ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


グループのために動いていたら、ハーレムができあがっていた件

帝国暦九十二年 真藍の月・女神の日(現代暦:六月下旬)

 木々が所々に生えている草原、ここは学校の裏山のふもとだ。

 裏山はあまり人の来ない秘密のスポットだ。だから、校内の男女が――する場所としてひそかに人気があった。

 ラムリーザは一人、この場所で横になってくつろいでいた。木陰に入ると夏の日差しは遮られ、風も気持ちよくて涼しい。

 ラムリーザは、先日のライブの余韻に浸りながら、これまでのことを思い返していた。いろいろ問題があったが、これでめでたしめでたしだな、と考えていた。

 去年まではジャンがリーダーだったので、自分がリーダーとしてグループをまとめるのは今回が初めてだった。自分はリーダーとして相応しかったかな、などとも考えていた。

 

 

 しばらくの間一人で過ごしていたラムリーザは、誰かが近づいてくるのを感じた。

「やっぱりここだ、見つけたっ」

 この高く響く声はソニアだ。

 勝手な思い込みで暴走したり、自信をなくしたりするソニア。そのたびにフォローするのが正直めんどくさくなりかけていたが、彼女はもうそんなことにはならないと約束してくれた。

 ソニアは、横になっているラムリーザの左側にくっついたので、ラムリーザはしっかりと抱き寄せる。傍から見たら添い寝しているように見えるかもしれないが、毎晩のことなので二人はそこまで気が回らなかった。

 腕の中のソニアは、いつも通り体温が高い。

 この一年、何度も面倒をかけられて、何度も振り回されて、それでも手を離そうと思ったことは一度もなかった。その事実だけが、やけにくっきりと胸に残っていた。

「ソニアを連れてきて、本当によかったと思うよ。ソニアがいなかったら、バンドもやってなかっただろうし、『ラムリーズ』もなかったね。あの時、僕を受け入れてくれてありがとう」

「ラムとは別れないよ。昔言ったの覚えているかなー? バンドを家族にたとえるとね、ドラムは父で、ベースは母になるんだよ」

「ああ、そんな理屈を捏ねて、僕をギターからドラムに無理やり転向させたな」

「だって、四人グループで四人ともギターやっててもしょうがないじゃん。それに、『ラム兄』もそれでいいって言ってたし。そもそもラムは指先が不器用――」

「はいはい、つまり、『ラムリーズ』の父は僕で、母はソニア。リリスたちは子供たちって言いたいのだろう?」

「そういうこと!」

 ラムリーザは、ソニアを抱き寄せる腕にさらに力をこめる。そして、ソニアはラムリーザの胸に頭を埋めてくる。そのまましばらく、二人の時を過ごしていた。

 

 

「探した、こんなところにいたのね」

 次に現れたのは、リリスとユコだ。

 この二人は、紛うことなき美少女たちだ。特にリリスは、帝都でも引っ張りだこになるほどである。

 ソニアの勝手な思い込みは、ほとんどすべてと言っていいくらい、この二人――特にリリスに対する不安や危機感から来るものだった。ユコの作り上げたリリスの外見は、それほど完璧なものなのだ。

 二人が現れたので、ラムリーザはソニアを抱いている腕を急いで引き抜いて、頭の後ろに回した。

「えーと、昼間から同衾ですの?」

「あたしたち夫婦なんだから別に悪くないでしょ?」

「こら、誰が夫婦だ。まだ早い」

「さっきラムは父、あたしは母、リリスたちは子供たちって言ったじゃん!」

「む……」

 リリスはそんな二人を見て、くすっと笑ってラムリーザの右側に膝をついて座った。そしてユコも、「しょうがないですわね」と言って並んで座った。

「ラムリーザ、いろいろありがとう。やっと、自分の夢がはっきり見えてきたわ」

 リリスは嬉しそうに微笑んで、ラムリーザに言った。

「いんえー、リーダーとして当然のことをしたまでだよ」

 ラムリーザは、くだけた調子で謙遜してみせる。そんなラムリーザを見て、リリスは「言いたいことがある」と言った。ラムリーザは、リリスの赤い瞳をじっと見て、「どうぞ、伺いましょう」と答えた。

 リリスも、ラムリーザの目をじっと見ていたが、すっとソニアのほうに視線をやり、少しの間その様子をうかがってから、すぐにまたラムリーザのほうに視線を戻した。

 そして、迷いのない声で言った。

 

「ラムリーザ、あなたのことが好き――」

 

 この場面で、突然の告白。

 ラムリーザは、まさかこんな場面で来るとは思わなかった。

「ちょっ――」

 ソニアが何か言いかけた口元を、ラムリーザはとっさに押さえる。言いたいことはわかる、確実に非難の言葉だ。リリスを見るソニアの視線は険しい。しかしリリスもリリスだ、何もこの場で言わなくても……。

