて、二人は寝衣から普段着に着替えることにした。
「ずっと気になってたんだけどさぁ――」
ラムリーザは、今日も気になっていることを尋ねる。
「――スカートを履き替える意味はあるのか?」
ラムリーザがぶつけた疑問点の通り、ソニアがどういった意図でそうしているのかはわからないが、寝るときもきわどい丈のプリーツミニスカートを履いているのだ。
というより、同じような丈の色違いスカートがやたら多い。しかも基本的に同じ型、だが色違い。それがソニアのボトムスファッションだ。
それはいいとしても、その丈だと布団の中では正直履いている意味がないのではないか? と、ラムリーザは思ったのだ。
「これは寝巻き用ミニスカート、これは普段着用ミニスカート」
「いや、寝るときにスカート必要か? というか分ける意味あるのか?」
「いいの!」
きりっとした顔ではっきりと言い切ってしまった。何がいいのかわからないが、とにかくこだわりがあるということだろう。
ラムリーザは、疑問には思っていたが、別にどうでもいいことなので、これ以上追及するのはやめにした。
そして、遅めの朝食を取り、再び部屋に戻ってきた。
「さて、今日は何をしようかな」
二人はソファーに座ってくつろいでいるが、とくにこれといったことは思いつかない。
ラムリーザが「最近のゲームは?」と聞くとソニアは、「あのギャルゲーで、最後に残ったクールな後輩は興味ない」と言った。
「クールなタイプは嫌いか?」と聞くと、「クールな人って、なんかリゲルの顔がちらつくから苦手」と答えた。確かにリゲルは、ソニアに対して少し冷たいところがある。
「そうか、それじゃあそのうち僕が攻略しとくか。確かナノハ・ナナちゃんだっけ?」
ラムリーザはそう言いながら、なんだか自分は後輩ばかり相手にしているな、と思っていた。
「今日はこのアクションゲームをやろう」
ソニアはそう言って、髭親父が敵を踏んだり蹴ったりしてやっつけながら、面クリしていくゲームを始めた。手馴れたもので、次々とステージをクリアしている。
ラムリーザは、しばらくソニアがプレイしているのをぼんやり見ていたが、ふと面白いことを思いついた。
「見てるだけでも面白いけど、せっかくだから僕もゲームに参加しよう」
「ん、ラムもやる? 二人同時プレイもあるよ」
「いやプレイはいい。それよりも、このゲームって最短で行ったらどのぐらいでクリアできる?」
「うーん、十分から十五分ぐらいかなぁ」
そこでラムリーザが提案したのは、少し普通の感性から外れたもので、ソニアを驚かせるには十分だった。
「よし、これから僕はソニアの脇の下をくすぐり続ける。それに耐えてクリアできたら、その後で買い物に行って、何か好きなものを買ってあげよう。ゲームオーバーになったらソニアの負け、くすぐられ損ということね」
特に意味はない。ラムリーザはただ、今日はなぜかソニアのプレイを見ているだけではつまらないと思ったのだ。だから、馬鹿みたいなゲームを提案した。
ソニアは少し考えたが、恥ずかしさとプレゼントを天秤にかけた末、プレゼントを選んでその勝負に乗ることにした。
そこでラムリーザは、ソニアを自分の足の間に座らせて後ろから抱きかかえた。ゲームが始まると同時に、ソニアの脇の下を揉み始める。大きな胸もついでに揉んでやろうかと考えたが、そこは自重する。
「ふっ、ふえぇ……」
すぐにソニアは反応し始め、両足を閉じてもじもじし始める。
そして、ゲームで穴をジャンプで飛び越えようとした瞬間に、ラムリーザは手の動きを早くした。
「ふえぇっ――!!」
そのままジャンプのタイミングを外されて、落下死してしまう。
しばらくこちょこちょしていると、だんだんソニアの悶え方が大袈裟になってくる。動作もおかしくなってきて、時たまぴくっぴくっと身体を震わせる。
ゲームの操作もおぼつかなくなってきて、普段ならなんでもないような場面でミスをして、残機を無駄に減らしている。
ぽとりとコントローラーを落としてしまい、慌てて拾う場面もあった。だが、再びコントローラーを握るその指先は、ぷるぷると震えている。
「やっ、やだぁ……」
とうとうコントローラーを放り出して、ラムリーザから逃げようと立ち上がろうとした。
しかしドラムを叩き続けることで鍛え上げられたラムリーザの腕は、その力が衰えることもなく、休むことなくソニアを掴んで離さない。鍛え上げられた指先は、これまた休むことなくこちょこちょと脇の下をくすぐり続ける。
ソニアはゲームをしているどころではなくなり、進行は完全に止まり、タイムアップでやられ続けている。そしてとうとう残機すべてがタイムアップで終了し、ゲームオーバーになってしまった。