 ラムリーザは、場が荒れるのを防ぐために、自分の言葉ではっきりと言うことにした。

「本当に申し訳ない、僕はソニアが一番なんだ」

 その返事は断るというより、ソニアを安心させるような言い方になってしまったみたいだ。だが、ラムリーザは、ソニアがいる限り、他の娘を一番にするつもりはなかった。

 そしてその言葉を聞いたソニアの視線から、険しさが消えていった。

 リリスも、そうなることは百も承知の上で思いを語ったようだ。

「わかってる、今はソニアの次でいい。でも、私が本当に一番愛せる人に出会うまでは、あなたを頼らせて」

「それは、リーダーとして?」

「……とりあえず、今はそれでいいわ」

 リリスはそう言って、ラムリーザの膝のあたりに手を伸ばし、その足の間に背中を滑り込ませるようにして座り込んだ。

「えっと……何を?」

 ラムリーザの問いには答えずに、リリスはそのまま後ろに倒れ込んで、ラムリーザの腹の上に身体を預けた。そして、気持ちよさそうに大きく伸びをした。

 ユコは、そんなリリスの行動を見てくすりと笑い、先ほどまでリリスがいた場所、つまりラムリーザのすぐ右隣に寄ってきた。そして、ラムリーザの身体に触れた。

 ラムリーザは、三方を囲まれて動けなくなってしまった。

「しかしね、そんなことソニアの前で言わなくても……」

「いいの、私は隠し事が嫌いだから言うの。ラムリーザのこと好きだって知った上で、ソニアと友達でいたいの」

「あのね!」

 ソニアは、目の前に降りかかってきたリリスの黒く長い髪を払いのけながら、抗議するような口調でリリスに話しかけた。

 場が荒れるのを防ごうとしてラムリーザがかけた言葉は、その後のリリスの行動によって、結局ソニアの非難を生んだだけになってしまったようだ。

 だがリリスは、ソニアが何かを言い出す前に、「ソニア、あなたはずるいよ」と制する。

「ラムにひっつくな――って、なんでー?」

「ラムリーザみたいな人は、正々堂々と戦って恋を勝ち取らなくちゃ。なのにあなたは最初から手に入れた状態で私たちの前に現れた」

「だってそれは……じゃない! あたしは十五年もラムを思い続けてきたんだから、ぽっと出のリリスなんかに寝取られてたまるか!」

 ラムリーザは、さすがに十五年は盛りすぎだろうという言葉を押しとどめる。それでは、生まれた時から思っていたことになるが、さすがにそれはないだろう。

 だがその言葉を聞いて、ソニアがリリスにきちんと対抗しているのだと感じて、少し安心する。

「だから、ユコにだってあげないからね!」

「いいんですの。私はリリスとソニアを争わせて、二人が疲弊したところでラムリーザ様を掠め取るつもりですので」

「より性質が悪いぞ……」

 まるで、ソニア同盟とリリス帝国を共倒れさせようとしているユコ自治領のようだ。
              
ラムリーザが、周囲をソニアとリリスとユコに囲まれて、身動きが取れなくなる場面
 ラムリーザはこの場から抜け出そうとしたが、左側からソニアが引っ付いているので、このままだと身体を右に動かさないと抜け出すことができない。しかしすぐ右にはユコが座っていて動けないし、身体の上にはリリスが寝転がっていて起き上がることもできない。

 左右から伝わる異なる体温と、腹の上に乗ったリリスの柔らかな重み。ソニアの青緑色の髪が頬をかすめ、ユコの衣服からは微かに清潔な香りが漂う。

 逃げ場のない幸福な檻の中で、ラムリーザは自分の鼓動が少しずつ早まっていくのを感じていた。

 これは、包囲される前に各個撃破すれば勝てたのに、もたもたしていたせいで三方向から包囲され、殲滅を待つだけの艦隊のようだ。

「(……まったく、これじゃあ本当に、全方位からの包囲殲滅じゃないか)」

 困り果てながらも、ラムリーザの指先は無意識に、隣で寄り添うソニアの柔らかな肩を求め、その存在を確かめるように熱を帯びていった。

 そこに、リゲルとロザリーンの二人がやってきた。

 ロザリーンはこの状況に、「何この状況……」と、言葉を失う。

 そしてリゲルは静かにつぶやいた。

 

「ラムズ・ハーレムの完成だな」

 

 言われてみれば否定しづらい陣形だけれど、それでも不思議と嫌な気分ではなかった。むしろこの騒がしさごと、守っていきたいと思ってしまう自分がいる。

 ラムリーザは空を見上げた。どこまでも高く、蒼いその先には、まだ誰も見たことのないステージが待っているはずだ。

 遠くで夏を告げる鳥の声が響き、学校の裏山のふもとにある草原には暖かい風が流れ、草たちが波のように揺れる。日差しも鋭くなり、本格的に夏がやってきたと感じられる午後のひとときであった。

「……さて、次はどんな曲で行こうか」

 独り言のようなその言葉に、ソニアたちの声が重なる。

 最初の一歩を踏み出したその足音は、夏の熱気を切り裂く確かなカウントとなって未来へと響き渡った。

 こうして、ラムリーザは、かけがえのない新しい仲間たちと出会うことになったのだ。

 ラムリーザたちの物語は、ここから始まる――
              
フォレストピア創造記 第一章 第一節 ~完~