勝負に負けたソニアは、涙声で何かを訴えていたが――そのあたりの細かい描写は、いろいろとまあ、散々な有様だったということで省略しておこう。
………
……
…
――そのとき、部屋のドアをノックする音が聞こえた。続いて使用人の「お客様がいらしましたよ」という声が聞こえた。
ラムリーザはその瞬間、やばい! と思った。
素早く二人は離れて、何事もなかったかのように振る舞った。
客は、リリスとユコの二人だった。
今日は暇なのと、来週から教習合宿に行くせいであまり遊べなくなるので、ラムリーザのところへ遊びに来たというわけだ。
「やっぱりここは広いですわねぇ」
ユコはこの広間で大きく伸びをしながら、開放感を味わっている。
「何をしてたの?」
一方リリスは、テレビ画面と部屋の中を見回しながら聞いた。
テレビには、アクションゲームのデモ画面が流れている。それは、しばらくプレイせずにつけっぱなしだったということを意味していた。
「なんだか二人の様子がおかしいんですけど、何なのかしら? それにソニア、なんか妙に顔が赤いし、息が荒い」
「なんだろうねー、不思議だねー」
リリスは、じっとソニアの顔を見た。ソニアは大量の汗をかきながら、作り笑顔でごまかしている。
「それはね、大掃除をしていたんだよ。急に客が来たって言うから、慌てて二人で片づけをしていたんだよ」
ソニアと違ってラムリーザは冷静である。
だが、リリスはそんなラムリーザの様子を見て、「今日も暑いわね」と言いながら、胸元をぱたぱたさせて、胸を見せつけるようにラムリーザに近づいていった。
だがラムリーザは、そんなリリスの行動を見ても、何も反応を見せなかった。
リリスは「賢者タイム?」とつぶやく。
ラムリーザは、「何を言い出すのかね、君は」とため息をつきながら、どかっとソファーに腰をかけた。そして、「適当にゆっくりしていてくれ」と、まるでリゲルのように冷めた感じで言うのだった。
「まあいいわ」
リリスはそう言って、床に転がっているコントローラーを拾ってゲームを開始した。
「それ、あたしもする、二人同時プレイやろうよ」
ソニアは、ラムリーザとリリスの間に割って座りながら言った。やはりラムリーザとリリスが並んで座るのは許せないようだ。
「何かしら、発情娘さん?」
「だっ、誰が発情娘よ!」
「こほん。それな、クリアできたら好きなものを買ってやるって約束してプレイしたけど、ソニアはクリアできなかったんだよね」
ラムリーザは、話題をひねり出してどうにか会話の軌道を修正しようとする。だが、そのやり方は、どうにも得策ではなかったらしい。
「ソニアは下手糞ね。それじゃあ私がクリアできたら、私に何か買ってくれるのかしら?」
リリスはくすっと笑って言ったので、ソニアは慌ててしどろもどろになって叫びだす。
「ちっ、違うの! その……えーと、ラムがわ――邪魔をしてきて、その邪魔に耐えてクリアしたらっていうルールだったの!」
リリスは「わ?」と言う。小さなところを聞き逃さなかったようだ。
「それならラムリーザ、ソニアにやったことを私にしてもいいわよ」
リリスは、誘うような微笑をラムリーザに向けてくる。
だがラムリーザは、「僕は何もしていない」と真顔で答えた。リリスがどれだけ誘惑しても、顔色一つ変えない。もちろんリリスの脇の下をくすぐるなど、できるわけがない。
「やっぱりそうなのね……」
リリスはラムリーザを相手にするのは諦めて、ソニアをからかうことに徹することにした。
「……ソニアにはできて、私にはできないことをやっていたのね?」
リリスは、ソニアの顔をニヤニヤしながら見据えた。だが、まるでエッチなことでもしてたの? とでも言いたそうなその表情に、ソニアの頭の中の線が一本飛んでしまう。
ソニアは、ゲームをプレイしているリリスに飛びかかっていき、脇の下をくすぐり始めた。
「ちょっ、やっ、やめっ、キャハハッ!」
くすぐられて悶えるリリス。
「これでクリアできるか? できんだろう!」
もうぐちゃぐちゃ。
リリスはコントローラーを投げ捨てて、ソニアの脇の下に反撃を食らわせようと手を伸ばした。
ソニアは先ほどラムリーザにやられたのと同じようにくすぐられた感触に耐えながら、リリスの脇をくすぐる手に力をこめる。
二人はソファーから転がり落ちてしまい、もう絨毯の上でじゃれ合っているようにしか見えない。
「全く、二人とも何なんですの……」
「久しぶりに言うけど、美少女が台無しだな……」
テレビとソファーの間で転がり回る二人を尻目に、ラムリーザとユコは、二人に代わって一緒にゲームの続きを始めるのであった。
テレビの前で転げ回る二人の笑い声を聞きながら、ラムリーザはコントローラーを握り直した。
夏休みは、どうやら退屈だけはしそうにない。
まあ、なんだ。今日の教訓――バカアクションゲームもほどほどに。